Research Project on Renewable Energy Economics, Kyoto University

京都大学経済学研究科

再生可能エネルギー経済学講座

本講座(第2期)は、2024年3月31日をもって終了いたしました。

TOP > コラム一覧 > No.320 洋上風力入札基準見直し① ポイントは黎明期の確実性と多様性

No.320 洋上風力入札基準見直し① ポイントは黎明期の確実性と多様性

2022年6月10日
京都大学大学院経済学研究科 特任教授 山家公雄

キーワード:洋上風力入札、事業者選定基準、事業実現性評価、最高評価点価格、FIP

 洋上風力入札ラウンド1は三菱グループが3区域を総取りする結果となった。これを受けて、事業者選定基準の見直しの議論が、今夏までの取り纏めに向けて、進んでいる。経産省と港湾局の合同部会では5月23日に政府原案提示、5月30日に日本風力発電協会および主要事業者へのヒアリングが実施され、ある程度の方向性が見えてきている。今回は、見直し案の解説と評価について考察する。ポイントは黎明期における事業確実性、厚みのあるサプライチェーンを実現する多様性である。

イントロダクション

選定基準見直し議論の流れ

 ラウンド1の結果を受けて価格で決まった、実現性や地域調整・効果が無視された、事業実現性評価の基準が不透明、一事業者総取りの是非、運転開始は遅くても良いのか、価格と事業確実性が1対1評価になっていない等の議論が生じた。当コラムでも10回にわたり考察・解説したところである(「関連コラム」)。3月2日に日本風力発電協会(風力協会)が選定(審査)基準見直しの提言を公表し(「洋上風力発電事業者の選定結果を踏まえた今後の公募に向けて(提言)」)、3月18日には萩生田経産大臣より審査基準見直しとラウンド2の先送りが発表された。3月22日に経産省と港湾局との合同部会が開催され、ラウンド1結果の概略報告が行われ、審査基準見直しの方向性が示された。2か月後の5月23日に政府原案が提示され(「再エネ海域利用法に基づく事業者選定の評価の考え方等について」)、5月30日に風力協会およびラウンド1応募8事業者へのヒアリングが実施された(「第13回合同会議」)。特に、風力協会・事業者の意向は見解が一致するところと分かれるところがあり、それぞれの考え方を映じて興味深く、またある程度の方向性は見えてきた。

見直し案の概要

 見直し案であるが供給価格(定量)評価120点満点、事業実現性(定性)評価120点満点は変わらない。また、最高評価点価格(以下の低い価格)が自動的に満点になる、定性評価が必ずしも満点とならない点も変わらない。定性評価120点が「事業実施能力」80点と「地域調整・波及効果」40点にて構成されることも同一である。要するに、形式的には大枠は不変である。価格評価は、基本FIP制度が前提となる、実質最低価格方式となりこれが公表される可能性があることがポイントとなるが、詳しくは後述する。

 図は、5月23日に提示された事業実現性評価の新旧案であり、左が現状(ラウンド1)の基準であり、右が提案である。「事業実施能力」は構成と項目が再編されるが、「地域調整・波及効果」の項目は変わらない。事業実施能力80点であるが、現状の「事業実施実績30点」「事業計画の実現性20点」「リスク特定・分析15点」「電力安定供給・価格低減10点」「最先端技術5点」を取捨選択・統合して「事業計画の迅速性」「事業計画の基盤面」「事業計画の実行面」「電力安定供給」の4分類に、それぞれ20点に整理する。

図.事業実現性の評価方法案
図.事業実現性の評価方法案
(出所)経産省・国交省「再エネ海域利用法に基づく事業者選定の評価の考え方等について」(2022/5/23)

1.事業実現可能性(定性)評価について

 価格評価は(最高評価点価格以下の)低価格提示者は必ず120点獲得できる一方で、定性評価は個別評価の積み上げとなっており120点獲得できる保証がない。これに関しては、風力協会は価格等として「供給価格80点+事業計画の迅速性40点」との意見である。事業者側からは1:1とすべきとのコメントが大勢を占めた。詳しくは第2節にて解説する。

 以下で事業実現可能性(定性)評価案について解説するが、風力協会は、大枠として「事業実施能力60点+地域調整、波及効果60点」とすべきとの意見である。

事業計画の迅速性20点:政策性と実現能力評価で妥当

 早期運開は、審査基準見直しの最大要因の一つであり、独立項目となったことはよく理解できる。3月19日の萩生田大臣の見直し発言では「ウクライナ侵攻によりエネルギ-安全保障の重要性が一段と増したことから国産エネルギ-である再エネ(のエース洋上風力)の前倒しが不可欠となり、迅速な運開は評価されるべき」という趣旨であった。また、今回見直しは、セントラル方式導入前の「黎明期」を前提とした基準であり、開発力が問われる(セントラル方式については終節にて解説)。早期運開は、エネルギ-政策の実現と共に事業者の実現能力が試される項目として、首肯できるものである。風力協会は、迅速性は特に重要であり40点として価格評価120点の構成要素とすべき、との意見である。

 先に着手したものが有利、多数の事業者が個別に調整を行うと地元迷惑等の意見もある。しかし、事業者は、実力があれば多少の遅れは取り戻せる。地元は、取捨選択できるし、調整過程は事業者を評価できる機会でもある。30年に及ぶ地域振興効果が期待できる大規模プロジェクトであり、共に振興策を考えるパートナーを見極めることは極めて重要である。建設して頃合いをみて売却する志向の事業者についても、比較すれば分る。その意味では、政府が迅速性を担保するために提示している6つの案(1~3,αとβ)の中では最も厳格な案とすべきであろう(字数の関係で解説は省略)。

事業計画「基盤面」20点:実績が過小である疑問

 「基盤面」20点は「体制・実績」10点と「資金・収支計画」10点から成るが、実績が体制と括りで10点はいかにも少ない。ラウンド1の30点に戻すべきである。「国が初期開発を行うセントラル方式は準備中」「国内で洋上実績がない黎明期」を前提とすると、実績は最大項目で然るべきでる。ラウンド1では「実績」はトップランナーなしと評価され、これが評価点を減じた理由に挙げられている。しかし、この判断は間違っている。国内洋上の実績がなく誰もが横一線との認識であるが、非常に乱暴であり事業者に対するリスペクトを著しく欠く。ならば、どうして実績に最大の30点を配したのだろうか。

 日本の風力開発は、1990年代後半から始まり、25年の歴史がある(筆者は黎明期に貸し手として立ち会った)。「過酷」といってもいい陸上風力普及の歴史を支え・ノウハウを蓄積してきた事業者は存在し、風力発電事業という点では洋上と基本的に同じである。日本にベンチャーが育たない理由が垣間見える。洋上風力の経験を有する外資と組むことで補強もできる。世界トップでありながら実績が評価されない外資のプライドを傷つけ、日本市場への興味を削いでしまうことが懸念される。肝心のスタート時点で「実績に乏しい事業者により躓いてしまう危うさ」を感じる。

事業計画「実行面」20点:運転が建設より低評価である疑問

 建設に係る「運転開始までの実行力」が15点、運転・維持に係る「運転開始後の実行力」が5点とされたが、風力協会および日風開・九電は運開後重視、東電・三菱・住友は運開前重視、JERAは半々、大林組はやや運開前というコメントであった。これは、風力協会の主張に理がある。「黎明期の事業」が強調される中で、きちんと運転管理できること、それが出来ない事業者は地域との良好な関係は築けないこと、初期段階で地域の信頼が得らえなければ切り札である洋上風力の進展はあり得ないこと等、枚挙にいとまがない。サプライチェーンが整備され、事業として成熟している段階では、建設した事業者が頃合いを見て売却し資金を回収・回転させることもありうる。「黎明期」では、最初から事業売却を視野に入れていると思われるような言動は不信感を招く。逆に5:15が妥当であると考える。

電力安定供給20点:サプライチェーン独立は評価

 国内サプライチェーン構築を評価する項目であり、独立したのは評価できる。一方、評価基準をより明確にする必要がある。多くの国内メーカーがサプライチェーンに入るべく研究開発や投資を検討・実施している。またGEと組んで補助金を得てナセル組み立て工場を立ち上げる東芝ESは、自ら国内サプライヤー候補を探している。自治体主導でサプライヤー候補の勉強会や風車メーカー・アッセンブリーとのマッチング開催を実施している場合もある。選定候補事業者が「企画・発掘」したのか、流れに乗ってプレゼンしているだけなのかの評価が必要である。また、「地域調整・波及効果40点」のうちの5点は「国内への波及効果」であるが、これとの関連・差異が分り難い。同じであれば5点分は他の地域貢献に回すか、安定供給への上乗せが分りやすい。

地域調整・波及効果40点:市町村・漁協等の意見が重要

 地域貢献関連は、全体40点とその内訳4項目10点ずつは変わらず。知事事意見を最大限尊重(優先)する方針が明記されているが、これも基本的に継続されている。また、知事意見の次に協議会の意向を尊重するとしているが、協議会の位置はやや不透明であり委員からも言及があった。協議会は、基礎自治体(市町村)・漁協等の意見が反映されるが、地元の意向を重視する姿勢だとすれば評価できる。

 事業者からは、風力協会を含め市町村・漁協等の意見を国が直接確認すべしとのコメントがあり、ラウンド1とくに秋田県にて地元の不満が大きかったことの影響が窺われる。地元とくに漁協意向の影響が大きい。また、地域振興への協力金は、地元理解への影響は小さくない。ラウンド1にて、銚子と秋田の「地域振興基金」へ拠出額に大きな差が出たが、基金拠出金の位置づけは地域調整等と密接に関わると考えられる。長崎県の西海区域に係る法定協議会が5月31日に開催されたが、その場で国が「250円/kW/年」を提案しており、注目される。なお、地域への配点が40点は小さいとの考えがあり、風力協会は60点を提示した。

 地域貢献提案に関しては、評価基準を明確にすべきとの意見も出された。ラウンド1にて、風力事業(エネルギ-事業)と直接関係のない貢献策が評価されたとしたら、それは貢献策の決定打としていいのかという視点である。これは、「超長期の風力事業そのものを軸に地域と共存していく」との考えから逸脱する懸念がある。

2.価格評価の特徴と事業者選定の制限

価格重視は変わらないが、定性との1:1評価は実現する方向

 政府案では、(最高評価点価格以下の)低価格提示者は必ず120点獲得できる一方で、定性評価は個別評価の積み上げとなっており120点獲得できる保証がない。これに関しては、風力協会は価格等として「供給価格80点+事業計画の迅速性40点」にすべきとの意見である。各事業者は1:1とすべきとのコメントであり、少なくとも1:1の評価は実現するものと考えられる。

 合同部会でも再エネ大量導入小委員会でも、「競争環境、低価格落札」をほぼ無条件に評価する委員が多い。風力事業の実態が分らない、それが故に表面的な海外事例や理屈でコメントする等の事情は理解できなくはない。委員会意見を集約すると価格重視となり、政府案にある程度反映される。その意味で、5月30日の現実を承知している事業者ヒアリングは有意義であった。地元関係者は、価格重視評価に対してより厳しい。事業者や地元関係者が委員にいない運営の在り方に関し、再考の必要があろう。

 低価格が実現している欧州でも、風車メーカー・サプライヤーより価格偏重からサプライチェーン重視への転換を求める声が高まっている。事業が拡大する一方で経営は厳しくなっている。5月21日にドイツのシーメンス・エナジーは、最大の洋上風車メーカーであるスペインのシーメンスガメサ・リニューアブルエナジーに対して救済買収の提案を行った。また、EUの脱炭素・脱ロシア政策である「リパワーEU」が発表された5月18日に、北海沿岸に位置するEU4か国は「2050年EU目標である洋上風力300GWの1/2に相当する150GWを北海に設置する」との共同宣言が採択された。関係者として政府首脳やオーステッド、RWE、シーメンスガメサ、ベスタス、Elia等の代表者が集まったが、事業者側からは、価格重視からサプライチェーン配慮への入札制度見直し、インフラの効率的整備の重要性を訴える声が相次いだ(「No.316 欧州の脱炭素・脱ロシア対策「リパワ―EU」」)。 

価格120点:FIPの不透明性を最低価格でカバーできるか

 価格評価は、選定事業者が120点満点を獲得できる点は同じである。しかし、FIP制度移行に伴い意味合いは大きく変わる。旧ラウンド2であった秋田県の八峰・能代区域はFIT制度が残るようであるが、新ラウンド3区域以降はFIPになる。政府案は「(FITの調達価格に相当する)基準価格は調達価格等算定委員会にて最高評価点価格を提示」となっている。販売契約は自由に契約できるというFIPの性格からして、実質最低価格となる最高評価点価格を下回るオファーもありうる。その場合は複数の満点が生じるが、最高評価点価格が公示されればそれを下回るオファーは出てこないであろう。

 制度の趣旨からして、最高評価点価格は適正利潤込み長期平均費用(LCOE)を基礎に試算されると考えられるが、理論的には市場価格予想値を採用する可能性がある。しかし、建設期間+20年の超長期予想が出来るとは思えないので、LCOEを基に最高評価点価格が試算・提示され、その水準に応札価格が収斂すると予想される。調達価格等算定委員会は「黎明期」である事情を勘案し、極端な低価格とならない水準を公表するのではないか。そもそも「黎明期」と「FIP制度」は矛盾し、FIP制度導入は時期尚早と考えられる。調達価格等算定委員会には事業者の意欲が委縮しないような対応を強く期待する。

選考事業者の制約:1募集1GW、コンソーシアム構成不変の是非

 ラウンド1では、三菱Gが太平洋側、日本海側の2県、3区域全にて落札し、採用した風車も同一機種であった。黎明期で、厳格な政策スケジュール管理が求められるラウンド1にて、同一事業者、同一機種が採用されたリスクへの懸念は大きい。見直しの柱として、選定事業者に量的な制約を課す案が打ち出された。「同一ラウンドでの同一事業者の落札は1GWまで、コンソーシアムメンバーは区域を超えて変えることは不可」等である。原案に対してそのまま賛成する事業者は皆無であった。同じラウンド限定か累積か、定数かシェアか、セントラル方式導入までか導入後もか等である。また、区域を超えたコンソーシアムメンバー固定は全員NO、三菱商事はそもそも規制にNO等ある。

 少数事業者に集中する選定は、ラウンド1発表早々から萩生田大臣が違和感を表明しており、「多様な事業者参加の途」は何らかの形で提案されるはずであった。事業者も基本賛成であり、あとはどのような方式を考案するかである。

終わりに 問われるのはセントラル方式前、ウクライナ後のルールの在り方

セントラル方式との関連は不明だが、重要性は認識

 政府説明資料には、今次見直し案とセントラル方式との関わりについて明確な説明がない。風力協会は、セントラル方式の重要性、早期導入、導入前後で審査方法の相違等について明確にコメント・要望している(「洋上風力発電事業者の選定結果を踏まえた今後の公募に向けて(提言)」)。風力協会は、セントラル方式として国による「風況」「気象・海象」「海底地盤」「環境アセスメント」「漁業の実態等」の情報提供と国が確保済み「系統」の提供、を前提としている。現在、国はセントラル方式の早期導入向けて実証事業等を実施しており、早期導入の重要性は認識している。

黎明期のルールを議論

 初期開発を国が実施するセントラル方式導入後は、基本的に価格競争が軸になる。選定事業者の制約も解除あるいは緩和される方向となる。一方導入前は、初期開発は事業者に委ねられることとなり、実績と地元調整力(開発力)が評価のポイントとなると考えるのが自然である。

 前述のように、多数の事業者が個別に調整を行うと地元迷惑等の意見もある。しかし、セントラル方式導入前では、他に方法は見当たらず、伝統的な電源開発方式でもある。地元は、超長期にわたり地元振興を考えるパートナーを見極める事業者を評価する重要な機会でもある。いずれにしても、今回の見直しは、セントラル方式導入前を前提とした審査基準を議論するものであり、「黎明期」の事業者選定基準として実績、実現能力が問われることになる。

 風力協会は「エネルギー基本計画で設定した2030年度までに5.7GW以上を運転開始させるため、セントラル方式を導入するまでの過渡期には「早期運転開始」と「国内産業基盤形成」に重点を置くべき。」との意見である。

ウクライナ後の入札方法

 5月30日の風力協会・事業者ヒアリングでは、世界動向に基づく貴重なコメント・要望が風力協会および専業者よりあった。ウクライナ侵攻後、資材価格高騰が加速していることから、第2ラウンド以降の入札価格提案にインフレ条項盛り込みが不可欠である。また、エネルギ-安全保障重視の視点から欧州を主に洋上風力事業大規模前倒しの動きが現実になっている。機器・資材が欧州へ流れることから、一定規模以上の募集量(最低でも1GW/区域)でないと風車メーカーに相手にされない懸念が表明された。

 風力協会は「今後の促進区域を魅力的且つ計画的な競争市場とすることが重要なため、1区域当りの公募容量の大規模化(最低500MW~1GW程度)と共に、毎年複数の促進区域で公募を実施し全体規模を拡大(より沖合の共同漁業権エリア以外も含めて区域指定)すべき。」と意見した。

 事業の迅速性、事業者の多様性、サプライチェーン整備等を意識した定性評価の整理、定性評価重視の姿勢は一定の評価はできる。黎明期・セントラル方式導入前段階として不可欠な事業の確実性、資源価格高騰・欧州との対抗策も重要検討事項となった。