Research Project on Renewable Energy Economics, Kyoto University

京都大学経済学研究科

再生可能エネルギー経済学講座

本講座(第2期)は、2024年3月31日をもって終了いたしました。

TOP > コラム一覧 > No.258 開発型再エネの在り方(その1: 我が国自然災害への適応とその緩和〜熱海災害を鑑みて〜)

No.258 開発型再エネの在り方
(その1: 我が国自然災害への適応とその緩和〜熱海災害を鑑みて〜)

2021年7月29日
(一般社団法人)でんきのもり アセット_トラスト 代表理事 北村淳子

キーワード:土砂災害防止法、林地開発、林発逃れ、再エネ電源立地交付金対象へ

 熱海災害は、土地利用の在り方に加えて、今後主力になる再エネ電源開発の構造問題を浮き彫りにした。そこで本稿では、制度面の問題と解決案として、土砂災害防止法・現状の林地開発制度の限界と提言を(その1)、地すべり・山崩れのメカニズムの紹介と、森林法等制度運用の国土レジリエンス向上への提案を(その2)、太陽光発電所設置工法への治山・森林技術と衛星付帯技術の応用(その3)、について順を追って解説する。今回はその1である。

資料1:(上図)Google Earthから各種報道等を踏まえて作成。
資料1:(上図)Google Earthから各種報道等を踏まえて作成。
熱海市伊豆山地区土石流被災区域の隣の尾根の太陽光発電所は崩落せず。土石流は、分水嶺の谷:土石流堆(後出)を流れた一方、太陽光発電所からは、尾根から土石流の谷とは逆側の山腹へ排水していることは、Google Earth(3D)高低でも見て取れる。

 まず最初に、今回被災された方々に深い哀悼の意を表します。

 亡くなられた方々のご冥福をお祈りいたしますとともに、行方不明の方々が無事に発見されること、被害に遭われた方々や自然環境の早期の回復・復元を、心よりお祈り申し上げます。

 同時に、自然が、Tipping Point((注)温暖化が加速し、対策を講じても後戻りできない、Point of No return)に向かって近づいていることに戦慄せざるを得ません。

 憂慮すべきは、まだ原因が明らかになる以前に、近隣にあった太陽光発電所を結びつけて犯人扱いしていることです。気候変動の有力なソリューションである再エネを、2030年CO2 46%削減(2013 年比)目標が出た矢先にも拘らず、山梨県で太陽光発電建設禁止条例までスピード可決するなど、早々に日本人の得意な(?)集団ヒステリー化の様相が見られます。

 一方、米国COP26復帰記念の7/1気候変動サミット(オーストリア)直後であることを思うと、やはり内外の温度差に違和感を感じざるを得ないものがあります。因に気候変動ワールド サミットのHighlightsは、下記URLからご参照下さい。他、各セッションについては、主催のシュワルツネッガー財団YouTubeにチャンネル登録で閲覧可能です。

 我が国YouTuber諸氏もこぞって太陽光発電(含パネル)を糾弾しているように見受けられます。これは、問題の所在が制度面と技術面というややわかりにくい分野にあること、またステークホルダーの利害もあって政争の具と化し易い側面があること、に起因するのであろうと推察いたします。

 そこで本稿では、 制度面の問題と解決案として、土砂災害防止法・現状の林地開発制度の限界と提言を(その1)、地すべり・山崩れのメカニズムの紹介と、森林法等制度運用の国土レジリエンス向上への提案を(その2)、太陽光設置工法への治山・森林技術と衛星付帯技術の応用を(その3)、として順を追ってお話致します。

 今回は(その1)を「自然災害への適応とその緩和」と題してお送りします。

1.分散型社会への構造転換に欠かせない立地選択とリテラシーについて

見るべき重要ポイント:土砂災害防止法

 実は、筆者は、森林所有者であるにも拘らず、再エネには、木質バイオマス発電ではなく太陽光発電から参入したのですが、そうしようと思った契機が「土砂災害防止法」でした。

 数年前、ソーラー適地とは別の中山間地にある所有山林の一部が「土砂災害警戒区域」に指定されたのですが、その際に近隣の小学校で行なわれた住民説明会があり、ポイントは以下のように2つありました。

(1)区域指定されると自治体は何をしてくれるのか?との質問に対しては、「住んでいるところが危険です、ということを知って頂きたい」との回答。つまり自治体の義務は、周知義務が主体。

(2)区域指定されると、家の立て替えなど出来なくなる一方、転居資金借入住宅ローンの金利優遇などのベネフィットはある。勿論、集合住宅や工場等、人が住んだり集まる様な事業は、この区域では営めなくなる。

 そういうわけで、工場同様で、操業にマンパワーが不可欠である木質バイオマス発電は、この地域及び近隣では困難ではないか…というアキラメ(?)が生じ、ほぼ電気工作物のみの太陽光発電選好に向かったわけでもあります。

 後日、土砂災害警戒区域では、「投資家(事業者)の無限責任性回避」原則からは、現実的には林地開発も出来ないことを知るようになりましたが。

 翻って、我が国での来し方の大量公共交通機関の発達は、都市への一極集中を招いたわけですが、現下のコロナ禍でのリモートワークの普及とデジタル化の推進により、移住、半農半X、ワーケーション、セカンドハウス、ウィークエンドハウス、などの普及が、分散型社会への構造転換を促すもの、と、見られていました。その矢先の今回の熱海の事案は、今後、テレワークや週末、セカンドハウスなどで地方移住を考える人々にとっては、移住先(ラグジュアリーリゾートステイ先も)を選ぶチェックポイントとして、警鐘となったことでしょう。

 では、長年住んでいた人が、上記凡例のような区域指定をされたらどうすれば良いのでしょう?宅造法をクリアしていても、現実にはありえます。

 土砂災害警戒区域指定されたからと言って、転出するには同様に費用がかかるわけですが、法の持つ自治体の義務は、周知義務が主であり、転居費用までカバーされているわけではありません。

 では、実際にはどうか、熱海市のハザードマップを見てみましょう。

 赤いフラグの伊豆山地区周辺をご覧下さい。

資料2:熱海ハザードマップにNHK等各種報道を加筆。
資料2:熱海ハザードマップにNHK等各種報道を加筆。

 資料2の図中彩色部分は、無視できない面積があります。

 土砂災害危険箇所には、①土石流危険渓流(前頁図NHK報道参照)、②地すべり危険渓流、③急傾斜地崩壊危険個所、がありますが、これらの根拠法は、現在は「土砂災害防止法」に包含されております。

 報道によれば、熱海市は全域が市街化区域と市街化調整区域の分類がなされていない「非線引き」の都市計画区域で、3000㎡未満の開発行為は許可も不要なため、開発が進みやすい環境ですが、実は今回の被災地周辺も、元々山麓堆積地形の、土石流堆などでした(資料3、下図。地形の形成過程をご覧下さい)。

資料3:地形と災害の関係 国土地理院資料等に加筆
資料3:地形と災害の関係 国土地理院資料等に加筆

2. 林地開発とメガソーラー
〜むしろミニ「林発逃れ」案件への網が肝要〜

 上述のように、土砂災害(特別、)警戒区域指定は、元々「危険なところ」にかけられており、警戒避難体制の整備や特定開発許可、建築物の構造規制等の措置を行なうべく、自治体は区域指定し、周知しているわけです。

 他方、林地開発メガソーラーは「安全なところ」、又、砂防三法による行為制限を(傾斜地原因地対策を講じるなど)クリアして「安全に」、設置されるので、今回の事象では崩落しなかった可能性もあります。林地開発メガソーラーは、既に「危険なところには設置しない」運用となっているのです。

 尤も、この「近隣の」太陽光発電所、一部が保安林にかかっていたのを認識していなかったらしいところをみると、1ha未満の林地開発摘要外案件かもしれませんね。なぜなら、静岡県では林地開発の際には(たとえ林地開発が市に権限委譲されていても)必ず「立地調査依頼」を、開発可能性のある全ての土地について県に依頼し、保安林の有無、林道利用区域、過去5年以内の補助金投入等が判明すれば、部分解除なりレイアウトで回避なりする筈です。

 その意味では、厳格化を図るべきは、すでに慎重に開発する枠組みにあって遵守している「林地開発案件」というより、現在は面積要件が林地開発摘要(1ha)以下のミニ開発です。立地調査を県に依頼するなどして、自分の使いたい土地の態様を知って設置するように誘導する事が有効でしょう。

 大事なことは、土地規制には上述のような(地形他の)理由や歴史・故事来歴があるので、仮に規制を逃れても、天に唾して自分に返って大惨事になっては、元も子も無いことを知ってもらうことです。

 自治事務は忙しくなり、土地のデータベースや窓口を整備する必要が出るかもしれませんが。

 しかし、今回の伊豆山の事案を鑑みると、自治体は周知義務を負うだけではなさそうな展開も、見えてきました。

 市町村長は、「その他必要な措置を講じる」となっていますので,場合によっては,周知が不十分とされることもありえますし、被害発生防止のための避難勧告等を行い得ると考えられます。

 これについては,都道府県知事が勧告することができるとされていますが(勧告するしないは裁量権の範囲内)、急迫の危険等一定の場合には,義務に転じる場合があると考えられます。

 また,特定の開発行為に対して許可を与えたことが不法・不当だとして責任を問われることもあるでしょう。

 今後、気候変動によるニューノーマルへの適応を考えた場合、蛸壺間で責任をなすりあっても一向に解決にはなりません。

 蛸壺をつないで、循環を作りましょう。ここでも。

3. 再エネ発電設備を電源立地交付金対象に

 前述のような流れで、メガソーラーは何かと矛先を向けられ易い存在になっています。

 一方で、自治体は、住民が懸念する裏山崩壊を防ぐために、擁壁や堰堤をどんどん作ったり、また引っ越し費用を工面する予算は、土砂災害防止法ではカバーされてはいないと見られます。一般財源も足りない。だからといって、今後、災害が増えれば自治体の責任は周知だけに留まらない展開も見えてきました。

 では再エネも、他の電源と同様に、電源立地交付金対象にしたらイイじゃナイですか!

 再エネ電源のメガ数に応じて(源泉)例えば、土砂災害防止法指定区域内での予防治山予算や、崩壊の危険を感じる際の転居資金も対象とする(使途)等。系統インフラ基盤整備型再エネについては、交付金を利用できれば、電気料金高騰の怨嗟の責を受けなくても済むでしょう。実際、最寄りの一次変電所まで10km以上あるような中山間地で、直径5mm程度の50年ものの高圧電線を直径6cm逆潮付に8km程度増強、は、ザラにあるケースです。系統インフラ整備の源泉となっているのは、メガソーラーの工事負担金(原因者特定負担)という実態があったりするわけですし。2018-9台風での100万世帯停電からの復旧には一週間以上かかりましたが、送配電線は立て替え・増強されることになりました。抑制付きPC(パワーコンディショナー)への通信システムによる解列〜再起動なら、同じ地域で停電の復旧までに数時間で済むことになります。パワーグリッドにとっても悪い話とは、思えません。

 市街化区域外淵部の空き家も増えていますし、転居先は十分にあると考えられます。地域と個別のメガソーラーのコンフリクトは終わりにして、自治体にソーラーがあるとお引っ越し費用が自治体から出ます、ということであれば、あまり八つ当たりされないのでは? 2030年までに温室効果ガスを46%削減する訳ですし。

 この電源立地交付金、従前には主に原発立地に対する交付金でしたが、現在は、より一般電源・一般財源に範囲が拡大・メニューも拡充しているようです。

 さて、そろそろ長くなりましたので、開発型メガソーラーの立地選択のための地すべり・山崩れや鉄砲水、土壌の構造、といった、メカニズム解説方面のお話は、次回に譲ります。

(続く)