Research Project on Renewable Energy Economics, Kyoto University

京都大学経済学研究科

再生可能エネルギー経済学講座

本講座(第2期)は、2024年3月31日をもって終了いたしました。

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No.283 2050年CNに向けて力を蓄える太陽光 京大再エネ講座シンポジウム報告②

2022年1月6日
京都大学大学院経済学研究科 特任教授 山家公雄

(キーワード) カ-ボンニュ-トラル、太陽光、自家消費、オフサイトPPA、受容性

 京都大学経済学研究科再エネ経済学講座は、12月10日にシンポジウムを開催した。本稿は、筆者がコーディネートを行った第2部「CNの主役風力、太陽光、水素は2030年、2050年にどう臨むか」の第2回報告であり、(一社)太陽光発電協会企画部長である増川武昭の講演を紹介する。FIT導入後圧倒的な存在感で再エネ普及を牽引してきた太陽光であるが、急激なFIT価格引き下げ、受容性に係る課題表面化等により足元は停滞している。世界的には、太陽光が最も低コストとなり急拡大するとの見方が多い。脱炭素技術のエースとして更なる飛躍が期待されるなかで、日本での課題と対策について詳しい説明がなされた。

 本稿では、増川氏が用意した約50頁にも及ぶ説明資料から筆者がポイント考えたものを選び(他の出所もあるが)、筆者の感想を交えて解説している(「主力化を目指すこれからの太陽光発電~2050年CNの実現に向けた役割と2030年までに解決すべき課題~」)。なお、増川氏には予告編として本コラムに寄稿頂いている(「No.278 主力化を目指すこれからの太陽光発電」)。

1.日本における太陽光発電情勢とエネルギ-基本計画

日本の再エネを牽引する太陽光

 世界では風力が再エネ普及を牽引し、太陽光がそれを急追している構図である。日本は、太陽光が一人勝ちとも言える導入量を誇る。図1左図は、発電電力量構成比の2020年度速報値である。再エネ(自然エネ)全体では19.8%まで高まっているが、うち約4割に相当する7.9%は太陽光である(7.8%の水力は過去の開発成果)。世界でも中国、米国に次ぐ第3位の地位にある。図1右図は再エネ発電電力量の推移であるが、太陽光が急拡大していることが分る。

図1 日本の発電電力量構成比と再エネ電力量推移
図1 日本の発電電力量構成比と再エネ電力量推移
(出典)資源エネルギー庁「総合エネルギー統計」
(出所)自然エネルギ-財団

エネルギ-基本計画での存在感と業界ビジョン

 エネルギ-基本計画では、再エネは主力電源と位置付けられ今後も伸びていく。第4次、5次エネ基の基礎となった平成27年(2015年)長期需給見通しは、電力ミックスにおける再エネ比率を22~24%としたが、太陽光は2030年に64GWとなり7%を占める(図3の上表)。この間、(一社)太陽光発電協会(JPEA)は2017年7月および2020年5月にビジョン“PV OUTLOOK 2050”を公表し、2050年目標値としてそれぞれ200GW、300GWを提示する。

 2020年ビジョンは80%排出削減を前提とし、シェアは31%を目指している(図2)。長期的にFIT/FIPに頼る電源から自立電源に大きく転換する姿であり、2030年までは「FITからの自立に向けた10年」と位置付けている。勢いと主力電源としての責任を感じる内容であるが、一方でFIT価格低下による新規開発の停滞を克服する決意表明とも言える。

図2.太陽光発電2050年目標(2020/5公表)
図2.太陽光発電2050年目標(2020/5公表)
(出所)太陽光発電協会(JPEA)

カ-ボンニュ-トラルを担う期待と課題

 2020年10月にカ-ボンニュ-トラルが宣言され、2021年4月には2030年46%削減がコミットされる。再エネへの期待はますます大きくなり、2021年10月に閣議決定された第6次エネ基では、再エネは2030年に36~38%へと上昇する。太陽光に限らないが、80%削減(2℃)目標は古くなり、100%削減(1.5℃)目標への改訂が必要になる。政府は、2050年に関しては再エネ5~6割、原子力・化石CCUSで3~4割、水素・アンモニアで1割とアバウトな「参考値」を示すに留まっている。出遅れた中での2030年の再エネ目標値は、現存する計画では「積み上げ」きらず、「野心的な目標」にてカバーすることとなり、再エネ業界は考えうる大きな数字を提示する。

 太陽光のビジョン改訂は間に合わず、現行ビジョンの2030年目標を上方を修正し(100GW→125GW)、2050年目標を前倒しする姿を示した(図3)。2030年上方修正は自立導入量の増加に依存する。こうして第6次エネ基の太陽光目標値は104~118GW(14~16%)へと引き上げられる。後述するが、足元の開発は低迷しており、現状トレンド継続では82GWと予想している。このギャップをどう埋めるのかが課題であり、課題克服が2050年CNの前提となる。なお、風力は漸く本領を発揮し始め、5次エネ基の10GW(1%)から23.6GW(5.4%)へと大きく増加する(業界目標は36GW)。

図3.第6次エネ基と野心的目標(~2050年)
図3.第6次エネ基と野心的目標(~2050年)
(出所)太陽光発電協会(JPEA)に追記(白塗りつぶし)

2030年目標を睨んだ現状認識 FIT価格急低下の光と影

 足元トレンド82GWと野心的目標の125GWの乖離をどう埋めるのか。現状の事業環境は非常に厳しい。屋根置きは、新設住宅設置が主となっているが、「住宅用太陽光の導入件数は、2017年度から2020年度は年平均で14.3万件で推移しているが、2012年7月~2013年度の年平均27.2万件と比較すると半減している。新設住宅の着工件数は減少傾向にある」のである。さらに大きな問題は、新規のFIT認定量が激減していることである。図4は事業用太陽光のFIT認定量の推移であるが、2013年の24.2GWから急減し、直近の2020年は0.9GWにすぎない。事業用、住宅ともに新規認定量は大きく減少しているが、FIT価格の急低下の影響が大きい。多くの開発事業者はFIT価格が低すぎると認識しているのである。

図4.事業用太陽光FIT認定量の推移
図4.事業用太陽光FIT認定量の推移
(出所)太陽光発電協会(JPEA)

 図5はFIT価格と電気料金・スポット価格のトレンドを示している。FIT価格(円/kWh)であるが、住宅用は19円(2021年)、17円(2022年)と既に電気料金を大きく下回っている。事業用FITは11円(2021年)、10円(2022年)と業務用電気料金を下回り、卸市場価格に並ぶ水準となっている。コストの低下は社会にとっては結構な話で、太陽光の可能性を示すものであるが、無理な低下は再エネ事業者の開発意欲を減退させかねない。

図5.FIT価格と電気料金・スポット価格の比較(消費税除く)
図5.FIT価格と電気料金・スポット価格の比較(消費税除く)
(出所)太陽光発電協会(JPEA)

2.カ-ボンニュ-トラルの切り札を目指して

主力電源となるための課題と対策

 以上の現状を踏まえて、JPEAが考える課題と対応策は以下の通りである。課題を「コスト競争力の向上」「価値創出」「電力市場への統合」「系統制約の克服」「長期安定稼動」「地域との共生&適地確保」の6つに整理している(図6)。以下、順に解説する。

図6.太陽光が主力電源となるための6つの課題 -2030年までに基礎を固めて2050年に向けて飛躍-
図6.太陽光が主力電源となるための6つの課題 -2030年までに基礎を固めて2050年に向けて飛躍-
(出所)太陽光発電協会(JPEA)作成資料に同協会情報を基に加筆(吹き出し)

コスト競争力の向上

 FIT価格は急激に下がっているが、現行の水準では多くの事業者は事業性が厳しいと認識している。新規FIT認定が1GWを割っているのはその証左である。業界は、コスト低下の目標として2030年で7円/kWh、自家消費のストレージパリティ(蓄電池設置コスト含めて購入電気料金と同じ水準)を掲げている。JPEAは、FIT・FIP価格を2025年まで維持することを要望している。

 その間、コスト低下を進める訳であるが「工事費等初期投資低減」が最大の課題である。ドイツと比較・分析しているが、コスト差は2.2倍あり、その64%は建設費である。最近は洋上風力を皮切りに水素、アンモニア、メタネーション等多くの「官民協議会」が設置されているが、太陽光に関しても同様の取組みが必要と思われる。

 「稼働期間の長期化」も非常に有効である。稼働年数が20年と30年とではそのコスト差は大きい。太陽光は政府の発電コスト試算では稼働年数30年を前提としていた(直近は25年)。特に50kW未満の小規模事業について、FIT期限切れ後の稼働が重要としている。期限切れ事業は環境価値が表に出るメリットもあり、期限を待たずに流動化を促す対策は有効であろう。

「自家消費やPPA(長期相対取引契約)への転換」は、事業量確保やコスト低減の本丸と考えられる。図3のFIT価格・電気料金推移でみたように、系統費用不要な自家消費(オンサイト)設備のコスト競争力は高く、環境価値を具備しており、需要家にとり魅力がある。住宅は新築が主であり、ZEHを含むパネル設置義務付けが重要になる。政府はパネル設置割合6割の努力義務を課したが、JPEAは8割を期待している。RE100事業者等の太陽光電力への需要は大きい。構造上パネルを置くことのできる屋根は全て設置する、遊休地に土地置きを設置したいとする事業者は多い。パネルの軽量化は膨大な需要が約束されており、業界に早急な実現を期待したい。

 世界の多くの地域で再エネコストが最も低くなっているが、最近はオフサイトPPA取引が後押ししている。日本では現状はコストの低い太陽光がオフサイトPPAの対象となり、「RE100事業者」の期待は大きい。系統費用負担というハードルは低くないが、自己託送制度の緩和で一気に注目が集まっている。市町村のポジティブゾーニングとの組み合わせると効果はさらに高まる。

価値創出

 再エネは環境価値を有するが、この価値が正当に評価されれば競争力は格段に大きくなる。CO2フリー価値はCO2排出コストと同義と考えられるが、カ-ボンプライシングの整備により正当な評価が可能となり、価値の透明性や将来予想も可能になる。現在、排出価値の世界指標は欧州のEU-ETSと考えられるが、EUが2030年55%削減を公表して以降ETS市場は高騰し現在約€80/CO2tをとなっている。また、太陽光は代表的な分散型リソースであり、地産地消価値、ローカル調整力の価値、送電コスト削減価値等様々な価値を有する。これらの価値が表に出る制度設計が重要になる。

電力市場への統合

 「電力市場への統合」は、需給(価格)状況に応じて発電側も出力を変更することを意味する。発電した分を送電事業者より固定価格で引き取られるFIT制度からの卒業である。市場へ販売し基本価格との差額をプレミアムとして受け取り、自ら調整し、環境価値を有するFIPはその手段として2022年度より導入される。これが機能するためには、卸市場・需給調整市場が整備されていること、FIP制度が機能することが大前提であり、アグリゲーター育成や需要側リソースやその制御システムの整備が不可欠となる。しかし、制度設計上の課題を多く抱える。基盤となる卸市場は未整備、需給調整市場はできたばかり、FIP制度は複雑になり構造的な問題も指摘されている(「No.282 FIP制度設計の構造的課題~中小水力は価格高騰で収入減少リスクを負う~」)。カ-ボンニュ-トラルの実現のためには、太陽光だけでなく分散型システム構築が不可欠である。これらは政府の役割りであり、早期の見直しを切に要望したい。

 「セクターカップリング」は脱炭素が容易な電力へ熱や燃料(運輸)からの転換が進むこと(電化の進展)により電力、熱、燃料相互の融通が容易になることを意味する。IEAのネットゼロ2050シナリオによれば、最終エネルギ-需要の5割は電力となる。また蓄電池だけでなく熱、燃料、水素はストレージが可能であることから、多様な調整力が登場する。脱炭素実現に向けて、自然変動電源(VREグリーン電力)が著増するが、様々な調整力も登場する。VREの普及を過度に恐れることはないのである。

系統制約の克服 空き容量・調整力の確保

 分散型電源という特徴をもつ太陽光は、デジタル化の進展と配電網を含む下位系統の整備が重要になる。前項の「電力市場への統合」もこの文脈上にある。空き容量等の系統問題は、課題解決に向けて基幹系統を主にかなりの進展を見ているが、太陽光が主に接続する下位系統はこれからである。実潮流ベースで送電線を有効活用する「ノンファーム接続」は上位2系統への適用でスタートしており、下位系統への早期適用が大きな課題である。系統制約と無関係な「自家消費、オンサイトPPA」は太陽光の強みであるが、これは前述の通り。配電網スマート化、需用側リソース活用、ストレージコスト低減、自己調整力発揮も分散型システム整備の一環といえる。米国等で活発な地域がまとまって契約する「コミュニティソーラー」が普及しているが、これに向けた環境整備、需要に近い託送料金の弾力化等も効果は大きい。

長期安定電源稼働

 20年後も稼働継続できることは、2030年を超えて重要であるが、これは前述の通り。稼働後のPVモジュールの適正処理やリサイクル体制整備も地域受容や循環型システム構築の視点から重要である。

地域との共生&適地確保

 最後になるが、地域受容性はコスト競争力とならび最大の課題に浮上した観がある。景観、災害時の地滑り、運営主体への信頼等少なからず問題事例が発生した。自治体の条例設定も増えてきているが、多くは太陽光への懸念である。身近で数も多いこともあるが、政府も準備不足や問題が生じた際の迅速対応が十分ではなかった。また、(遊休)土地問題が根底にあるとの認識が不足していた。環境アセス対象外、小規模事業の緩やかな規制を背景に外資を含めて様々な事業者が参入した。遅ればせながら規制強化、接続要件確認、認定取り消し要件開示、環境アセス対象等の対策が打ち出されている。JPEAも2021年4月に「地域共創エネルギー推進委員会」を立ち上げ、低圧事業を主に、安全性の確認や地域貢献の評価・理解に注力している。この動きを継続する必要がある。

 地元理解は適地確保のためにも不可欠になる。JPEAは、3~4GW/年の地上設置を見込んでいる。改正温対法に盛り込まれた市町村が策定する「促進区域設定(ポジティブゾーニング)」や 農地利用への期待は大きい。また、3G/年の屋根設置を見込んでいるが、新築住宅の8割を前提としている。RE00を主に事業者は環境価値確保に強い意欲を示しており、オフサイトPPAや既存建物へ設置可能な軽量パネルへのニーズは非常に強い。

最後に個人的な期待を含めて

 太陽光への期待は非常に大きいが、足元の環境はかなり厳しい。こうしたなかで、増川氏は、協会の企画部長との立場もあり、説明資料の取り纏めにかなりご苦労されたと思われる。代表的な分散型リソースでもあり、市場や消費者と近く論点が多岐にわたる。個人的にはより踏み込んだ話をしたかったのではないか。もちろん、CNに向けた論点はほぼ全て網羅され、シミュレーションを駆使した見通しも分り易かった。

 筆者は、製造業の社外取締役を兼務しているが、CNへの取り組みは経営の最重要課題となっており、最も環境価値を確保しやすい太陽光への期待は非常に高い。屋根置き設置は当然として、軽量パネル、オフサイトPPAには大きな可能性がある。住宅屋根置きは、戸建て住宅総数の9%に留まっているが、潜在量が大きい証でもある。ソーラーシェアリングに対する農業関係者の理解は高まっている。また、グリーン水素の時代が確実に到来するなかで、ポテンシャルの高い太陽光の役割は大きい。北海道等には適地が広く存在する。地域の適地を集約してインフラコストを要さないオンサイト水素生成に適しており調整力にもなる。

 太陽光は、現在は次の飛躍に向けて力をためているときである。JPEAの100%削減、グリーン水素を睨んだビジョンの早期改訂を期待したい。