Research Project on Renewable Energy Economics, Kyoto University

京都大学経済学研究科

再生可能エネルギー経済学講座

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No.262 電力ネットワーク次世代化の向けたルール変更と足許の再エネ取組の落差

2021年8月26日
ENEOS株式会社 電気事業部マネージャー 阪本周一

キーワード:電力ネットワーク次世代化、ノンファーム接続、NEDO実証、出力制御

 先般、資源エネルギー庁は「電力ネットワークの次世代化に向けた中間とりまとめ」(案)を公表した。これは、総合資源エネルギー調査会、省エネルギー・新エネルギー分科会/電力・ガス事業分科会、再生可能エネルギー大量導入・次世代型電力ネットワーク小委員会で長い時間をかけて、再エネ大量導入のための系統整備、アクセスルールを検討した成果といえる。

 系統整備をマクロ的視点で検討する点、再エネ賦課金・JEPX値差利益を活用する点等評価できる方向性がある。他方、実務的な観点に着目すると、この「とりまとめ」に織り込まれた施策の中には、実際には再エネ拡大(に限らず各種の電源開発)の桎梏となるようなものも織り込まれてしまったのではないかと私は懸念している。その辺りの事情をご紹介したい。

1.受入締切がないノンファーム接続、長引く手続き時間

 従来、系統アクセスでは先着優先ルールが適用されており、既存事業者(多くの場合は、旧一般電気事業者系発電所と認識された)が系統枠を抑えている限りは、新来の再エネ発電のアクセスが限定される、それは再エネ拡大には不都合である、限界費用の低い再エネによる広域メリットオーダーによる電気料金低減やCO2排出量抑制にも貢献しないという問題意識から、アクセスルールの変更が議論されるに至った。具体論として、ノンファーム接続許容に舵を切り、まずは空き容量のない基幹系統から導入をすることとなった。

 この措置により、電源再エネ化、新陳代謝亢進といくかというと、発電事業者目線では簡単ではない。

 まず「中間とりまとめ」には、ノンファーム接続手続きに時間を要する点は指摘されている。昨年の8月頃、ノンファーム接続本格化以前から東電パワーグリッドでは高圧連系協議(特高ではなくせいぜい二桁kWレベルでしかない案件)が進まなくなる事例が出ていたが、パワーグリッドに事情を訊いてみると上位系統の検討の影響とのことだった。試行段階でしかないはずの佐京の件がローカルにも影響があるのか・・・と唸ったのだが、今後は他エリアでも同様の事象が増えていき、足許の再エネ導入検討の速度を下げてしまうだろう。

 また、ノンファームの建付け自体と事業者の投資判断との折り合いがよくない。ノンファーム接続下では、新規事業者は混雑系統を回避して立地地点を検討するので、混雑度合いはある段階で留まる、という前提がある。既設発電事業者の稼働実績等を接続希望者に開示する運用は既に行われており、どの程度の稼働率が見込めるのか新規参入検討者に事業予見性を付与するともされている。では、事業者は『過去の系統利用実績を主データとして、以後もノンファーム前提で新規競合者が出現して混雑悪化するかもしれないリスクには目を瞑って投資判断に踏み切れるか?』となると、これが難しい。リスクマネーを提供する側からみれば、稼働率が不確かなままでは判断のしようがなく、他の事業に投資をする方がよいのではないか、という思考になる。

 ある内陸県で小水力開発を企図している事業者から「アクセス協議がノンファーム前提であるため収支計算が立たず、検討が進まない。どうにかならないだろうか?」と相談を受けたことがある。この県には火力発電所はなく、当該発電所計画との競合は全て再エネ案件である。再エネの好立地は火力発電所のある都市部ではなく、地価の安い地方である。再エネ同士が競合するケースは他の都道府県でもある。開発現場では困惑が広がっている。検討時点での混雑シミュレーションは先々の新規参入者を織り込んでおらず、新規参入者は制度上あり得る点、判断に困る。訊く限りだと「機関決定に持ち込めない」「いや、平気だ」と様々ではあるが、躊躇を覚えている事業者はいる。ノンファームだといっても無制限にしておくのではなく、系統送電容量上限値×〇%でアクセス申し込みをいったん締め切る、等の措置を講じないと制度意図通りの新規再エネ検討活性化にはつながらないのではないか。

 ノンファームの適用範囲は基幹系統からローカル系統へ広がっていくのだが、低圧再エネからの逆潮まで対象にするのか、よく分からない。感覚的には、卒FITまで規制するとは思えないが、高圧の接続に危惧を覚える開発事業者は低圧系統に注目しているので、低圧への開発シフトが加速する可能性は高い。低圧系統には大量の新規再エネの受け皿となるだけの容量、調整力があるだろうか。

2.発電機設計に入れない:NEDO実証による出力制御

 よりテクニカルな論点になるが、「ノンファーム型接続を許容した上で、将来、送電線の混雑が発生した際に適切に混雑管理・出力制御を実施するためには、一般送配電事業者において、混雑管理・出力制御に対応したシステムを開発・導入する必要がある。このため、2020年7月より、国立研究開発法人新エネルギー・産業技術総合開発機構(NEDO)事業として、全一般送配電事業者が活用可能な共通基盤システムの開発が進められており、2023年度の完成を目指している。」(中間とりまとめ案から)とされてる。現時点では、どういう手法で発電機に出力制御が行われるのか不明であるため、制御による発電機への影響を推し量ることもできず、設計が進まない。検討担当者からは『せめてどういう制御ロジックを考えているのか等、検討のスコープを予め開示してもらえないか』との声も出ており、広域機関や検討エリアの送配電に問い合わせもしている。出力制御機器を発電者も導入することになることは確かなのだが、「制御機器の仕様および費用については、NEDO実証事業で検討中のため不明」と言われるばかりである。つまりは、23年度末目途とされる制御機器仕様が確定しない限り、身動きがとれないのである。制御がタービンに作用するバイオマス、水力、地熱に比べると、太陽光、風力はあるいは見切り発車が可能かもしれないので、後者に有利な制度になるかもしれない。この点、不公平感があるので、NEDO実証の方向性を速やかに開示するべきだろう。

3.マスタープラン策定に資する仕組みも講じられているが、待機モードで推移する懸念

 系統増強時期を適切に認識するためには、「再エネ電源等の開発状況を網羅的かつ早期に把握する仕組みが求められる。電力広域機関においては、事業者の供給計画や海洋再生可能エネルギー発電設備の整備に係る海域の利用の促進に関する法律に基づく洋上風力の海域指定に加え、将来の連系を検討している電源等の意向を調査する仕組み(電源センサス(仮))を実施する」(中間とりまとめ)とある。足許で再エネ開発検討の遅延要因が上記のように積み重なっている中で、系統増強がタイムリーに実行できるかという点、危惧がある。

 この間、発電事業者、メーカー、施工業者は待機モードになってしまうのだが、実働部隊を動かせない、日銭を稼げないことになるのが痛い。再エネ大量導入とレジリエンス強化を支援するための次世代ネットワーク化に向けた施策だが、発電側関係者、コマーシャル実務側が希望する「速やかな接続」と同一ベクトルを向いているのだろうか。実装まで配慮した工程表にはなっていないように思えてならない。

(注記) 以上の所見は筆者独自のものであり、所属先企業の見解を代表するものではありません。