Research Project on Renewable Energy Economics, Kyoto University

京都大学経済学研究科

再生可能エネルギー経済学講座

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No.303 検証洋上風力入札⑨ 審査基準見直しの背景と意義

2022年3月22日
京都大学大学院 経済学研究科 特任教授 山家公雄

 3月18日、政府は、洋上風力選定審査基準の見直しを実施すること、進行中であるラウンド2の秋田県八峰町・能代市沖事業について入札手続きを延期すること、を発表した。ウクライナ戦争による資源への影響を背景に、エネルギ-セキュリティの観点から再エネ導入を加速する必要があることを理由とする。日本風力発電協会が評価見直しの提言書を2月22日に取り纏めてから一ヶ月弱、大きな節目を迎えた。本シリーズ9回目となる今回は、政府決断の背景と意義について解説する。

キーワード:洋上風力入札 審査基準見直し 再エネ前倒し

1.萩生田大臣の洋上風力審査基準見直し発言の内容と意義

萩生田大臣の発言

3月18日午前9時過ぎに、萩生田経産大臣は、記者会見で以下のような発言を行った。

①総理の指示で、省内横断的な「戦略物資エネルギーサプライチェーン対策本部」を設置する。
②エネルギ-安全供給・脱炭素の観点から、3月29日より総合資源エネルギー調査会に新たに小委員会を設置し、水素・アンモニアの導入拡大に向けた議論を開始する。
③エネルギ-安全保障の観点から、洋上風力の公募を見直す。

③について詳しく見ると次の通りである。
「3点目だが、洋上風力の公募を見直す。ウクライナ情勢をふまえ、エネルギー安全保障の面でも重要な脱炭素の国産エネルギーとして、再エネ導入確保は急務である。特に洋上風力は昨年末の再エネ海域利用法に基づく公募結果により、実際に太陽光等と競争可能な一つの大規模電源であることが明らかになった。これまでも運転開始が早いことは評価項目の一部だったが、今後においては価格だけでなく早期の導入という観点でも、各社の競争を促す仕組みとしたい。そこで現在行っている秋田県の八峰町能代市沖の公募についても早期稼働を担保する仕組みとするべく、締め切りを延長し、今年の夏以降に新たに指定する促進区域とあわせて、公募を実施する。具体的な公募のあり方については3月22日から審議会で議論を開始し、その結論を審査基準に反映したい。」

 また、大臣発言を受けて、資エ庁、港湾局のHPにて同様の連絡文書が掲載された(「再エネ海域利用法に基づく「秋田県八峰町及び能代市沖」における洋上風力発電事業者の公募を見直します」)。これにより「秋田県八峰町及び能代市沖」における洋上風力発電事業者の公募の実施スケジュールを延期することが公示され、審査基準の見直しを行うこととなった。資エ庁と港湾局の「洋上風力促進小委員会合同会議」において、3月22日(火)より議論が開始される。

大臣発言の意義 導入前倒しと目標値引上げ

 大臣発言3項目のなかで、洋上風力は3番手であるが、水素・アンモニアは既定路線であり、順番を超えるインパクトがあると考える。見直しの理由としてウクライナ情勢等を背景とした資源価格高騰と長期化の懸念、資源輸入国である日本への影響と要対策を挙げる。脱炭素に加えて安全保障(エネルギ-セキュリティ)が大きくクローズアップされ、国産エネルギ-で脱炭素が期待される洋上風力の前倒し導入が肝要との判断の下で、価格だけでなく早期運転開始等を重視する姿勢に転換する。見直しの理屈としての再エネ前倒しではなく、前倒しが実際に行われ、2030年5.7GW、2040年30~45GWの洋上風力目標値が引き上がることを意味すると考えられる。

資源高のなかで前倒しするために見直しは必然だった

 筆者は、ウクライナ問題の有無にかかわらず、三菱Gの事業実現性や採算性に関して疑念をもっているが、最近の資材高騰で追い打ちがかかることは容易に想像がつく。洋上風力設備は大量の鉄、銅、ネオジウム等を必要とするが、昨年は鉄が5割程度、銅が2倍程度の市況アップとなり、その後も高止まりの状況にあるが、ウクライナ侵攻によりさらに上昇する可能性がある。こうした厳しい状況下ではあるが、三菱Gによる予定通りの事業遂行を期待するところである。

 一方で、ラウンド2以降の事業については、ここ数年は資源高の影響を受けることが予想される。建設会社、メーカー、サプライヤ-等の見積りはラウンド1の水準を超えるものとなろう。三菱Gが示した「価格破壊」のスキームは、国内産業化や地域振興面のみならず経済面(入札価格)からもいよいよ持続可能ではなくなっている。洋上風力の前倒しを含むスケジュールを実現するためには、審査基準の早々の見直し、リセットが不可欠であったといえよう。

2.見直しに至った背景と期待

 ウクライナ侵攻以前より現行審査基準へ疑念を示す向きは多かった。価格評価で決まった、地元調整や運開時期等の実現性(定性)評価が殆ど評価されなかった、10年程度かかると想定されていた低価格が一回目で登場し国内産業育成が滞る、自治体や漁協等の期待が萎む、落札グループが事業を実施できずに国策が頓挫する等多くの懸念が生じた。

 大臣発言や政府発表文書では、ウクライナ侵攻を受けた資源危機を見直しの背景としているが、評価見直し自体は既定路線で、その範囲にラウンド2が含まれるのか否かが焦点となっていた。関係者を主に入札結果に疑念を持つ向きは多く、それにも拘らず情報開示や結果解説がなされない状況の下で、洋上風力入札参加に二の足を踏む事業者が増え、漁協・自治体等の地域受容性低下が懸念されるようになっていた。外資の中には半ば公然と情報非開示への批判を口にしたり、欧州勢の日本市場からの撤退を示唆する事業者も出てきていた。

 有識者やメディア、政治も情報収集に努め見解や提案を表明するようになっていたが、これが見直し決断の後押しをしたと考えられる。本シリーズが1月6日に始まり、その後多くのメディアが賛否両論の議論を展開し(次第に疑問の比率が高まってきている)、自民党の再生可能エネルギー普及拡大議員連盟も当初より問題意識を持ち勉強会を重ね早期運開を評価すべき等に言及していた。2月22日には最大の当事者である日本風力発電協会が提言書を取り纏め、3月1日に直接政府に説明を行った。そして何よりも萩生田大臣が1月7日にそして2月に行った予算委委員での答弁にて、評価基準見直しを強く示唆していた。

ウクライナ侵攻のよる資源高は見直しの一押しだが、再エネ前倒しを大きく後押し

 以上から、ウクライナ侵攻がなくとも見直しは織り込まれていたと考えられるが、政府が進行していたラウンド2募集のリセット・延期を決断したことは、評価に値する。ウクライナ侵攻は、エネルギ-危機の激化・長期化への懸念を強め、国産資源で燃料不要の再エネへの期待を高めたことは事実であるが、一方でプロセス入り後の募集延期という異例の理屈として利用されたとも思われる。しかし、前述のように再エネあるいは洋上風力の前倒し導入に一気に舵を切る契機になった。「瓢箪から駒」かもしれないが、前倒しが実現する、結果OKとなることを期待したい。資源高は、それ自身前倒し導入にとり逆風となるものであり、インフラ整備の一般負担、長期低利融資等の政策支援が不可欠と考える。

最後に 早急な情報開示を

 今回は、3月18日に発表された洋上風力審査基準見直しについて解説した。進行中であったラウンド2からの見直し決断を高く評価したい。また、22日にから始まる審議会における迅速で官民協議会の目的に沿った結論を期待する。入札結果が発表された12月24日以来、約3カ月経過し、この間、正式の情報開示はないもののかなりの議論が行われ、日本風力発電協会をはじめとして提言が表明されている。不十分ではあったが一度入札を行ったとの実績はあり、通常の審議に比べて考え方は整理されている。

 いずれにせよ政府による一般的な情報開示や評価結果の解説はまだである。応札事業者の要請に応じた個別開示がなされ、現在それを受けた議論が水面下で行われている様ではある。とにかく、ラウンド1に係る一般的な情報開示、結果解説が先決である。ここに至っては審議会での開示となりそうであるが、応募事業者を主に関係者に直接説明する場が必要であろう。次回は、筆者によるラウンド1に係る総括を行う。