Research Project on Renewable Energy Economics, Kyoto University

京都大学経済学研究科

再生可能エネルギー経済学講座

本講座(第2期)は、2024年3月31日をもって終了いたしました。

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2022年1月31日(月)部門A研究会 議事録

2022年1月31日
於:Zoom会議室(オンライン)

 1月31日(月)17時から20時30分まで、第2期再生可能エネルギー経済学講座部門A研究会がオンラインで開催されました。今回の研究会では、ENEOS株式会社の阪本周一氏と京都大学の山家公雄先生から講演を頂き、パネリストの方々との議論が行われました。

電力小売を巡る最近の動向と課題
~変動再エネ大量導入との折り合い~

阪本周一

 電力小売を巡る最近の動向と課題について話したい。全体図として業界の規制の図を表した。(1)再エネ拡大、カーボンニュートラル志向、(2)安定供給志向、(3)競争活性化志向の3つの軸があり、(3)は劣後になりつつあるが、現在(1)と(2)がせめぎ合っている。再エネ拡大に伴い、火力の抑制、非効率石炭火力のフェードアウト、系統アクセスルールの変更、非化石価値市場の推進等の取り組みがある一方で、停電を回避するため、同時同量達成の課題がある。再エネ拡大が進み過ぎ、市場・インバランスの価格が高騰し、小売としては同時同量達成が困難である。これと別に安定供給志向の制度として、容量市場、インバランス料金制度の厳格化、小売供給力確保義務等への対応が難しい。色々な所で投資回収予見可能性が低下しており、小売充当価格の設定が困難で、逆ザヤになりそうな状況である。小売が疲弊しており、競争できる状況にない。上述の3つの軸が上手く回っていない。

 現行制度では、小売には供給力確保義務があるが、発電事業者にはない。新電力の多くは自分の発電所を持たず、市場調達に依存せざるを得ないが、市場に出てくる電源を把握できない。JEPXの場合、ブラインドシングルプライスオークションのため、売り札状況を認識できず、当て推量で入札せざるを得ない。売り玉がないと、JEPXで再三買い上がり現象がある。約定の需給曲線をエリアごとに出す方向になっているが、これが不明なままだと、成り行き入札を止められない。これに対し発電事業者は、容量市場が発足するまでは発電するか否かは任意である。一方、再エネ優先給電の中で、火力を抑制することもある。発電者は、相対、市場、調整力、燃料転売で最も利益のいい値段で市場に出すようにふるまっている。結果として安定した量が市場に出てくるとは言い切れない状況である。小売は供給力確保義務があるものの、支払対象の中身が分からず調達する状況である。安定して発電できる設備維持のための資金還流の必要を私は認めてはいるが、一層の発電情報開示、穏やかな資金還流方法についての追加検討を要望している。

 2021年秋頃から需給不安が払拭されないことは分かっていた。急速な再エネの大量導入、限界費用入札の強制で火力退出が促進され、需要期の市場価格が高騰していると考えられる。この状況下、小売にはインバランス・リスクがあり、変動再エネ直接取得に躊躇している。現在検討されている再エネ新規案件は大半がPVもしくは風力で、発電者は発電して終わりだが、小売は成型して安く顧客に提供するまでが責務である。問題はインバランスで、今後の高騰予測に鑑み、小売単独で吸収できるかを考えると、リスクが膨張する可能性がある。バランシンググループ(BG)単位で同時同量達成と再エネ大量導入の同時履行が難しくなっている。これを実現するために、小売が使えるように揚水稼働率(3%)の引き上げ、時間前市場の流動性の改善、蓄電池新設補助等がないと厳しい。2022年度以降のインバランス料金は、kWh余力率が3%未満の時間帯において、80円/kWhが適用されるため、普通にこの価格が出現しそうである。

 非化石価値は非常に変更の多い制度で、これを購入しても分配を変えるだけで、再エネ増には寄与しない。また、非化石価値を買うのは当時小売だけだったため、国民負担を下げると言いながら、それを小売に付け替えているだけにも見えた。対象になるのが、系統で取引される電気だけで、自家消費環境価値を検証しない。最終消費者は国ではなく小売が作成した証書しか入手できない。いろいろとバランスが悪いし、再エネ全分野をカバーもできていない。

 RE100は再エネ出自証明があれば主張でき、追加性を求めていない。つまり、証書を買ってくれば、RE100を名乗っても可能である。証書対応(0.3-0.6円/kWh)ではなく、生の再エネを持ってくるとすると、実発電力のCAPEXの考慮や維持管理費の負担等、インバランス・リスクを負うことになる。高難度の小売生変動再エネを受け入れるには、追加インセンティブ付与、同時同量義務対象外等のテコ入れが必要と思われる。

 今後の発電設備の新設については、IRRの確保や最終投資決定までするのが厳しい。小売をやっている会社の本業は電力ではないため、投資決定判断者が電力事業に必ずしも習熟していない。生産設備投資、企業買収と比較しても、投資回収期間が長期化し、制度変更リスク等もあり、経営判断が難しい。

 小売の視点からまとめる。これほど頻繁に市場で玉切れする国はない。玉切れすると、インバランスの管理は難しい。変動再エネ大量導入は、BG単位で消化するのは困難に思える。日本は調整力に乏しい国である。限定的なDRでkWhを先遣いするだけであり、またΔKW対策であり、kWh不足対策ではない。DRを切り札のようにもてはやすのどうかと思う。独占時代の同時同量では一電は揚水、石油を調整手段として保持し履行できたが、BGには揚水、石油がない。しかしインバランスで追い込まれるのである。

 非化石価値証書制度については再エネとして自家消費価値部分純増への小売の貢献度を評価するべきである。

 分散化志向と中央集権志向の両方の制度設計が並行して動いていて、将来の電気事業規制像が分かりにくい。

pdf資料(阪本)(1.73MB)

検証洋上風力入札
超低価格落札の理由と事業化・産業化実現の懸念

山家公雄

 最近、洋上風力の入札が終わったので、京都大学と山形県のアドバイザーの肩書で検証した結果を説明したい。2021年12月に、ラウンド1の入札結果が発表され、三菱商事グループが驚くべき低価格で総取りをした。

 今回の入札結果が驚きの低価格になった件は評価が分かれている。再エネ価格の低下は良いことだが、あまりの低さに事業実現性やサスティナビリティに懸念が生じている。評価については、「洋上風力の産業競争力強化に向けた官民協議会」の目的に照らして行うべきと考える。目的は、国内産業の育成、ローカルサプライチェーンの構築、早期かつ確実な事業実現、2030年に向かって確実なコストダウンの実現である。最初から低すぎると、この目的の実現が危ぶまれるという懸念を持っている。また、FITで入札しているため、FITの趣旨を確認すると、「FITとは特定の電源を目標市場規模にまで拡大するに際して誘導するための手法であり、将来価格の低減と将来市場の拡大が両立するものである」とされている。FITでやっているにもかかわらず、最初の一発で低コストの実現を目指してしまい、本当に国内の市場ができるのか。

 入札は、三菱グループが総取り(3事業2地区)という結果となったが、千葉と秋田で同時遂行という、日本では洋上風力事業は全く前例がないなかで、可能なのか。しかも運転開始時期が先行組より2、3年遅い。

 ラウンド1の洋上風力発電事業者選定結果(価格と事業実現性)を見ると、落札した事業者の三菱グループの名前は出ているが、他は番号のみで、公式には出ていない。番号の応札者については、ダイヤモンド社の推測がオンラインでは出ていたが、違和感はない。落札できなかった事業者のなかには、地元での調査(風況調査やボーリング調査)をしっかりやったと聞いているところがあり、それらは落札価格が結構高い。落札の上限価格は29円/kWhだが、それよりは安く、適正な価格だと考える。

 洋上風力に係る調達価格比較表(FIT制度下で実施)を見てみる。今回は、FIT制度の下での公募入札であり、調達価格等算定委員会で、上限額が29円/kWhと決定された。この根拠は、NEDOが2019年に調査した欧州コスト(12円)で、IRRはゼロである。これを前提に内外価格差(1.9倍)、日本でのみ生じる費用(接続など)を足し、IRRを10%(日本で開発した例がないため)としている。これらを積み上げた結果、29円/kWhとなった。12円は三菱グループの秋田県の由利本荘の11.99円/kWhとほぼ合致する。三菱商事グループの落札価格は、IRRがゼロとは考えられず、欧州コストを下回る水準のため、これが実現できるのか。

 NEDOの12円/kWhや上限価格の29円/kWhを、調達価格等算定委員会で議論した際、日本風力発電協会が、様々な観点から、条件が異なる欧州との単純比較は難しいという意見を出している。

 事業実現性に関する評価基準(120点満点)については、実績(30点)も勘案する得点構成になっている。価格の点数は変えようがないが、事業実現性の定性的な所は理解し難いところもある。例えば、風力発電開発事業の実績を見ると、上位10社のうち、1位から4位は落選している。洋上風力発電事業者シェア順位が欧州で1位のOrstedと組んでいた日風開・ユーラスが有力ではないかと考えていた。応札事業者の建設やメンテナンスのノウハウについては、日風開・ユーラスのメンテナンス力が高く、大学と連携し、事業に役立つような人材育成にも力を入れている。

 三菱商事は、10年以上前から欧州で洋上風力事業に取り組んできており、海底送電事業で基礎を築き、発電(主に権利取得と売却)にも領域を広げた。オランダのEneco社と戦略的提携・買収によりノウハウを取得している。超低価格が実現できるのは、リスクを低く想定し、楽観的な事業見通しによるものと推測されるが、IRRゼロの欧州コストは可能なのか。

 今次入札結果から浮上する危惧としては、まずは三菱グループは事業を遂行できるのか。現実から乖離した低価格はサスティナブルか疑問であり、利益は出るのか、産業化阻害の懸念があり、国家戦略「洋上風力ビジョン」、エネ基目標実現への懸念もある。先行組に比べ、運転開始時期が2、3年遅れていることも懸念される。現状、全国22区域で洋上風力に関心・期待があり、ラウンド1の情勢を注視し、今次選定結果に衝撃を受けているところも多い。

 提言としては、洋上官民協議会の目的とFIT制度の目的を再確認し、ラウンド1の入札の再評価をし、ラウンド2の入札基準を早急に見直し(価格偏重の是正)、評価を透明化すべきと考える。

pdf資料(山家)(5.04MB)