Research Project on Renewable Energy Economics, Kyoto University

京都大学経済学研究科

再生可能エネルギー経済学講座

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No.144 多様な形の電力購入契約
(PPA:Power Purchase Agreement)

2019年9月12日
京都大学大学院経済学研究科特定講師 中山琢夫

はじめに

 PPA(Power Purchase Agreement:電力購入契約)は、多くの場合、発電事業者と顧客(需要家グループ)との間の長期相対契約のことを指す。とりわけ今日注目されているのは、両当事者間で取引される再生可能エネルギー(再エネ)起源からのものであり、需要家グループのエネルギー需要を満たすために電力を購入するという、特定の契約である。

 よくあるPPAでは、再生可能エネルギー(再エネ)プロジェクトの資金調達のために重宝される。つまりPPAによって、新しい再エネ開発が可能になる。電力購入者は、100%再生可能エネルギー由来の電力あるいは電力証書を、比較的低価格で購入することに魅力を感じている。多くの場合、PPAではディベロッパの収益の安全性を確保するため、10年ないしはそれ以上の期間で固定される。

 一方、既存の再エネ発電所において、法定のFITが期限切れとなった場合にも、PPAは発電所の運転に対するフォローアップ資金を確保するための手法となっている。これには、メンテナンスやリースなどの運用コストが含まれる。

PPAと再生可能エネルギーファイナンス

 アメリカをはじめとする一部の国では、PPAはすでに、再エネ発電所の建設(投資コスト)および運用コストの資金調達に使用されている。電力供給の一定量を再エネで賄いたい国では、とくにPPAは重宝される。PPAは、再エネ拡大や補助金をためらう地域においても、代替的な機会となっている。

 PPAでは、発電事業者と、需要会社あるいは電力トレーダーとの間の2者間で、相対契約を結ぶ。発電者の相手が、消費会社の場合はコーポレートPPA、電力トレーダーの場合はマーチャントPPAと呼ばれている。電力トレーダーは、特定の電力消費者に電力を供給する(コーポレートPPAに入れ戻す)こともできるし、卸電力取引所で電力取引をすることもできる。

 No.133(山家)のグーグルの代表例に見られるように、多くの国際企業は、すでに消費電力の一部または大部分をPPAで購入しており、PPAによって、安定的かつ計算しやすい電力価格を手に入れているという。一方PPAは、初期投資額が高く運用コストの低いPVや風力発電事業者にとって、電力価格のリスクを低減する効果的な手法となっている。電力支払い価格はPPAによってある程度確保されるため、発電事業者や銀行は、売電益が実際に投資費用を賄えると確信することができる。このことで、長期的なプロジェクトの収益性を高めることができる。

PPAのタイプ

 PPAは、可能性が広範であり、実践的な契約上の取り決めもまた、国や地域の制度によって広範囲に渡るため、一概に定義することは困難であるが、ここではそのタイプを大まかに分類してみたい。

 まず、フィジカル(Physical)PPAが挙げられる。フィジカルPPAに共通するのは、固定量の電力がPPAによって販売・供給されることである。これらは大きくわけて、オンサイト・オフサイト・スリーブド(バーチャル)の3つのタイプがあるが、その大きな違いは電力の供給方法である。

オンサイトPPA

 オンサイトPPAでは、発電と需要が物理的に近接した状態で、電力の直接的・物理的供給を行う。発電設備が需要家の計量地点の後ろにある(ビハインド・ザ・メーター)ようなケースである。系統運用者は、余剰電力を系統に供給できる範囲で関与する。この場合、発電量は直接需要家の消費を削減するため、コーポレートPPAということもできる。

オフサイトPPA

 一方オフサイトPPAでは、発電と需要が物理的に近接していない状態で、電力の直接的・物理的な電力供給を構成していない。オンサイトPPAとは対照的に、発電された電気は公共の系統を通じて需要家に届けられる。そのため、発電と消費はバランシンググループによる決済が必要になる。発電所は最適な配置、または既存の発電所を選択できるようになるため、柔軟性が向上する。

スリーブドPPA

 スリーブド(Sleeved)PPAは、エネルギーサービスプロバイダー(ESP)が様々な処理を実行し、発電所と需要家の間で仲介者として機能するオフサイトPPAの一つである。ESPは、グループ間のバランス管理、発電ポートフォリオの集約、余剰電力の販売、系統流入予測、グリーン証書マーケティング、リスク管理などのサービスを提供する。

 このほか、シンセティック(Synthetic)PPA、もしくは、バーチャル(Virtual)PPAと呼ばれる形態もある。シンセティックPPA(SPPA)では、電気の物理的な流れと金融の流れとを切り離す。このことで、契約上の取り決めの柔軟性がさらに高まる。SPPAの場合、発電者と需要家は、原則的にkWhあたりの価格によって契約する。それぞれの小さな発電所や大規模需要家をアグリゲートする発電ESPは、発電された電気をBGに取り込んでバランスを取った上で取引する。

 需要家へのエネルギー供給者(自治体電力等DSOも参入可能)は、需要家PPAパートナーに代わって、発電・フィードイン情報を正確に調達しながら、BGに追加的な電力調達が必要な場合には、スポット市場などから電力を調達する。

PPAの利点

 PPAの利点としては、長期的な価格保証、新しい再エネ発電容量への投資資金調達チャンス、電力の販売と購入に関するリスクの削減が挙げられる。さらに、どこで発電されたか、といった地域特性の証書を備えた、物理的な電力供給の可能性も高くなる。顧客は、こうした機会によって、持続可能かつ環境親和的なブランドを活用することができる。

 契約書の裾野も広い。それぞれの発電者と需要家の好みを反映するのに大きな余裕をもたらす。それは価格設定においても適用可能である。それそれのPPAは、固定価格で契約することも可能であるし、市場連動型でそのリスクとチャンスに発電者と需要家が参加するように設計することも可能である。

PPAの欠点

 とはいえ、PPAは複雑な契約となる。多くの場合、結論を出すのに多くの時間と交渉が必要となってくる。また、PPAの長期的な性質は、価格の変動が一方の当事者にとって、最終的に不利になる可能性も残されている。また、PV、風力発電等の変動性電源は、発電量自体が変動する可能性がある。その場合、事前に合意された電力量が届けられない場合は、発電事業者は何らかの金銭的・物理的保証を提供するか、第三者に外部委託する必要性も生じてくる。

電力取引所によるクリアリングサービス

 このように、こうした長期のPPA契約には、さまざまリスクが伴う。多くのPPAは金融的に決済される。つまり、価格は発電者と電力需要家の間で固定されるが、実際に発電される電力はスポット市場で販売されることになる。このことは、価格リスクにつながる。

 欧州エネルギー取引所EEXは、価格と取引事業者間のリスクを軽減し、長期のキャッシュフローを確保するために、ヨーロッパのすべての主要な電力市場において、最大6年間の精算済み現金決済先物契約をすでに提供している。メンバーが、PPAのリスクの大部分をヘッジできるようにするために、EEXは現在、さらに期限切れリストを調査している。

 こうしてEEXをはじめとする取引所において取引することで、PPAヘッジの安全性と標準化が向上し、ヨーロッパのエネルギー転換を積極的にサポートするツールが提供される。これまでに商品化されている標準的なEEX電力先物を介して、長期的な価格リスクをヘッジすることにより、現在でもメンバーは6年先までの将来の価格変動のリスクをヘッジすることができるが、一方で、さらに10年以上のPPA契約を見越したクリアリングサービスを考案している。

 PPAにはさまざまな形態が考えられるが、とりわけコーポレートPPAにおいては、その実用化のために、こうした取引所によるPPAの標準化も,重要な意味を持つようになるだろう。

キーワード: PPA、長期相対契約、クリアリングサービス