Research Project on Renewable Energy Economics, Kyoto University

京都大学経済学研究科

再生可能エネルギー経済学講座

本講座(第2期)は、2024年3月31日をもって終了いたしました。

TOP > コラム一覧 > No.135 太陽光発電と蓄電池で再生可能エネルギーをシェアリングするVPP

No.135 太陽光発電と蓄電池で再生可能エネルギーをシェアリングするVPP

2019年7月11日
京都大学大学院経済学研究科特定講師 中山琢夫

はじめに

 2009年にはじまった、家庭用太陽光発電の余剰電力買取制度の10年間の固定価格買取(FIT)期間を満了し、2019年11月からは、いよいよ卒FIT電源が世に出始める。6月末には卒FIT電気の大手電力会社の余剰電力買取価格が出揃い、さらに新電力も加わることで、卒FIT電力の争奪戦、卒FIT商戦が本格化すると言われている。

 卒FIT電気は、こうした大手電力会社や新電力に余剰売電することが容易ではあるが、その売電単価(円/kWh)は、家計をはじめとする低圧需要家が購入する買電単価よりも大幅に安い。そうすると、発電(余剰売電)もするし、足りない分は買電もする卒FITのプロシューマーとしては、自家消費をより大きくしたいというインセンティブが働く。

 現時点では、蓄電池システムの価格それ自体は、すべての人々に手が届くほど十分に安価であるとは言いにくい。それは日本だけでなく、ドイツにおいても同様である。ただし、ドイツに拠点を置くsonnen社は、ユニークな取り組みを行っている。同社は蓄電池のプロバイダーであるが、同社の蓄電池を購入した人向けに、バーチャルなコミュニティサービスを提供する。このコミュニティの参加メンバーは、太陽光発電と蓄電池の電力をシェアリングすることで、手頃な価格で100%再生可能エネルギーを入手することができる。

太陽光発電・蓄電池コミュニティと電力シェアリング

 2010年、ベンチャー企業としてバイエルン州ヴィルドポルツリートに設立されたsonnen社は、太陽光発電による自家消費比率を最大化する遠隔制御システムを内蔵した蓄電池プロバイダーである。2017年の時点ですでに約17,000台のシステムを販売し、月間1,000台のペースで販売台数を拡大しているという。ドイツ国内全土に同社のバッテリーが設置されている(図1)だけでなく、アメリカ、イタリア、オーストリアなどでも事業展開している。



 同社の太陽光蓄電池システムを購入した顧客が加入できるsonnenCommunityは、太陽光発電・蓄電池の余剰電力をバーチャルにシェアするコミュニティである。世界最大のこの電力シェアリングプラットフォームでは、カーシェアリングと同様の発想法で電力シェリングを実現している。このコミュニティでは、ほとんどの場合月額19.99€の固定額で、コミュニティ内部からバーチャルに融通されたクリーンな電力を入手することができる。

 同社がとくに重要視しているのは、手頃な値段でクリーンな電力を提供することにある。そのため、最高品質の性能を持った、高価な太陽光蓄電池システムを提供している訳ではない。むしろ、遠隔制御を高度化し、新しいデジタル技術を駆使することで、高度に知的化された蓄電池システムを開発し、太陽光エネルギーを効率よく蓄え、シェアリングすることに重きを置いている。

 したがって、同社は世界最大の電力シェリングプラットフォームを構築しているものの、必ずしも蓄電池そのものの市場リーダーではない。単体は小規模ではあるものの、多数の分散型再生可能エネルギーからの電力をシェアリングすることで、環境に便益をもたらしインパクトを最小化するシステムを構築している。これは、150年間続いた大規模集中型発電からのパラダイムシフトを意味している。

 このコミュニティでは、大手電力会社の助けを借りることなく、多くのメンバー間で分散型の太陽光自家発電・蓄電池を知的に連携し、共有することによって、クリーンな分散型のコミュニティエネルギー供給が可能になることを示している。よりスマートに、かつ持続可能で透明性を高める今日のエネルギー供給のあり方を考え、実践していくことが、このコミュニティの目標となっている。

コミュニティの料金設定



 sonnen社の蓄電池を購入し、sonnenCommunityに加入したプロシューマー家計が契約できる代表的な料金メニューは、表1に示されている。例えば、所帯がさほど大きくなく、消費電力が少ない家計向けには、sonnenFlat 4250が推奨される。このプランでは、年間4,250kWhまでの電力を消費することができる。家計がコミュニティに支払う料金は、毎月19.99€のみである。もし、このプランの契約量(4,250kWh/年)を超えて電力を使用した場合には、kWhあたり23セントの追加料金を支払えばよい。この料金は、通常電力会社から購入する買電価格よりも安い。

 コミュニティ参加の前提となる太陽光発電システムや蓄電池システムにも要件が設定されている。例えばこの4,250kWh契約では、年間4,400kWh発電することが求められる。日照条件等地域特性によって実際の契約とは差が出るかもしれないが、そのためにはおおよそ5.5kWpの太陽光発電システムを屋根上に載せていればよい。また、このプランのために要求される蓄電池の最低容量は、7.5kWhである。日本における太陽光発電・蓄電池システムを勘案しても、それほど無理のあるスペックではない。

 太陽光蓄電地システムを設置したプロシューマーが、日常的に必要とされる作業はとくにない。オンラインで遠隔操作される、スマートメーターを備えた太陽光蓄電地システムは、バックグラウンドで発電量と消費量が認識されており、常に十分な電力がある状態で需給バランスが取られている。このコミュニティに加入するプロシューマーは、かつての電力会社から独立するとともに、以前の発電源から置き換えられるだけでなく、結果として電力会社と契約するよりも有利な価格を実現することができるという。

20年間の電気代シミュレーション

 この会社では、過去10年間の統計を基にした独自の試算から、電力料金、消費電力ともに将来増加すると考えている。この前提条件のもとで、プロシューマーらに蓄電池を導入することに対する以下4つのオプションを提示している。

 第一は、これまでの従来型電力事業者との契約に留まる、というオプションである。この場合、20年間で45,000€を電力会社グループに支払うことになる。ドイツの石炭フェーズアウトは2038年が予定されているので、それまではこうしたクリーンではない発電源が混ざったバルクの電力を購入することになる。

 第二は、太陽光発電システムのみに投資する、というオプションである。この場合、自宅の発電量から需要量の25%を自家消費することができる。一般的に、太陽光発電は誰も家にいない昼間に多く発電するため、家計の自家消費のためには太陽光発電を効率的には使えない。したがって、足りない分の電力を購入するために、電力会社に20年間で総額34,000€支払うことになる。

 第三は、太陽光発電だけではなく蓄電池システムに投資する、というオプションである。その結果、自宅で発電した電力によって、平均的に約65%の電力を自家消費することができる。つまり、同社の太陽光蓄電池システムは、単独の家計だけでは完全自家消費できないことが示唆されている。足りない分の電力を購入するために、電力会社に20年間で総額15,750€支払わなければならない。

 第四は、太陽光発電と蓄電池システムに投資し、さらにコミュニティに参画してシェアリングする、というオプションである。太陽光発電・蓄電由来の電力をコミュニティで共有し、固定料金(例:19.99€/月)を支払ってシェアリングする。通常の消費量に相当する電気代は、このタリフのみである。従来型電力会社とは独立した状態になり、電力会社に支払う電力はゼロになる。

まとめ

 同社における太陽光発電・蓄電池ビジネスは、バーチャルなコミュニティを設けて電力をデジタルにシェアリングすることで、プロシューマーにとって導入インセンティブを与えることができる、バーチャル発電所(VPP)ビジネスモデルと位置づけることができる。現在の世界の蓄電池システム価格は決して安いものではない。同社の蓄電池は手頃なスペックを提供しているとはいえ、世界的な標準価格と同等のものだと考えてよい。

 ベンチャー企業として設立され、ヨーロッパにおいてこの分野で最も成功したとも言われるsonnen社は、2019年2月、イギリス・オランダ資本の石油メジャー、ロイヤル・ダッチ・シェルの100%子会社となった。世界的な脱炭素化のトレンドの中、石油メジャーがプロシューマー向け太陽光蓄電地のベンチャー企業を買収したことは、時代の移り変わりを感じさせられる。sonnen社は現在、家庭用太陽光発電だけでなく、風力やバイオガス、大規模太陽光発電も新たなアセットとして募集を始めている。

 このロイヤル・ダッチ・シェル社はまた、日本の経済産業省からも小売電気事業者の登録を受け、卸電力取引所から調達した電気を、まずは事業者向けに販売し始めたと7/5の日本経済新聞社が報じた。同時に同社は、2月に買収したsonnenによって、日本における蓄電池の販売も検討しているという。

 日本でも卒FITだけでなく、太陽光発電の新規FITの調達価格の低下、そしてFIT制度自体の抜本的見直しなどが報道される中、自家消費やシェアリング、デジタル化、VPPなどの新しい構想によって、家庭用太陽光発電や蓄電池にとっても、本格的に新しい自立の道が模索され始める時期に差し掛かっているのかもしれない。それには、国内企業だけではなく、海外先進企業の進出も活発化しそうである。

(キーワード:太陽光発電、蓄電池、プロシューマー)