Research Project on Renewable Energy Economics, Kyoto University

京都大学経済学研究科

再生可能エネルギー経済学講座

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No.169 再エネ主力化対策の「短観」 肝心の支援策がネガティブ

2020年1月30日
京都大学大学院経済学研究科特任教授 山家公雄

 再エネ発電は世界的には、既に主力になっており、風力、太陽光を主にコストが急低下し既存技術と遜色のない水準となっている。日本でも、再エネの主力電源化の方向が打ち出されており、その実現のために支援策や課題解決策が議論されている。今回は、この対策の現状について、日銀短観的な視点で、ポシティブ、ネガティブの評価を試みる。

 IEA(国際エネルギ-機関)は、2040年までに増える発電容量の3/4は再エネだと予想している。欧州では、複数の大規模洋上風力事業が市場価格にて落札されている。太陽光も先進国だけでなくメキシコ、チリ、中東等で驚異的な低価格事業が登場している。最近では、中東での低コスト大規模ソーラー事業の開発が目立つ。丸紅は、2019年7月にUAEのアブダビ首長国にて運開した出力117万kW事業を統括したが、25年間の発電コストはkWh当り2.42セントである。同社は、今年に入りカタールにて出力80万kW事業建設に合意している。25年間の契約でコストはアブダビを下回る可能性があるとの報道がある。

再エネ主力電源化を実現する3つの対策

 こうしたなかで、日本も再エネ主力電源化を目指して、様々な課題解決を目指す対策が議論されている。筆者は、再エネ主力化が実現するための対策は3つあると考えている。一つは、再エネ事業が成り立つことを担保する支援策である。国産資源、CO2フリー、地域消費、防災等多くの価値をもつ再エネが普及することは、国益に適う。しかし、新技術であり、既存技術と遜色ない水準にコストが下がる迄は、政策支援が必要になる。欧州や日本では固定価格買い取り制(FIT)がその代表となる。

 残りの2つは自由化の環境整備であり、新しい技術である再エネにとっては必須条件となる。以下、解説する。まずはインフラである送電網のオープン化である。送電事業者の中立化、送電線利用の公平化が不可欠となる。再エネは新たな事業であり、インフラ部門が有する情報や系統運用ルールが既存事業者に有利で新規事業者に不利である場合は、競争にならず、再エネ投資が生じにくくなる。EUは送電線利用に関しては公平を超えて再エネ優先策を採っている。日本では、送配電会社の分離・中立化は2020年度から開始となる。また、先着優先の運用ルールの下で、既存電源が優位性を保っている。これを早急に解消していくことが肝になる。 

 次に、電力卸取引市場の整備である。電気事業が垂直統合型のときは、各発電設備の特徴は内部情報として把握でき、自ずと経済的な運用が可能であった。自由化時代になり、発電事業が競争になると、この経済性・効率性の判断は市場取引に委ねることになる。卸取引所は発電事業者と小売り事業者とが取引する場であり、透明性、非差別性、流動性、ガバナンス等を備えていることが絶対条件となる。そこで決まる取引は参加者の誰もが納得し、価格は指標性をもつ。

 しかし、発電設備、需要家数ともに圧倒的なボリュームをもつ既存事業者が、内部取引を優先し、市場を使わない・経由しない場合は、この卸市場は厚みに欠けることになる。その結果、競争力のある設備でも取引されないという懸念が生じる。一般に新規参入電源は高効率であり、再エネ電気は燃料費ゼロであることから、卸市場では優先的に取り引きされる。しかし、これが十分に機能しない懸念がある。この卸取引市場を厚みがあり、信頼できるものに育てることが肝要となる。

インフラの中立化は( ⇗ )

 さて、以上の3要件に関して、再エネ主力化を目指して打ち出されている対策や議論について、日銀短観よろしくポジテイブ、ナガティブの方向・ベクトルを評価してみる(絶対評価ではない)。まず、インフラの中立化であるが、先着優先ルールは残っており、利用できる送電線の容量に制約がある。この保守的ルールを緩める措置「日本版コネクト&マネージ」を実施し、空き容量を少しずつ捻出している。画期的なのは、東電パワーグリッド株式会社(東電PG)が考案・実施している運用である。これは、時々刻々の需給シミュレーションを行い、容量をオーバーする(混雑する)ときの出力抑制を条件に、直ちに接続手続きに入るというものである。また、出力抑制に要する費用が増強投資を行う費用に比べて高ければ、増強投資を行うことになる。これは、分り易く透明性がある。欧米型の運用に近く、周回遅れを一気に解消しうるルールとして、早急な全国普及が期待される。東電PGは一足先に分社化されているが、その意味でも2020年度に実施される送配電事業者の法的分離が期待される。

 電力インフラの新設・増強についても進展がある。再エネ電力を常時利用のためにエリア間を繋ぐ連系線を整備する場合は、所要コストを全国で負担する仕組みを導入する。また、エリア内送電線については、接続申し込みの都度空き具合や増強投資の要否を検討する方式から、インフラサービス供用側(送電会社、広域機関)が長期的なニーズを把握したうえで予め計画を策定する方式へ、の移行が決まっている。こうしたサービスを滞りなく提供しつつ送電事業の効率化を進めるために、ネットワーク利用(託送)料金制度の見直しも行われる。このような状況を勘案すると、インフラサイドの改革は着実に進められており、短観は右肩上がり(⇗)と評価する。

電力市場整備は( ⇒ )

 電力取引市場整備であるが、その中核は卸取引市場である。この全取引量に占める割合であるが、全面自由化前の数%から直近の3割まで上がってきている。大きな進展であり、関係者の努力を多としたい。ただし、既存電力会社に対して余剰電源の玉出し要請や内部取引の一部を取引所経由に移すグロスビディング等は、「やらされ感」を伴い「とりあえず対応」となっている可能性があり、額面通りには受け取り難い。

 また原子力・石炭を扱うベースロード市場、長期供給力を確保する容量市場、送電会社が卸市場クローズ後に使用する調整力を確保する需給調整市場、再エネ電力等の非化石価値を取引する非化石取引市場、の開設が、2020年前後で相次いで実施あるいは計画されている。これらは、日本独特であったり、参加者や価格設定に制約があったりする。また、その必要性や参加できる電源・リソース等の制度設計について十分に議論されたのか疑問なところもあり、評価は難しい。最大の懸念は、和製・官製の市場が多く創設されることにより、自由化の最重要ソフトインフラである卸取引所取引に縮小圧力が働くことである。市場設計の際に、随所に火力発電等の既存設備への配慮が窺われ、新旧電源の新陳代謝が滞ることも懸念材料である。以上より、電力取引市場の短観は横ばい(⇒)と評価する。

再エネ支援策「FIT見直し」は( ⇘ )

 最後に、「再エネ支援策」について、考察する。今回の焦点である。結論から言うと短観は下げ(⇘)である。昨年来FIT見直しの議論が行われ、12月12日に政府案が公表され、この1月24日にパブリックコメントが締め切られたところである。筆者は、昨年11月以降6回にわたり本コラムにてこの問題を考察してきた。太陽光、風力等価格競争力が見込まれるとされる「競争電源」は、小規模事業を除いてFITからFIPへ移行するとされたが、太陽光以外は普及・成熟しているとは言えず、時期尚早と考える。FIPは、市場価格による直接販売収入にプレミアムを付与するものである。

 競争電源以外の再エネは、地域活用電源に括られFIT継続となるが、自家消費、地域消費、防災への対応が認定条件とされた。条件次第だが、コスト増となるために投資が起こらない懸念がある。2020年から先行実施される低圧太陽光は、年間150万kWもの投資が消滅するとみられている。この考え方・整理自体がとても合理的とは思えない。また、競争と地域活用の定義が曖昧で、どちらにも分類されないものが多く存在するようにみえる。

 今後の詳細設計次第では見直される可能性もあるが、ここまで開発事業者、投資家を不安にさせる制度案も珍しい。前回も記したが、賦課金負担軽減および地域との軋轢ある太陽光対策が政策担当の思考の殆どを占め、再エネ主力化の大義が忘れられているように思える。政府案の抜本見直しを実施してほしいところであるが、それが無理ならばFIPの運用、地域活用要件等に関して、詳細設計にてリカバーすることを強く要望したい。ドイツのように当初はFITとFIP選択制から始めるのも現実的な解だ。

最後に

 2020年は電力システム改革仕上げの時期であり、FIT見直し案が確定する年でもある。再エネ主力化は支援策、インフラ中立化、取引市場整備が三位一体となって実現が見込まれる。FIT導入後太陽光を主に再エネは急速な普及を見たが、送電線容量不足が隘路になり、勢いを削がれた。直近は、インフラ運用・整備に進展がみられるが、FIT見直しが隘路になる懸念がある。トータルでバランスの取れた対応が再エネ主力化を実現に導くのである。

キーワード:再エネ主力化、FIT見直し、送電事業中立化、電力取引市場