Research Project on Renewable Energy Economics, Kyoto University

京都大学経済学研究科

再生可能エネルギー経済学講座

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No.318 変貌する再エネ価値の取引
-再エネ証明から属性証明の時代へ-

2022年6月2日
京都大学大学院経済学研究科 特任教授 内藤克彦

1.概要

 欧米においては、2000年頃から再エネの推進システムとして、RECやGOのシステムが設けられ、活用されている。再エネには、電力価値と再エネとしての環境価値があり、これを切り離して取引をするためのツ-ルである。我が国においては、再エネによるゼロエミッションを実現しようとすると再エネ電力を使用しなければならないという風に長らく考えられてきた。米国等においては、早い段階から、再エネ電力の再エネ価値と電力価値を切り離して、個々別々に取引するということが行われてきた。元来、系統を通じて相対契約で再エネ電力を購入しても、実際に購入者のところに届く電力は、時々の電力潮流に応じて化石由来・再エネ由来の電力が混ざったものであり、再エネとの相対契約は形式上の再エネ利用権の確保に過ぎなかったわけであるが、これをより明確に電力価値と再エネ価値を分離したのである。再エネ価値を分離すると、重複する発電履歴の再エネ価値証書を作らないよう、いつ、どの発電所で、とれだけの電力を発電したのであるかという、発電履歴を正確にたどれるように厳密に管理することが重要となる。北米のRECや欧州のGOのシステムでは、この発電履歴の管理システムが属性トラッキングシステムとして発展してきた。一方で、気候変動対応のために、企業の電力使用を100%再エネにするという運動が、RE100として、世界的に活発になっている。これを達成する手段として、属性トラッキングが重要なツ-ルとなっている。本稿では、まず属性トラッキングシステムについて解説したうえで、RE100の要件として、属性トラッキングシステムがどのように活用されているかを解説したい。

2.再エネ価値取引の発展経緯

 電力消費のゼロエミッション化に取り組む先進的企業や自治体では、自家発電としての再エネ発電の導入や相対契約による再エネ電力の導入が早い段階から行われていたが、米国では1990年代の半ば頃になると多くの州で相次いでRPS制度が導入されるようになる。RPS制度は、州法にて電力小売り事業者に一定割合の再エネ電力の販売を義務付けるものである。米国各州は、再エネ普及のインセンティブと州の電力消費のゼロエミ化を狙って、RPS制度を導入する。



図1 RPS制度の導入状況(FERC資料)

 RPS制度の導入と並行して、米国においてはREC(Renewable Energy Certificate)取引のシステムが整備される。再エネ比率を上昇するのに、再エネ電力を相対取引等で購入していると再エネは出力変動するので、同時同量義務に基づくインバランスペナルティを避けるためには、発電・受電の精密な管理が必要となる。これを避けるには、電力取引と再エネ価値取引を分離すると都合が良い。再エネ発電の電力価値は、最寄りのノ-ドから電力卸売市場に売却し、再エネ発電の再エネ価値(環境価値)は、証書化して別途販売するわけである。この場合、再エネ価値のカバ-する電力量と再エネ発電から売却される電力量が、正確に一致することが必要であり、再エネ価値証書が独り歩きして、多重に使用されること等を防止する必要がある。つまり、再エネ価値の証書を扱うものは、以下のような点を厳格に管理する必要があるわけである。

〇再エネであることの確認
〇再エネ価値の所有者の確認
〇再エネ発電の時刻、発電量、場所の確認
〇二重取引防止のための発電属性の相互チェック
〇その他

 そこで、北米においては、こうしたことを確認・認証する組織が設立された。



図2 REC認証・取引機関(FERC資料)

 北米においては、図2に見られるように複数の認証機関が、担当地域を決めて活動しているので、RECの二重使用がされないように、認証機関同士で相互チェックする体制が敷かれている。米国におけるこのような動きを受けて、欧州においても再エネ価値の取引のメカニズムが作られることになる。1999 年から 2002 年の間に、REC イニシアティブということで、英国の発電事業者とオランダとの間でREC取引の連携が始まり、その後、6 か国でパイロット的に事業を実施した。このパイロット事業を受けて、2014年のEU指令で欧州版のRECシステムであるGO(Guarantees of Origin)の体制が確立される。同時期に、オランダにおいて、2015年に国際トラッキングシステムとしてThe International REC Standard Foundation (国際REC規格財団)が設立され、北米・欧州以外のRECの国際的システム構築が始められた。2018年には、国際REC規格財団は、非営利、中立な団体としてル-ルメイキングと実施機関認定、ル-ル順守の監視に徹することになった。RECシステムの運営自体は、オランダに設立されたI-REC Services B.V.という会社が、営利活動として実施しており、RECサ-ビスの名称は「EVIDENT」として、英国にコンピュ-タ-センタ-を設け、I-REC(International REC)登録管理のハ-ド、ソフトを管理している。国際REC規格財団では、25年以上の欧米におけるRECシステムの経験を踏まえて、国際属性トラッキング規格(The International Attribute Tracking Standard)を2021年に制定している。RECシステムのグロ-バル規格化の第一歩を踏み出したものとみることができよう。

 一方で、我が国においては、非化石証書、Jクレジット等のロ-カルなREC類似システムが構築されつつある。

3.再エネ価値取引の性格の変化

 再エネ価値取引は、25年の間に次第に発展し、性格が変化してきていると考えてよいであろう。



図3 再エネ価値取引の変化

 再エネ価値の取引は、当初は、「再エネ電力」の取引であったが、エネルギ-取引と再エネ価値取引は切り離され、「再エネ証書」の取引に変貌する。しかし、二重取引されない「再エネ証書」とするためには、どういう種類の再エネで、どこで、いつ、どれだけ、誰により発電されたかという詳細な属性をトラッキングすることが重要であるということが認識されるようになる。このようになると、単なる再エネ電力証明ではなく、属性証明自体が再エネ証書の本体として認識されるようになる。つまり、「再エネ証書」は、「属性証明証書」に取って代わられるようになる。当初は、REC(Renewable Energy Certificate)という言葉に現れているように、再エネの証明であったものが、The International Attribute Tracking Standard(国際属性トラッキング規格)という言葉に現れているように属性トラッキング証明に変質したわけである。

 再エネの証明を、属性証明という概念に抽象化・整理してみると、この属性証明という概念は、再エネの世界だけではなく、同じように属性証明を必要とする多くの分野にそのまま使えることが明らかになる。国際属性トラッキング規格の前書きにも、「本規格により、消費者は「グリーン」電力と「グレー」電力を区別できるだけでなく、基本的な特性でも一見目に見えない特性を属性トラッキングシステムで確認してトレースすることができれば、他のタイプの好ましい製品(天然ガスvsバイオガス、新たに採掘された鉱石vsリサイクル金属など)も識別できる可能性がある。」と明記されている。例えば、EUでは、この属性トラッキングシステムをそのまま、再エネ由来水素に適用し、ガス版RECを作り、再エネ水素製造のインセンティブとする方向で動き出している。この「国際属性トラッキング規格」は、属性トラッキングの基本的なフレ-ムを定める憲法のようなもので、トラッキングの対象や国・地域により、CODEがさらに定められている。例えば、再エネ電力用には、EVIDENTの用いるCODE(I-REC(E))が定められている。

 一方で、実質ゼロエミッションを達成するためには、グリ-ン電力とブラウン電力を厳密に区別していこうという動きがEU等で始まっている。この区別の手段として、属性トラッキングが活用されることになる。例えば、自家発再エネで工場のゼロエミッション化を図ろうとした場合に、再エネであることは自己申告のみで誰かが証明してくれるわけではない。そこで、自家発の再エネにも属性トラッキングによる証明が必要という前提で、The International Attribute Tracking Standardは自家発も含めることができるように作られている。欧州においては、逆に属性トラッキング証明の無い電力は、Residual mix(残余ミックス)として一般系統電力と同じ扱いとする方向となりつつある。

4.属性トラッキングのシステム

 属性トラッキングシステムの概要をI-RECの例で示すと、図4のとおりである。トラッキングデ-タを管理する大規模なレジストリが用意され、トラッキングを希望する発電者は、まず発電者登録を行う。通常は、発電者としての取引口座をレジストリ上に開設し、RECにする場合には、REC発行者として定められた中立団体の認証を受けたのちに、発電履歴デ-タを取引口座にRECとして書き込む。REC発行者は、申請されたデ-タの信頼性等を確認するとともに、二重使用等が無いことをチェックしたうえで、RECの認証を行う。このような確認作業のために、詳細な属性履歴が重要となるわけである。一度レジストリに書き込まれたRECは基本的に変更不可となる。一方で、RECを使用したいと考えるものは、参加者として、レジストリに口座を設けることができる。発電者から参加者への売却は、レジストリ内でのRECの口座間の移動という形となる。なお、RECを再エネ価値として利用しない間は、何回でも転々売買が可能である。RECの所有者が、再エネ価値としてRECを利用する場合には、償却口座を開設し、所有するRECを償却口座に移転する。償却口座に移転されたRECは、そこで凍結され、償却口座から外に出すことはできない。このようにして、RECの二重使用を防止しているわけである。償却口座に移転されたRECについては、属性情報を辿れるシリアルナンバ-の付与された証書(Statement)が必要に応じて発行される。



図4 属性トラッキングシステムの概要

 レジストリを運営するEVIVENTでは、発行者の認証作業を効率化するために、スマ-トメ-タ-等のデ-タの電子的確認等を可能とするシステムを構築している。

 以上が、基本的なシステムの動きであるが、運営する組織の構造は、図5のようになっている。先に述べたようにREC規格財団が、基本的なル-ルを国際トラッキング基準として制定し、再エネのトラッキングであれば、コ-ドマネ-ジャ-が、運用細則を定め、リジストリ管理者がレジストリシステムの管理を行う。発行者は、RECの認証者としての役割があり、中立団体であることが求められている。発行者は、原則として一国一団体であり、日本では、既に一般社団法人ロ-カルグッドが、発行者として認定されている。プラットフォ-ムオペレ-タ-は、発電者や参加者といった属性トラッキングシステム参加者とレジストリを繋ぐ仲介者の役割で、各国のユ-ザ-が母国語で容易にトラッキングシステムを利用できるようにしたり、取引の仲介をしたりする機能を持つ。また、個々の発電者や参加顧客が直接レジストリ上の口座を開設しなくとも、プラットフォ-ムオペレ-タ-の口座でトラッキングの処理が代行できることになっている。



図5 国際属性トラッキング規格におけるトラッキングの体制

 国際属性トラッキング規格には、詳細に種々のことが定められているが、ごく基本的なことを列挙すると以下のように定められている。

①不変の原則

 本規格に従って発行された製品(発電)証書 は、製造(発電)所における1つ以上の行為または活動に関連する検証済みの事実のステートメントである。発行時の製品(発電)証書に含まれる情報を後で修正することはできない。将来の活動または行為に対して製品(発電)証書を発行することはできない。

②一意性の原則

 製品(発電)証書は、指定された期間に特定の行為または活動に関連付けられた証明済みの属性を表す一意のステートメントである。製品(発電)証書は、同じ行為または活動に関して、当該製品の別の証書や類似の手段、または製品の仕様に含まれる属性が現存する場合、発行されない。

③専有と所有権の原則

 属性トラッキングシステムの信頼性は、生産者から最終証書利用者への製品(発電)証書の保有の連鎖が明瞭で途切れないことによって保証される。製品(発電)証書の保有が常に検証可能であることが必須である。

④使用の明確性

 製品(発電)証書は、償却されると使用済みと見なされる。償却された製品(発電)証書は、別の事業体または個人に譲渡できなくなり、複数回にわたって償却することはできない。製品(発電)証書の使用は、償却時にのみ最終証書利用者に検証可能な形で譲渡することができる。

⑤証拠主義

 製品(発電)証書は、過去の行為または活動について独自に検証された証拠に対してのみ発行することができる。

 国際属性トラッキング規格の特徴は、個々の発電所の時々の発電行為をレジストリにRECとして記録し、書き換えを許さないという点にある。これにより、同一発電であるかどうかを常に確認できる状態にしておくということであろう。例えば、年間の再エネの発電量の合計値を分割して証書として単に割り振ると、割り振られた再エネ価値がいつ、どの発電所の発電によるものか、辿れないので、仮に重複販売されても不正を証明できないことになる。また、償却の手続がないと、再エネ価値が使用済みか未使用かも判別できないので、価値の二重使用ということも起こる可能性がある。

 この他に、国際属性トラッキング規格では、関連するインフラのデ-タ保護、やセキュリティ、デ-タ管理等についても詳細に定められている。

5.RE100の基準

 トラッキングシステムを利用する側としては、RE100などのプログラムがある。RE100には、既に多くの日本企業が参加し、使用電力の再エネ100%に向けての努力を開始している。RE100の技術基準では、トラッキングは、どのように扱われているのであろうか。

 RE100では、信頼性の高い申告が必要とされており、以下のような要件が列挙されている。

①信頼性の高い発電データ
②属性の集成
③属性の二重にカウントされない、独占的所有権
④属性の二重にカウントされない、独占的申立て
⑤申立ての市場の地理的制限
⑥申立ての製造(発電)年の制限

 上記に見られるように、RE100では、属性トラッキングを前提とした申告が必要とされていると考えてよいであろう。

 RE100では、さらに再エネの調達方法別に、細かく要件を整理している。

(1)自家消費に利用する自家発電の再生可能電力

オンサイトまたはオフサイト、ローカルグリッドに接続された、または完全にオフグリッドの会社が所有する設備により発電された再生可能電力

⇒企業は自家発電からの証明書を保持する必要がある。証明書システムのない市場では、会社は発電の属性を保持し、他者が施設からの再生可能電力の使用または供給を主張できないようにする必要がある。

☆このように自家発電を利用する場合にも、属性証明が必要ということをRE100では、定めている。少なくともトラッキングは実施しておき、いつでも属性証明ができる状態にする必要がありそうである。

(2)サプライヤーが所有するオンサイト設備から購入

サードパーティのサプライヤーが所有および運営するビハインドメーター(系統の電力系の工場側)のオンサイトで発電された電力

⇒再生可能電力消費量は、プロジェクトのエネルギー属性またはプロジェクトに関連するエネルギー属性証明書の権利を譲渡するサプライヤーとの電力供給契約によって裏付けられねばならない。

☆いわゆるオンサイトPPAですが、発電者の所有する属性証明の移転が電力契約上の際に必要とされている。

(3)グリッド送電なしのオフサイト発電機への自営線接続

サードパーティが所有および運営するオフサイト設備で発電され、グリッド送電なしで直接自営線を介して会社に供給される再生可能電力

⇒再生可能電力の消費量は、再生可能エネルギーの属性を含む、プロジェクトの所有者および運営者との電力供給契約によって裏付けられねばならない。

☆これは、自営線でばれたオフサイトPPAで、(2)と同じ扱いとなっている。

(4)オフサイトのグリッド接続された発電機からの直接調達(PPA)

購入者(電力を調達する会社)と再生可能エネルギー発電機との間で契約を締結。PPA。

⇒仮想PPA:再生可能エネルギー発電機が地元の卸電力市場に電力を販売する契約。発電者と企業は、変動卸売市場価格と契約行使価格の差額を決済し、企業はプロジェクトから生成された証明書を受け取る。
物理的PPA:発電者は、物理的な電力とエネルギーの属性、およびその他の可能な条件をスケジュールして送電。
いずれのPPAについても、エネルギー属性証明書は同じ市場境界内で取引される。

☆ここでも再エネ価値については、属性証明の取引によることが前提となっている。系統を利用するPPAの場合、送電線のつながっている同一市場内の取引が前提となっている。

(5)供給業者からのグリーン電力製品

顧客は通常、キロワット時あたりのプレミアムを支払い、標準の契約から再生可能な電気に移行。サプライヤーは、会社が消費する電力とさまざまなソースから調達された再生可能電力とを一致するようにグリッドを介して供給。

⇒証明書システムが存在する市場では、サプライヤーは、消費する会社に代わって証明書を償却。サプライヤーは、紐づけされていない証明書を購入することで、グリーン電力供給をバックアップすることもできる。

☆電力小売り会社が、グリ-ン電力商品を売却するときには、消費者に代わって電力小売業者が、RECの償却をすることが条件となっている。また、電力小売り会社は、RECを買い集めてグリ-ン電力商品を構成することができるとされている。

(6)エネルギー属性証明書の購入

企業は、請求者と同じ市場境界内で稼働する再生可能発電機に発行されるエネルギー属性証明書を取得することにより、再生可能エネルギー発電の環境上の利益を申し立てができる。

⇒購入した属性証明でRE100に対応できる。化石燃料の自家発電に対して、属性証明を用いることは推奨されない。

☆これは、RE100企業が自ら属性証明を買い集めるというもの。

(7)証明書によってサポートされた、既定供給された再生可能電力

消費者が自主的に調達したものではなく、電力会社/供給業者が顧客へのデフォルトの供給として供給した、再生可能電力MIX

⇒消費者は、サプライヤがRECを償却していることを確認する必要がある。

☆これは、電力小売りから供給されるエネルギ-ミックスの中の再エネ分をRE100に用いるというものですが、RE100の申告に用いる分のRECについて、電力小売りが償却していることを確認することが条件となっている。

 以上、RE100が技術基準で定めている種々の再エネの申告方法であるが、いずれの場合も、属性トラッキング証明の移転や償却が前提となっており、電力小売りが再エネ商品として販売する場合には、電力小売りが消費者に代わってRECの償却処理を行うことが前提となっている。

 このように、RE100の世界においては、属性トラッキングの存在が、前提として既にシステムが組まれていることに注目する必要がある。

6.おわりに

 本稿では、世界においては再エネ電力の取引が、属性トラッキング証明の取引に変貌し、属性トラッキング証明のシステムがゼロ炭素社会の実現のためのツ-ルの一つとして、体系的に位置づけられてきていることを示した。国際属性トラッキング規格という名称にも伺えるように、欧米は、これを世界標準の手法として定着させようとしているように見受けられる。欧米では、RECのシステムには既に25年の実績が積み重ねられているが、我が国においては、まだ、電力取引と再エネ価値取引の分離の概念すら十分に理解されていないように見受けられる。こられのシステムは、ISOのようにグロ-バルサプライチェ-ンを通じて産業活動にビルトインされる可能性があり、我が国においても世界標準に準拠した早急な対応が必要であろう。