Research Project on Renewable Energy Economics, Kyoto University

京都大学経済学研究科

再生可能エネルギー経済学講座

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No.253 再生可能エネルギー事業投資管理の留意点
~2つのJカーブ効果:キャッシュフローJカーブと会計Jカーブ~

2021年6月24日
日本政策投資銀行企業金融第5部 課長 児井太郎

 脱炭素社会を目指すとの方向性がより明確となる中、再生可能エネルギー事業向け投資は、新規施設開発・既存施設売買共に資金流入が続いており、代替投資資産(オルタナティブ・アセットクラス)としての認知も高まり投資家の裾野も拡がってきている。

 再生可能エネルギーを含めたインフラ事業向け投資は、事業自体の安定性と伝統的投資資産(株式・不動産等)の市況変動からの独立性(感応度の低さ)から、投資ポートフォリオ分散先としてのニーズも高まっている。

 一方、再生可能エネルギー事業向け投資(特に近時急速に投資市場規模を拡大している国内のFIT付電源向け投資)を投資ポートフォリオに組み入れる際には、その事業特性を踏まえ、投資管理上の留意が必要となる。その代表例が「収益の期間構造(2つのJカーブ効果)」である。

 投資収益の特性を表す「Jカーブ効果」は各所で使用されるが、一般的には、「投資期間初期での投資組成費用や、開発・建設案件での事業開始までの待機費用計上による収益落ち込み(及び同費用剥落後の収益上昇)」を指すことが多い。一方、再生可能エネルギー事業向け投資では、上記の一般的なJカーブ効果も観察されるが、加えて以下の2種類のJカーブ効果も存在するため、より顕著に現れることとなる。

(i)キャッシュフローJカーブ

 FIT制度下での再生可能エネルギー事業の特徴として、FIT制度自体が有期であるため、事業用地を事業期間での賃借で手当てする例が多く、また取得する場合であってもその立地特性から取得対価も限定的であり、結果として償却資産(太陽光発電モジュールや風車等の発電設備や変電設備等の調達・設置工事)が初期プロジェクトコストの大宗を占める。

 再生可能エネルギー事業においては、(特にプロジェクトファイナンスでの資金調達を実施する場合)運営期間中の主要支出項目につき固定化を図るが、固定資産税支払いにつき、事業期間中に亘る資産償却に伴う負担減少の寄与は大きく、事業キャッシュフローを逓増させる効果がある。

 以上のように、事業資産における償却資産割合が高くまた事業期間内で償却が完了することから、事業期間後半により大きいキャッシュフローを生み出す構造となっている。

(ii)会計Jカーブ

 再生可能エネルギー事業の会計上の収益認識においても、上記の「キャッシュフローJカーブ」は事業期間中の利益逓増として記述される。

 加えて、フルペイアウトとなる借入(含むプロジェクトファイナンス)にて資金調達している場合には、同じく事業期間中に亘り、融資返済・残高減少に伴う利払い負担も減少するため、利益面では事業期間後半に更に増加することとなる。

 特に、FIT期間終了直前の数年間には、主要設備の償却満了により償却負担もほぼ無く、借入残高も僅少となり利払い計上もほぼ見込まれないことから、総事業期間における利益の大宗が帰属する構造となっている。

(表1)
(表1)

 標準的な稼働済再エネ投資(FIT付電源)(運転開始と同時に取得しFIT期間20年間に亘り収益回収、取得価格の80%を融資期間18年間のプロジェクトファイナンスにて調達)では、エクイティキャッシュフローは投資期間期中緩やかに増加し、融資完済後に大きく増加する(図表1)。

 一方、損益認識では、より顕著にJカーブ現れる(図表2)。これは投資初期では会計上の償却負担が大きく、利益認識は限定的となり、エクイティキャッシュフローの大半が投資元本償還として認識される為である。

 その結果、事業前半では投資元本償還が進み投資簿価が徐々に圧縮される一方、投資期間後半で利益が逓増することから、投資利益率(ROE)は投資初期では低位に留まるものの終盤にかけて上昇することとなる(図表3)。斯様な収益期間構造は、エクイティCFのみで投資採算を判断し得る投資家にとっては特段問題とはならないが、投資実行後の利益水準、特に投資利益率(ROE)等を勘案する必要のある投資家にとっては、留意が必要となる。

(図1)
(図1)

(図2)
(図2)

(図3)
(図3)