Research Project on Renewable Energy Economics, Kyoto University

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京都大学経済学研究科

再生可能エネルギー経済学講座

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本講座で進める研究の具体的内容

 本HPの「代表からのご挨拶」でも概略を述べておりますように、本講座は「脱炭素」と「再エネを基軸とするエネルギー・システムへの大転換」を見据えた社会科学的な調査、分析、政策提言を実行してまいりたいと思っております。そのために、以下で具体的に説明させて頂きますように、講座の研究組織をテーマごとに【部門A】、【部門B】、【部門C】に分けた上で、月1回、京都大学で3つの研究部門メンバーが合同で開催する研究会で研究成果を相互に批判的に検討することを通じて、講座全体として統合的な知見を創出していくことを目指します。

 理論的研究だけでなく、実証研究(定量的研究)を重視します。エネルギー、環境、技術だけでなく、再エネを軸とする分散型エネルギー・システムに向けての社会変革プロセスに注目した社会科学的研究を行います。移行の技術的困難さを強調することに終始するのではなく、どうすれば移行が可能になるのか、移行が可能となる条件、あるいは望ましい政策は何か、を探求することに力点を置きます。

 本講座としては、主として日本の諸問題に焦点を当てますが、それに必要な限りで国際比較研究を実施し、Cambridge Econometrics、地球環境戦略研究機関(IGES)など、国内外の研究者/研究機関とも連携しつつ研究を進めていく方針です。また、地域と連携した研究を重視します。再生可能エネルギーが本質的に分散型電源であることから電力システムが近い将来、「集中型」から「分散型」に移行していくとの見通しの下、地域で様々なエネルギー・システムの発展が見込まれます。

 講座の研究成果は、出版、論文執筆、シンポジウム、メールマガジン等によって積極的に公表・発信していくことに致します。第2期では新たに、再エネ講座ディスカッション・ペーパー(DP)・シリーズの刊行を開始しました。講座の専門的な研究成果は、このDPを通じて第一報を発信していきます。

 本講座では将来、京都大学の学生たちに再エネへの関心を深めてもらい、将来的に再エネを担う人材を育成すべく、3科目の講義を提供しています(「地域主導の再生可能エネルギー事業とキャリア」(担当:諸富徹)、「エネルギー経済・政策論」、「エネルギー政策と再エネ事業」(以上担当:安田陽))。また、講座専任の若手研究者2名(特定講師)を雇用するほか、大学院生/ポスドク若手研究者を積極的に雇用し、講座の研究活動で活躍する場を提供することで、再エネの若手研究者の育成を目指しています。希望者には、Cambridge Econometrics との提携の下に、英国に派遣して分析手法(E3MEモデル)の教育訓練も実施することができます。

部門A

 【部門A】では、「電力セクターの脱炭素化(=再生可能エネルギーの大量導入)と市場化」をテーマとして、研究に取り組みます。本部門では、(1)再生可能エネルギー固定価格買取制度(FIT)や市場プレミアム制度(FIP)のような再エネ導入促進のための政策手段の分析、(2)電力システム改革、卸電力市場、容量市場、調整市場、非化石価値取引市場、ベースロード電源市場など、電力に関する市場の分析、そして、(3)電力系統の制約問題(送配電線や変電設備の容量)と最適な系統増強、系統運営のあり方、に焦点を当てています。

 とくに本部門では、経済学だけでなく、電気工学からのアプローチを踏まえた研究を推進します。その具体的なテーマを挙げれば、下記のようになります。

・制約条件を考慮に入れ、現行設備を前提とした短期における最小費用で再エネを最大限導入するための方策の解明および中長期的に再エネ比率を大幅に増やす上での制約条件の特定化
・シナリオ別での再エネ発電所や送電線投資の費用便益分析
・風力や太陽光発電の出力変化に適合した、電気自動車の充電時間のプログラムの考察
・スポット料金制を適用した、分散エネルギー資源の最適な導入量の導出
・電力市場のデータ分析に基づいた、構造改革および制度改革の影響評価
・電力市場を模擬したラボ実験を通した、新エネルギー技術の投資促進に有効な制度要件の解明

部門B

 【部門B】は、年4回の研究会を中心として、部門メンバー同士の研究交流と地域調査によって研究を進めます。その研究テーマは「分散型経済発展モデルの構築」であり、脱炭素化や再エネの大量導入が、分散型電力システムの構築に繋がり、それが地域活性化を実現する方途を見出すことを目的としています。そのためには、分散型電力システムの構築への地域社会経済の対応と、それが地域の経済発展に及ぼす影響を明らかにしなければなりません。

 本研究の核になるのは“Public Value”という概念と、「地域付加価値分析」という定量分析手法、そして“シュタットベルケ(公益事業体)”という存在です。Public Value理論からは分散型電力システムにおける地域のガバナンスのあり方やその成功要因の抽出を、シュタットベルケ研究からは事業主体の形成やその役割についての分析を、地域付加価値分析は定量的な地域経済の構造把握を可能にします。これら各種研究を、綿密な地域調査による実態解明の上に行うことによって、実証的に分散型経済発展モデルを構築することを目指しています。

部門C

 気候変動分野における歴史的な転換点と呼ばれるパリ協定では、世界の温室効果ガスの排出量は実質ゼロにするという「脱炭素化(decarbonization)」の目標を打ち出されました。しかしながら、経済成長を考慮した上で、現行対策ではこの目標を達成するのは極めて困難です。この問題を解決するために、脱炭素化を可能にする持続可能な経済発展経路を探る必要があります。しかも、それを実現するには社会経済システムをどう変革すべきかについても考える必要があります。

 【部門C】の目的は、日本が技術革新と産業構造転換により、脱炭素化を図りつつ経済成長を遂げる経路を見出すこと、それを誘導する適切な政策手段を設計する点にあります。

 その中でも第1班は英国の独立研究機関Cambridge Econometrics と協力して、E3ME-Asiaマクロ計量経済モデルを用い、脱炭素化が経済成長をもたらす可能性を定量的に評価します。

 第2班は第1班と連動しつつ、気候変動政策手段の導入が、産業構造転換やイノベーション誘発に与える影響を、ミクロ経済次元で実証分析します。

 そして第3班は、北米、欧州、中国・韓国、オーストラリア等のカーボンプライシング(CP)について、現地調査を通じて政治経済学的視点からその設計と動態を解明し、日本のCP設計のあり方を提言します。


 以上を通じて、本講座では「脱炭素化」と「再エネを基軸とするエネルギー・システムへの大転換」に向けて何が必要か、という点に関する知見をえられるものと期待しております。本講座に関心を持っていただいた皆様とも積極的に交流させて頂きながら、再エネ研究のさらな発展を目指してまいりたいと思います。

講座代表  諸富 徹