Research Project on Renewable Energy Economics, Kyoto University

京都大学経済学研究科

再生可能エネルギー経済学講座

本講座(第2期)は、2024年3月31日をもって終了いたしました。

TOP > 公開研究会 > 第1回 再エネ講座公開研究会(第2回【部門A】)『電力価格高騰問題から電力市場改革へ』

2021年7月26日(月)部門A研究会 議事録

2021年7月26日
於:Zoom会議室(オンライン)

 7月26日(月)17時から20時50分まで、第2期再生可能エネルギー経済学講座部門A研究会が公開研究会という形でオンラインで開催されました。今回の研究会では第1部で「電力価格高騰問題について」をテーマに、みんな電力株式会社の三宅成也氏と京都大学大学院の安田陽先生から講演を頂き、パネリストの方々との議論が行われました。第2部は「電力市場改革について」をテーマに、京都大学大学院の諸富徹教授と尚絅学院大学の東愛子先生から講演後、パネリストの方々との議論が行われました。

第1部 「電力価格高騰問題について」

電力価格高騰問題の振り返りと新電力のこれから

三宅成也

 最初に再エネ系新電力への市場高騰インパクトを概観する。市場高騰の状況を2019年と比較すると、取引価格が約1ヵ月(2020年12月26日から27日間)に渡り高騰し、通常の20倍を超える最大250円に到達し、それは短時間のスパイクではなく、高値張り付きという異常な事態となった。市場高騰した27日間の平均単価は72.4円/kWhで、(通常時の)10倍、約定総額は1兆円7,308億円で年間の取引価格に相当する額となった。再エネ特定卸は、再エネには関係ない価格変動リスクを負う仕組みになっている。新電力への経営インパクトは、運転資金を超える仕入れ額となり資金ショートを起こすレベルだった。卸市場、FIT特定卸比率の高い新電力は大きな影響を受けている。実例を参照すると、大手電力は送配電と小売子会社で損失を打ち消す黒字を出しており、連結ベースでは逼迫の影響を受けていない。

 次に高騰要因を考察する。12月26日に玉切れし、12月29日から1月21日の間、卸電力市場(JEPX)に売り玉は残っておらず、旧一電以外の小売はインバランス補給を受けていた。予備率があるにも関わらず、市場の玉は断続的に枯渇し、全エリアで価格高騰が続いた。監視等委員会の資料によると、燃料制約や予備力を過大に見積もっていなかったか検証されている。燃料在庫不足が見込まれたため、発電量を抑制する運用が行われ、入札制約が行われたとされている。燃料在庫の実績は低水準だったが、著しく低下したとは言えない。制約運転による燃料の節約はされなかったのではないか。制約運転により大量に発生した不足インバランスと単価上昇により送配電事業者の収支は黒字となったが、どのように還元すべきか。

 最後に電力供給と市場の構造的課題を考える。電力業界にある市場の全体像を見ると、発電が大手電力会社による寡占状態のまま複数の市場が形成されており、それぞれ市場支配力を行使しやすい状況にある。全国2,400万kWほどある石油火力(ピーク電源)の半分が止まったまま稼働しなかった。容量市場にも1,400万kWも落札されているが、ピーク電源として役に立てていない。火力電源の多くは老朽化しており、今後の供給力の維持に向けて電源投資が必要である。原子力の再稼働による供給力は使用済み燃料補完力が前提となる。このような状況下、再エネ等新規電源への転換が上手く進むのか、中期的な供給力がどのように確保されるのか。

pdf資料(三宅)(9.35MB)

電力価格高騰問題の構造と本質的原因

安田陽

 JEPXスポット市場動向でみると価格高騰が長期間続いた。電力取引状況(2020年7-9月期)を見ると、実質取引されたのは8%程度である。様々なデータで検証する。

 まず市場玉切れの長期持続の異常性が上げられる。海外の価格スパイク例を見ても7日以内で収束している。日本の長期高騰の原因をみると、気温低下と買い入札量増加の相関は殆ど見られない。当初太陽光発電の影響という見解もあったが、太陽光は原因ではない。LNG在庫との関係については、価格高騰が起こって2週間経って在庫推移の情報が一部公開されたため、一般に見えていなかったことが問題ともいえる。一部の旧一電がグロスビディングによる売買入札を取りやめていたことが、約定価格に与えた影響は限定的と考えられている。また関電の原子力発電所のトラブルにより点検の遅延があった。グロスビディングについての議論は英国型と北欧型があり、何れも透明性の向上が重要視されている。日本における旧一電によるグロスビディングについては、政府の専門会合で「出し惜しみと同様の効果を生じさせる危険性」、「情報遮断は行われていない」等、現状制度に問題点があることは認識されていた。

 次に市場行動に関し広域機関の見解は、発電部門が自社小売部門から独立した意思決定の上で実施することが望ましいと考えられるとある。市場支配力の監視について、米国NYISOでは市場支配力低減措置のケースについて物理的、経済的な出し惜しみ等を挙げている。NYISOでは市場支配力自動低減措置の効果のシミュレーション等が行われている。日本では市場支配力は、事後的に人間が監視するに留まっている。JEPXの発電情報公開システム(HJKS)と広域機関の最大供給力予想に差異が見られる。発電事業者がインサイダー情報をきちんと公開していないと言える。インバランス料金制度は2019年時点で2022年度に制度変更することが決まっていたが、この間に価格高騰問題が発生した。

 市場価格高騰問題の本質を纏める。直接的原因は気温でも太陽光でもなく、原発といえる。LNG在庫情報など海外で開示されている情報にアクセスしづらく、疑心暗鬼が発生しやすい状況がある。強い寡占状態で非対称競争下にあることも市場全体に大きな影響を与え易い。全面自由化から5年しか経っておらず、市場設計が未成熟である。今回のような不透明な状況が起こった時の対処法、市場が信用されなくなった場合、どう対処するかを考える必要がある。

pdf資料(安田)(2.08MB)

第2部 「電力市場改革について」

電力価格高騰と電力市場改革のあり方
 ~英・独の電力市場改革から学ぶ~

諸富徹

 本報告の問題意識を説明する。2020年末から21年初めの電力価格高騰が電力市場にもたらす教訓として以下が挙げられる。電力販売総量に占める新電力シェアは2割未満で卸電力市場への依存度が高く、価格高騰リスクに晒され易い。日本の卸電力市場はあらゆる点で非対称な市場構造だ。こうした現状では新電力の淘汰が進み、改革前の独占・寡占状態に回帰する恐れがある。電力市場も育成途上で、JEPXで取引される電力量は2020年に40%を超える水準となった。

 公正な競争を実現する視点で市場を育成する、という視点に立つならば、なすべきは「非対称規制」である。英独の規制当局が強調しているように、新規参入に対する障害を取り除き「完全競争」の条件が担保される必要がある。

 電力システム改革が未完であることを認識する必要がある。電力価格高騰は電力市場の競争環境整備で課題が残っていることを明らかにした。(1)東京・中部を除く電力会社が「発販一体」であるため、電力市場で特定プレイヤーが市場支配力を潜在的に行使できる「双方寡占」状態にある。(2)電力会社と新電力の間に「情報非対称性」が存在する。(3)市場監視(電力ガス監視等委員会)が機能したかどうか。

 電力市場改革の課題(短期)を考える。市場運用面ではサーキットブレーカー制度や値幅制限の導入を検討すべきである。情報基盤整備の面では「情報非対称性」問題の解消に努めるべきである。リスクヘッジ手段としての先物市場の活性化については、2020年9月に開設された電力先物取引市場が十分活用されてこなかった。

 電力市場改革の課題(中長期)は「インバランス問題」と「発販分離」が挙げられる。電力価格の高騰局面で、新電力は不足インバランスに陥る恐怖に駆られて高値掴みに走った。不足インバランスをどのように厳格に解消を求めるべきか。東京・中部は持ち株会社方式で、他は持ち株会社(発電・小売)の下に送配電が位置する。全電力会社が東電・中電方式とすべきではないか。

 市場支配力を巡る研究が複数ある。市場支配力の行使は、幾つかのピークの時間帯に統計的に顕著な形で検出可能である。英国ガス電力市場規制庁(Ofgem)は、卸電力市場がBig 6による市場支配力の行使に対し脆弱であるとの認識を持った。発電事業者に対する新規制、つまり、発電事業者の行動に対する事後精査と市場支配力乱用が明らかになった場合、罰金もしくは制裁の付与を想定した。買値と売値の差は、電力市場の方がガス市場より常に高く、市場流動性が小さく、脆弱な状態だ。そこで(1)強制オークション、(2)自己供給規制、(3)短期市場の形成という対策オプションが検討された。具体的には「Secure & Promotion(S&P)」を行い、小規模小売事業者からの小口取引に応じるように義務付けた。ライセンス制による規制対象者はBig 6と大手発電事業者となった。S&Pの導入以来、幾つかの指標で市場の流動性は改善されたが、Ofgemは規制を中断した。今回は英国の規制の是非ではなく、規制当局が手を打った点、日本では何も対応されていない点に問題があるという問題提起で終える。

pdf資料(諸富)(1,003.18KB)

調整市場が電力システムの安定性に果たす役割:Nord Poolを事例に

東愛子

 本研究の問いは、Nord Poolで、大量の変動再エネ(以下RE)を市場に接続することに成功しているが、REの変動含めた需給調整は市場でどのように行われているのか。今回特に着目するのは、TSOが唯一のバイヤーとなる調整力を確保する市場(Regulating Power Market:RPM)が電力システムの中でどのような役割を果たしているのか、市場データを用い定量的に示す。

 Nord Poolの場合、NOIS(RPM)が、当日市場が終わった後、実働1時間前から45分前の15分間に開設され、RE事業者含め誰でも入札することができる。

 今回、Nord Poolを対象として、特にデンマーク、風力が沢山入っているが水力がない特殊な国の西(DK1)からみて、どのように調整が行われているかに焦点を当てた。デンマークは西(DK1)と東(DK2)に分かれており、その間は600MWの連係で繋がっている。風力が5,000MW(2017年時点)で、Demandが最大6,000MW強(大体北海道の規模)である。Nord Poolは連係線で他国と繋がり、DK1はノルウェー(水力が95%)、スウェーデンと繋がっている。DK1エリアは5.5GW、DK2エリアは3.5GWの連係が各々ある。

 Nord Pool全体の取引量は東電レベルで、デンマークが占める割合は約1割。2020-21年の風力は平均1.5GW(DK1エリア)、最大4GW、最大の電力需要が6GWのため、3/4が風力で賄われている。

 Elspot(システム)価格は、Nord Pool地域全体での取引は需要と供給の交点クロスで決まる。システム価格の平均が23 Euro(2019年7月~2021年4月の平均)で、これに比べDK1と2が高めに出る。DK1と繋がっているノルウェーエリアはシステム価格とほぼシンクロする。従い、本分析ではノルウェーとデンマークDK1エリアで価格乖離が市場で起こっていない場合と起こっている場合、調整がどのように行われているのか区別する。

 DK1とノルウェーで価格乖離が起こっていない場合は24%程度で、ドイツ、DK2と価格が同じエリアが全体の65%程度あり、DK1がどことも繋がっていないのが全体の9%程度ある。

 ここからが本題に入る。RPMの価格形成は、前日市場が終わった後、価格を入札していく。全ての必要とされるインバランス、つまりTSOがどれ位の調整力が必要かを決め、そことの価格の交点でRPMの価格が決まる。TSOが上げの電力が必要な場合、前日市場より高い価格で買われ、RPMが買われる。TSOが発電の引き下げが必要な場合、前日市場より安い価格がつく。どの時間もUPかDOWNかどちらかの価格しかつかない。RPMは、皆が調整力を売る市場であるため、事業者にはメリットがある。Downward調整エネルギーが必要な場合、RPMでTSOから発電を買い戻せばよい。システム全体でUpwardが必要な場合、事業者はTSOに追加的な発電を売ればよい。

 結論としては、Nord PoolのRPMに入札を行うことによって、事業者は追加的な利益を得る機会を得ており、これが調整力への入札インセンティブになっている。調整力への入札は、前日市場約定量の1/3-1/4に及ぶ。特に、発電買戻しも含めたDown regulationへの入札は規模が大きい(全体の40%)。但し、Nord Poolにおける調整コストは、前日市場の価格分断の有無によって大きく左右される。水力源を持つノルウェーと価格分断がある場合、特にUp-regulationの平均価格は高くなる。今後は需要家側がどのように反応するかを分析できればと考える。

 日本はドイツ型を採用すると思われるが、ドイツでは事前に調整に入札した事業者は前日に取引できなくなり、行動が制限される(当日市場で調整が活発に行われている)。デンマーク、ノルウェーのように誰でも入札できるようにしておけば、調整力の幅を持たせられるだろう。

pdf資料(東)(9.29MB)

1.主催

京都大学再生可能エネルギー経済学講座講座

2.開催日時

7月26日(月)17:00~20:00 <オンライン>
事前予約が必要です。
後記のURLからお申込みください。

3.プログラム

17:00-17:05(5分)諸富 徹(京都大学)挨拶

第1部「電力価格高騰問題について」

17:05-17:25(20分)三宅 成也(みんな電力株式会社)
   「電力価格高騰問題の振り返りと新電力のこれから」

17:25-17:45(20分)安田 陽(京都大学)
   「電力価格高騰問題の構造と本質的原因」

17:45-18:25(40分)ディスカッション
18:25-18:30(5分)休憩

第2部「電力市場改革について」

18:30-18:50(20分)諸富 徹(京都大学)
   「電力価格高騰と電力市場改革のあり方ーイギリス・ドイツの電力市場改革から学ぶ」

18:50-19:10(20分)東 愛子(尚絅学院大学)
   「デンマークにみる調整市場の役割(仮)」

19:10-19:50(40分)ディスカッション

pdf資料(杉本)(1.09MB)

19:50-20:00(10分)山家 公雄(京都大学)まとめ

pdf資料(山家)(1.59MB)

※終了時刻は若干前後する場合がございます。

4.参加定員

約300名様
※セミナーの録画および録音等はご遠慮いただいております。

5.参加費

無料
※事前のお申込みが必要です。

6.参加のお申込みについて

ご参加をご希望される場合は、下部URLよりお申込みいただきますようお願い申し上げます。

7.セミナー使用システムについて

ZOOMウェビナーを使用してのオンラインシンポジウムとなります。
事前にご登録やPCにシステムをダウンロードしてない場合でも、主催者側からお送りするURLにアクセスいただくことでご参加いただけます。
※ご質問はお受け付け致しません。視聴のみのご参加となります。
※スマートフォン・タブレットからはアプリをダウンロードしていただく必要がございます。
※通信料はご参加者さまご負担となりますので、Wi-Fi環境下でのご参加をおすすめします。

ご不明な点につきましては下記までお問合せください。

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京都大学大学院 経済学研究科再生可能エネルギー経済学講座
E-mail:ree.kyoto.u@gmail.com
HP: http://www.econ.kyoto-u.ac.jp/renewable_energy/stage2/top/
〒606-8501 京都市左京区吉田本町
TEL:075-753-3474
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