農業経済論/国際農政論 (経済学部専門科目)


農業経済論 ※専門科目Ⅰ 2~4回生配当

授業時間: 2014年度前期、火曜日3限

講義内容: 日本農業はとくに1980年代半ば以降、「国際競争力」や「効率化」の名のもとに、その生産基盤を大きく掘り崩されてきた。極端なまでに低い食料自給率、近年の食の安全性をめぐる混乱、そして農村・山間部の疲弊は、その必然的な帰結である。農業は本来、安定した食料供給という重要な経済価値の担い手であるだけでなく、地域経済の活性化や高齢者・女性の雇用創出をもたらし、国土・水・生物多様性・アメニティの保全と涵養といった生態環境価値、さらに社会的・文化的価値を生み出す「多元的価値産業」であるとされる。そこでは、市場原理だけでは適切に処理することのできない外部経済・外部不経済への視点が欠かせない。農業経済学が一般経済学諸理論の単なる応用問題ではありえず、つねにフィールド研究や政策研究との接合、社会学や農学、環境科学との接合を要求されてきたのはそのためである。そして実際、農業政策がつねに「農業保護」を基本としてきたのも、WTOやFTA/EPAを通じて農産物貿易の「自由化」を推進する米国等の先進輸出国自身が国内では手厚い農業保護政策を続けているのも、農業問題を経済(資本)の論理だけで処理しきれないことの傍証である。本講義では、農業・食料をとりまく諸問題の現状分析を中心に据えるが、その際、①産業論と政策論の両面から、②歴史的展開過程(縦軸)の中に相対化しながら、そして③国際比較(横軸)によって産業構造と農業政策のあり方を相対化しながら、農業・食料問題にアプローチすることに心がける。

①田代洋一『農業・食料問題入門』大月書店、2012年と②「農業と経済」編集委員会監修『キーワードで読みとく現代農業と食料・環境』昭和堂、2011年)を参考書として用いながら、以下の内容に沿って授業を行う。
1. 農業・食料問題の所在 (2014.4.8-15)
2. 農業経済学の分析視角(2014.4.15-22) 
※これ以降の講義資料はKULASIS授業サポートとして提供する。
3. 農業・食料問題の歴史的展開
4. 農業経営の構造変化:家族経営と構造政策
5. 農業市場の構造変化:フードシステムとアグリビジネス
6. 農産物価格の理論と政策:欧米編
7. 農産物価格の理論と政策:日本編
8. 世界と日本の食料問題:食料安全保障と食料主権
9. 世界と日本の食料問題:農業生産力とバイオテクノロジー
10. WTOとTPP:国際政治経済学の分析視角
11. 都市と農村の関係
12. オルタナティブな農と食をめぐる取り組み①
13. オルタナティブな農と食をめぐる取り組み②
14. 総括と捕捉
15. 期末試験
16. フィードバック:期末試験の講評

評価: 小テスト+期末試験
本講義と関連のある他の科目:
 <前提> 社会経済学入門、社会経済学1・2、現代経済事情、経済政策論1・2、地域産業論
 <関連> 国際農政論、地域開発論、経済史・思想史入門、財政学、地方財政論


国際農政論 ※専門科目IⅠ 3~4回生配当

授業時間: 2010年度後期、火曜日3限

講義内容: 農業政策の是非は、農業問題へのリアルな視点を抜きに語ることはできない。事実、新自由主義的グローバリズムに沿った農業政策は、農業を「構造改革・貿易自由化の障碍」と捉え、市場原理主義が農民、農村、食料に及ぼしてきたor及ぼしうる負の影響への反省を欠いている。本講義は、主として1980年代後半以降の国際的な農業政策の展開過程を振り返りながら、その政治経済的な背景と各国・各地域の農業構造に及ぼしてきた影響を実証的に明らかにする。その際、農産物・食料の生産・加工・流通過程で市場影響力を強めるとともに、政策形成過程でも強大な政治力を行使している多国籍アグリビジネスの動向にも注目する。さらに、こうした「上からのグローバル化」に対抗してローカルから胎動しつつあるオルタナティブな農と食をめざす取り組み (「下からのグローバル化」) にも焦点を当てながら、今後の農業政策のあるべき方向性について考えてみたい。
1. 世界「食料危機」の構造と国際社会の対応 (2010.10.5)
2. 農業・食料の支配構造:国際政治経済学アプローチ (2010.10.12)
3. GATT・WTO交渉と多国籍アグリビジネス(1)全体構造 (2010.10.19)
4. GATT・WTO交渉と多国籍アグリビジネス(2)バナナ紛争 (2010.10.26)
5. GATT・WTO交渉と多国籍アグリビジネス(3)GMO紛争 (2010.11.2-9)
6. GATT・WTO交渉と多国籍アグリビジネス(4)綿花紛争 (2010.11.9-16)
7. バイオ燃料ブームの政治経済学(1) (2010.11.30)
8. バイオ燃料ブームの政治経済学(2) (2010.12.7)
9. 多国籍アグリビジネスの事業展開と「企業の社会的責任」(1) (2010.12.14)
10. 多国籍アグリビジネスの事業展開と「企業の社会的責任」(2) (2010.12.21))
11. 農業と食料のグローバル・ガバナンスを展望する (2011.1.11)
12. 期末試験 (2011.2.1)

評価: 期末試験

参考書: 大塚茂・松原豊彦編『現代の食とアグリビジネス』有斐閣、2004年

本講義と関連のある他の科目:
 <前提> 社会経済学入門、社会経済学1・2、現代経済事情、経済政策論1・2、農業経済論、地域開発論
 <関連> 世界経済論、国際経済学、欧米経済史、ヨーロッパ経済論
オフィスアワー: 授業終了後15:00~16:00


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