Research Project on Renewable Energy Economics, Kyoto University

京都大学経済学研究科

再生可能エネルギー経済学講座

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No.298 太陽光発電所に「車検制度」/JPEA、地域トラブル解消に自主点検

2022年2月17日
京都大学大学院経済学研究科 特任教授 竹内 敬二

【キーワード】太陽光発電 PV版車検制度、JPEA、地域トラブル

 全国で広がる太陽光発電所への反対には、新規計画に対するもののほか、維持管理が不十分な既設設備への不満も多い。この状況を改善するため、太陽光発電事業者の集まりである太陽光発電協会(JPEA)は、自治体や太陽光業界関連団体と連携して発電所を点検し、安全性や法令順守の状況を評価し、問題があれば事業者に自主改修を促す制度作りを進めている。車の定期点検に似ているので、「PV(太陽光発電)版の車検制度」と呼んでいる。昨年、50kW未満の小出力設備を中心に試行調査を行ったところ、地域によって差はあるが、約30%が「改修の必要あり」という結果となった。

「地域トラブル増加」と「大きな期待」のギャップ

 太陽光発電は、2012年に始まったFIT(固定価格買取制度)の枠組みに乗り、日本では「一人勝ち」といわれるほど順調に導入量を増やしてきた。現在、導入量は中国、米国に次ぐ第3位の約6000万kW(60GW)になっている。しかし、最近の導入は停滞気味だ。導入量の大半を占める事業用(大型)の太陽光発電所のFIT認定量は、FIT開始直後の13年には24.2GWもあったが、最近は激減し、20年には0.9GWしかない。

 背景には、FIT価格の急激な引き下げに加えて、地域トラブルの増加がある。景観の悪化、設置場所の斜面崩壊リスク、地元住民や自治体との調整不足などが原因だ。さらにここ数年、発電所の計画を止める、あるいは抑制する目的の「規制条例」を、あちこちの自治体がつくるようになった。全国で160を越えている。

 一方、政府は、太陽光発電にますます大きな期待をかけている。政府は「2050年にカーボンニュートラル(CN)を達成する」を目標としているが、これを達成するには、太陽光発電もJPEAの導入目標である「2050年に300GW」をさらに前倒し達成する必要があるとされている。しかし、300GWは今の5倍であり、これさえも相当に厳しい数字だ。

JPEA、改革に乗り出す

 今後も太陽光発電を地域にふさわしい形で導入していくためには問題点を克服する必要がある。JPEAは2020~30年の10年間を「FITから自立する10年」と位置づけ、次のような5つのチャレンジとして改革に取り組もうとしている。

①発電コスト競争力を向上させる。
②カーボンプライシングなどで新しい価値を創出する。
③系統制約の克服(ノンファーム接続を地域送電線にも求めるなど)
④長期の安定稼働(FITの買取りが終わっても発電を続けられる仕組みづくり)
⑤トラブルを回避し、地域と共生する。地域での適地を確保する。

小出力設備に「PV版車検制度」の提案を検討

 ここでは、⑤番目の「地域との共生」を紹介する。JPEAは21年4月、「地域共創エネルギー推進委員会」を立ち上げた。主な目的は二つ。「太陽光発電所の安全性を確認し、地域住民に安心してもらう」と、「太陽光発電所を地域に必要なエネルギー(電源)として地域とともに創り上げていくものにする」である。

 委員会が設立当初から力を入れているのは、維持管理がおろそかになりがちな「50kW未満の野立て発電施設」のチェックだ。50kW以上には主任技術者の設置が義務付けられ、維持管理に責任をもっている。一方、小規模でも屋根に設置されているものは、住人の目が届くので問題は起きにくい。FITが始まった初期には、メガソーラーを50kW未満に分割して、「メンテナンス不要」として投資目的で売り出されたケースも多く、そのまま放置状態になっているものもある。

 このためJPEAの地域共創エネルギー推進委は、太陽光業界の関係団体と協力して50kW未満をターゲットに次のような点検制度(いわゆるPV版車検制度)を提案しようとしている。今年半ばに案をまとめ、経産省に提出する予定。

フェーズⅠ~Ⅳに格付け

 PV版車検制度の対象は、「既存の低圧PV(50kW以下)の野立て施設」。これを点検し、フェーズⅠからフェーズⅣの4段階に分ける。

【フェーズⅠ】フェンス・標識設置(20kW以上)の法令義務不履行や、施工不良(強度不足、パネル飛散リスク)などの問題をもち、適切な改善工事を行わない限り、認定取り消しや売電停止も免れないと思える状態。
【フェーズⅡ】今後の調査によっては改修が必要になる状態。
【フェーズⅢ】【フェーズⅣ】問題のない優良な状態。

 こうした格付けをし、必要な改修を重ねて優良な発電施設に変えていく計画だ。おおむね3段階のステップで考えている。年度はまだ構想中。
【第1ステップ】(2021~2024年度)。点検、改修でフェーズⅠをなくす。
【第2ステップ】(2025~2029年度)。構造物や杭基礎の強度チェックと改修で、フェーズⅡをⅢ、あるいはⅣの状態にする。
【第3ステップ】(2030年度以降)。すべての発電所が一定水準を満たし安全な状態(フェーズⅢ、Ⅳ)になる。

(資料;「地域共創エネルギー推進委員会」の具体的活動/PV版車検制度の提案書作成、JPEA提供)





 この点検を2~3年に一度、定期的に実施することを提案しようとしている。点検、改修は発電所所有者の責任行為だが、実際には太陽光発電の関係団体、O&M専門企業など技術をもつ団体に委託する形になる見込み。

試行(パイロット)調査では3割が「要改修」

 JPEAの推進委員会は昨年6月から、関東圏を中心に、PV版車検制度の準備段階として、「50kW未満の野立て発電所」を中心に目視でのパイロット調査を進めてきた。自治体の要請に応じて、より大型の発電所の調査もしている。目視では電気的な検査はできないが、フェンス・標識の設置状況や、架台の構造、支持構造物の状態、土砂流出の有無などはかなり分かる。

 これまで約180カ所を点検した。結果は約30%がフェーズⅠ、つまり「要改修」と判断された。残りの70%がフェーズⅡ~Ⅳとなった。Ⅱ~Ⅳをより詳しく分類するには、さらなる書類確認や現地での検査が必要になる。

 フェーズⅠの典型的な問題はフェンスや標識がないか、不十分であること。これらは比較的簡単な改修で済む。そのほか架台や基礎の強度不足、不十分なパネル固定など。中には雑草が生い茂り、発電自体が正常に行えていないと思われる発電所、人が入ることすら危険でメンテナンス作業ができない構造もあった。架台には、ビル工事の足場づくりに使われる単管パイプを組んだものも少なくないが、締め具が緩んでいるものもある。今後とくに心配されるのが傾斜地における土砂流出だった。

 「30%が要改修」は想定より多かった。この割合で考えると、日本全体では約490万kW(4.9GW)の低圧発電所(50kW以下)がフェーズⅠの状態で存在していることになるという。まずはこのフェーズⅠをなくす対策が急務になる。

 JPEAはこうした結果と対応策をまとめ、自治体、太陽光業界関連の団体などからも意見を聞いて「PV版車検制度」の内容をまとめ、今年半ばには実行書を経産省に提案する予定だ。しかし、制度づくりには課題も多い。小規模の太陽光発電所には、そもそも構造計算書も存在していないケースがある。これまで太陽光発電所の点検は電気関係中心に偏っていたが、土木建築関係の知見ももっと必要になる。点検項目を整理し、技術者を養成する必要がある。

「小出力発電設備」向けに経産省が新制度

 一方、今後建設される小規模発電所を完全なものにするため、経産省は新しい制度をつくる予定だ。「10~50kW」の太陽光発電設備を、新設の類型「小規模事業用電気工作物」(仮称)に位置付け、必要な強度などをきちんと守らせるための「仕組み」を決める。そのうえで「技術基準を適合維持させる」「使用前に自己確認を行う」「基礎的な情報を経産省に届ける」ことを義務付ける。これまであいまいだった部分をはっきりさせるということだ。経産省は2023年度の法律施行を予定している。JPEAは、この制度づくりにも協力している。

まとめ、「地域との共生」の構築

・JPEAが太陽光発電の問題解決に乗り出してきたことは評価できる。背景には太陽光発電のイメージ悪化への危機感があるだろう。ただ昨年の小規模発電施設を対象にした調査では「約3割が要改修」となった。これはイメージにとどまらず、実際にも問題をもつ設備が多いことを示している。

・既存設備を点検し、改修を進める「PV版車検制度」は期待できる試みだ。しかし、制度そのものを完全に法令化、義務化するのは難しいので、「民間ガイドライン」のような形にし、それを業界全体が尊重する形をつくるなどが必要だ。

・この制度が機能して太陽光発電の既存設備の改修が進めば、地域の安心や太陽光発電のイメージ改善につながると期待される。それだけでなく、発電設備、パネルの健全な中古市場ができる。そうなれば太陽光発電設備はFIT時期を終えた後も有効にはたらき、日本の再エネ増加を支えるものになる。

・PV版車検制度は小規模設備が対象だが、より大きな問題は大規模発電所だ。景観への影響、斜面崩壊などのリスクなど問題も大きい。しかし、大規模発電所の対策はこれからだ。まずは自治体が中心になり、JPEAや国が協力して外観チェックなどから始めることが考えられる。建設前には環境アセス制度も積極的に使うべきだ。

・太陽光発電所の問題解決には二つのことが必要だ。一つは、問題のある発電所を改修して安全なものにすること。「車検制度」などはこれに当たる。もう一つは、地域に好かれる発電所にすることだろう。まさにJPEAが新設した委員会を「地域共創エネルギー推進委員会」と名付けたように、そもそも再エネは未来のあるべきエネルギーであり、事業者と地域住民は「一緒に育てる」関係になることが可能だ。

 しかし、不幸にも太陽光発電はしばしば「迷惑施設」と見られている。一つはFIT制度の開始当初、地域との丁寧な関係作りができなかった結果でもある。「共創」「地域との共生」の関係をつくれるかどうか。日本の再エネの将来に大きく影響する。