Research Project on Renewable Energy Economics, Kyoto University

京都大学経済学研究科

再生可能エネルギー経済学講座

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No.268 洋上風力R3/高まる促進区域への期待

2021年9月23日
京都大学大学院経済学研究科 特任教授 山家公雄

キーワード:洋上風力、再エネ海域利用法、促進区域、カーボンニュートラル、グリーン成長

 9月13日に、政府より「再エネ海域利用法」に基づく洋上風力促進区域に係る候補地が発表された。今年度は3回目(第3ラウンド)となるが、促進区域に1区域、有望区域に4区域が追加され、準備区域を含め、累計で22の区域が採択されたことになる。また、3つの促進区域の事業者選考が11月にも決まるが、成長産業としてテイクオフできるかのカギを握る一大イベントである。2回にわたり洋上風力を解説する。今回は「令和の新産業都市」として期待を集める促進区域に向けた動向を紹介し、地域振興について考察する。

1.再エネ海域利用法によるゾーニングと自治体の位置づけ

国家ゾーニングで毎年100万kWの洋上を生み出す

 「海洋再エネ法」のスケジュールでは、一定の事業熟度が確認された区域を促進区域として選定し、地域協議会を経て正式に促進区域に指定し、その後事業者を公募により選定するという手順を踏む(図1)。

図1 再生エネ海域利用法の手続き
図1 再生エネ海域利用法の手続き
(出所)経済産業省資料に加筆(赤枠)

 9月13日に、政府より同法に基づく洋上風力促進区域に係る候補地が発表された。今年度は3回目(第3ラウンド)となるが、促進区域に秋田県の「能代市・八峰町」が、有望区域に秋田県の「男鹿市・潟上町・秋田市」、山形県の「遊佐町」、新潟県の「村上市・胎内市」、千葉県の「いすみ市」が選ばれた(図2)。

このように、新電力と大手電力で大きく明暗が分かれているのは、それぞれの市場への向き合い方が大きく異なるからである。大手電力には小売自由化以前から保有する電源があり、市場には自社電源で需要を満たした上で余った電力を市場に販売し、新電力はこの電力を調達するという構図になっている。このため、電源へのアクセス方法が限定的な新電力の市場への依存度は一般的に高く、リスク対策も容易ではない。

図2 促進区域、有望な区域等の指定・整理状況(2021/9/13)
図2 促進区域、有望な区域等の指定・整理状況(2021/9/13)
(出所)経済産業省資源エネルギ-庁 国土交通省港湾局

 洋上風力推進が目的であるので、促進区域指定は「国によるポジティブゾーニング」といえる。地元から情報を募集し促進区域候補を選定し、地元協議を経て促進区域を指定する。これが年度単位で繰り返され、毎年3~4件、100万kW程度の事業化が進められることになる。2019年度に第1ラウンドが始まり、今年度は第3ラウンドになる。現時点で6促進区域、7有望区域、10準備区域の計22区域が事業候補地となっている。事業に直結する促進区域指定の進捗がやや遅く、今後の課題である。1区域30~50万kWの規模とすると、660~1100万kWもの事業規模となる。

重要な県と市町村の役割

 このように法律に基づき国が促進区域を指定し、事業者を選定するのであるが、地域の意向も反映される制度となっており、促進区域指定に至るまでいくつかのステージがある。地元住民の方々の理解が大前提となるので当然ではあるが、都道府県が地元の取りまとめ役に位置付けられている。関連市町村である程度の理解が進んだと判断した場合に、県は年度末までに国に「情報提供」を行い、国は3カ月程度の検討を経て(翌年度の7月頃に)一定の準備段階に進んでいる区域(準備区域)、なかでも指定が有望な区域(有望区域)を選定し、公表する。有望区域は法定の「地域協議会」が組成され、地元関係者と正式に調整が行われ、まとまると晴れて「促進区域」に指定される。ラウンド内の指定が想定されるが、進捗状況により時期は前後する。促進区域指定に関して、R1では五島市が先行した。R2では、峰町・能代市が先行したが、他の有望3区域は指定案の広告・縦覧に至っていない。

カーボンニュートラルと競争意識の高まり

 市町村、県、国の3段階で判断するのであるが、市町村と県等とが同じ方向を向いていないと「地元」は纏まらないことになる。前向きな方が慎重な方を説得する機会があるともいえるし、どちらかが後ろ向きだと進まないともいえる。国のゾーニングとの視点では、国が直接市町村と調整するのが効率的であるようにも思える。しかし、昨今の促進地区を目指す動きが活発化する中で、県を含めた「自治体の競争意識」を刺激している面があると感じている。隣の県が市町村が評価されると、いい意味で競争意識が刺激される。自治体や住民のCN意識が高まってきていることも見逃せない。

2.ラウンド3の結果をどう読む

 さて今年度(R3)の採択状況であるが、R1からの経緯を含めて整理したのが表1である。縦軸は促進区域、有望区域、準備区域毎の候補区域名で、横軸は各ラウンドである。同表は候補区域の各ラウンドでの採択状況を示している。例えば、山形遊佐町は、R1で情報提供が行われ、R2で準備地域となり、R3で有望区域に上がっている。青森日本海と西海市はR1で準備、R2で有望とステップを踏んできたが、R3発表時点ではまだ有望に留まっている。以下、表を基にR3のポイントを解説する。

表1 再エネ海域利用法に基づく促進区域・有望区域等と採択時期
表1 再エネ海域利用法に基づく促進区域・有望区域等と採択時期
(注)・〇は当該区域に選択されたRound   ・数字(計)は除く「情」
・R1:2019年度 R2:2020年度 R3:2021年度
・「R」Round 「準」準備段階 「有」有望区域 「準」準備区域 「情」情報提供
(出所)政府資料を基に作成

裾野は広がるが先導役が停滞

 R3を概観すると「促進」5、「有望」7、「準備」10の計22の区域がランクインしており、R1の10、R2の14から着実に増加している。「準備」が6から10へと増えているのが寄与しているが、一方で注目の「促進」が5と1区域増に留まっている。コロナ禍による協議会開催停滞等の要因もあろうが、年度内の進級を期待したい。地域では北海道5、東北10(含む新潟)、九州4、千葉2、福井1となっている。「促進・有望」の12区域では東北8、千葉2、長崎2と東北に集中しており全て日本海側である。全体ではいきなり「有望」に入ったいすみ市を含めニューフェイスが8区域登場しており、全国展開の様相を呈してきている。
 期待されている区域の停滞も気になる。前述のように、R3では4「有望」のうち1つしか「促進」に上がっておらず(八峰・能代)、また6「準備」で「有望」に上がったのは3区域である(男鹿・潟上・秋田、遊佐、村上・胎内)。すなわち6区域は前に進めなかった訳であるが、青森が3、北海道が2、長崎1である。R2まで記載されていた区域ごとの1~2行コメントは、今回は見当たらず、以下は筆者の推測である。北海道は、進級見送りは系統制約の影響が考えられる。一方で「準備」は3区域が新たに入り5区域となり、本領(ポテンシャル)を発揮しつつある。北本連系線の30万kW拡充や800万kW海底ケーブル構想も併せて今後の進展が期待される。
 意外なのは青森の停滞である。同県は原子力を含めエネルギ-行政に精通し、長年にわたり風力設置量全国1位を維持してきており、また3区域は系統枠を東北募プロによりかなり前から確保している。厳しいことを言わせてもらうと、産業化のためには洋上風力は年間100万kW以上の開発は国策としてマストであるが、停滞はこの足を引っ張るものである。また他区域の進展を妨げる要因にもなりうる。年間3~4件・約100万kWの想定のなかで、準備が整っているにも拘らず待たされている案件もある。山形県・新潟県は系統容量確保が大きな制約となってきたが、東北ネットワーク管内で枠の未利用という視点でも考えてほしい。また、2030年46%削減実現のためには年間100万kWに拘らずに大規模な採択を行うべきと考える。

3.促進区域は「令和の新産業都市」 グリーン成長の拠点

地域協議会での論点①:環境等受容性

 再エネ主力化の課題として地域受容性が浮上している。風力は景観、騒音、バードストライク等が懸念され、環境影響評価主要確認項目となるが、沖合に展開する洋上は、懸念が比較的小さいとされる。一方で、漁業への影響をはじめとして海産資源・生物や海上交通への影響評価が加わる。地域協議会等において調整が行われ促進区域に指定される訳であるが、景観・漁業協調等について多くの議論がなされよう。一方で、ポジテイブな効果がみえないと地元の納得は得られない。

地域協議会での論点②:グリーン成長

 大規模な洋上風力立地による地元へのメリットが確認される必要があるが、これも協議会で議論されることになる。再エネとのコラボによる漁業振興や税収・占有料等は当然の前提となる。また、地域振興全般への寄与もポイントであり、具体的に議論する必要がある。この議論の整理は、事業者選考の際の地域貢献の基礎となる。以下は、筆者の考えである。
 カーボンニュートラル(CN)時代の地域の魅力は、地域の活動においてCNが容易に実現できる環境の程度に依存する。温室効果ガス排出の8割はエネルギ-由来であり、電力、熱、燃料の脱炭素化が進んだところの魅力が高まることになるが、再エネ電力とそれ由来のグリーン水素の普及がポイントとなる。再エネ資源が豊富な地域は、再エネ電気とグリーン水素を優先的に利用できることが地域の最大のアピールとなり、再エネ設備の受容性向上にも寄与する。それに理解を示す事業者が支持を得て、国は実現を可能とする制度整備や支援を約束することになる。また、再エネ・水素が豊富に蓄積する地域は、経済原則からしてもエネルギ-の安定性や経済性において有利になる。地元グリーン資源を利用した商品の特産品化の可能性も出てくる。

地域協議会での論点③:産業裾野形成の視点

 直接的な効果として、企業誘致的な税収、雇用がある。拠点港、メンテナンス港の整備や専門家育成のための教育機関創設も期待できる。この視点では、関連工場が建設される、地元企業がサプライチェーンに組み込まれる、技術力のある企業が立地することである。洋上風力は部品点数が1.5~2万点と言われる。地元に工場が立地する、あるいは地元資本の部品が採用されることが「波及効果」の本質(主役)であろう。
 しかしながら、国内風力市場が成長せず国内風車メーカーが撤退してきたなかで、産業化に向けてどういう青写真を描くか。再エネは水素と並んでCNの切り札である。洋上風力は再エネの主役でありグリーン成長戦略の筆頭に位置している。国は洋上風力ビジョンにて、2040年時点で30~45GWの導入と国内調達比率6割、2030~35年で8~9円/kWhにコミットしている。実現の可否は事業者選定を通じた競争環境にかかっている。R1の事業者選定が5月に募集が締め切られ、11月にも事業者が採択される。国内調達比率6割を目指してどのような事業者が、メーカーが選ばれるのかが重要と考えられる。次回はこれを取り上げる。