Research Project on Renewable Energy Economics, Kyoto University

京都大学経済学研究科

再生可能エネルギー経済学講座

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No.280 再生可能エネルギーの中での木質バイオマス発電の今後の位置づけについて

2021年12月16日
京都大学大学院経済学研究科 客員研究員 末松 広行

キーワード:固定価格買い取り制度、再生可能エネルギー、木質バイオマス、林業

 現在、再生可能エネルギーの固定価格買取制度(FIT)において、発電された電気を国が定める価格で一定期間電気事業者が買い取ることを義務付けているのは、太陽光、風力、水力、地熱、バイオマスについてである。

 バイオマスの中には、木質バイオマス以外にもメタン発酵、農産物の収穫に伴って生じるバイオマスもあるが、今回は間伐材や一般木材などいわゆる木質バイオマス発電について、その特徴と課題について記してみたい。

 なお、具体的な事業の展開については、2020年1月9日No.167「真庭バイオマス発電所~順調な稼働の理由と今後の課題~」(http://www.econ.kyoto-u.ac.jp/renewable_energy/stage2/contents/column0167.html)が参考になるので一読を勧めたい

1.木質バイオマス発電とは

 あえて紹介する必要もないかもしれないが、木質バイオマス発電とは、木材(枝葉や残材、利用後の廃材も含む)を燃料とした発電である。

 発電方法は、製材端材や木質チップを直接燃焼させて、ボイラーで発生させた高温高圧の蒸気で蒸気タービンを回転させて発電する「蒸気タービン方式」と、木質バイオマスをガス化して、可燃性のガス を発生させてガスタービンを回転させて発電する「ガス化-エンジン(ガスタービン)方式」がある。

 石炭火力発電でも使われている蒸気タービン方式は安定している方式であるが、小規模になるにつれ発電効率が下がり、その制約を少し改善したガスタービン方式にも注目が集まっている。

 但し、筆者が制度発足に関わっていたころのガスタービン方式のプロジェクトは、ほとんどが安定的な燃焼・発電ができず、実用性については疑問符がついていた。最近は実績も重なり安定してきたとされているが、その評価についてはまだ確信をもって記述するには至っていない。

 蒸気タービン方式の発電は石炭火力発電でも使われていると述べたが、これは石炭火力発電の原料に木質バイオマスを充てることもできるということになる。安定性などの観点から、現在石炭に混焼できる率は高くないが、理論的に考えれば、大規模で効率的な発電がおこなわれている石炭火力発電所において木質バイオマスを原料として発電がおこなわれる場合は一定の原料から発電される電気は多くなり、効率的な発電ができることとなる。

 今後、既存の石炭火力発電所の活用策として燃料を木質バイオマスに転換していくことも考えられる。発電所の規模が極めて大きく、国内原料では到底賄いきれないこと、燃料の質から全部を木質バイオマスに変換することはむつかしいとされていることなどの大きすぎる課題があるが、輸入原料の使用、ペレット化・トレファクション化1によって解決できる部分もあるような気がしている。

2.FITにおける位置づけ

 FIT(固定価格買い取り制度)において、木質バイオマス発電について2021年については次表のとおりの買取価格が設定された2



 当初から変更されたのは、未利用材に関して2000kW未満の価格40円が設定されたこと、一般木材の10,000kW以上の価格が入札となったこと等である。

 FITの価格設定については、全体として、それぞれの発電方法の現状のコスト等を勘案して定められているが、それはその価格によって多くの事業所で安定した発電がおこなわれ、安定した発電がおこなわれることにより技術が向上し、コスト低減への道が拓かれ、次の段階では買取価格を引き下げていくことが企図されていると考えられる。

 木質バイオマス発電についても、考え方は基本的には同様であるが、発電単価の区分の作り方は、日本の森林・林業政策に大きくかかわっていると考えられる。

 すなわち、一般木材等とは区分して未利用材の価格を設定したのは、規模だけでない別の要素、すなわち地球温暖化防止のための間伐推進、地域経済を支える計画的な林業の振興を図るために固定価格買い取り制度も活用しようという意図があったと考えられる。

 余談だが、FITの仕組み構築に当たっては、当初太陽光について高い価格にする一方、その他の風力・小水力・バイオマス・地熱等についてはすべて一律の価格にする案、既設の施設についてFITの適用を制限する案などがあり、各再生可能エネルギー事業者などが相互の特徴を認識しながらいい仕組みにしようという議論がなされて今のような形となったことを記憶している。

3.木質バイオマスエネルギーの進捗と日本の森林林業に与える影響

 FITの開始時、木質バイオマス発電については、石炭混焼のもの、建築廃棄物発電3以外の大規模なものはなかった。

 FITの開始後、国内の木質バイオマスを活用した最初の発電所は、福島県に所在するグリーン発電会津4であるが、その後続々と建設が進められ、現在は100を超える発電所が稼働している

 木質バイオマス発電の進捗の電力供給面での貢献は、発電した分だけの再生可能エネルギーを供給できていることに加えて、石炭火力発電と同様、安定電源として常時発電ができること、燃料を投入するしないで発電するしないをコントロールできることなどのメリットがある。

 但し、日本の必要な発電量に占める割合はごくわずかに過ぎない。国内資源を使うことを前提とする限り、量的な限界がある。

 一方、日本の林業の観点からすると大きな意義があると考えられる。

 林業は木材を生産することを主要な目的としているが、品質の良くない木材、間伐材、林地残材、製材中に発生する端材などさまざまなものが発生する。

 その一部はチップ化され製紙の原料になったりしていたが、その需要は大きくなく価格も抑えられ、経営に悪影響を与えるとともに、木材の収穫時に林地に残材をたくさん残すような状況が生じていた。

 木質バイオマス発電の燃料としての木材は、まっすぐである必要もなく、節がない必要もない。いわば炭素を含んでいる木質でありさえすればいいということで森林から生まれる資源の底支え機能があると考えられる。

 現に、日本の林業においては、この新しい用途の開発もあり、次図のように木材自給率が年々上昇している5



4.木質バイオマス発電の今後の展開について

 木質バイオマス発電については、資源量の限界の問題、国内資源利用型と輸入資源利用型の問題、発電と熱利用も問題、大型発電と小型発電の問題などいくつかの論点があるが、それらは別の機会に譲り、本稿では地域の雇用と経済の観点から今後の展開についての考えを述べてみることとする。

 木質バイオマス発電所ができることにより、地域には、発電所に勤める従業員、伐り出した木材をチップ化する工場の従業員、木材・チップを運搬する従業員、林業従事者の雇用が発生する。これらに関連する仕事も発生する。 これは地域にとっては大きな雇用であり、地域経済を活性化させることに大きく役立つと考えられる。

 林業にとってみれば、いわゆる裾ものにも価値ができることになり、品質のいいものはそれ向けの市場へ、これまでは放置せざるを得なかったものもバイオマス発電用にということで、施業できる地域が広がることにもつながる。現場の声として聴いたのは、伐採後の現場に放置される残材がみな発電用に運び出されるために次の植林もしやすくなったということもある。

 翻って考えると、森林・林業地帯の資源を活用して富を生み出すことを総合的に考えていくことは現代において極めて重要である。従来の木材需要に対する伐採、木質バイオマス発電用の伐採だけでなく、森林セラピーや観光などの資源活用も重要である。

 このように考えていくと、更に森林地域の風力資源も地域振興の観点からの活用をさらに検討していくべきだと考えられる。

 例えば、風力発電を行うのと木質バイオマス発電を行うことは、規模の違いはあるが地域に対するプラスとマイナスの効果が似ている面があり、地域の意識醸成についても似た点がある。

 各再生可能エネルギーのほうからどこでやるのがいいかというのを考えるだけではなく、各地域が、自分の地域はどんな資源を活用して経済を回していくのか、再生可能エネルギーにチャレンジするのなら、何と何を扱うのか、地域自身が検討することが重要であり、地域自身が検討するための支援を国や地方公共団体はしていくべき時期になっていると考えられる。


1日本語では「半炭化」を意味し、木質バイオマスを加熱し炭素成分が多い燃料にすることをいう。トレファクションペレットは重量当たりのエネルギー密度は木質ペレットの約1.3倍になる。

2経済産業省2021年3月24日付ニュースリリースより。

3建築廃棄物発電については、市原グリーン電力が2005年に稼働していた。

4約5,000kWの発電能力を持ち、2012年に商用運転を開始した。

5「令和2年木材需給表」令和3年9月30日プレスリリース~木材自給率は48年ぶりに40%台に回復~