Research Project on Renewable Energy Economics, Kyoto University

京都大学経済学研究科

再生可能エネルギー経済学講座

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No.193 マサチューセッツ州における電力小売の自治体アグリゲーション

2020年7月9日
京都大学大学院経済学研究科特定講師 中山琢夫

はじめに

 前回の拙コラム(No.184)では、アメリカにおけるCCA(Community Choice Aggregation)の取り組みについて、西海岸のカリフォルニア州の例を中心に取り上げた。同様の取り組みは、他の州でもみることができる。EPAによると、アメリカにおいて最初にCCAの設立を認可する根拠法を制定したのは、東海岸のマサチューセッツ州におけるSession Laws, Acts (1997), Chapter 164であり、現在では、General Laws, PartⅠ, Title ⅩⅩⅡ, Chapter 164, Section 134上で、Load aggregation programsとして規定されている。

 マサチューセッツ州等では、CCAと同様の取り組みを、自治体アグリゲーション(Municipal Aggregation)と呼ばれることが多く、近年ではその発展形としてグリーン自治体アグリゲーション(GMA: Green Municipal Aggregation)、コミュニティエネルギーアグリゲーション(CEA: Community Energy Aggregation)とも表記されている。本コラムでは、マサチューセッツ州における自治体アグリゲーションについて概観する。

自治体アグリゲーションと緑の自治体アグリゲーション(GMA)

 1997年にマサチューセッツ州で最初に実現された自治体アグリゲーションは、住民や中小企業の顧客の代わりに、自治体アグリゲーションによって電力を一括購入する形態であった。このアグリゲーションは、ユーティリティによって供給される電力の基本サービスを、競争的な事業者が代替するようなものである。その目的は、顧客が支払う電力コストを安定的に削減するために用いられた。

 自治体アグリゲーションを推進する主たる目的は、大きく分けて三つある。第一に、卸電力の一括購入により、それぞれの顧客の電気代を削減することである。第二に、安定した電力小売価格を提供することである。多くの場合、アグリゲーションは、既存ユーティリティが提供する6ヶ月間の価格保証期間よりも、長期間の契約を提供する。第三に、こうしたアグリゲーションは、より再生可能エネルギー比率の高いグリーン電力オプションを提供できる。このグリーン電力には、より比率の高い再生可能エネルギーや地産のエネルギーが含まれる(UMass Clean Energy Extension, 2018)。

 自治体によるアグリゲーションプログラムは、GMA(Green Municipal Aggregation)プログラムへと拡張されていく。GMA標準では、州のRPS(Renewable Portfolio Standard)が要求する水準よりも少なくとも5%多い、クラスⅠのRECs(Renewable Electricity Certificates)コンテンツが設定されている。結果として、この高いRPS要件を満たすために、新しい再生可能エネルギーが建設されることになる。このクラスⅠRECsによる収益は、デベロッパがニューイングランドにおいて、経済的に実行可能なプロジェクトを新たに構築するために不可欠となっている。

GMAによる温室効果ガス削減と追加性

 このように、GMAプログラムは追加的な新規の再生可能エネルギー電力を作り出している。これは、州のRPS要件の水準以上の、検証することが可能な温室効果ガス排出削減による、グリーン電力の購入量の増加の結果としてもたらされる。GMAプログラムがクラスⅠのRECを購入すれば、それは本質的に、州法に準規するためにクラスⅠのRECを必要とする既存のユーティリティを寄せ付けないことになる。

 たとえば、マサチューセッツ州のプリマスの風力発電によって作り出されたRECが、サマービル市のGMAであるサマービルCCE(Community Choice Electricity)に提供されている場合、既存ユーティリティのエバーソース社やナショナルグリッド社等は、このRECを購入することはできない。こうした既存ユーティリティは、必要とされるRECを確保するために、更なる努力が必要になる。RECに対する需要の増加は、追加的な供給によって満たさなければならない。

 すべてのアグリゲーションが同等の条件で構成されているわけではない。特に、自治体コミュニティの電力購入がクラスⅠのリソースの適用を促進する場合には特に注意が必要である。いくつかのアグリゲーションプログラムでは、州外のRECまたは州内のクラスⅡのRECに依存して環境価値を主張する場合もある。このようなRECの購入は、域内系統上の再生可能エネルギーの構成比率を増やすことには貢献しない。こうしたプログラムは、グリーンな電力系統への進化を目指すコミュニティ内の需要家には害を及ぼし、人々の混乱を引き起こすこともあると言われている。

電力料金削減策としてのGMA

 GMAを実施している自治体コミュニティでは、マサチューセッツ州の家計と企業に、追加的な再生可能エネルギーを手頃な値段で供給できることを示している。表1に示すように、マサチューセッツ州のいくつかの自治体コミュニティでは、既存のユーティリティが提供する標準的な基本サービス(Basic Service)よりも安価に、かつ、州のRPS比率よりも高い水準の再生可能エネルギーを購入していることが分かる。

表1 GMAプログラムを通した顧客の電力料金節約
自治体 契約期間 RPS要求量
(州のRPS比)
節約額
アーリントン 2017/8-2019/11 +5% $2,127,450
ブルックライン 2017/7-2019/12 +25% $2,978,090
サマービル 2017/7-2019/12 +5% $5,178,628
サドベリー 2017/8-2020/8 +5% $1,566,348
ウィンチェスター 2017/7-2019/12 +5% $1,306,555

出所:Chretien et al. (2020)より作成



 新規の再生可能エネルギー源を求めるクラスⅠのRECsを電源構成に追加すると、クラスⅠRECの市場取引価格が高くなってきているため、追加的なコストが発生するのが一般的であるが、表1によれば、このコスト増分を加味しても、自治体アグリゲーションによって、顧客の電力購入代金が節約されている。結果として、GMAのネットのコストは、既存ユーティリティの基本サービスよりも低くなっている。こうしたGMA導入をコンサルティングし、運営開始後は顧客サービスの窓口を担っている、グッドエナジー社の管理下にある11の活動中のプログラム(アーリントン、ブルックライン、デッダム、グロスター、ハミルトン、メルローズ、ロックランド、ストーンハム、サマービル、サドベリー、ウィンチェスター)では、2019年単年で、800万ドル以上節約しているという。

 このようなアグリゲーションプログラムによる顧客の電力料金の節約とは対照的に、マサチューセッツ州の競争的な電力供給(小売)事業者と個別に直接契約している住民は、年間数百万ドルの損失を続けており、その純損失額は、2015年7月から2018年6月の3年間で2億5300万ドルに及ぶという(AG Healey, 2019)。

 マサチューセッツ州では現在、150の自治体がアグリゲーションプログラムを承認しているか、あるいは計画中である。すべての自治体がまとまった購入プログラムを用いてローカルな新しい再生可能エネルギーを追加的に導入している訳ではない。こうしたアグリゲーションの多くは、RPSやCES(Clean Energy Standard)の最小要件を満たすが、ユーティリティの基本サービスと同様に、化石燃料由来の電源も含んだブラウン電力も供給している。一部のアグリゲーションでは、RPS/CESよりも1%低い水準で供給していたり、または標準のアグリゲーションにオプションとしてクラスⅠのオプションを供給したりしている。

GMA推進役としてのMAPC

 GMAは、MAPC(Metropolitan Area Planning Council)によって積極的に推進されている。MAPCは、ボストンを中心とする大都市圏の交通基盤や経済開発を中心に、地域計画を立案し推進するために、1963年にマサチューセッツ州議会のGeneral Low Chapter 40B Section 24により、州の公共機関として設立された。MAPCの活動は、ボストン都市圏の101の自治体をカバーしている。このうち15の自治体において、MAPCとの協業によりGMAが実装されている(図1)。

図1 GMAが実装されている自治体
図1 GMAが実装されている自治体

出所:MAPC HP



 2016 年にメルローズ市とMAPCによって実施された、1年間の供給契約によるCEA(Community Electricity Aggregation)プラスのパイロットプログラムでは、自治体アグリゲーションによって電力コストを削減し、域内で新しい再生可能エネルギーを推進するのに役に立つことが示された。MAPCエリアのデッダム市は、早速メルローズ市に似たプログラムを実施している。MAPCは、CEAプラスのポートフォリオの拡がりによって、ニューイングランド地域の電力系統のグリーン化を狙っている。

 メルローズ市のアグリゲーションでは、これまでの既存ユーティリティのナショナルグリッドの基本サービスを受けていた顧客は、オプト・アウトしない限り、自動的に“Melrose Local Green”プランに登録される。このプランには、州法によって求められるよりも5%多い、新しい地産の再生可能エネルギー電力が含まれる。また、料金は少し高くなるが、100%地産の新規再生可能エネルギーを希望するならば、”Melrose Premium 100% Local Green”プランにオプト・アップすることができる。安い電力を望むならば、州が要求する最低水準の再生可能エネルギー”Melrose Basic”プランを選択することもできる

 既存ユーティリティのナショナルグリッドの基本サービスにオプト・アウトすることもできるが、しかしながら、ナショナルグリッドの基本サービスのkWhあたりの小売料金単価は、半年ごとに変更される。冬場の暖房需要の多いマサチューセッツ州では、この時期の電力小売料金の高騰がしばしば課題として取り上げられている。一方で、メルローズ市のアグリゲーションでは、2019年6月から2021年11月まで小売料金単価は固定的に適用される(表2)。

表2 メルローズCEAとナショナルグリッドの料金体系
表2 メルローズCEAとナショナルグリッドの料金体系

出所:メルローズ市HP

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まとめ

 マサチューセッツ州における自治体アグリゲーション(CCA)は、まずは、安価でかつ安定した電力小売価格を家計や企業の顧客が入手できることを目的としていた。この目的を維持したまま、近年ではパリ協定の達成や気候変動対策を強く意識し、州のRPS/CES制度を活用しながら追加的な新規の再生可能エネルギー発電容量を増やし、かつ顧客に再生可能エネルギー比率の高い電力を供給することで、ニューイングランド地域の電力系統のグリーン化を狙っていることがよくわかる。

 メルローズ市のアグリゲーションでは、サプライヤーはネクストラエナジーサービス社へ、顧客サービスの窓口はグッドエナジー社に、既存ユーティリティのナショナルグリッド社から置き換わる。カリフォルニア州では、既存ユーティリティのPG&E社やSCE社から、CCAそのものに顧客サービス窓口が移るのとは異なっているが、この点については、州や自治体によって多様性があるといえるだろう。

 アメリカにおけるCCAや自治体アグリゲーションは、安価で安定した価格で、再生可能エネルギー比率の高い電力を顧客に供給する主体であるということができる。この目的を達成するためには、自治体の大部分の電力需要をアグリゲートして規模を確保した上で、追加的な新規の再生可能エネルギー発電所の建設を需要側から働きかけていく必要がある。そのために、これまで大手ユーティリティの小売顧客が自動的にCCAや自治体アグリゲーションに移行し、不満ならば脱退する権利を与える「オプト・アウト方式」の採用が、成功の鍵となっているといえる。

 小泉進次郎環境大臣からのメッセージを踏まえ、日本でも、自治体による2050年までのCO2排出量実質ゼロ(ゼロカーボンシティ)の表明は、2019年12月に29であったものが、2020年6月には101の自治体にまで増えた。この表明を実現するためには、電力小売部門における担い手が明確になる必要がある。例えば、日本版CCAとも言われる自治体新電力に対する期待は必然的に大きくなるだろう。日本でも、こうした担い手に自動的に電力小売契約を移行し、気に入らなければ自由に脱退する権利を与える「オプト・アウト方式」を導入することを検討してもよいのではないだろうか。

キーワード:CCA (Community Choice Aggregation)、自治体アグリゲーション(Municipal Aggregation)、GMA (Green Municipal Aggregation)、CEA (Community Energy Aggregation)