Research Project on Renewable Energy Economics, Kyoto University

京都大学経済学研究科

再生可能エネルギー経済学講座

本講座(第2期)は、2024年3月31日をもって終了いたしました。

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2023年09月25日(月)部門C研究会 議事録

2023年09月25日(月)
於:法経東館8Fリフレッシュルーム

 2023年09月25日(月)15時30分〜19時30分、再生可能エネルギー経済学講座部門Cの研究会が、京都大学法経東館8Fリフレッシュルームにて開催されました。今回は、東京農業大学の末松広行先生、デロイト・トーマツ・コンサルティング合同会社の浜崎博様、三菱総合研究所の井上裕史様よりご報告いただきました。

再生可能エネルギーと脱炭素先行地域の取り組みについて

末松 広行 先生

 本報告は再生可能エネルギー(再エネ)の利用を推進するための前提として、日本の各地域における脱炭素化の取り組みを紹介することを目的とした。

 前半では、脱炭素化の背景と日本における地域脱炭素の意義について説明した。

 温室効果ガスの排出量が増加し続けることで様々な環境問題が引き起こされ、脱炭素化が各国で徐々に重要視されている。2018年に公表されたIPCC特別報告書では「将来の平均気温上昇が1.5°Cを大きく超えないよう、2050年前後には世界のCO2排出量が正味ゼロとなる必要がある」と提示され、この目標に沿って日本政府は2050年カーボンニュートラル宣言を発表した。

 それ以降、「2050年までに二酸化炭素排出実質ゼロ」という宣言を表明する自治体が徐々に増加している。地域脱炭素の意義は脱炭素を通じて再エネなどの地域資源を最大限に活用し、「経済・雇用」、「循環経済」、「防災・減災」、「快適・利便」などの地域課題の解決に向けて貢献できる点にあることを明らかにした。

 2015年時点で我が国は9割の自治体のエネルギー収支が赤字の状態であり、国全体でも年間約20兆円を化石燃料のため海外に支払う必要がある。そこで地方の豊富な再エネポテンシャルを有効活用、エネルギー需要密度が高い都市など他地域と連携することにより自治体の財政問題が改善される可能性を提示し、加えて地域で経済が循環する仕組みの構築が重要であることを指摘した。

 また、地域ぐるみの小水力発電と地熱発電事業や営農型太陽光発電などの事業が導入されれば発電事業と副産物を両立でき、地域活性化と雇用の創出にも貢献できると説明した。再エネや蓄電池を導入することで災害発生時の電力問題に備えた地域づくりにも大きく貢献できると述べ、EVカーシェアリングや省エネ住宅の普及により市民や観光客に便利・快適な暮らしを実現できることも強調した。

 以上より再エネの最大限の導入のためには地域における合意形成が図られ、環境に適正に配慮し、地域に貢献し、地域共生型の再エネを増やすことが重要であると指摘した。そのほか、温対法に基づく再エネ促進区域の仕組みの概要にも言及した。

 報告の後半では環境省が設定した地域脱炭素ロードマップとその内容について詳しく取り上げ、環境省の政策のユニークなところは脱炭素先行地域の設立にあると強調した。

 脱炭素先行地域とは、民生部門の電力消費に伴うCO2排出の実質ゼロを実現し、運輸部門や熱利用等も含めてその他の温室効果ガス排出削減も地域特性に応じて実施する地域を指す。地域脱炭素ロードマップ対策・施策では具体的に2025年までに政策を総動員して人材・技術・情報・資金を積極的に支援、2030年までに少なくとも100カ所の脱炭素先行地域を作って全国で重点対策(自家消費型太陽光、省エネ住宅、電動車など)を実行することを目的としており、同時に3つの基盤的施策(①継続的・包括的支援、②ライフスタイルイノベーション、③制度改革)も実施するつもりであるとした。

 その後実施モデルを全国に伝搬し、2030年から多くの脱炭素ドミノを行なえば2050年を待たずに脱炭素を達成することは可能であると示した。そして脱炭素先行地域の選定状況の第1回から第3回までに合計62提案が脱炭素先行地域として選ばれたことを紹介し、脱炭素先行地域の選定事例をいくつか例示した。

 また、脱炭素先行地域の選定に関する第3回募集に係る見直しの概要も示した。加えて地域脱炭素の取り組みに対する関係省庁の主な支援ツールと枠組みを詳説し、最後に地方自治体の状況に応じた取り組みと支援策のイメージを解説して報告を終わりとした。

pdf発表資料(末松広行)(14.23MB)

電力需給モデルを用いた将来の電源構成分析と考察

井上 裕史 様

 本報告は、電力需給モデルから推定した将来の電源構成の状況を紹介することが目的とした。報告内容は①電力需給モデルの紹介、②電力需給モデルを用いた分析結果の紹介、③電力システムに関する所感の三つの部分で構成されている。

 三菱総合研究所が保有するモデルは①MARKAL/TIMES、②PyDis、③電力需給モデル、④最適潮流計算モデルという四つのタイプがあり、それぞれの対象エリア、対象期間と目的関数等モデルの特徴を詳説した。この研究では電力需給モデルが用いられたことが強調された。まず、電力需給モデルの基本構成を紹介し、北海道の需給バランスを例をとして分析結果のイメージを示した。また、電力需給モデルの特徴(1)最適化言語GAMSで記述したオリジナルのモデルであり、社会のニーズに合わせて開発を続けていること、(2)需給制約、調整力確保制約、地域間連携線制約のもとで1時間単位の電源の最適運用を道日出すこと、(3)HP給湯機・EV等の需要側リソースの最適運用も考慮可能であること、(4)基本は設備容量を所与とした最適運用を解くモデルだが、調整力制約等を緩める代わりに設備容量の最適化も評価可能であることを説明した。しかし、電力需給モデルは制約したところが幾つかがある。(1)エリア内の基幹送電線やローカル系統は模擬していないこと、(2)長期の設備形成を考慮できないこと、(3)モデル単独ではセクターカップリングを考慮できないこと、(4)季節変動を吸収するような長期向けの貯蔵装置は考慮できないことが指摘された。

 次に、電力需給モデルを用いた分析結果を紹介した。本報告は主に環境省より委託した「令和3年度2050年カーボンニュートラルに向けた中長期的な温室効果ガス排出削減達成に向けた再生可能エネルギー導入拡大方策検討調査委託業務」における分析結果を示した。分析の基本方針につきまして、対象年度を2040年・2050年とした上で、電力需要、再生可能エネルギー導入量、地域関連系線容量、必要調整力、水素・アンモニア火力などの要素について複数の条件設定を行い、感度分析を実施して発電電力量構成への影響を評価した。 結果としては、基本的に再生可能エネルギーが大量に導入され、地域関連系統が大幅に増強された将来を想定していることであると推測した。そこで、分析のケース設定と2040年・2050年のシナリオ設定も詳しく説明し、(1)再瀬可能エネルギーが大量に導入され(太陽光270GW、陸上風力100GW、洋上風力95GW)、地域関連系線が大幅に増強されたベースケースにおいて、再生可能エネルギー発電比率は75%と試算されたこと、(2)風力の更なる拡大(陸上130GW、洋上180GW)を想定した再エネ高位で79%、さらに連系線制約を完全に排除すると83%まで上昇すること、(3)逆に、必要調整力が現状想定されている程度に求められる場合は、より火力発電が必要となり、再エネ比率は68%に低下すること、(4)ベースケースで想定した再エネ導入量に対しては、連系線制約を完全に排除しても再エネ比率はあまり変わらず、ベースケースの連系線容量は既にほぼ制約とならないほど十分な設定と言えることなどの分析結果があることが明らかにした。

 最後に、電力システムに対する所感に言及した。まずは連系線増強は不可欠だが、そのレベル感はどんな物であるかについて議論した。そして、発生頻度の低い高負荷残余需要は誰かどのシステムか担うべきかについて内容を展開した。また、必要なインフラ投資は誰か担うのかという疑問にも見解を表明した。

pdf発表資料(井上裕史)(2.42MB)