Research Project on Renewable Energy Economics, Kyoto University

京都大学経済学研究科

再生可能エネルギー経済学講座

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No.1 再生可能エネルギーの便益が語られない日本
- メディア・政府文書・学術論文における「便益」の出現頻度調査 -

2019年6月28日
京都大学大学院経済学研究科 特任教授 安田 陽

 本論文では、「便益」という言葉をキーワードに、「再生可能エネルギーの便益」が各種メディアでどのように述べられているのかについて用語出現頻度調査を行なった。

 世界では再生可能エネルギーの躍進は目覚ましく、国際エネルギー機関(IEA)によるとパリ協定を遵守するための2030年および2040年の電源構成(発電電力量ベース)の中で再生可能エネルギーの占める割合はそれぞれ49%, 67%という大量導入が想定されている。

 このように再生可能エネルギーが進む理由は、再生可能エネルギーの便益が海外(特に欧州)では広く議論されているからと推測できる。一方、日本で再生可能エネルギーの現状や将来目標は他の先進国に比べ以前低く、その原因の一つに、「日本では、再生可能エネルギーの便益についての情報が、国民に十分提供されていない」ことが考えられる。

 そこで本論文では上記の仮説をエビデンスベースで明らかにするために、2010〜2019年の内外の各種メディア(新聞、テレビ、SNS、学術誌、政府文書)における用語出現頻度調査を行い、「再生可能エネルギー」を含む文書に「便益」が出現する比率などに着目して定量分析を行った。その結果、海外メディアとの比較から、「日本では、再生可能エネルギーの便益についての情報が、国民に十分提供されていない」という状況をエビデンスベースで明らかにすることができた。また、日本国内メディアに限っては(海外と比較すると少ないながらも)、再生可能エネルギーの便益について最も言及しているのは政府文書であることが明らかになった。

 また、各種辞書および経済学関連文書における「便益」の定義ついても文献調査し、比較検討を行なった。その結果、同じ「便益」という日本語でも、経済学で登場する場合の意味と、辞書で説明される意味とで大きな乖離があることが明らかになった。すなわち、日本のメディアが「便益」について語らないのは、特段再生可能エネルギーに限ったことではなく、「便益」という用語そのものの社会的認知の問題である可能性があることも明らかになった。

キーワード:再生可能エネルギー, 便益, 費用便益分析, エビデンスに基づく政策決定 (EBPM), 規制影響分析 (RIA), マスメディア