Research Project on Renewable Energy Economics, Kyoto University

京都大学経済学研究科

再生可能エネルギー経済学講座

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No.121 福島原発事故の処理、廃炉は何年かかる?
40年前の米TMI事故炉の廃炉も未着手

2019年4月4日
エネルギー戦略研究所シニアフェロー 竹内敬二

 福島第一原発事故の8周年が過ぎ、廃炉処理に何年かかるのか、費用はどこまで高騰するのかが改めて問題になっている。政府と東電は、廃炉作業は30~40年で完了し、事故の総費用は21.5兆円(廃炉には8兆円)との数字を示しているが、このほど民間シンクタンクが「35兆円から81兆円」という大きな数字を出した。より多くかかるとした主な理由は、見通しのつかない汚染水処理だ。

 過去の原発大事故をみると、40年前に起きた米スリーマイル島原発事故炉では廃炉作業は未着手であり、ウクライナ・チェルノブイリ原発事故(1986年)の処理には今後100年が必要ともいわれる。原発事故は、驚くほどの時間と費用がかかるケースが多い。

スリーマイル島原発、燃料を一部残し、廃炉未着手

 今年3月28日は、米国スリーマイル島(TMI)原発事故の40周年だった。原発の2次冷却系のトラブルで蒸気発生器に水を送る主給水ポンプが止まり、原子炉の冷却がしばらく止まった。炉心の核燃料の多くが崩壊し、一部が溶融した。圧力容器は破れなかったが、炉の下部には、折れて崩れ落ちた燃料が折り重なった。

 TMI事故は「多重防護で守られた原発では大事故は起きない」という安全神話を最初に砕いた事故だった。

 事故炉では、80年から除染作業が始まり、85年から炉内の燃料の取り出しが始まった。圧力容器の下部には燃料が溶融後に固まった堅い層があり、鉱山で岩石を砕くボーリング機を使ったが、機械の歯の破損が続くなど難渋を極めた。

 取り出し作業は一応90年に終えたが、燃料の一部は除去できていない。事故が起きた2号機とは別に、1号機は運転中だったため、廃炉処理は1号機の停止後に行うとして、そのままの状態で置かれている。

 その1号機は、赤字経営が続いていたが、今年9月に停止する予定で、その後、本格的な廃炉作業に入る。ただ今後、何らかの補助金などが受けられるようになれば、運転続行もありうるとされる。(表1)



チェルノブイリ、処理は「100年事業」

 チェルノブイリ原発事故では、炉心の屋根が吹っ飛んで(格納容器がない炉型)、溶融した炉心が大気に露呈し、大量の燃料が放出された。炉心周辺で火災が起き、消火作業などで30人近くが死亡した。主に急性放射線障害だった。

 事故後、多数の被爆者を出しながら、半年をかけて、コンクリートパネルなどで「石棺」と呼ばれる覆いが建設された。その石棺も老朽化したため、事故後30年の2016年、石棺をすっぽり覆うかまぼこ型の巨大なシェルター(1700億円)をEUが建設した。耐用年数は100年以上。今は、外から事故炉が全く見えない状態になっている。

 炉心には溶けて固まった大量の燃料が放置されている。今後は、時間をかけて放射性物質の処理方法を検討する。外部に取り出さず、その場で処理、保管する案も有力。時間が経てばそれだけ放射能も弱まることから、処理開始も送れることになりそうだ。「処理には100年かかるだろう」と言われている。

福島、汚染水が難題。「30~40年で完了」は疑問

 さて、福島第一原発。経済産業省による2013年12月の試算では、事故の総費用は総額11兆円(廃炉2兆円)だったが、3年後の16年12月の試算では総額21.5兆円(廃炉8兆円)に跳ね上がった。中でも廃炉の見積もりが、一気に4倍になった。それほどに予測が難しいことの裏返しでもある。(表2)



 東京電力は福島第一原発の廃炉に関する工程表をつくり、逐次改定している。その特徴は「30年から40年で廃炉が完了する」という「短さ」だ。完了時期は2040年代~50年代になる。

 主な工程としては、「使用済み燃料の取り出し」「燃料デブリの取り出し」「汚染水対策」「廃棄物対策」と並んでいるが、しかし、デブリの取り出し、汚染水の処理、廃棄物の最終処分などは見通しが立っていない。

 溶けた燃料が炉心の底にとどまっているのは、チェルノブイリ事故と似ている。大きく異なるのが、地下水だ。福島の原発3基の壊れた炉心は、地下水の流れの中にあり、常時汚染水を生み出している。

 福島では汚染地下水を減らす方策として、常に電気で氷の壁を維持する「凍土壁」が建設されたが、水の遮断性においては信頼性が低く、失敗と見られている。

 今年3月、民間シンクタンク「日本経済研究センター」が、事故の対応総費用は「35兆~81兆円にのぼる」という試算を公表した。大きな部分を占めるのが廃炉・汚染水処理などで最大51兆円とした。そのほか賠償で10兆円、除染で20兆円だった。

 今後、どんな処理方法を選ぶかによって、費用は大きく異なるとしている。「溶けた核燃料デブリを取り出さず、廃炉を当面見送って『閉じ込め・管理する』いわゆるチェルノブイリ方式だと、2050年までの総費用は35兆円になる。

 汚染水の処理や汚染土を最終的にどう処分するかを決めなければ、事故処理はどの程度の時間と費用がかかるかわからない。「30~40年で完了」は、事故直後に、当局が掲げた希望的な数字の意味合いが強い。

 日本経済研究センターは「デブリの全量回収は可能で被災者はいずれ全員帰還できる」という楽観シナリオだけでなく、悲観的なシナリオも含め、その根拠も含めて示すべき」と、現実性のある事故処理、廃炉シナリオで議論すべきとしている。

事故炉でなくても「100年事業」、英国の原子力施設

 英国は、ガス炉原発を約40基建設したが、多くが停止している。またウラン濃縮施設、途中まで開発した高速増殖炉など、20地点近くで廃炉作業が進んでいる。廃炉や除染を担う原子力廃止措置機関(NDA)は各地点の廃炉計画を作っているが、どの施設をみても、費用の大きさ、期間の長さに驚く。

 英国中西部にある原子力施設が集中しているセラフィールド地区が最難題だ。核兵器に使うプルトニウムを製造したパイル炉2基、旧型ガス炉4基などが廃炉作業中。昨年運転を終了した再処理工場ソープも廃炉になる。その終了時期は何と2120年、費用は235億ポンド(1ポンド150円で3.52兆円)にもなる。放射能を扱った施設の処理・廃炉には、事故がなくても膨大な時間と費用がかかることを示している。