Research Project on Renewable Energy Economics, Kyoto University

京都大学経済学研究科

再生可能エネルギー経済学講座

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No.217 容量市場入札⑤ 日本には十分な供給力がある/送電線空き容量ゼロと同根

2020年11月19日
京都大学大学院経済学研究科 特任教授 山家公雄

 容量市場入札問題シリーズの5回目である。14,137円/kW・年という驚愕の約定価格については、政府や電事連では「2024年度の供給力が不足しているという証」という説明になっている。一方で、「現在の低い卸価格の状況からして4年後のこれだけの不足は腑に落ちない」という意見もある。真実はどうなのか。今回はこの疑問を「供給計画」のデータを参考に検証する。

キーワード:容量市場入札 供給計画 埋没供給量 休止電源

1.供給過小オファー(供給力埋没)を検証する

 これまで4回にわたり、あり得ない高価格となった理由を考察してきた。人為的な要素は大きいが、市場ではあるので、需要過大、供給過小、供給オファー価格過大評価、需要曲線形状のいずれかが要因となる。なかでも、現存する設備容量に対してオファーが少なかった可能性が高い。入札にかかる情報公開は十分ではないが、2020年3月に公表された供給計画のデータとも合わせて評価、分析してみた。入札情報に関しては、ユニット名が明らかにされていないのはもとより、新設・既存の区分がなく、そもそも主目的である新規投資のオファーがあったのかどうかも不明である。落札の電源種別内訳け、デマンドレスポンスと自家発から成る「発動指令電源」の内訳等も不明である。

容量市場と供給計画との関係

 表1は、9月14日に発表された容量市場の応札容量、2020年3月に公表された供給計画の設備容量について、発電方式別に整理したものである。いずれも電力広域的運営推進機関(広域機関)が発表し、2024年度の状況を示している。

表1 発電方式別の応札容量、設備容量(2024年度)
表1 発電方式別の応札容量、設備容量(2024年度)
(出所)広域機関公表「第1回容量市場入札結果」および「2020年度供給計画」のデータを基に作成

 「供給計画」は、広域機関が毎年纏める向こう10年間の需給状況を示したものである。基本的に発電事業者、送配電事業者、小売り事業者が、広域機関の既定するルールに基づいて作成し提出するデータを積み上げる。「設備容量」は発電事業者が所有する全て設備の容量である。「供給量」は発電可能な容量で、設備容量から気温変化に伴う変動、定期検査等に伴う停止による減少量、所内必要量を差し引いた量である。「休止電源」は設備容量のうち長期的に稼働する予定のないもので長期停止電源とも言われる。「需要量」は年間の大きい方から順に上位3日の平均値(H3)が採用され、供給量との差が「予備力」であり、これを供給量で除したパーセント表示が「予備率」である。予備率は8%が目安とされ、最低3%の確保が必要とされる。「設備利用率」は、予想発電電力量(kWh)を供給量(kW)が365日24時間フル稼働した場合の数値で除したものである。

 一方、容量市場であるが、「応札容量」に係る設備は「設備容量」から気温変化に伴う変動、所内要量を差し引いた量である。すなわち「供給量」に比べて定期検査等に伴う停止分だけ多くなる。応札容量の電源別内訳は、実数では公表されておらず、公表された構成比等から推計した。合計は発動指令リソースを除いている(供給計画との整合性のため)。「発動指令」はデマンドレスポンス、自家発およびそのアグリゲートである。「容量市場の登録済み非入札」に関しては、電力ガス市場取引監視等委員会の資料より作成した。

2.応札容量、設備容量の比較分析

原子力は福島事故14年後でも700万kWの応札に留まる

 さて、表1であるが、基本的に容量市場の「応札容量」と供給計画の「設備容量」を比較している。本来は容量市場の「落札容量」と比較すべきであるが、電源の内訳が開示されておらず、また落札率が97.5%と極めて高いことから、応札容量を用いる。応札容量と落札容量の差は約400万kWである。容量市場の発電設備(応札にFIT電源等を加えたもの)合計17,965万kWに対して、設備容量は33,092万kWと2倍近くある。気象の影響を受け、利用率が低い再エネの差分が大きい(1,213万kWと8,537万kW)のはある程度理解できるとしても、原子力の差分は考えさせられる。3.11福島事故の影響があるにしても、2024年度は事故後14年経過しており、700万kWはいかにも少ない。現状33基の計3300万kWの設備が存在し、また9基の900万kWが稼働中である。あと1000万kWほど落札していれば、入札環境は異なった。

火力はまだ3700万kW存在する

 肝心の火力であるが、差分をみると合計で3700万kW、石炭等で1160万kW、LNGで1100万kW、石油等で1460万kWである。もちろん応札容量は定期検査、所内需要が差し引かれる。しかし、逼迫するピーク時は、通常は定期検査のスケジュールは組まれないであろう。

 また、設備容量には老朽化により休止しているものもある。備考に記したが、休止電源(長期計画停止電源)は2300万kW、うち1年以内に稼働が可能な電源が1300万kW存在する。従来の事業者の常識では、休止電源は廃止のプロセスの中にあり、よほどのことがない限り新しい電源優先の稼働になり、事実上存在しないという意識があるものと思われる。

 しかし、自由化時代は、需給がひっ迫すると卸(kWh)やアンシラリー(ΔkW、kWh)の価格が上がり、その予想の下に稼働の準備を行うことになる。テキサス州ではひっ迫時は待機電源は殆どなくなり高い設備利用率を記録する(「No.212 容量市場入札④ 容量市場なしで予備力を確保するテキサス州」)。いずれにしても3000万kWを超える容量が「存在」するのである。ここの認識の差が最も大きいと考えられる。また、ひっ迫が続くと老朽化設備を無理に準備しなくとも、価格シグナルから最新鋭の柔軟性に富む新規投資を決断するようになる

過小オファーは政府の指導か

 これは、事業者の判断の問題だけではなく、政府による指導もあった。容量市場の応札に際し広域機関は2020年10月19日の検討会にて「2024年度の稼働見通しが不確実な電源は、供給計画において供給力ありとして計上がなされていない。また、今回のオークション実施にあたり、資源エネルギー庁の通知により、供給計画に計上できる見込みのない電源については、入札・落札の対象としないことが適当であるとの整理がされているところ。」としている。一方で、2020年の供給計画(2020年3月発表)では、以下の図1を掲載し、利用可能であるとの解説を行っている。

図1 休止電源の状況
図1 休止電源の状況
(出所)「2020年度供給計画の取りまとめ」OCCTO 2020年3月

 即ち「今回取りまとめた長期需給バランス評価において、長期計画停止等で供給力として計上していない休止電源(約1,900~2,300万kW)を示す。そのうち、適切な時期に判断・準備すれば、休止の延期や1年程度での再立上げが可能な電源を事業者ヒアリング等を通じて確認した。その結果、600~1.300万kW(送電端)は、供給力として積み増せる可能性があると想定できる。」とある。要するに、供給計画発表時点である3月から実際に入札を実施した7月までの間に当局の考え方が変わり、「埋没供給力」が生じ易い環境になった可能性がある。

 容量市場の入札では、応札した容量のうち97.5%が落札した。ほぼ全量である。これから、やはり発電設備が不足しているとの結論も導きうる。しかし、前述のように「供給計画に計上できる見込みのない電源については、入札・落札の対象としないことが適当である」との指導があり、その時点で大きな制約が入っている。前述のように、火力はあと3700万存在するが、休止中の2300万kWは札を入れられない。原子力は、3300万kW存在するが、社会的な影響が大きいことから事前に官民で調整していると推測される。従って、落札率ほぼ100%ではあっても、不足している証にならない。

3.「登録済み非入札」2000万kWの理由と影響

 第1回入札では、事前に登録していたものの、応札しなかった容量が約2000万kWあり、これが過小オファーの要因として注目を集めた(「No.205 容量市場入札② どうしてあり得ない高価格になったのか」)。監視等委員会の評価は、なかには改善すべき案件もあるが基本的に問題ないとの判断となった。表1に、その内訳を示している。比較的大きな設備に絞った紹介であるため、明確な全体構成は不明であるが、おおよその状況は把握できる(事例を積み上げると1,869万kWになる)。

行政指導が効いた火力・原子力・石炭混焼

 火力は540万kW~であるが、上記政府の行政指導の影響や稼働できる状態に維持できる確信が持てなかったからと思われる。原子力は最大の803万kW~であるが、設備容量の3300万kWに比べてまだ少ない。福島原発事故後14年経過する時点で、落札の705万kWと併せてこの容量は要留意である。稼働を見込むのが難しいということであろうが、そうであれば、廃止の道筋を明確にして新たな供給力確保を準備すべきであろう。原子力は社会的な影響が大きいので、応札するか否かについては政府と調整があったと考えられる。

 FIT等の143万kW~はバイオマス石炭混焼火力である。この方式は、バイオマスの分がFIT認定の対象となるが、FIT認定を受ける場合は設備全体として容量市場から外れるとの整理がなされた。事業者からするとFIT認定を受けてバイオス分のFIT価格を享受するか、認定を受けずに設備全体の容量市場落札を目指すかの選択となる。FIT認定を目指す(可能性がある)ので応札を見送ったのである。原子力の800万kWと石炭混焼の140万kWはベースロード的に運転されるので、ゼロ円入札の可能性が高く、高コスト応札設備をはじき出していたはずである。

意味不明のデマンドレスポンス上限設定

 発動指令電源は、415万kW応札して全て落札した。これは、デマンドレスポンス(DR)と小規模アグリゲート自家発電とであり、内訳は不明である。登録済非入札は133万kW~と相当量ある。デマンドレスポンスは、維持管理費用が殆ど不要であり、また瞬時に対応できることから、ゼロ円入札になると考えられる。約定価格の低下を促す役割を果たす貴重なリソースである。米国PJMでは、デマンドレスポンスを重視しており、落札容量全体では日本と変わらないが、直近の入札では1200万kWを落札している。

 自家発は、隠れた大きな発電設備であり、発電設備の1割強を占める。自家発余剰分を販売することになり、どの程度オファーするか判断を要する。4年後の電力需給状況や自社工場稼働状況を推定するのは容易ではない。短期の予想を基に判断するのに適していると考えられる。この発動指令電源には473万kWの応札枠が設定されているが、理由はよく分らない。

4.落札容量、供給量の比較分析

落札容量は供給量よりも1000万kW少ない

 さて、 2024年度の供給計画の「供給量」は、備考に記したように18,275万kWである。図2は、供給量、需要量、予備率の長期推移を示している。需要量は8月15時時点であり年間ピーク時と考えていい。2024年度の予備率は15.8%である。同年度容量市場の落札容量(FIT等を加え、発動指令を除く)は17,533万kWであり、供給量との差は740万kWとなる。供給量は計画停電にかかる容量が約400万kW縮小しているので、これを勘案すると約1000万kWとなる。即ち、供給量に比べて落札容量は1000万kW少なくなる。

図2 長期の需給バランス見通し(8月15時 全国合計、送電端)
図2 長期の需給バランス見通し(8月15時 全国合計、送電端)
(出所)「2020年度供給計画の取りまとめ」OCCTO 2020年3月

最後に ダイナミックな視点に欠ける思想

 今回は、「過小オファーだった」との仮説を政府公式の「供給計画」データより検証した。2024年度は十分な供給設備があり、事前にピーク時情報の提供があれば、休止中設備や自家発、DRを含めて、将来の時点で「供給力」になりうる。落札率がほぼ100%となったのは、「応札容量が落札容量となるようなルールだったから」と総括することも可能である。

送電線空き容量ゼロと同じ「静的」思考

 「送電線空き容量ゼロ」問題を想起させる。最も過酷な断面を前提に1時間でも運用容量を上回ればゼロとみなしていた。東電PGが千葉方面について時々刻々の潮流計算を示したところ、大規模に再エネを接続しても混雑は1%程度にとどまる。空いている99%を有効活用して接続を認めるということになった。この考え方は「ノンファーム型接続」として2021年度から全国で展開される。送電線運用に関しては、時々刻々の潮流を基に判断する「動的」なダイナミックな考え方に転換しつつある。

 しかし、最も過酷な断面で「静的」に考える思考は、電力取引にはまだ常識であるようだ。容量市場問題で健在ぶりを発揮したといえる。新しい電源以外は、あるいは休止に分類された設備はどのような状況でも(3.11大停電のようなとき以外は)「供給力」にはならないのである。「状況に応じて稼働や出力を柔軟に判断する」という考えはないようだ。自由化に舵を切ったものの市場機能、価格シグナルの利用は考えていないのだ。

価格メカニズムを最大限活用するテキサス州

 前回、テキサス州の例を紹介した。要約すると以下の通り(「No.212 容量市場入札④ 容量市場なしで予備力を確保するテキサス州」)。

 「テキサスでは、容量市場を作らず、卸市場がもつ価格機能を最大限発揮する方式で、予備力を経済的に確保する。リアルタイム市場を核心と位置付け、5分単位の需給を反映した価格に、予備力(ΔkW)の不足程度を反映する価格(kWh)を組み合わせて、逼迫時のスパイク程度を決める。これを、1年前、半年前、3カ月前に公表する。それを見て、市場参加者は、来るべきひっ迫時の予備力の状況、スパイク程度を予想し、どのような行動を取るか予め準備する。保有している電源を目一杯稼働し、最大出力が出るようにする。需要サイドはデマンド削減を準備する。それにより大儲けできるあるいは大損を回避できる。定期検査のために休止するという間抜けな行為は起きない。2019年夏に8年ぶりにスパイクが生じ、火力を含むあらゆる電源が費用を回収できた。太陽光、風力そしてストレージの投資が盛り上がり、一桁に落ち込んだ予備力が2022年には20%に上昇する見込み。4年後を予想するよりも、1年先、数カ月先を予想する方がはるかに現実的である。」

 送電線運用にダイナミックな考え方を導入するだけでなく、VPP、アグリゲータ創設等デジタル技術をも利用した「分散型システム構築」を大々的に打ち出しているが、これは価格メカニズムを前提としている。しかし、こと電力取引に関しては「9電力体制」を引きずっているのである。問題の本質はここにある。