Research Project on Renewable Energy Economics, Kyoto University

京都大学経済学研究科

再生可能エネルギー経済学講座

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No.288 検証洋上風力入札③ 報道にみる低価格の解説と欺瞞

2022年1月20日
京都大学大学院経済学研究科 特任教授 山家公雄

キーワード:洋上風力入札、洋上官民協議会、FIT制度、三菱商事

 洋上風力入札シリーズの3回目である。メディアの関心も高くなってきており、低価格の理由、結果の是非を巡り議論が生じてきている。アマゾン等の協力事業者が電力価値や環境価値を高く買ってくれるのでその分応札価格を低くできる、というのである。また、高騰する価格から生じる資源部門の利益を洋上部門に補填するというのである。今回は、三菱商事グループが驚愕の低価格応札が可能になった理由についてメディアで登場する不可解な議論を検証する。なお、3週連続の掲載となるので、先々週のNo.284、先週のNo.285のタイトルの頭に検証洋上風力入札①、同②を追加することでシリーズを明確にする。

はじめに 他部門からの支援の有無を検証

発電事業以外の利益を活用

どうして三菱商事グループ(三菱G)が、超低価格を提示できたか。前回の論考で「三菱Gの驚愕の低価格は「リスクを低く想定」と「楽観的な事業見通し」によるものと推察する」とした(「No.285検証洋上風力入札② 低価格応札の要因と国内産業化実現の危機」)。今回は、何らかの手段で洋上風力発電以外の事業の利益から補填を受けているとの報道について検証する。筆者は、超低価格要因の殆どはリスクと事業の見通しで説明できると考えているが、メディアで話題の「電力取引手法」を主に考察する。

ありえないGEの支援

 まず、三菱Gの採用機種が全てGE1.2万kWであることから、GEとの連携がコスト削減の決め手であるかのような憶測記事も出ているが、これは説得力に欠ける。洋上風力の機種はシーメンスガメサ・べスタス・GEの3強が競っているが、このタイミングではGE機種に勢いがあり、標準的とも言える。今回の3海域12応募の内8チームがGEを選択している。前回指摘したように、3海域で参加した洋上風力事業者最大手のオーステッドも全てGE機種である。GEが特に三菱Gに配慮することは考えられない。むしろ想定外の低価格落札でGEとその提携先東芝は困惑していることも考えられる。

本論 アマゾンや資源部門による支援の可能性と可否

 特に目立つのが、協力会社(Amazon.com, Inc.、NTTアノードエナジー(株)、キリンホールディングス(株))による、どこかのステージでの「協力」があり、それが低価格入札に影響を与えているとの報道である。メディアにより取引方式やステージが微妙に異なるが、以下で、洋上風力を含む再エネ電源に係る電力取引について、類型化し考察する。分り易さのために、発電事業者は三菱商事、買い手はアマゾン、仲介者は三菱小売りとする。

アマゾンが付加(環境)価値を高く購入する約束がある:環境価値を減じて応札

 ラウンド1の洋上風力の入札は、FIT電源の入札である。調達価格等算定委員会に於いて上限額が29円/kWh、調達期間20年が決定されている(表参照)。

表 再エネ海域利用法に基づく公募占用指針に関する供給価格上限額についての委員長案
表 再エネ海域利用法に基づく公募占用指針に関する供給価格上限額についての委員長案
(出所)第59回 調達価格等算定委員会(9/15/2020)

 FIT価格は適正利潤を含む発電コストのことであり、環境価値は含まれない。ラウンド1洋上風力入札は、一般海域における最初の事業ということで適正利潤プラスαが認められIRR10%が前提となった。

 FIT電源にはそもそも環境価値は帰属しない。FIT電源はエリアの送電事業者が購入する義務があり、購入したFIT電力は卸市場に販売される。卸価格とFIT価格の差は再エネ賦課金として消費者が負担する。環境価値は発電事業者ではなく消費者に帰属する。

 従って、環境価値を高く購入する約束があろうがなかろうが、FIT価格とは本来無縁である。敢えて考えれば、三菱小売りがFIT電源をアマゾンに仲介する場合、小売り会社が環境価値も同時に販売し、アマゾンが環境価値を高く購入することを約束することになる。小売りの儲けは三菱商事(発電)と、例えば折半する。この「垂直統合」モデルはありうるが、誰でも考えることである。しかし、この儲けを差し引いてFIT価格入札しようとは常識では考えられない。仮にそうした行為があった場合、公募条件の公平性原則から逸脱するのではないか。なお、FIT電源が本来持っている環境価値はFIT証書により具現化・販売され、その分賦課金より事後的に差し引かれる。

 このFIT発電事業者と小売り事業者の契約締結(特定卸供給制度)は、FIT法改正により2017年4月より可能となっており、目新しいものではない。このときにFIT電源は送電会社買取・卸市場販売が強制適用となり、困った地域電力会社の強い要望もあり導入された。発電事業者が小売りとも契約するが、小売りはエリアの送電事業者より卸スポット価格で購入する。それをアマゾンに売る訳である。環境価値は三菱小売りはFIT証書を市場から購入しアマゾンに販売する。これは誰でもできる制度である。電力(kWh)価値も環境価値も市場価格があり、これを大きく超えてアマゾンはコスト保証するであろうか。FIT証書価格は経産省の指導もあり現在0.1~0.3円/kWhである。実際のコストが問題で、市場を無視できる錬金術は存在しない。

アマゾンが電力価値・環境価値を高く購入する約束がある:FIT権利を返上し市場取引への切り替えを想定

 入札でFIT権利を得た後に、その権利を放棄して、所謂マーチャント電源として相対取引(PPA)に委ねる方策がある。この場合は、市場価格に縛られずに電力価格を決められる。非FIT電源として環境価値は帰属し、ピカピカの環境価値を販売できる。この電力価値と環境価値を独自に決めることは可能である。その価値分を減じた水準を応札価格とすることはありえるようにみえる。しかし、FIT電源としての公募であり、ゆくゆくは市場取引に切り替えるからとの思いの下で、真の発電コストから(市場価格以上の)電力価値や環境価値を減じて応札することは認められているのであろうか。もっとも、市場価格はFIT価格よりも低い、少なくとも変動リスクに晒されると考えられ、アマゾンと言えどもこのリスク受け入れを確約するだろうか。現状0.1~0.3円以上の環境価値を約束するだろうか。いずれにしても8年先の取引を保証するとは考え難い。

 なお、欧米ではPPA取引が活発であり、再エネ普及に貢献している。しかし、欧米は再エネコストが下がり市場価格に接近しているのである。FIP取引もこれからの日本では早期に過ぎる。

FIT期限切れ後にアマゾンが高く購入する

 20年のFIT期限終了後に協力会社が購入する確約があるとの前提である。これも、設備が稼働でき、海域占有期間の延長が認められれば、どの事業も可能である。前述のように、2020年9月15日に開催された調達価格等算定委員会にて「再エネ海域利用法に基づく公募占用指針に関する供給価格上限額」についての委員長案が提示されたが、供給価格上限額として29円/kWhとともに調達期間として20年間となっている(表参照)。これから、応募者は、FIT期間20年としてコスト計算を行ったと考えられる。また、再エネ海域利用法による占有期間は建設・撤去込みで30年であり、これからも20年程度となる。FIT終了後の低下したコストや環境価値を織り込むのは認められるのであろうか。

 以上の3ケースは、いずれもやろうと思えばどの事業でも可能であるが、一般に、協力会社との取引から得られた利益を応札価格に反映しているとは考えられない。あり得ないと思われるが、仮に、三菱Gのみが織り込んでいたとしても、その効果は少額にとどまると考えられる。メディアは、軽い解釈で誤解を招くような報道は慎むべきであろう。データセンター、工場等の地元への立地等の協力はありうるし、入札戦略の一環になりうる。しかし、それは電力取引とはまた別である。

三菱商事、資源価格高による利益で補填

 部門間の利益補てんを示唆する情報も登場する。2020年度はどん底だった資源価格は、2021年度は急上昇して、三菱商事の資源部門は膨大な利益計上が予想されている。同社は石炭、LNGの主要プレーヤーであり、収益は市況の影響を強く受ける。資源部門でたまたま生じた膨大な利益を洋上風力事業部門に投入するというストーリーである。部門間補てんは、企業戦略であり、他の取引ならあり得る。しかし、国内産業育成を目的とする官民協議会肝いりのナショプロへの適用、FIT電源公募への適用は不適切ではないか。シェアを取る等のために出血覚悟での落札は、俗に「毒饅頭を食らう」と言われるが、巨大プレーヤーはこれが可能となる。しかし、巨人が順番に毒饅頭を食っていくと国内事業者は共倒れとなり残ったのは中国等外国事業者だけ、といういつか来た道になってしまう。

最後に 真のコストが肝心、錬金術はない

違う計算をしていないか、データ公開を

 今回は、洋上発電事業の利益を別途補てんするケースについて検証した。アマゾン等の協力会社による、電力あるいは環境価値の利益保証的な取引は、FITの枠組みでも、非FITの枠組みでも、市場価格を無視して行うことは無理がある。国際市場で活躍するアマゾンが市場価格を逸脱する取引を行うとは考え難い。期限切れ非FITにいたっては、運開して20年後は2050年となり、CNは既に実現していなければならない。また、三菱・アマゾングループに限らず、誰でもできるスキームで三菱オリジナルではない。筆者が思いつかないような妙手があるのかもしれないが、把握しているはずの審査委員、政府から説明を聞きたい。

 これだけ入札コストで差があると、各社は「違う計算をしている可能性」がある。制度に対する認識の差、抜け道的解釈、無理な変更解釈が存在するならば不公平である。疑問を鎮めるにはデータの公開が必要である。萩生田大臣の「個人的にはいろんな仕組みを見てみたかった」発言は、入札方法の変更も示唆している。点数配分などを次回から変えるのであれば、なおさら、一回目の入札、計算内容の公開が必要であろう。いずれにしても、確実に言えるのは、真のコストは動かせないということである。錬金術はありえないのである。

不可欠なFIT制度趣旨の再確認

 本シリーズで繰り返し主張しているが、是非判断の肝は官民協議会目的である国内産業育成、サプライチェーン整備であり、そして立地地域の発展である。また、FIT制度の目的・趣旨を再確認する必要がある。再エネの自立化、FIP制度の導入等で、また人事異動等で制度の理解が薄れてきたように感じる。「FITとは特定の電源を目標市場規模にまで拡大するに際して誘導するための手法であり、FITは将来価格の低減と将来市場の拡大を両立するものである」は少なくとも制度創設当初は共通認識だった。まだ実績のない洋上風力は、FIT制度創設当初の趣旨が確実に生きている。それが故に上限価格29円、IRR10%が認められているのである。今回は当面の価格の低減のみを見た大局観のない結果が出てしまった。当局に猛省を求めたい。

 18日付日経朝刊に、スコットランドで実施された10GWもの浮体式洋上風力発電事業入札結果に係る記事が載った。「スコットランド政府は産業育成などのため、価格面だけでの勝負にならないよう、開発権の応札価格に1平方キロメートル当たり10万ポンドの上限を設けた」とあり、これは日本の基準では最低価格設定に該当する。洋上風力の実績がない日本でこそ、この方式が望まれる。