Research Project on Renewable Energy Economics, Kyoto University

京都大学経済学研究科

再生可能エネルギー経済学講座

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No.178 新規開発に苦戦する太陽光発電
-性急な自立化対策が低コスト普及を阻む-

2020年3月19日
京都大学大学院経済学研究科特任教授 山家公雄

 今回は、政府や太陽光発電協会(JPEA)が公表しているデータ、資料を基に、日本における太陽光発電事業への期待と直面する課題について、整理・考察する。現状、新規案件開発は、大苦戦を強いられている。

1.太陽光発電への期待

太陽光一人勝ちの構図

 太陽光発電は、再エネの中で最も普及している。資源エネルギ-庁が公表している2019年9月末時点のデータによれば、全てのFIT認定量は8920万kWで、うち太陽光は7210万kWと81%を占める。太陽光の内訳は、住宅10kW未満は680万kW、非住宅10kW以上で6530万kWとなっている。FIT認定の再エネ導入量は5960万kWで、うち太陽光は5180万kWと87%を占める。太陽光の内訳は、住宅10kW未満は1120万kW、非住宅10kW以上で4060万kWとなっている(資料1)。導入量の5180万kW(52GW)はかなり大規模であり、再エネに占めるシエアは圧倒的に高い。このように、再エネの中で一人勝ちと言ってもいい構図である。

資料1.FIT認定量、同導入量の現状(2019/9末時点)
資料1.FIT認定量、同導入量の現状(2019/9末時点)
(注)稼働容量には既存案件のFIT移行分を含む
(出所)資源エネルギ-庁のデータを基に筆者作成

 一方で、認定取得後長期間稼働しない案件、50kW未満の小規模事業や林地を開発する事業等で、景観など地域住民との軋轢もあり、これへの対策も取られてきている。認定済み未稼働案件については、一定の条件に抵触すると認定取り消しになるが、上記数字にはそれは織り込まれている。また、こうした突出とも言える状況は、電源構成のバランスからも望ましくないとの認識も示されている。

先行する太陽光への対策:入札制等の導入

 このような状況下、太陽光に関しては、先行的に多くの対策がとられてきている。FIT価格の急激な引き下げ、入札制導入等であるが、遡及的といえる認定条件変更も事業者・投資家の混乱を招いている。現状500kW以上の新規事業は入札制となっており、開発量は政府のコントロール下に入っている。入札制は、2020年度からにも250kWまで下がる見込みである。一方、FIT価格の低下により、屋根置き等需要家オンサイトを主に、FITや(2021年度からにも導入が予想される)FIPにも依存しない開発は増えていくことになる。

世界情勢等を踏まえたJPEA見通し

 こうした状況を受けて、太陽光発電協会(JPEA)は、世界的なコスト低下や普及状況、パリ協定遵守を睨んだ長期見通しを立てている。原子力が目標とする2030年20~22%に達しない場合に、太陽光は最も有力な受け皿として期待される一方、今後も大量導入による主力化を目指す。JPEAの最新のビジョンでは、2050年に標準ケースで200GW(2億kW)、最大化ケースで300GW の稼働を描いている。この300GWは「2050年までに国内の温室効果ガスを80%削減する」という国の目標達成に不可欠な水準とする。政府の2030年見通しでは、太陽光の稼働量は電源構成の7%、64GWであるが、JPEA予想では100GWである。

2.太陽光発電を巡る課題:性急な自立化要請で新規開発は苦戦

 このように、国内で一人勝ちともいえる現況、コスト低下が速く最も安い電源となっている地域も出てきている世界情勢、パリ協定実施の影響等から太陽光は順風満帆のように見える。しかし、国内の足元をみると、厳しい状況になっている。

入札は高いハードル

 太陽光の新規開発は苦戦している。資料2は、2019年度の入札状況を示したものである。同年は500kW以上は入札制度となっており、2回計716MWの募集が行われた。第1回は募集容量300MW(30万kW)に対して、入札容量266MW、落札容量196MWであり、上限価格14円/kWhに対して平均落札価格は12.98円であった。第2回は募集容量416MWに対して、入札容量186MW、落札容量40MWであり、上限価格13円/kWhに対して平均落札価格は12.57円であった。募集容量自体かなり少ないが、入札容量はそれを下回り、落札容量はさらに少ない。特に2回目は40MWと募集容量の1割にも達していない。また、2回目は2MW以上の大規模案件(特別高圧)の落札がゼロというショッキングな結果となった。

資料2 太陽光発電入札結果(2019年度)
資料2 太陽光発電入札結果(2019年度)
(出所)資源エネルギー庁のデータを元に太陽光発電協会(JPEA)作成

 太陽光入札は2017年度に導入されている。この2回を含めてこれまで5回実施されているが、うち4回が募集容量を下回っており、入札制度として機能しているとは言い難い。当初の3回の募集容量、入札容量、落札容量をみると、2017年度(500、141、41)、2018年度上期(250、197、0)、2018年度下期(197、307、197)となっている(単位はWM)。上限価格はFIT価格以下に設定されるが、そのときのFIT価格が事業者にとりかなり厳しい水準となっていることが窺われる。

 筆者は、以前に提示したコラム「No.162 再エネプレミアム制度(FIP) その4 -日本は再エネ拡大のためにFIPとどう向かい合うか-(http://www.econ.kyoto-u.ac.jp/renewable_energy/stage2/contents/column0162.html)」にて、ドイツでFITからFIPに移行する際に、再エネ投資が滞らないよう、慎重に手順を踏んできたことを強調した。FIP導入時の再エネ電力比率は20~23%と一定の普及があり(除く水力)、入札制はFIP導入後に制度化された。それでも、入札制度導入を巡って、その効果や小規模事業者への影響等を巡り激しい論争が生じた。日本は、FIP導入のかなり前に入札制度が入った。これは拙速で投資萎縮の劇薬であった可能性がある。

 筆者は、そこで「太陽光入札については、既にドイツと遜色のないレベルと言える」と記したが、これは太陽光を過大評価していたようだ。入札制度は、ある程度普及しサプライチェーンが整っている、事業者のリスクを軽減する措置とセットになっているなどの状況下で効果が生じる、という指摘がある。急激なコスト低下が実現している欧州の洋上風力がその典型である。日本では、入札枠を大きくとる、系統接続に配慮する等の改善が必要であろう。

市場価格に近づくFIT価格

 資料3は、太陽光FIT価格と電気料金、電力市場スポット価格の推移を示したものである。入札対象を除く事業用FIT価格は、2019年度は14円/kWhであり、2020年度の見込みは50kW以上250KW未満が12円/kWh、自家消費と自立運転機能が要件化される小規模太陽光(10kW以上50kW未満)は13円/kWhである。オフィスビル等に適用される業務用の電力料金は15円/kWh程度であるので、既にこれを下回っている(業務用は家庭用に比べてかなり低く、産業用よりもやや高い)。また、市場価格の指標である卸市場スポット価格は10円程度であるので、2020年度に予定されている12円はその水準に近いと言える。欧米の電力市場価格は4~5セントであるが、そこでの再エネコストは一般にまだ市場価格を上回っている。日本の市場価格10円程度に対するFIT価格14円、12円はかなり低く、再エネ事業者にとり厳しい水準と言える。

 海外に比べて日本の太陽光発電コストは高いと言われる。内外価格差の要因をみると、パネルなどの機器代の差は小さく、工事費、人件費そして許認可などのソフト費用の差が大きい。単純に太陽光発電のコストを比較するよりも、エネルギ-全体のコストを示す卸市場価格との差を比較することが実態を反映していると考えられる。

資料3 太陽光FIT価格と電気料金・スポット価格の比較、推移
資料3 太陽光FIT価格と電気料金・スポット価格の比較、推移
 (出所)太陽光発電協会(JPEA)

 確かに、これまでのFIT認定量は多く、導入量も多いが、新規開発は厳しい状況にあると言える。業務用料金を下回ったので、屋根置きの競争力は期待できるが、需要地と離れた場所から送電線を利用して送る場合は、託送料金が8円前後かかることを考えれば、まだFITに頼らざるをえない。なお、家庭用は、FIT価格は既に電気料金よりも低くなっており、自家消費を増やす誘因にはなってきている。

導入ゾーンが苦境に

 資料4は、2012年7月から2019年9月までのFIT認定量と導入量を規模別に示したものである。認定量は、10~50kW(低圧)と2MW以上(特別高圧)との領域において際立って多くなっている。50kW未満は、規制が少なく接続も容易であることから導入量も多い。2MW以上は、まだ稼働していない案件が多いが、自己都合の長期未稼働等で認定が取り消された案件除外後の数字であり、今後稼働していくことになる。

資料4 太陽光発電 規模別FIT認定量と導入量(2012/7~2019/9)
資料4 太陽光発電 規模別FIT認定量と導入量(2012/7~2019/9)
(出典) METI HP 「なっとく再生可能エネルギー」設備導入状況資料
(出所) 太陽光発電協会JPEA

 このツートップの先行きが不透明になってきている。2MW以上のゾーンは、前述のように直近の入札では2MW以上は1件の落札がなく、新規開発は非常に不透明である。10kW以上50kW未満は、野立て案件が殆どであるが、2020年度からは30%以上の自家消費がFIT認定要件となり、投資が極めて難しくなる。コストを引き下げてFIT卒業を急ぎなさい、というメッセージのようにも見える。太陽光は、日本の再エネのなかでは明らかに勝ち組であるが、舵取りを誤ると、せっかく軌道にのってきた民間投資に冷水を浴びせ、高いコストのままで終わることになりかねない。それは政策としては最悪とも言え、一度冷えた民間投資を呼び起こすのは容易ではない。

太陽光発電協会(JPEA)は、コストが低下してきたときこそ開発量を確保すべきと主張しているが、これは理解できる。脱炭素化に関して太陽光が主役の一角を担うことになるのは不可避である。

最後に

 今回は、再エネで独り勝ちのように見える太陽光発電を取り上げ、足元の新規開発が滞っていること、それが政策的な要因が大きいことを解説した。開発側にも反省すべき点はあるが、政府も対策が性急に過ぎるのではないか、将来を考えて「開発量」の確保をより重視すべきではないか、と考える。もちろん、電力料金との比較において、政策支援に頼らないビジネスモデルを追求していくことは当然である。これについては、機会を見て取り上げることとしたい。

(終わり)

キーワード:太陽光発電、入札制度、内外価格差、卸市場価格