Research Project on Renewable Energy Economics, Kyoto University

京都大学経済学研究科

再生可能エネルギー経済学講座

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No.238 電力卸市場高騰はどうして生じたのか

2021年3月25日
京都大学大学院経済学研究科 特任教授 山家公雄

キーワード:電力需給逼迫、卸市場価格高騰、インバランス単価、需給調整市場

 12月中旬から1月下旬にかけて電力需給逼迫、卸取引市場高値張り付きが継続した。本コラムでも何回か取り上げてきたが、今回は、その後の各種委員会等での情報を参考に、この「平時の異常事態」を分析する。根本原因は市場の未整備であり、主因(契機)は電源トラブルである。

 当問題に関し、筆者は「No.229 電力市場大混乱を生むハイブリッド規制」「No.233 旧電力会社の動向から読み解く需給逼迫の原因」にて取り上げた。容量市場の高値入札問題に次いで生じた例をみない電力市場に係る大事件であること、電源トラブルの影響が大きいこと、一般送配電事業者(以下TSO:Transmission System Operator)が小売り事業者をクラウドアウトしている懸念があること等を指摘した。その後一ヶ月経過し、政府や電力ガス取引監視等委員会(電取委)等において議論が行われデーターも少しずつ開示されてきた。今回は、それをも参考に分析し、要因について考察するものである

1.今回の需給逼迫要因 主因は西日本の計画外停止

低温でも燃料不足でもない

 12月中旬から1月下旬にかけて(以下、当期)の需給ひっ迫要因を考察してみる。大きな要因とされた低温であるが、数年来のものであり、厳寒というほどではない。旧一般電気事業者(以下、旧一電)やTSO、広域機関の予測力からして、これが主因とは思えない。供給が問題だったということになるが、当初指摘されていた太陽光発電は、当該逼迫期間(当期)全体を見ると増えており、ミスリードであったことが判明した。

 供給力(kW)は、事前予想そしてエリア間融通後の事後では予備率3%は確保していた。しかし、 事後は微妙である。エリア間(TSO間)融通を218回実施し、しかもフル出力運転・自家発焚き増し要請、連系線運用容量拡大運用、電圧低下運用等を駆使しての結果である。特に電圧低下運用は禁じ手で、需要削減の一歩手前の措置である。電圧低下の根拠について広域機関は「直ちに電事法における電圧維持義務違反に問われるものではない、という経産省の見解を共有した」としている。

 最有力要因に浮上したLNGは、確かにこの期間不足し「燃料制約」により発電停止あるいは出力低下を引き起こしている。しかし、LNGはスポット取引が増えてきているとはいえ、日本は長期相対取引が主であり、必要量は概ね確保していたと考えられる。スポット調達に1~2カ月要することは関係者には周知のことだ。当期のLNG火力依存に追い込まれた要因が問われる。

 LNG以外で燃料制約が低い電源のトラブルすなわち計画外停止・出力低下が考えられる。実際、西日本を主に大規模石炭火力のトラブルが相次いだ。原発稼働の有無は西日本で構造的に効いており、当期においても関電の高浜3号機の稼働延期、大飯4号機の稼働開始があった。節目の需給・市場価格変動は石炭・原子力のトラブルによりおおよその説明がつく。個々のトラブルは累積的にLNG不足に効き、逼迫は長期化する。薄氷の供給状況のなかでは少しの需要変化でも大きく影響する。1月上旬の気温低下が追い打ちをかけた。

逼迫は調整力不足から始まった

 供給量(kWh)不足だけでなく、調整力(ΔkW)も当初より不足していた。筆者は、当期逼迫は12月15日の関西エリアが受けたTSO間調整力融通から始まった、と考えている。TSO間融通は過去に例がない頻度・規模で行われた。前述のように、TSOは禁じ手も含め、あらゆる策を講じて調整力調達に走ったが、安定供給のラストリゾートとして追い込まれていた。当期は電力量(kWh)と調整力(ΔkW)の区分する余裕がなく、区別は実質意味をなさず、全国のTSOが所要電力をかき集め、自圏そして西へ送った。

 電源の8割は旧一電がもっており、それを相対契約向け電力量(kWh)とTSO向け調整力(ΔkW)に分けて提供しているのだが(余れば卸市場に売り入札)、各ユニットは双方の機能をもっており、明確に区別できる訳ではない。当期のようなひっ迫時は特にそうである。とにかく(どちらでも)電源を確保することが優先となった。

西日本が不足した理由

 当期は、西日本が不足し、中部以東が西に送る構図であった。供給不足の象徴は「エリア間の調整力融通」であるが、12月15日から1月16日までの一ヶ月、計218回、合計3億747万kWhの調整力が融通された。受電の殆どは(中部を除く)西日本であり、特に関西、中国、四国が多く、関西が終始際立った(図1)。西日本の特徴として冬季に向けた準備不足、再稼働した原発の停止、石炭火力等のトラブル多発等が挙げられる。冬季需要が多い北海道、東北は一貫して送電側に回った。冬季ピークに備えてメンテナンスを施し、燃料も準備していた。

図1.エリア間での融通調整の実績12/15~1/16
図1.エリア間での融通調整の実績12/15~1/16
(出所)送配電網協議会「今冬の需給ひっ迫への一送電の対応について」(2/17/2021)

 原発は、これまで9機再稼働しているが、すべて西日本である(関西、九州、四国)。再稼働後(司法を含め)トラブルが絶えず、当期は2~3機の稼働に留まった。稼働は全て九州である。また、トラブル停止が多発した。大型設備について時系列でみると、12月下旬に稼働が予定されていた高浜3号機(87万kW)は12/15に延期が発表された。同仕様の高浜4号機トラブルを受けたものである(11/3 停止)。橘湾1号機(105万kW 12/26)、松浦2号機(100→50万kW 12/29)、松島2号機(50万kW 1/7)と続く。この3機はいずれも石炭である。この他、経年発電設備のトラブルが多く発生している。

 西日本は、特に経年火力発電が多く、電源開発の共同利用電源も多く立地し、大消費地関西を主に広域流通圏を形成していることが特徴である。本州と四国の連系線は210万kWであるが、これは北本連系線の90万kWの2.3倍である。共同利用電源トラブルの影響は広域におよぶ。共同利用への依存が仇になったようにもみえる。

2.悲鳴を上げた卸取引市場 1ヶ月も売り不足

 以上のように、電源トラブルを最大の契機として、供給不足が1カ月続いた。マクロの動きは上記の通りであるが、個々の場面や現場では、関係者の懸命な努力により、何とか予備率3%を維持し、強制的な需要削減は辛うじて免れた。

 一方、卸取引市場に目を転じると、そこは輪をかけた混乱が生じており、市場参加者は五里霧中のなかで調達に走り、市場価格は超高値で張り付き(図2)、インバランスが積み上がり、市場からの調達者は巨額の損失を強いられた。電源トラブル、燃料状況の個別情報は、旧一電が情報開示しない限り一般市場参加者は知りようがない。換言すると圧倒的な情報格差が存在する。日本卸電力取引所企画業務部長の国松亮一氏は「市場が悲鳴をあげた」と表現している。以下で、卸市場に焦点を当てて検証していく。

図2 スポット市場 システムプライスの推移(2020/12/15~2021/2/5)コマ毎価格
図2 スポット市場 システムプライスの推移(2020/12/15~2021/2/5)コマ毎価格
(出所)電力・ガス取引監視等委員会「スポット市場価格の動向等について(2/5/2021) 色字は筆者追加

電力市場とは「旧一電市場」 「卸取引市場」は脇役

 旧一電は電力取引において圧倒的な存在感がある。電源の8割、販売量の8割を占め、市場支配力があることは周知の事実であり、前提となっている。2020年4月より送配電部門は法的に分離されたが、発電と小売りは一体となっており(発販一体)、取引は内部取引と相対契約が主となっている。相対取引自体は海外でも多いが、リスクヘッジを理由とする金融取引が主である。一方、日本は現物取引が主であるが、この背景には「先着優先ルール」により送電線利用の制約を意識する必要がないことがある。

 その結果、卸取引市場は、「原則あらゆる取引が通過する場」とはなっておらず、「旧一電の供給力の余りが売られる場」となっている。すなわち、旧一電取引が「電力市場の主役」であり、「卸市場取引は脇役・補助」に甘んじるという歪んだ形となっている。当期は卸市場の売り札が長期にわたり不足する(完売する)異常事態となったが、その説明として登場しているのが図3である。一つの電力会社としてはその通りであるが、9社で8割を占める旧一電の場合は違和感を禁じ得ない。日本の特異な市場構造が当然の前提とされており、見る人が無意識に刷り込まれる懸念がある。

図3.旧一電 卸市場入札可能量の全体像
図3.旧一電 卸市場入札可能量の全体像
(出所)電取委「スポット市場価格の動向等について」(2021/2/5)に加筆

 さて、図3であるが、旧一電の供給力から①社内小売り・他社相対卸、②TSOへの調整力(予備力)提供、③電源の停止・出力低下、を差し引いた残りが卸市場への供給元になっていることを示す。当期は、①~③全て増えている。①は気温低下に伴う需要増、②は調整力不足を補うTSO向け配分増(TSOによる供給指示)、③は石炭を主とする計画外停止および燃料制約によるLNG火力出力低下である。なかでもトラブルに伴う発電停止が主因に挙げられることは、前述の通り。余剰売りだけでなく、旧一電およびTSO自らが卸市場で直接・間接の買い手となった。旧一電は一ヶ月にわたり買い越しとなった。

 こうして卸市場は、売り札が減り(干上がり)、機能は大きく低下した。「旧一電市場」が逼迫し、「TSO市場」が調整力不足で逼迫が加速し、「卸取引市場」に増幅して伝播し、もともと小規模の卸市場は大混乱に陥った。図3は全体像を理解するのに分り易いが、日本電力市場が構造的な課題を抱えていることを裏付けてもいる。

 卸取引市場経由の取引は3~4割まで上がってきたと説明される。しかし、約1/2は旧一電の「売り買い両建て」であり、旧一電の余剰分が売り札の太宗となり、旧一電がひっ迫・不足すると余剰は出てこない。当期は、「旧一電市場」は供給不足となり、旧一電は買い越しとなった。また、なけなしの余力はTSOに回った(召し上げられた)。

旧一電の協力で存在感を示した「TSO市場」

 ここで「TSO自らが卸市場で直接・間接の買い手となった」ことについて解説する。今回の特徴は、TSOの「調整力」が早い段階で不足し、「ラストリゾート」としてなりふり構わず調達に走ったことである。「禁じ手」も見られるが、「致し方ない」として事後承諾されようとしている。

 TSOは、卸市場で売られるはずの電力を先取りした。すなわち燃料制約により卸市場に出せないとされた電源について、電源Ⅱとして市場閉場後に購入した。翌日以降の売り玉を先取りするものである。また、卸市場から直接調達した。すなわち「再エネ予想が乖離した際に認めれる電源Ⅱ予約」を一般的に利用したり、「電源Ⅰ(揚水)を動かす電源」を卸市場から調達させたりした(図4、5)。

図4.TSO調整力確保量と市場供出量の関係(イメージ)
図4.TSO調整力確保量と市場供出量の関係(イメージ)
(出所)資エ庁「今冬の電力スポット市場価格高騰に係る検証について」(2/17/2021)

図5.今冬の需給ひっ迫状況(関西エリア)
図5.今冬の需給ひっ迫状況(関西エリア)
(出所)関西電力送配電㈱「今冬の需給ひっ迫時における対応」(3/2/2021)を加工

 事後的に一応辻褄をつけているが、「旧一電の協力」の下に、動かしうる電源を手当たりしだい調達したというのが実態と思われる。この旧一電の協力は、大規模災害発生時等の緊急事態において容認される「行為」であるが、今回のような数年ぶりの低温にも準用されようとしている。

卸市場と調整力市場の乖離 12/15調整力不足シグナルは出ず

 TSOの調整力不足という異常事態は初期の段階で発生していた。12/15に関西が広域機関に要請しTSO間融通が実施された。同日は、関西が受電側で東京以西の全てのTSOが送電側となった。広域機関をはじめ関係するTSOはこの情報をHPにアップしてはいるが、警鐘を鳴らしてはいない。このとき市場参加者や当局が広く危機感を共有していれば、その後の混乱と負担を軽減できた可能性がある。

 また、同日の卸価格はさほど上がっていない(図2)。本来は、電力量不足がありそして調整力不足となる。卸価格が上がりそして調整力価格(アンシラリー価格すなわちインバランス単価)が上がることになる訳であるが、非常事態に相応しいシグナルが出ていない。これは、卸市場と需給調整市場が分離している、相関性が高くないことを意味する。

不透明な調整力購入価格、インバランス単価

 ここで、電力市場の価格機能(指標性)について検証してみる。インバランス単価は卸市場取引を規定する重要指標であり、本来需給調整市場にて決まるものである。しかし、同市場は創設されていない。調整力は、暫定制度(経過措置)ともいえる「調整力公募」により各TSOが1年前に調達契約を結び(相手はほとんど旧一電)、実際に稼働する際のkWh当り価格は実需給時の情勢を反映するものではなく、インバランス単価とはなりえない。追加で卸閉場後に調達する調整力(電源Ⅱ)は直近の需要を反映すると考えられるが、TSOとの相対取引であり水準は不透明である。当期電源Ⅱ取引に応じた発電事業者は、実需給を反映した価格より低い価格で提供していた可能性がある。

 こうしたなかで、現状のインバランス単価は、卸市場価格を変数とする一定のフォーミュラとなっているが、これも「暫定価格」といえる。この人為的に決められるフォーミュラは、現実との齟齬が生じるたびに変更され、分り難いものとなっていた。このフォーミュラは、暫定措置ながらインバランス単価として緊急時には卸市場取引を規定する絶大な力をもつ(っていた)。

 要するに、調整力の市場価格は不透明だったのであり、しかも当期は調整力(ΔkW)と電力量(kWh)の区別が曖昧だった。この指標不在ともいえる「暫定需給調整市場」が突如主役となってしまい、卸市場の混乱に拍車をかけたと考えられる。

3.まとめ  「平時の一ヶ月逼迫」 根本原因は市場不備

大規模停電寸前の大事件

 この12月中旬から1月下旬に抱えて生じた「マクロの需給逼迫」と「卸市場の売り不足と高値継続」は、まぎれもなくエネルギ-史上に残る大事件である。停電に至っていないという理由で過小評価してはならない。しかし、自然災害や異常気象があった訳ではなく、LNG調達期間が突然長くなった訳でもない。「平時の長期需給逼迫」はどうして生じたのか。筆者は、西日本を主に多発した電源トラブルが原因とみている。高浜3号機稼働延期にはじまり大飯3号機稼働開始に終わったのは、偶然だろうか(図2)。

背景に政策課題の放置

 その根本原因はエネルギ-基本計画の電源ミックスにある、と考える。長期間方向性を曖昧にしたことから、稼働しない原子力を代替する形で既存石炭火力が酷使され、ブリッジテクノロジーやシェール革命への期待からLNG火力の割合が高まっていた。あまり議論されていないが、燃料制約とは無関係の再エネ、特に冬に多く発電する風力の開発を押さえてきた。それらのツケが回った。

 卸価格はどうして超高値張り付きとなったのか。日本の電力市場は「旧一電市場」であり卸市場は補助的でしかない実態が今回改めて明らかになった。旧一電市場の余剰を元手に運営するというシステムが、旧一電市場のひっ迫という想定外の事態で破綻した。調整力も不足し、TSOと旧一電そして広域機関は「協力」して調整力をかき集めたが、これで卸市場の売り不足は加速度がついた。

市場機能の未整備

 さらに不幸だったのは、需給調整市場(アンシラリーサービス市場)が未整備で、暫定的・試行的な調達価格(インバランス単価)にいきなり最終調整指標という大役が回ってきてしまったことだ。200円上限も登場した。「旧一電市場」のインバランスはどのように清算されるのか、電源Ⅱや自家発余剰取引は合理的だったのか、ガス取引は合理的だったのか等々清算の検証は容易ではないと考えられる。何よりも、この不透明な指標で正確に清算できるのだろうか。清算見直し(遡及的適用)の是非を判断するうえでも、説得力のある清算は不可欠である。

課題解決を促す強いシグナル

 今次大混乱の根本原因は、もちろん制度の不備にある。旧一電の圧倒的存在感と市場支配力、発販一体の存続、先着優先ルールの存在等を放置してきたなかでの卸市場整備は無理がある。それを承知の上で市場機能活用に舵を切り、何とか整備を進めてきたが、大きいとは思えない異変でも大混乱が生じてしまった。今回の事件は、もはや根本課題を放置できないとのメッセージを発したということである。制度の不備は当然として、それ以外の原因を探すと、電源トラブル多発となる。しかし、これも既存システムと新規システムとの混在(電源ミックス)により生じたと考えられるのである。