Research Project on Renewable Energy Economics, Kyoto University

京都大学経済学研究科

再生可能エネルギー経済学講座

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No.289 検証洋上風力入札④ 12円はIRRゼロ前提の欧州コスト

2022年1月24日
京都大学大学院経済学研究科 特任教授 山家公雄

キーワード:洋上風力入札、調達価格、FIT制度、三菱商事

 洋上風力入札シリーズの4回目である。今回は、FITの条件等を事実上決める「調達価格等算定委員会」における供給価格(FIT入札価格)上限案を巡る議論を振り返り、落札事業者となった三菱商事グループのコスト水準を検証する。議論のベースとなったのはNEDO調査による欧州コストであり、これに内外価格差を加味して29円としていた。この欧州コストはIRR(内部収益率)ゼロを前提に12円/kWhとなっており、三菱Gの由利本荘の応札価格と同一となっている。欧州コストを導入したと推測されるのである。

 洋上風力ラウンド1のFIT入札上限額(供給価格上限額)は29円/kWhであったが、三菱Gは由利本荘11.99円、能代・男鹿・三種13.26円、銚子16.49円と1/2~1/3の水準での落札となった。専門家、同業者でも全く想定していなかったこの低水準は、どのようなレベルなのか。先行する欧州の水準に近いであろうことは予測できるが、内外価格差があり、非現実的であると考えるのが一般的であろう。しかし、政府で提示していた欧州水準と符合するのである。

 まず、FIT制度における洋上風力の調達価格水準の推移をみてみる。着床式洋上風力の調達価格は2014年に36円/kWhに設定された。2018年には「一般海域の海域利用ルール整備に合わせて、ルールの適用される案件は入札制度に移行する」ことが決まった。同時に浮体式区分が独立して設けられ、36円が適用される。2020年以降は、着床式は入札方式となった。2020年に、上限価格の34円(2020年)、32円(2021年)、29円(2022年)が決まった。事実上最初の一般海域入札となるラウンド1(今回の)3事業の上限価格となる29円は、2020年9月に調達価格等算定委員会にて決まったのである。

上限価格29円算定の基礎情報は欧州コスト

 表は、洋上風力発電に係る調達価格等について、制度創設時である2014年度調達価格36円、2020年度設定されたラウンド1の3事業に係る供給価格上限額(入札上限額)29円、そして29円算定の基礎となったNEDO試算の発電コスト12円について、内訳とともに比較したものである。内訳(諸元)として資本費(建設費 EPC)、運転維持費(O&M)、撤去費、設備利用率、IRR(内部収益率)、調達期間を取り上げた。

表 洋上風力に係る調達価格比較表(FIT制度)
表 洋上風力に係る調達価格比較表(FIT制度)
(出所)調達価格等算定委員会資料より作成

 2020年8、9月に開催された調達価格等算定委員会にて、ラウンド1の3事業(3地点4区域)に係る供給価格上限値(FIT入札価格上限値)が議論されたが、洋上風力は、国内で実績のないことから、IRRは適正予備力に1~2%の上乗せが認められ10%となった。また、やはり実績がないことから欧州の事例・事業環境(サプライチェーン、インフラ等)を参考にNEDOが試算した長期平均発電コスト(LCOE)水準に、内外価格差を考慮するとされた。1事業あたりの規模は37万kWで、10MWの風車採用が想定されており、これは国内で設定されるあるいは採用される水準と同一である。

 NEDOが参照した欧州事例は、2019年時点のものであるが、これにIRRをゼロとおいて試算した結果は12円/kWhとなった。欧州と日本の内外価格差は1.9倍とされ、これにIRR10%が加わる。29円はこのようにして算定された。

 なお、資本費であるが、接続費負担の範囲に関しては、欧州は風車から陸上変電所まで、日本は風車から陸上変電所より電力系統連系点側の範囲まで拡大する。この追加費用は、1.9倍に0.5万円/kWを加えている。この0.5万円であるが、3事業に各発電事業者が提示した額の中央値であり、平均値は1.2万円、最大となる事業は10万円を超える。

日本風力発電協会JWPAの意見

 なお、ラウンド1に係る入札制度、欧州コスト参考に関して、日本風力発電協会(JWPA)は、以下のような意見を提出している(資料)。①欧州は30年かけてサプライチェーンを整備しコスト削減を実現してきた、②セントラル方式の有無等入札環境が大きく異なる、③風況の違いも考慮すべき、④官民協議会での議論を見据えたときに上限価格水準を含め大きな変更となるのは疑問等である。

資料 欧州との比較に対する日本風力発電協会の意見
資料 欧州との比較に対する日本風力発電協会の意見
(出所)JWPA「洋上風力発電の公募・入札に関する意見」(2020/8/19 第58回調達価格等算定委員会)

欧州コストを実現できるか

三菱Gの応札価格11.99円、13.26円、16.49円は、IRRゼロとした欧州水準に近いことが分る。由利本荘の11.99円は同一である。すなわち、内部収益ゼロの欧州の水準をそのまま日本に持ち込んだと考えられる。この可否、是非をどう考えるかである。40万kWの洋上風力は建設費だけで約2000億円となるが、これを1/2とするのは容易ではない。

 我が国では、国産化及びサプライチェーンを構築するGE/東芝の風車の価格は欧州相場の倍程度と言われている。既に国内の建設会社等は作業船(SEP)や基礎資材に係る投資を始めているが、1/2のコストで判断しているのであろうか。日本のSEPの発注額は欧州のSEPの倍程度と言われている。また、これから訓練・育成する従業者の人件費は1/2にできるのであろうか。経営上IRRゼロはあり得ないと考えられ、その場合は更にコストを切り詰める必要がある。しかも総取りとなった結果、太平洋側と日本海側で3区域にて同時建設となり作業船、建設資材、人員の工程管理は非常にタフになると推測される。

 このように考えると、実現に困難を伴うことは容易に想像できる。運転開始時期が先行組より2~3年遅れるのは、このような状況が背景にあるのだろう(この遅延は国策遂行上非常に問題である)。さらに、地元の漁業関係者や市町村に衝撃が走っているという情報もあり、今後の地元との調整も非常に気になるところである。

官民協議会目標が実現すれば大変な快挙

 三菱Gが、提示した価格は、2035年迄に達成する発電コストの目標値である8~9円(=調達価格:11~13円)を大幅に前倒し達成した可能性がある。同時に、そのときまでに官民協議会目標である国内調達率60%を達成し、地域貢献の実現により地元関係者と良好な関係が構築・維持できれば、大変な快挙である。結果が表に出るまで早くて6~8年かかる。このままだと予見性に影響が出て、国内投資が滞る可能性も否定できない。早期にデータに基づく根拠や見通しを示し、疑念を払しょくしていただきたい。特に、政府には説明責任がある。今後の状況を引き続き注視していきたい。