Research Project on Renewable Energy Economics, Kyoto University

京都大学経済学研究科

再生可能エネルギー経済学講座

本講座(第2期)は、2024年3月31日をもって終了いたしました。

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No.281 CN実現のカギを握る洋上風力 京大再エネ講座シンポジウム報告①

2021年12月16日
京都大学大学院経済学研究科 特任教授 山家公雄

(キーワード) カ-ボンニュ-トラル、洋上風力、国産化、セントラル方式、促進区域

 京都大学経済学研究科再エネ経済学講座は、12月10日にシンポジウムを開催した。今回から3回に分けて、筆者がコーディネートを行った第2部「CNの主役風力、太陽光、水素は2030年、2050年にどう臨むか」について報告する。今回は、風力業界を代表して日本風力開発㈱最高顧問の祓川清氏の講演を紹介する。洋上風力を主に、どのような手順でどのような課題を克服すれば風力発電はCN実現に貢献し、成長産業として発展できるかについて、具体的な提言が行われた。明確な羅針盤の提示がなされたと感じたところである。

序.京大シンポジウム報告シリーズの狙い

京大再エネ講座とシンポジウムの役割り

 実・リアルタイムの視点を融合し実践的な学問を追求する目的で2014年度に創設され、現在2期目に入っている(1期5年)。本コラムは、主にその時々の話題を学術的視点も織り込んで解説する役割を担っている。シンポジウムは研究成果の発表の場として最も重要な位置付けにあり、今年度は12月10日に開催された。午前の部は若手研究者の発表で、午後は第1部「電力市場価格高騰から学ぶ電力市場改革のあり方~国際比較の視点から」および第2部「CNの主役風力、太陽光、水素は2030年、2050年にどう臨むか」と続いた(「第2回再エネ講座シンポジウム2021」)。第1部は講座代表である諸富教授の進行による学術的な成果の発表である。第2部は現在エネルギ-にとり最も大きな議論になっているテーマを取り上げ、筆者がコーディネートを、そして「イントロダクション」と「まとめ」を行った。

カ-ボンニュ-トラルは最重要テーマ

 カ-ボンニュ-トラル(CN)は、環境・エネルギ-政策だけでなく、今後の産業の在り方や競争力を規定する大テーマであり、再エネと水素が主役になるとの認識の下で取り上げた。事業経験が豊富な領域を代表する3名の識者から、先行きの見通しが難しい中で、素晴らしい資料の作成と説明を行って頂いた。一方で、40~50枚の資料を30分で説明するには無理があり、参加者に十分に伝わったかという懸念もあり、本コラムで3回シリーズの報告という形でポイントを解説することとした。文責は筆者であるが、講師に確認頂いている。

 今回は、日本風力開発㈱最高顧問である祓川清氏による風力発電の説明を取り上げる。同氏は、日本最大の風力発電開発事業者である㈱ユーラスエナジーホールディングスにて風力発電の黎明期より経験を積んでこられた第一人者である。日本風力発電協会(JWPA)の副代表であり多くの政府委員会のオブザーバー等も務めておられるが、今回は「個人の思いも込めてお話ししたい」とのことで、個社顧問の立場での登壇となった。前置きが長くなったが、以下、祓川氏発表を解説する(「2050年 NET ZEROにむけて 鍵を握るのは洋上風力」)。

1.エネ基2030年の風力目標をどう実現するか

 第6次エネ基にて、2030年の電源目標である再エネ36~38%の実現を危ぶむ声がある。潜在量から期待されるのは太陽光と風力であるが、風力は実現可能であろうか。

エネ基目標は現状5.6倍の24GWだが業界目標は36GW、2050年は130GW

 表1の右欄は、エネ基における「野心的水準」を示している。太陽光は、2019年実績および第5次目標値の約2倍となる103.5~117.6GW(kWhで14~16%)と最大の期待を負う。風力は、目標値は23.6GW(陸上17.9GW、洋上5.7GW)と太陽光に比べて見劣りするが、現状は4.2GWと低く、kWh構成比では0.8%から5.4%へと約 7倍に増える。高いハードルではあるが、風力業界は条件が整えば更に増加可能とみている。

表1.2030年度の風力の導入見込量(エネ基ベース)
表1.2030年度の風力の導入見込量(エネ基ベース)
(出典)資エ庁 「2030年度におけるエネルギー需給の見通し(関連資料)」 2021/10
(出所)日本風力開発㈱ 「2050年 NET ZEROにむけて:鍵を握るのは洋上風力」(2021/12/10)より抜粋

 図1は、JWPAが設定している目標値である。2030年は洋上10GW、陸上26GWとしているが、「投資判断に最低限必要な市場規模1GW/年」を前提とする。2040年は「産業界が投資回収見通し可能な市場規模2~4GW/年」として洋上30~45GWおよび陸上35GW、2050年は「GHG排出量80%削減に相応しい目標値」として洋上90GWおよび陸上40GWとしている。2050年はGHG100%削減に向けた上方修正が不可欠となるが、後述のように洋上を主に膨大な潜在量活用策がイメージされている。

図1.JWPAの洋上風力・陸上風力の目標:意欲的で明確な中長期導入目標の設定
図1.JWPAの洋上風力・陸上風力の目標:意欲的で明確な中長期導入目標の設定
(出典)METI 第28回再エネ大量導入等小委員会「2050年CNの実現に向けた2030年の風力発電導入量のあり方」(JWPA)

年間導入量2~3GW、リードタイム半減で36GW実現へ

 表2は、2030年目標実現のための条件・方策を示しているが(洋上は2040年も睨む)、陸上はエネ基目標である18GWは必達ケース、26GWは促進ケースと位置付けている。洋上は10GWは運転開始を想定している。環境整備の柱は年間導入ベースとリードタイムの短縮である。

 年間導入量は、陸上は現状0.3~0.5GW、FIT認定で1.2GWであるが、これを2~3GWに引き上げる。洋上は、促進区域指定規模は現状1GW/年であるが、これを2GW/以上に引き上げる。リードタイムは陸上は環境アセスの短縮により現状8年を5年に、洋上は「日本版セントラル方式の早期導入」で8年を3~4年に短縮する。

保安林等と洋上の膨大なポテンシャル活用

 目標導入容量を実現する前提として、リードタイム短縮に加えて系統制約解消、規制緩和等による保安林等の適地立地促進、膨大な潜在量があることの認識醸成と活用等を挙げる。系統制約は国も枠組みを定め着実に進めているところであり、速度をアップするのみと言える。適地立地は、陸上は保安林136GW、自然公園24GW、緑の回廊17GW、耕作放棄地・荒廃農地5GW等を見込んでいる。なお、優良農地を見込んでいないが、その潜在力は大きく欧州並みに利用できると導入量は大きく引き上がる。洋上は膨大で、IEAによれば年間電力需要の10倍のポテンシャルがある。洋上を考える場合、膨大な電力量を地方から大消費地に送ることから、系統制約解消はさらに重要となる。海底ケーブルの敷設や発電と送配電の役割分担の適切な仕切りが不可欠となる。詳細は後述する。

表2.JWPAの洋上風力・陸上風力の目標 2030年実現のための方策
表2.JWPAの洋上風力・陸上風力の目標 2030年実現のための方策
(出典)METI 第28回再エネ大量導入等小委員会「2050年カーボンニュートラルの実現に向けた2030年の風力発電導入量のあり方」(JWPA)
(出所)日本風力開発(株)「2050年 NET ZEROにむけて:鍵を握るのは洋上風力」(2021/12/10)に追記(青枠)

2.CN、成長戦略のカギを握る洋上の課題をどう解決するか

 これまでの図表は、基本JWPAが作成したものであるが、「CNのカギを握る洋上風力」の課題と提言を示している図2は、日風開オリジナルの視点が含まれる。赤枠の提案は、それぞれ詳しい解説があるが、筆者が整理し一覧性のある形としている。官民協議会にて合意された「導入目標」2040年30~45GW、「国内調達比率」2040年までに60%、「着床式コスト」2035年までに8~9円の3目標を実現のための課題と解決策提言である。

図2.洋上風力発電の促進に向けて:CNのカギを握る洋上
図2.洋上風力発電の促進に向けて:CNのカギを握る洋上
(出所)日本風力開発㈱ 「2050年 NET ZEROにむけて:鍵を握るのは洋上風力」(2021/12/10)
に追記(赤枠は同社資料を基に整理)

実現への課題は国産化、セントラル方式、促進区域

 「国産化の実現」を課題1として筆頭に位置付けている。「雇用創出、電力の安定供給、輸送コスト削減などの観点から、国内調達比率の向上は重要」であるが、現状国産風車メーカーは存在しない。「産業化の目標を達成するためには、主要な海外風車メーカーと連携し、サプライチェーンの強靭化が必要」と指摘する。風車産業の誘致・国内育成のためには、「相当規模の導入目標提示」とともに「2040年6割とする国産化比率の前倒し」が必要とする。また、「公募評価指数の明確化、風車国内生産が不可欠、主要海外メーカーとの連携がSCの鍵」と提言している。

 課題2は、環境整備・準備を国が行う「セントラル方式」についてである。これにより開発事業者は価格競争に専念できコスト低下が進む。セントラル方式の具体的内容は不明なところがあり、先行する欧州方式をベンチマークに提言を行っている。風況・海底状態等の調査データ開示、環境アセス実施、系統確保、拠点港整備、漁業者との調整、許認可手続き等である。特に系統に関しては、実潮流ベースの運用、海底ケーブル敷設を含むプッシュ型による計画的容量確保、発電所近くまでの送電線建設の送電事業者(TSO)責任による整備、再エネ出力抑制の低減と抑制が余儀なくされた際の損失補償等である。

 課題3は、「促進区域」の規模に関してである。現行のガイドラインでは、1区域容量は0.35GW、年間指定規模は1GWを基礎としているが、これの拡大を提言する。コスト低減には相当規模の安定した開発が不可欠となるが、最近の欧州並みの1区域1GW、年間指定規模2~3GWとすべきとしている。当日も「第1ラウンドの秋田県由利本荘市沖は南北合わせて0.73GWになる」との説明があった。2050年CN実現には洋上開発量を加速させることが不可欠であり、それがコスト低下に繋がる。

CN実現に向けた最初の試金石、選定される風車メーカーはどこか

 課題1の国産化につい敷衍する。図3は、世界No1の洋上風力導入量を誇る英国と日本の風車メーカー進出状況を示している。

図3 国産化・国内SC整備の鍵を握る風車メーカー誘致・提携
図3 国産化・国内SC整備の鍵を握る風車メーカー誘致・提携
(出所)日本風力開発㈱ 「2050年 NET ZEROにむけて:鍵を握るのは洋上風力」(2021/12/10)より抜粋

 英国は従来風車メーカーは存在していなかったが、大規模導入のなかで3大メーカーの誘致に成功している。日本でも、洋上風力ビジョンの公表を受けて、GEが東芝エネルギ-システムと合弁でナセル組み立て工場を横浜につくる。ヴェスタスは長崎県での建設を検討している。「公募評価指数の明確、風車国内生産が不可欠、主要海外メーカーとの連携がSCの鍵」との認識が示されるなかで、年内にも決定される落札事業者の選定が注目される。なお、風車メーカー選定に関する解説は筆者も試みている(「No.269 国内産業化のカギを握る風車メーカー選定」)。

終わりに

 今回は、12月10日に開催された京大シンポジウムの第2部「CNの主役風力、太陽光、水素は2030年、2050年にどう臨むか」について、風力関連の報告を行った。CN実現のカギを握り、そしてグリーン成長戦略の筆頭に位置付けられている洋上風力を主に、祓川氏の説明を辿った。実現のための課題と処方箋は明白である。年間3GWを超える導入規模、リードタイム半減そして風車の早期国産化である。国産化に向けて最初のメーカー選定を誤らないことも非常に重要である。これがCNに向けた上方修正策の骨子であろう。次回は、太陽光発電を取り上げる。