Research Project on Renewable Energy Economics, Kyoto University

京都大学経済学研究科

再生可能エネルギー経済学講座

本講座(第2期)は、2024年3月31日をもって終了いたしました。

TOP > コラム一覧 > No.148 ドイツの市場プレミアムはどう機能するのか

No.148 ドイツの市場プレミアムはどう機能するのか

2019年10月10日
ドイツ在住エネルギー関連調査・通訳 西村健佑

 日本でも固定価格買取制度(FIT)の新規認定が一部終了し、市場プレミアム制度(MP: Market Premium)に移行するという議論が始まった。

 経産省資料によれば、MPにはいくつかの類型が存在する。基本的にはkWhに対してベースとなる指定価格が定められており、指定価格と卸価格の差額をプレミアムとして再エネ事業者に支給する仕組みである。固定型プレミアムとはプレミアムの額を常に一定するもので、変動型プレミアムとはプレミアムの額は変動するが受取額一定というものである。変動型プレミアムは電力販売をするが、発電事業者の収益はFITと変わらない。また、9月19日の「再生可能エネルギー主力電源化制度改革小委員会」で、これらの中間的な制度イメージが公表されたが、これがドイツの市場プレミアムと一番近い。

 それでは、経産省が参照しているドイツのMPとはどういったものなのか。その意図と仕組を解説する。

再エネ法における入札とプレミアム制度

 MPを説明する前に入札について少し触れる。ドイツでは入札制度とMPがほぼ同時期に導入されたが、制度としては相互に関連はない。

 ドイツでは現在太陽光と陸上風車の新設については750kW以上、バイオガスについては150kW以上に設備は入札への参加が義務付けられている。

 入札は、競争を導入して新規設備のkWhあたりの支援額を下げるための仕組みである。応札者は再エネ設備の運営のため、20年間にわたり発電設備から供給される電力1kWhに対して必要な対価を提示する。

 つまり、20年間健全に運営すれば儲けが出る水準という意味ではFITの買取価格と変わらないが、入札制度は①支援を受けられる再エネ電源の新規設置容量に上限を儲ける、②指定価格を発電事業者が自ら提示する点がFITと異なり、これによって買取単価の決定に競争を持ち込むことで支援額(=発電単価)を引き下げることが目的である。

 原則は提示価格の低い順からpay as bid方式で落札者が決まるが、立地等の条件で荷重調整を行うこともドイツの特徴だ。

 単価の引き下げと導入量の上限を定めることにより、新規設備が原因となる賦課金額上昇を管理することが可能になる。逆に言うと以前は発電事業者の選別ができず、導入量に関しては管理が効かなかった。

 ただし近年登場してきた電力購入契約(PPA)や自家消費のような支援なしの再エネ電源には導入抑制効果はない。支援なしの再エネ電源の乱開発を防ぐには土地利用計画等、別の法律の整備が必要である。

中間的な制度のドイツ式

 経産省の整理ではドイツ式は固定型と変動型プレミアムの中間にあたる。

 ドイツでは、設備ごとに指定価格(kWhあたりの支援額)が20年に渡り固定され、支援を受け取るためには発電事業者は再エネの電力を相対か卸電力市場で販売しなければならない(これを直接市場化:Direktvermarktungという)。プレミアムは指定価格と卸市場の平均価格の差額とされ、事業者は毎月の電力の実際の販売量に応じてプレミアムを受取っている。卸の平均価格は毎月のEPEXのスポットの1時間値の平均価格とし、kWhあたりのプレミアム額は毎月変わる。

 ドイツでは太陽光と風力については100kWより大きく750kW未満についてはFITと同様に国が指定価格を決めており、750kW以上の設備については入札で決めている(100kW以下は従前のFITを利用可能)。バイオマスは150kWより大きい設備は入札に参加する。

 FITとの違いは、卸価格が高い時間(電力が少ない時間)に販売するほど再エネ事業者の売上が大きくなり、低い時間ほど売上が少なくなる点である。さらに日本にない制度として卸市場でネガティブ価格がつくことがあり、6時間以上ネガティブ価格が連続する時間帯ではプレミアムも受け取ることができなくなるというものがある。

 例えば指定価格が8セント、卸価格の4月の平均が4セント、5月の平均が5セントとすると、4月と5月のプレミアムは各4セント、3セントである。このプレミアムを発電事業者は販売した電力量に応じて受け取ることができる。ただし、4月は風が強くネガティブ価格が6時間以上続く時間帯が2回あった場合、その時間帯に販売した電力はプレミアムを受け取ることはできないので、再エネ事業者であってもお金を支払って電力を引き取ってもらうことになる。

MPを最も活用できるのはバイオマス

 MPの目的は再エネ電源を市場に統合してゆくことである。賦課金の金額にも多少は影響するが、賦課金の金額を下げるだけなら入札が効果的である。

 「再エネを市場に統合する」には2つの意味があると考えられる。①卒FITや再エネ法の支援ない再エネに向け、再エネ事業者にも電力の需給バランスを見ながら取引をする経験を積ませる、②再エネを含む幅広い柔軟性を含めたプールという概念を事業者に身に着けさせる。これらはバーチャル発電所(VPP)を含めた電力市場のデジタル化のためにも重要である。

 ドイツの卸価格は風力の発電量と相関が強く、卸価格の高い時間に風力が多く発電することはない。逆に風車の発電量が多い時間は卸の価格が低いため、風力事業者が卸市場を見ずに売電を続けるとプレミアムを足しても指定価格に届かない時間が増え、初期投資すら回収できなくなる。そのため、燃料費ゼロの風力と太陽光であっても多少の調整は行う必要がある。

 一方でMPをより活用できるのがバイオマスである。バイオマスはガスタンクの容量を大きくすることで発電時間を調整することができる。例えばガスタンクの容量が4時間であれば最大4時間発電を抑えることができる。バイオマスのMPの支援基礎額が10セントとする(ドイツではバイオマスは発電だけでは採算が取れない金額に指定価格が設定されており、熱利用は義務である)。卸価格の安い時間帯は発電を控え、卸価格が高い時間に売電すれば1 kWhあたりの儲けが大きくなる。つまり柔軟性の高い電源ほど1 kWhあたりの売上があがるように設定している。

 さらに、ドイツ政府はバイオマス発電の柔軟性向上を促すため、バイオマス設備でガスタンクの容量を増設したり、2基目のコジェネ設備を導入したりする場合に柔軟性プレミアムを支給している。

 ガスタンク容量が4時間、8時間と大きくなるほど卸値が高い時間のみ発電することが可能となり、収益性が向上する。実際に柔軟性プレミアムを受け取った設備では年間のフル稼働時間が明らかに減っており、MPが機能していると言える。

MPの狙い

 ドイツの狙いは再エネを電力市場に統合する一方、電力市場を再エネに合わせて作り変えることである。再エネの発電コストを下げることは市場統合(支援無しで投資が進む)には重要だが、それは入札が担う役割である。MPの目的は、再エネを競争市場で取引することが電力のバランス調整につながる道筋を示すことである。

 市場取引は卸だけに限らない。VPPは再エネを取り込みつつ再エネ以外も混在するプールを形成し、そのプールでの収益最適化を目指す。プールの供給先は卸に限らず、調整電源市場もありうる。すでにドイツでは風力は調整電源での取引が一部認められている。風車であっても盲目的にMPの支援を受けるだけでなく、幅広いオプションから選択することで収益性の向上が図れるのである。

 このように電力市場を再エネ向けに作り変えるだけでなく、再エネ事業者にも取引の高い専門性を身につけて貰う必要がある。MPはそのための補助輪の役割を担うと考えればよいだろう。

 ドイツ式のMPを導入するにあたり重要なことが数点ある。1つが、MPは電力市場の制度改革と一体となって行うべきだということだ。変動型再エネをうまく扱える事業者ほど儲かるようにするには卸市場が柔軟でなくてはならない。そのためには卸市場のゲートクローズを実供給の直前に設定し、卸値のボラティリティもできる限り大きくしなければならない。また供給過剰時に再エネの売電量を抑えるにはネガティブ価格は有効に機能する。さらに、調整電源での再エネの活用も真剣に検討すべきだ。

 2つ目が長期的に再エネ業界の競争力向上に資する制度にすべきということだ。例えば柔軟性プレミアム等がMPで認められているのは、将来支援がなくなってもバイオマスが柔軟性をフル活用することで収益を上げることができるように訓練するためだ。

 また、再エネ発電事業者と電力取引事業者、取引に必要な情報を提供する事業者(天気予報会社等)の役割分担を明確にし、それぞれの専門性を高めることも重要だ。MPという補助輪が外れた時に業界がこけないよう、システムとしてのバランシング能力を鍛える事ができなければMP導入の意味はない。

 他にも色々な注意点があるが、日本がMPを導入するにあたって注意すべきと筆者が思う点は、MP導入の目的が賦課金抑制であってはならないということだ。賦課金抑制であればFITと入札の組み合わせで構わない。MPには賦課金抑制効果はあるが、それが目的ではない。ドイツでのバイオマスの事例のように必要に応じて増額や追加支援も必要となる。

 また、MPは電力市場改革の中に位置づけられるべきであり、再エネ法の中だけで議論してはならない。MP導入の目的は再エネ業界にプロ集団としての能力を向上してもらうことであり、例えばFIT特例1のような制度はMPでは廃止した方が良いと考える。他方で、電力市場の制度改革は化石燃料や原子力事業者よりも能力のある再エネ事業者が有利になるよう設計しなければならない。ネガティブ価格はその一例である。

 また、MPではバランシンググループ(BG)が重要な役割を果たすようになり、プールという概念が不可欠になる。BGが機能し、再エネ事業者がMPを受け取りながら電力の安定供給に貢献できるようにするには、分散型電源を大きなポートフォリオに組み込んでBG内で相殺することが有利になるよう、インバランス料金の改定も必要になるだろう。

 繰り返すがMPを電力市場改革と切り離し、再エネ法の枠内で賦課金抑制のためだけに導入するならば、ドイツ式は期待したような効果が上がらない可能性がある。再エネ法に定められた改定に合わせるために拙速な議論をするのではなく、ドイツのように数年かけて段階的に導入することが重要となるはずだ。

キーワード:市場プレミアム、直接市場化、ドイツ、市場統合、バランシンググループ