Research Project on Renewable Energy Economics, Kyoto University

京都大学経済学研究科

再生可能エネルギー経済学講座

本講座(第2期)は、2024年3月31日をもって終了いたしました。

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No.257 第6次エネ基考察➀ 電源ミックス

2021年7月22日
京都大学大学院経済学研究科 特任教授 山家公雄

キーワード:エネルギ-基本計画、電源ミックス、基本政策分科会

 7月21日開催の総合エネルギ-調査会第46回基本政策分科会において、資源エネルギ-庁は、第6次エネルギ-基本計画の素案を示した。注目の2030年電源ミックスは再エネ36~38%、原子力20~22%、火力42%となった。この数字は、事前に予想値として報道で流れていたものと同一であり、政府方針としては事前に決まっていたと考えられる。46%削減ありきで逆算するしかなかった、様々な反応が予想されるなかで周知期間をとる必要があった、ということであろう。今回はこれを取り上げる。

1.難航した再エネ上積み

 昨日(7月21日)に第6次エネ基素案が示された(図参照)。2030年電源ミックスは再エネ36~38%、原子力20~22%、火力42%(LNG20、石炭19、石油等2、水素・アンモニア1)となった(下線は素案で特に留意すべき箇所と筆者が考えた個所 以下同様)。

図 第6次エネ基 電源ミックス素案
図 第6次エネ基 電源ミックス素案
(出所)エネルギ-基本計画(素案)の概要(2021/7/21)

 再エネの36~38%については、現実性を踏まえると妥当な線であろう。再エネ45%、50%の提案者からみると不満が残るが、政府が現状想定している2050年5~6割からするとかなり高い水準となる。日本のお役所は数字の根拠として積み上げ方式を採るのが常であり、再エネの玉積みに苦労していた。33%程度までは何とかなるがそれ以上は難しいとの内幕が吐露されていた。

再び秋波が送られた太陽光発電

 目標年次が2030年と差し迫っているなかでは、比較的上積みしやすい太陽光が焦点となった。7月16日の再エネ大量導入小委員会にて、環境省は政府・自治体の取組みで約1000万kW、PPA等民間事業者の自社電源として約1000万kWの追加見通しを提示した。

 FIT制度を最大限利用できた太陽光が突出して増加し「国民負担」が増え、需給調整に工夫を要するようになった。また、立地を巡り地域との軋轢も目立ってきた。そうしたなかで、政府は太陽光導入速度を抑えるべく様々な制約を課すようになった。FIT価格急低下、入札制導入、FIT・FIP認定要件の厳格化等により「自立化」が迫られ、新規開発は急激に減少した。筆者は一定の理解を示しつつも、行き過ぎた抑制は高いコストをかけて喚起した投資意欲、サプライチェーン構築に冷水を浴びせるもので、2050年ゼロカーボンを目指すときに多大な労力を要することになると警鐘を鳴らした(「No.178 新規開発に苦戦する太陽光発電 -性急な自立化対策が低コスト普及を阻む-」)。

 そして今回の掌返しの秋波送りである。これは、バイオマス発電も同様であり、海外資源利用を主に開発計画は急激に伸びていたが、国民負担を理由に制約を課した。持続可能性の視点が必要であることは理解できるが、やりすぎの面もあった。政府は再エネ普及速度の調整に課題がある、と言わざるを得ない。

追加余地が大きい新主役・風力

 太陽光と並ぶ主役である風力はどうであろうか。上積みの対象としてあまりメディアに取り上げられていない。3月15日の再エネ大量導入小委員会において、日本風力発電協会(JWPA)は、規制緩和を前提に、FIT認定量・環境アセス実施量に相当量の上積み可能との試算を提示している。陸上風力は必達18GW・促進26GWを提示、洋上州力は6GW程度を示した。これに対して政府は7月6日時点で陸上風力16GWを提示、洋上風力4GW弱の可能性を示唆に留まっていた。洋上風力の設備利用率に関しても、JWPAは35%を見込むが政府は30%としている(発電コスト検証WG)。

 特に環境アセスの期間短縮は非常に有効である。一事業当たりの規模が大きく、毎年少なくとも100万kWの導入が見込まれる洋上風力は、短縮に合わせて年間100万kW単位で拡充することになる。アセスだけでなく、行政・インフラ等の手続きを政府が代行するセントラル方式が軌道に乗ればさらに短縮できる。また年間100万kWの事業認定を2~3倍に弾力的に拡大することの効果は大きい。陸上もアセスに加えて自然公園、農林地の規制緩和による上積みが期待できる。

 前述のように政府が見込む風力の量は業界見込みよりかなり少なく、この差分は「含み」である。筆者は、JWPAはサプライチェーン整備をも念頭に堅実な予測を行うとの印象を持っている。エネ基素案では、系統増強等による北海道等での洋上4GW追加が示された

送電線は空いている 系統運用を一本化へ

 風力開発の最大の隘路は、相変わらず送電容量である。系統の運用・整備については前向きになってきたが、小出しで遅い。まだまだ送電容量に余裕があると考えている。地球環境戦略研究機関(IGES)は、2021年5月に東日本の電力需給に係るシュミレーション結果を発表したが、「陸上風力を12GW(2018年度の6倍、風力発電協会が2019年に示した陸上風力発電の2030年目標)、洋上風力を8GW(2018年度は導入実績なし、官民協議会が示す洋上風力発電の2030年目標)、太陽光発電の設備容量を42GW(2018年度の2倍、太陽光発電協会が示す太陽光発電の2030年目標)に増加させても、追加の基幹送電線を整備せずに系統接続し、ほとんど出力抑制することなく発電電力を供給できることが示された」としている。

 2020年1月より、いわゆるノンファーム型接続が全国で始まっているが、先行実施された東電エリア以外は殆ど動いていない。ノンファーム型接続は、時々刻々の実潮流予測を前提に、送電容量を超える(混雑する)ときの出力抑制を前提に接続を認めるものであり、欧米流の効率的な系統運用方式として鳴り物入りで導入された。IGESのシミュレーションもこの考え方に基づいている。東電エリア以外はやる気がないか準備不足かということになる。準備不足の早期解消が困難だとすると、東日本における運用を東電PGを主に一本化することが現実的な対策となり、即効性が期待できる。

2.個別積み上げからバックキャスティングへ

 「現時点で積み上げ可能な範囲が上限」というやり方はこの際改めた方がよい。将来のあるべき姿を描きそこからバックキャスティングする方式に踏み込まないと激変する情勢への対応が困難になる。2030年46~50%削減が先に公約されたが、これは発想を転換する契機となりうる。かつて太陽光は「100万kW導入は山手線内側の面積を要する」と言われたが、FIT導入で大規模導入が実現し、7月12日に発表された2030年発電コスト試算では「kWh当り8円台前半~11円台後半」と最も低い水準となった。このような状況を誰が予想したであろうか。

 保守的と言われ、再エネの将来予想の上方修正を繰り返した国際エネルギ-機関(IEA)は、2021年5月に2050年断面の再エネ電力比率を9割と想定した。目標を設定し、そこに向けた制度整備や支援策をコミットし創造される市場規模を意識させれば、民間資本は動くのである。再エネに関しては世界中で実績が出ており既にやり方は分っている。現に、洋上風力の将来規模とシナリオを官民でコミットした結果、世界の技術と資本が日本を目指して動き始めている。この点に関しては、素案は積み上げできなかった分を「更なる追加見込み量200~400億kWh」と一括して織り込んでいる。これは一歩前進といえよう。

3.どうする原発未達分

王道は再エネ引上げ

 原子力は20~22%と現状維持となったが、この数値は非現実的との見方が多い。再稼働した10機、審査中の17機が全てフル稼働する前提で漸く達成できる水準である。頑張って10%を実現したとしても、残りの10%分は他電源が肩代わることになる。46%削減ありきでは、ゼロカーボンの再エネが増えるしかない。再エネ50%主張者の根拠でもある。再エネ電力を増やすためにあらゆる手段を総動員することになる。素案では「36~38%はキャップではなく、今後、現時点で想定できないような取組が進み、早期にこれらの水準に到達し、再エネの導入量が増える場合には、更なる高みを目指す」としている。

 なお、省エネによる削減を1割強織り込んでいるが(2013年度実績比▲12.0%、前回予想比▲11.2%)、2050年に向けて電力需要が増える可能性が高いなかで、かなり大胆な前提と言える。ゼロカーボン比率を少しでも引き上げたいとの思いがあるのだろう。

事業としての火力発電とミックス方式の課題

 再エネ4割が限界だとすると、火力発電が1割程度増えることになるが、容量的には既存設備での対応が可能と考えられる。火力自体の技術革新に多くを期待できないなかでは、海外からの環境価値購入に依存することになろう。しかし、コスト負担とともに先進国としてどの程度許されるのかの議論が必要となる。最悪は火力の準備が遅れて安定供給に支障が出ることである。筆者は、電源ミックス方式の最大の問題は、安定供給における責任の所在が曖昧になることと考えている。自由化時代の発電事業は、自身の利潤極大を目指して情報収集と準備を自己責任の下で行うことになるが、経営判断の肝は価格をどう読むかにある。海外ではGHG削減、再エネの目標は存在するが、それ以外は市場機能に委ね、参加者の自己責任がより明確である。

 今回は、第6次最新エネ基素案について、電源ミックスに焦点を当てて解説した。昨日のエネ基素案から、ある程度再エネ主力化徹底の本気度が窺えると思った。筆者は、政府の本気度を発電コスト試算をみて確信した。次回は、これを取り上げたい。