Research Project on Renewable Energy Economics, Kyoto University

京都大学経済学研究科

再生可能エネルギー経済学講座

本講座(第2期)は、2024年3月31日をもって終了いたしました。

TOP > コラム一覧 > No.145 東電PGが年内に契約する画期的な系統接続方式

No.145 東電PGが年内に契約する画期的な系統接続方式
-系統増強ありきからの脱却-

2019年9月12日
京都大学大学院経済学研究科特任教授 山家公雄

 東京電力パワーグリッド株式会社(東電PG)は、8月9日に、千葉方面において送電線に接続を検討している事業者向けに、新たな接続方式とスケジュールに関する説明会を開催した。同地区には1600万kWもの接続申請があり、空容量ゼロの中で革新的な接続ルールが提示されていた。同社は、5月17日に、その概要を政府等と調整に入っていることをしていることを発表していたが、本コラムにおいても2回にわたり取り上げたところである(「No.138 東電PGが公表した新運用・接続方式への期待」)、(「No.136 フローベース(実潮流)の送電管理・・・東電の試み」)。今回は、8月9日の説明資料を参考に、その合理性と当局の奇妙な対応について解説する。ワンセンテンスで要約すると「トヨタは1%しか稼働しない工場を建設するだろうか」となる。

1.8月9日東電PGの接続希望者向け説明会で判明した論点

 5月17日に概要を発表して8月9日の事業者への説明に至るまで、2カ月半経過した。国や電力広域的運営推進機関(OCCTO、以下広域機関)との調整に時間を要したことが窺われる。東電PGが予定するスケジュールは8月中の申請、11月末の事業意思回答、12月6日の契約締結である。

1%未満の出力抑制で再エネ500万kWが接続できる

 資料1は、東電PGが8月9日の説明会で示したものである。千葉方面には約1600万kWもの接続申し込みがあるが(うち約1000万kWは再エネ)、従来の方式だと空き容量ゼロで大規模な増強工事が必要となる。千葉方面は需要に比して発電力過多の地域であり、500kV新佐原線・新京葉線(以下、佐京連系)を通じて、電気を他のエリアへ送電する生産地である。実潮流シミュレーションの結果、佐京連系の運用容量を超えるのは再エネ500万kW追加で1%未満であり、その部分を出力抑制すれば直ちに接続可能となる。

資料1.東電方式適用後の想定潮流
資料1.東電方式適用後の想定潮流
(出所)東京電力パワーグリッド株式会社(8/9/2019)を一部加工

 前回コラムにて「500万kW新規接続で出力抑制は1%程度」と紹介したが、ヒアリングにて判明したものである。当資料ではそれが明示されている。また、1月から12月まで月毎の出力状況を示している。ここでは運用容量の超過が最も多い1月とピーク需要が生じる8月を示している。8月は意外と超過が少ないが、冬よりも夏の方が千葉方面の発電力に比して需要が大きいためと考えられる。

東電方式のポイント:実潮流試算、増強工事なしの出力抑制

 さて、東電PGが千葉方面の新規接続において試行される方式は、

最過酷断面ではなく時々刻々の実潮流シミュレーションを行い、送電線の容量を上回る時期、頻度、電力量(kWh)を把握する。
*上回る電力量(kWh)を抑制する負担と従来ルールにより増強工事を実施する場合の負担を比較し、前者の方が少ないと判断される場合は、増強工事よりも出力抑制を選択し、これを前提に接続プロセスに入る。

というものである。この2点において日本版コネクト&マネージと本質的に異なると考えられる。詳しくは本コラム第3項を参照されたい。

 これをどう評価するか。現行のコネクト&マネージ方式では空容量ゼロであり8年~13年と800億円~1300億円かけて増強投資が必要となる。東電方式だと1%以下の出力抑制で500万kWの再エネ事業が直ちに接続手続きに入ることができる。費用対効果分析を行うまでもなく、東電方式が優れていることが分かる。

2.広域機関が考案した「増強困難系統」という制約

 東電PGは、5月17日に新方式を公表ししたが、その前後から国および広域機関と調整を行っていたものと思われる。8月9日の説明資料を見ると、東電方式の「増強投資なし出力抑制付き接続」は「ノンファーム型接続の試行」であり、これが認められるのは「増強困難系統」に分類される場合となっている。これは広域機関の委員会資料を引いている(資料2)。

資料2.広域機関が整理する「ノンファーム型接続の試行」
資料2.広域機関が整理する「ノンファーム型接続の試行」
(出所)電力広域的運営推進機関 第40回広域系統整備委員会(4/18/2019)
(注)赤枠は筆者挿入

増強工事ありきの思想

 広域機関は、東電PG方式は、「日本版コネクト&マネージ」のなかの「ノンファーム型接続」でありその「試行」と位置付けている。また、「適用系統を「増強困難系統」に限定したうえで」「将来制度導入後はその制度に従う」とあり、あたかもフライングした問題多い方式に制約を課すような表現になっている。これは、この試行に対して様々な「条件」を付していることからも明らかである(字数の関係でここでは触れない)。国や広域機関は、「人口減少等で電力需要の減少が見込まれる中では、既存送電線の有効活用を前提にそれが困難である場合に限り増強投資を行う」という整理をしたうえで、「日本版コネクト&マネージ」を導入したはずである。いつから増強工事が基本で出力抑制は例外的というスタンスになったのだろうか。

恣意性が残る増強困難系統の解釈

 広域委員会は、8月5日の委員会にて増強困難系統の考え方を整理している(資料3)。

資料3.増強困難系統の分類
資料3.増強困難系統の分類
(出所)電力広域的運営推進機関 第42回広域系統整備委員会(8/5/2019)
(注)赤枠は筆者挿入

 要件は2つあり、要件①は将来にわたり費用対効果が見込めないと判断できるケース、要件②は工事の完工が極めて難しく、結果として現実性の乏しい又は著しく非合理的な増強が必要となるケースである。要件①は厳密化し、改修時に合わせて増強する場合は、コストはその増分費用になるので、費用対効果が上がるとして独立したケースとし判断留保(先送り)している。増強工事が地理的・物理的にできないとの厳格性、改修時という曖昧性を含んだ基準であり、しかも当面は個別に広域機関が判断するということである。増強工事ありきのニュアンスが強まったと感じる。

3.復習、日本の系統接続ルール

 ここで、日本の系統接続のルールについて復習する。コネクト&マネージにて緩和してきてはいるが、基本思想は変わっていないと考えられる。忙しい方は、本項は飛ばして「最後に」進まれたい。

先着優先:日本の系統接続ルールの基盤

 日本では、系統への接続が認められた発電設備はいつでも最大出力まで稼働できる、換言すれば送電線の容量オーバーが生じないように十分な尤度を維持する運用を行ってきた。これを新たに接続を申し込む際の可否を判断基準としてきた(先着優先ルール)。この考え方だと接続済みの「既存設備」と接続を申請する「新規設備」との間に著しい不公平性が生じることとなる。新しい技術である再エネは、国産、燃料不要、CO2フリー等のベネフィットが評価され「主力電源」に位置付けられ、FIT制度支援をも受け、多くの計画と多額の投資が必要となる。しかし、先着優先ルールにより送電線は計算上の空き容量は不足し、新規投資が滞る状況になった。

 そこで「日本版コネクト&マネージ」と称する規制緩和が行われ、ある程度空きが出現したものの、「大量導入」が実現するには程遠い状況である。①年間で最も流れる量が多くなる「最過酷」な断面で判断する、②出力抑制を前提とする接続は増強工事とセットである、③増強工事が基本で出力抑制は例外的というスタンス(2.項参照)等の前提が存在し続けるからである。

暫定接続ルール:増強工事実施が前提

 ②について少し敷衍すると、優先接続の世界では、空き容量ゼロの場合は、増強工事実施とその工事代負担を前提に接続が認められる。一定の地域で接続申込が増えて増強工事が大規模の場合は、複数の申込者が共同で負担する仕組みが考案され、これは「募集プロセス」として実施されている。工期が10年前後の長きに及びかつその間は発電設備を稼働できない(系統に給電できない)となれば、プロセスそのものの意義が損なわれる。そこで、工事完成までの間に混雑が生じる場合は出力抑制される、との前提付きで「暫定接続」が認められることになった。現在具体的な運用について広域機関にて検討中である。このように、現状では出力抑制を前提とする接続承認は暫定措置であり、増強工事実施とセットになっている。

N-1電制

 従来から事故時等の緊急事態では出力抑制が発動する取り決めになっている(接続契約に盛り込まれている)。この考え方に基づき「N-1電制」が発案された。これは緊急時用に待機している1回線を利用し、事故時等には出力抑制することを前提に運用容量をアップするものである。このアップされた運用容量を、1.項で説明した東電方式のような「コネクト&マネージ」で有効活用することで、さらなる「大量導入」を実現すべきである。

混雑管理:九州出力抑制は例外という考え方

 例外はある。昨年10月以降九州地方にて頻繁に出力抑制が行われているので、例外という感じはあまりしない。九州の場合は、送電線が混雑するから抑制が発動するのではなく、系統エリア全体の需要を供給が上回ると予想されるから抑制が発動される、という説明である。しかしながら、供給余剰は地域間連系線を通じて本州へ送電するので、実際には地域間連系線が混雑した時に出力抑制がなされる。供給余剰を送りきれない分を抑制する状況は千葉と同じであるが、混雑する送電線が地域間連系線か否かで対応が変わってしまっている。

混雑管理コストと設備増強負担を比較するのが費用対効果分析

 エリア全体が供給過剰になる、事故時で復旧が必要になる等の例外を除き、出力抑制はありえないとの考え方が接続に関してまだ生きているが、本来は、増強工事は、混雑管理という系統運用に要する費用が新たに建設する負担より大きくなる場合に、その意義が認められる。混雑管理には原因となる発電設備の出力を下げてそれをカバーする別の発電設備の出力を上げる「再給電」、そして混雑する送電線を境に市場を二つに分け、市場メカニズムで混雑管理を実施する「間接オークション」が代表的な手段である。

 海外ではまずは間接オークションにより原則市場メカニズムで対応し、系統事故時等、市場では対応できないケースは再給電で対応するのが一般的である。一方、日本では原因となるノンファーム電源の出力抑制で対応するとして議論が進められている。なお、いずれの場合においても、出力抑制のコストと増強投資の負担を比較して前者の方が大きいときに投資が計画されることになる。これは費用対効果分析を行うことと同義である。

終わりに

稼働率1%の設備投資を行うことは合理的でしょうか

 東電ルールが表に出てきてから急遽登場した観のある「(混雑管理は)増強投資が難しい場合」という考え方には、違和感がある。現存設備の有効活用は当たり前であり、混雑管理等それに要する費用が増強投資より大きい場合には時間と費用を負担してでも投資を行う、これは理解できる。「日本版コネクト&マネージ」を導入する際の理由も既存設備の有効活用であった。東電方式の普及(すなわち既存設備を有効活用した再エネの導入拡大)に難癖をつけているのではないかと勘繰ってしまう。増強投資に誘導し国民負担を増加させたいのか、既得権は保護した上で負担を開発事業者に押し付けることで再エネ普及を妨げたいのか、と思えてくる。

 今回の東電方式はシンプルで透明性がある。時々刻々の実潮流シミュレーションを行う、その結果試算される出力抑制等の混雑管理に要する費用が増強工事に要する費用よりも少なければ混雑管理実施を前提に接続を認めましょう、ということだけである。この千葉のケースは「稼働率が1%にも満たない設備投資をやるのですか、やりませんよね」ということである。このシンプルで合理的なルールが速やかに全国展開されることを強く期待する。

「増強困難系統」が都合よく使われる罠

 最後に、「増強困難系統」という言葉が一人歩きする懸念もある。もし電力会社が都合よく解釈すれば、当局から「増強困難系統」というお墨付きをもらったので、ノンファーム接続でお茶を濁して系統整備という本来業務を放棄してもよいということになりはしないだろうか? さらに、当局が「増強困難系統」と指定しなければ、これ以上ノンファーム接続は拡大しないことにもなりはしないだろうか? 考え過ぎかもしれないが、系統整備はしない、ノンファーム接続は拡大しないとなれば、再エネの大量導入は非常に困難になる。都合よく使われるような気がしてならない。これらを含めて最大限の関心をもって注視していきたい。

キーワード:東電パワーグリッド、実潮流試算、OCCTO、日本版コネクト&マネージ