Research Project on Renewable Energy Economics, Kyoto University

京都大学経済学研究科

再生可能エネルギー経済学講座

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No.124 促進区域指定ダービー(裏読み再エネ海域利用法)

2019年4月25日
日本政策投資銀行 企業金融第5部 山口祐一郎

 世間は皐月賞も終わり、いよいよダービーに向けた本格検討が始まっているとこであるが、再生可能エネルギー関係者の間で最もホットな話題は再エネ海域利用法とそれに伴う促進区域指定ではないだろうか?

 このコラムを読んでいる皆様に対し、いまさら再エネ海洋利用法を解説する必要はないと思うが、念のため概略を示すと左図の通り。経済産業大臣、国土交通大臣による促進区域の指定がなされ、その上で当該促進区域に対し、公募により事業者が選定され、30年間の占用許可をもらい、事業実施というプロセスになっている。即ち促進区域の指定を受けないと、当該地域で洋上風力発電はいつまでたってもできないということだ。



 また、促進区域指定についても下図の通り、2段階ある。第1段階は有望な区域の選定であり、まずは都道府県からの推薦(情報提供)があり、推薦区域について第三者委員会の意見も踏まえて有望な区域がその中から選定される。そして有望な区域に対し、国による調査と並行して協議会で促進区域が議論され、最終的に第三者委員会の中で促進区域が決定するというプロセスを経る。



 すでに、この第1段階は始まっており、3月8日に都道府県からの情報収集が実質的に締め切られている1ことを考えると、早ければ今年の秋には促進区域の指定がなされるはずだ。

 さて、せっかくなので、どこが指定されるか予想してみたい。といってもこれは競馬のように簡単ではない。そもそも何区域指定されるかも現状公表されていないからだ。ということで、まずは指定区域数の予想から始めてみる。

 予想のポイントは、2030年度までに運転開始されている区域を5区域とするというKPI(Key Performance Indicator(重要業績評価指標))である。政府は様々な場所でこのKPIはキャップではないといっているため、これを上限と考える必要は当然ないが、他方でMETI、MLIT合同の洋上風力促進ワーキンググループ(以後「洋上WG」)では、「建設が一時期に集中すると最終的にコストに跳ね返るため、計画的な導入が必要」としており、この数字をある程度は目安としつつ、段階的に導入されるものと考えるのが無難だろう。

 仮に促進区域がこの秋に指定されるとすると、事業者の選定は2020年の秋頃となり、環境アセスに4~5年、建設に2~3年かかるとすれば、運転開始は2026年~2028年ということとなる。KPIはキャップではない一方で、達成できないわけにはいかないことを考えると、毎年2~3区域指定していくと、無理なく2030年に5区域以上の運転開始を迎えられるという計算になる。この前提に立ち、さらに初年度は注目も大きいことを踏まえると2019年秋には3区域が指定されるとまずは予想したい。

 次に、「どこが」指定されるかということだが、現時点でどこが有望な区域として選定されたかもわかっていないため、これも少々難しい。ただ、洋上WGにおいて、「港湾を数案件で有効利用することがコスト削減につながる」としていたことから、特定の地域(都道府県)に集中することなく、指定区域は分散されると予想できる。1つの港湾を複数案件で有効活用するためには、案件毎に開発ステージが異なっていないとうまく有効活用できないはずだというのが理由である。

 となると、あとはどの都道府県の区域が指定されるかということになる。これは意外に簡単。洋上WGでも提示されていたが、環境アセス手続き中の一般海域の案件は青森県5区域、秋田県3区域、山口県1区域、長崎県2区域しかない。さらに洋上WGでは、区域指定における「出力の量が相当程度に達すると見込まれること」の確認の視点として、「欧州主要国においてこれまでに設置又は入札にかけられた洋上風力発電1区域当たりの平均出力は約35万kW。これまでの陸上風力発電におけるコストデータを分析すると3万kW以上の案件についてより低い資本費で事業が実施できている。」としており、この視点にある程度合致する案件を持つ都道府県を抽出すると、青森県、秋田県、長崎県しかない。 



 もちろん、現在環境アセス手続き未済の案件が、第4コーナーから大外一気の差し足をみせる可能性は十分にある。しかしながら、そもそも有望な区域の選定プロセス段階で、都道府県が情報提供するためには、アセスがある程度進んでいないと都道府県サイドに情報がなく困難ではないか、と予想屋としては考えざるを得ない。

 本命予想でつまらないかもしれないが、順調に行けば、秋には結果が公表される。洋上風力発電はわが国にとって、予見可能な将来の中で、自立した主力電源になり得る唯一の再生可能エネルギー電源だと思っている。その一方で、洋上風力発電は事業規模が大きく、地元産業を含む地域への経済波及効果も相当大きくなると予想され、そのような場合に、「非合理的」「非論理的」な理由で指定がなされることは、歴史上ままあったことである。予想が外れるのは構わないが、促進区域の指定プロセスの中で、そのような「力」が働かないことを願って止まない。