Research Project on Renewable Energy Economics, Kyoto University

京都大学経済学研究科

再生可能エネルギー経済学講座

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No.175 米国における蓄電池投資の最新動向
~イノベーションの最前線から~

2020年3月5日
株式会社日本政策投資銀行
企業金融第5部兼ストラクチャードファイナンス部
調査役 荒木 宏文

1、はじめに

日本政策投資銀行は、日本のエネルギー市場の変革を金融面でリードすることを目指している。かつては、電力会社に対する長期の融資(デット)が主であったが、近年は、自由化が進む中、個別のプロジェクトに対する投資(エクイティ)に力を入れている。国内は勿論、海外でも、国内に知見を活用できる再エネ・ガス火力発電に対して、投資を行っている。

うち、米国のガス火力発電に対しては、2017年以降、4件の投資を行っている。これは、将来日本でも自由化が進むことを想定して、世界的に見て成熟した自由化市場であるPJM・NYISOにおいて、電源開発とファイナンスの知見を獲得することを目的としていた。4件の投資は、立地(PJM、NYISO)や開発段階(建設中、運転中)が分散されており、多様な知見を獲得できている。例えば、日本でも始まる容量市場を通じた投資回収についても、投資先における日々の議論等を通じて、経験を積んでいる。

このように、米国の投資は、中長期的に日本の電源開発とファイナンスに知見を活用する目的もある。このなかで、確立されつつあり、かつ将来日本で応用できる可能性がある分野として、蓄電池を挙げることができる。

蓄電池に関する和文のレポートのうち、投資の視点から、海外の先進的事例を紹介しているものはあまり見かけない。そこで、本稿は、金融機関の視点から、米国の蓄電池投資について概観することとしたい。学術的なものではないので、米国における投資を通じて、事業会社・金融機関から得られた情報を盛り込むことに力点を置いている。

2、なぜ米国の蓄電池か

なぜ蓄電池かという問は、詳述不要だろう。本コラムでも先生方が指摘されている通り、蓄電池には、再エネ導入に伴う電力需給の変動調整が期待されている。

なぜ米国かという問は、様々な説明が可能と思われるが、ここでは、①政策面で導入を後押ししている州があること、②個別プロジェクトで商業上採算が取れるようになっていること、を指摘したい。

①は、次章で、カリフォルニア州とニューヨーク州の事例を取り上げるが、両州では再エネ導入等に伴う系統不安定化を解消する手段の一つとして、蓄電池の導入を推進している。
再エネ普及や市場整備等の中途である日本とは段階が異なるものの、先進的な国・地域の政策の理解は、将来日本における政策を考える上でも役立つだろう。

②は、事業会社が自社のバランスシートで事業を行うだけでなく、個別プロジェクトでも商業上採算が取れるようになっている。これは、事業会社が自社のバランスシートを使わずに他社と共同投資する、又は金融機関が投資する、という段階であり、多様な資金調達が可能となる。多様な資金調達が可能になることで、資金を集めやすくなり、プロジェクトの数も増えてくる、という好循環となる。

このように、将来日本で参考にできるかもしれない政策がある、また個別プロジェクトへの投資が確立されつつある、という理由から、米国の蓄電池を取り上げる。

3、蓄電池投資の分類

ここまでは「なぜ蓄電池か」「なぜ米国か」を述べてきた。ここからは、投資を分類しながら、具体的な事例を紹介していく。

金融機関の立場からは、①Renewable + (再エネ併設)、②Standalone(蓄電池単体)に分類できる。②は、更に②(1) IFM(In Front of Meter)と、②(2) BTM(Behind The Meter)に分けられる。

他にも、EV向け蓄電池のリユースや、個別プロジェクト投資を越えて発電ポートフォリオに蓄電池を入れてマネタイズする発想もある。但し、ここでは、金融機関による投資対象となっている①、②に話を絞る。

なお、金融機関が投資対象とできる場合、融資を提供する観点からは、プロジェクトファイナンスとしてノンリコースローンを提供できることが多い。本稿は、投資対象として紹介するが、プロジェクトファイナンスにより融資する対象として見る場合にも共通するところは多い。

①Renewable +

再エネ併設型蓄電池。こちらは、国内でも商業運転を開始している事例もあり、イメージが湧きやすいかもしれない。日本政策投資銀行も、北海道道北地区の蓄電池(240MW / 720MWh)が併設された風力発電に対して、アレンジャーとして、プロジェクトファイナンスを組成している。再エネ(太陽光・風力)に蓄電池を併設することで、日照・風況に応じた発電量のボラティリティが緩和される。発電側に設置されるものであり、後述のStandaloneが系統側・消費者側に設置されることと対比される。

再エネの発電量に基づく収入が、プロジェクトの収入の多くを占め、蓄電池は補完的な位置づけである。従って、投資を検討するに当たり、再エネ投資を検討する際に近い観点で、収入構造やプロジェクト・ストラクチャーを検証する。金融機関にとって、投資をする立場でも、プロジェクトファイナンスにより融資する場合でも、馴染みがあるため、取り組みやすいと言える。米国でもRenewable +が先行する形で、蓄電池投資が登場している。本稿では深入りしないが、米国では、蓄電池が再エネ由来の電気を75%以上活用する場合はITC(Investment Tax Credit)と呼ばれる税控除を受けることが可能であり、連邦政府の政策により後押しされている。

②Standalone

Renewable + に比べると、馴染みが薄いかもしれない。蓄電池単体で、急速に充放電できる特性を利用して、系統向けや消費者向けにサービスを提供するものである。蓄電池単体で事業が成立するかは、収入や許認可という観点で、政策・規制の影響を強く受ける。

電気の使用量を計測するメーター(Meter)の前にあるか、後ろにあるか、という切り口で、2つに分類される。

②(1)IFM蓄電池

IFMは、In Front of Meterの略。消費者のメーターよりも前(系統側)に設置される。消費者の電力使用量には関わらず、系統向けにサービスを提供する。

具体例としては、PJMのRegulation Dのような需給調整市場から収入を得るプロジェクトや、NYISOのConsolidated Edisonのような送配電事業者との相対契約から収入を得るプロジェクトがある。

後者の、NYISOでConsolidated Edisonが2019年に実施した入札は、ホームページで資料が公開されている(2019 Bulk Energy Storage Request for Proposals)。同社は、4時間持続可能な蓄電池を300MW調達する義務が課されており、2019年の入札では最低5MWの規模で応札する必要がある。落札した蓄電池プロジェクトは、2020年6月までにConsolidated Edisonとの間で契約を結び、2022年12月までに商業運転を開始することとなっている。

ここで、一般論として、投資を考える際は、投資対象の収入構造・ビジネスモデルを理解することが出発点となる。収入構造の観点からは、前者は、市場取引による収入、金融機関が俗にマーチャント収入と呼ぶ収入を得ている。後者は、送配電事業者との相対契約による収入である。

金融機関が、蓄電池を投資対象として見る場合でも、プロジェクトファイナンスによる融資対象として見る場合でも、いずれの場合もも、相対契約による収入の方が、リスクは低い。従って、取り組みやすい。現に、プロジェクトファイナンスが組成された実績が多いのは、相対契約に基づく収入のものである。

なぜプロジェクトファイナンスが組成されやすいか。投資家は、自らが返済義務を負うことのない資金調達(ノンリコースと呼ばれる)を考えるため、プロジェクトファイナンスという手法に基づくノンリコースローンを活用したがる。ノンリコースローンの出し手である金融機関からすると、市場取引による収入よりも、相対契約による収入の方が、長期間の収支予想が容易である。収入は、数量×単価に分解できる。市場取引による収入、相対契約による収入、いずれも数量(=発電量)のリスクはあるが、単価のリスクの有無が異なる。投資を考える際、リターンの観点に加えて、資金調達の観点からも、市場取引による収入か、相対契約による収入か、という区分は意味がある。

②(2)BTM蓄電池

BTMは、Behind The Meterの略。消費者のメーターよりも後ろ(消費者側)に設置される。消費者の電力使用量を削減する等、消費者向けにサービスを提供する。

具体例としては、2017年にカリフォルニア州にプロジェクトファイナンスが組成されたBTM蓄電池プロジェクトがあり、消費者との相対契約による収入を得ている。

カリフォルニア州のWest Los Angeles Basinにおける、テスラ製リチウムイオン電池を用いた50MWの蓄電池で、豪投資銀行であるマッコーリーが出資者となっている。同社は、カリフォルニア州のベンチャー企業であり蓄電池のソフトウェア開発・運用の経験があるAdvanced Microgrid Solutions(AMS)と組み、プロジェクトを立ち上げている。同社の2019年3月のプレスリリースによれば、後続のBTM蓄電池プロジェクトも立ち上がっており、同じ地域で、累計で63 MW / 340 MWhの規模まで拡大している。
ここでも、収入構造を見てみる。蓄電池を保有するSPC(Special Purpose Company)が、消費者と相対契約を結んでいる。消費者は、C&I(Commercial & Industry)と呼ばれる大口顧客である。相対契約で、SPCが消費者の電力使用量を削減すること、消費者がSPCに対価を支払うこと、が定められる。SPCの長期のキャッシュフローを考えると、最初に蓄電池の導入コストがあり、相対契約の期間は消費者から収入を得る。

なお、実は、消費者からの収入のみでは、蓄電池の導入コストを回収できない。そのため、カリフォルニア州では、政策的な後押しにより、他の収入を得ることができるようになっている(次章で述べる)。

電力使用量の削減に対価を払う消費者がいるのか?カリフォルニア州やニューヨーク州では、Demand Chargeが高い。Demand Chargeは、日本の家庭の電気料金で考えれば、基本料金である。電気料金は、二部料金制で、電気の実使用量に関わらず最大電力量に課金される基本料金と、電気の実使用量に課金される従量料金で構成される。Demand Chargeが高い州では、蓄電池を用いてピークカットすることで得られる便益が大きい。その便益が対価を支払うよりも大きくなる、そのような国・地域で、ピークカットにより対価を得るビジネスが成立する。

4、Standalone蓄電池投資の成立要件(政策面)

前章では、米国における蓄電池投資を、特にStandalone蓄電池(IFM/BTM)に焦点を当てて、概観した。ここでは、蓄電池投資の成立する要件の1つとして、政策による後押しを挙げてみたい。現時点では、蓄電池の導入コストは依然高い。本稿で取り上げた州では、かつての再エネ同様、政策による後押しにより、投資回収が可能となっている。

①IFM蓄電池(ニューヨーク州)

前章では、IFM蓄電池を、収入に着目して、マーチャント収入と相対契約に基づく収入に分類した。また、後者の方が、プロジェクトファイナンスが組成されやすいことを述べた。実は、ニューヨーク州におけるIFM蓄電池の相対契約は、市場メカニズムから誕生したものではない。ニューヨーク州は、再エネを推進する中、再エネ普及に伴う電力需給の変動調整のため、州内の送配電事業者に、蓄電池を入札で調達する義務を課している。この政策が、IFM蓄電池への投資を成立させている。

送配電事業者が入札で蓄電池を調達する義務が、なぜ政策による後押しと言えるのか。応札する投資家は、求めるリターンを得られるよう、相対契約にから得られる収入を決める。送配電事業者は、そのような提案の中から、1件を選定する。よって、選定されたプロジェクトを通じて、投資家は求めるリターンを得ることができる。

入札の枠組みを決める際も、投資家の意向が考慮されている。例えば、同州最大手の送配電事業者であるConsolidated Edisonは、入札で選定した蓄電池プロジェクトと、7年間の相対契約を結ぶ義務が課されている。この7年間の考え方について、ニューヨーク州で補助金を交付するNYSERDA(New York State Energy Research and Development Authority)にヒアリングしたところ、「確実に投資回収したい投資家は長期の相対契約を好む。逆に、送配電事業者は短期を望む。バランスを取ることができたのが、7年だった」ということを示唆された。

更に、入札を通じて選定されたIFM蓄電池に対しては、NYSERDAから補助金が交付される。

このように、ニューヨーク州は、送配電事業者に対する入札による調達義務と補助金があり、IFM蓄電池投資が成立する要因の1つとなっている。

②BTM蓄電池(カリフォルニア州)

前章では、「カリフォルニア州では(消費者との相対契約による収入とは)他の収入もある」と記載した。カリフォルニア州のようなDemand Chargeが高い州においても、Demand Chargeの削減による消費者からの対価のみでは、蓄電池の導入コストは回収できない。カリフォルニア州のBTM蓄電池は、他の収入が存在することで投資回収が可能となっている。

まずは補助金。これは、ニューヨーク州同様で、分かりやすい。SGIP(Self – Generation Incentive Program)という補助金が存在する。

次いで、カリフォルニア州の送配電事業者からの収入。同州は、3つのIOU(Investor Owned Utility)と呼ばれる事業者が送配電を担っている。積極的に再エネを推進する同州は、AB2514という指令により、IOUに対して蓄電リソースの調達義務を課している。この調達義務を達成するために、IOUは、事業会社や投資家が出資する蓄電池との間で相対契約を結んでいる。相対契約では、蓄電池は、IOUが必要な場合に充放電できるCapacityを提供し、IOUが固定の対価を支払うことが定められている。

少し脱線するが、このように、蓄電池が複数の収入を持つことは、”Value Stacking”や”Revenue Stacking”と呼ばれる。複数の収入を持つことにより、高いリターンを狙えるが、運用が複雑化するためリスクも高くなる。投資を検討する際は、収入・設計・運用の3つが整合しているか等の、Value Stacking特有のリスクを検証することとなる。

以上より結論付けると、(1)Demand Charge削減による消費者からの収入、(2)補助金、(3)蓄電池の調達義務があるIOUとの相対契約による収入、の3つが揃う場合に、BTM蓄電池に対する投資が成立している。このうち、(2)と(3)は、政策による後押しであり、カリフォルニア州が蓄電池の導入を推進していることの産物である。

③政策による後押し(まとめ)

再エネが主となるRenewable + に比べると、Standalone蓄電池は、IFM蓄電池・BTM蓄電池のいずれも、政策による後押しがある州で、投資が成立している。「蓄電池は、10年前の太陽光」という比喩も聞かれるが、一層の普及に際しては、再エネ推進のため行われたものと同様、政策による後押しが鍵となろう。投資を検討する立場からは、国・地域が蓄電池導入を推進する政策を掲げているか、投資期間にわたり政策変更リスクがないか、を検証することとなる。

(キーワード)
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