Research Project on Renewable Energy Economics, Kyoto University

京都大学経済学研究科

再生可能エネルギー経済学講座

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No.327 洋上入札評価見直し③:海外風車メーカーが日本進出を躊躇する理由 小規模・遅い納期・低価格

2022年7月19日
京都大学大学院経済学研究科 特任教授 山家公雄

キーワード:洋上風力入札見直し 海外風車メーカーの日本進出 パブリックコメント

 洋上風力は、官民協議会で方針が決まり成長戦略の筆頭に位置する施策であり、洋上風車メーカーの国内工場建設が期待されるところである。洋上風力発電メーカー3強はシーメンスガメサ、べスタス、GEであるが、シーメンス・ガメサは、第2ラウンドは日本市場参入(国内工場建設)を見送る方針と言われる。べスタスは、長崎県で工場建設を検討していたとされるが補助金の正式申請は提出していない。GEリニューアブルエナジーは、東芝エネルギ-システムズと組んでナセル組み立て工場を横浜市に建設(2024年完成予定)する。今回は、洋上風力メーカーが日本国内市場参入にまだ踏み切っていない要因について考察する。結論は、第1ラウンドの不十分な総括(入札評価基準の見直しの不徹底)と、第2ラウンドの募集が極めて小規模になりそうなことである。

1.パブコメ開始直後の報道と風車メーカーの抗議

 7月16日の日経新聞朝刊に、「べスタスは長崎県で検討していた洋上風車工場建設を中止」との記事が載った。もう一方の2大洋上風車メーカーであるシーメンスガメサ・リニューアブルエナジー(以下シーメンス)も、第2ラウンドへの供給を絞ると記されている。日経は15日にはwebで先行して掲載しているが(「洋上風車欧州大手が日本工場建設中止 公募ルール変更で」)、同日中にベスタス・ジャパン㈱、MHIベスタスジャパン㈱は連名で「本日の日本経済新聞電子版の記事について」と題して「---事実に反する内容であり、当社は日本経済新聞社に対し、厳重に抗議するとともに、記事の修正または削除を要請いたします。---」との内容をHPに掲載した。

 この日経記事は正確ではない。「工場建設に係る補助金申請を取りやめた」ことは事実だが、これは3月に決まっていたことであり、このタイミングで大々的に取り上げるような情報ではない。べスタスやその提携先である三菱重工が即行で「厳重抗議、修正・削除要請」を表明しているのは、日本市場参入断念とも受け取れかねない内容に強い不満があったからと推察される。当事者への確認無しに憶測で1面記事にしたということである。

 洋上風力入札見直し案は、14日にパブリックコメントが開始された(「一般海域における占用公募制度の運用指針(改訂案)」に関する意見募集について)。15日はその直後であるが、一流紙が当事者に即行で否定・抗議される見出しを第1面(16日朝刊)で掲載したことになるが、世論への影響は小さくない。より問題なのはその要因分析である。風車メーカーが参入を決めきれない理由として「第1ラウンド直後に審査基準を変える分り難さ」「選定事業者を制約する競争環境への不信」を挙げる。この見解は委員会等でも一部の委員や事業者が展開している。筆者は見解を全く異にする。以下で解説する。

2.海外風車メーカーが日本進出を見定めている真の理由

 べスタス、シーメンスが国内進出をまだ決めていないことは事実であり、この状況が長引けば、官民協議会が目的とする大規模導入・国内サプライチェーン構築・価格低下の実現に黄信号が灯ることになりかねない。非常に問題であり、早急に要因を分析し対策を打たなければならない。

 この2社は、第1ラウンドから国内市場参入に関して様子見の状況であり、いち早く東芝と組んで参入を表明したGEが、旬の機種「ハリアデX」を抱えていたこともあるが、第1ラウンドの機種を独占する要因になったと考えられる。第2ラウンドを控えてもまだ具体的な動きが見えてこないが、どうしてであろうか。参入を後押しする対策を打つためは、要因を適切に分析する必要がある。

要因1:小さい募集規模

 日経は「選定事業者を1GWまでに制約するルール見直し」を強調するが、これは要因としては細かくかつポイントではなく、ミスリードする懸念がある。真の要因は、国内の募集規模が海外に比べて小さく、風車メーカーからみるとビジネスの魅力に乏しいという構造的な要因である。2040年迄に30~45GWという規模は、先行する欧米勢にも魅力的に映り、事業者やメーカーは国内法人を創設し、工場建設の検討も行われるようになった。しかし、足元は1つのラウンドでの募集が1~2GWであり、魅力に乏しい。欧州の規模が急激に拡大してきている中では、少なくとも3~4GWは必要である。

第2ラウンドの募集規模は1.3GW

 第1ラウンドの規模は1.7GWだったが、第2ラウンドは現状では1.2~1.3GWにしか積み上がらないと言われている。日経が強調する1GWは、1.3GWのなかではそもそも制約にはならない。4月7日の再エネ大量導入小委員会において、風力協会は、エネ庁が募集量2GWを目指すとしたことを受けて、「募集規模を3~4GWにするべき」と発言している。第1ラウンドの1,7GWに4GWを加えないと2030年必達の5.7GWにならないからである。5月30日の合同部会では、風力協会は「1区域で0.5~1GW、年間複数区域」と提言した。また、風力協会は「間隔が空いてもいいので募集量を積み上げるべし」と主張している。官民協議会の議論でも、風力協会は繰り返し「1区域で1GWで年内複数区域」を主張していた。

ウクライナ侵攻で規模拡大に拍車

 ウクライナ侵攻を機に、特に欧州ではエネルギ-安全保障の位置づけが強まり、洋上風力の拡充・前倒しが政策として打ち出された(「No.316 欧州の脱炭素・脱ロシア対策「リパワ―EU」)。また、ドイツでは今年度に8GW計画を追加で出す模様である。資材価格が暴騰する折の欧州発注増の中で、風車メーカーは小規模計画に関わっている余裕はなくなる。日本政府も、選定基準を見直す理由として「ウクライナ侵攻による安全保障の高まりを受けて計画の実現と前倒しが不可欠となり、迅速性がより重要になったから」としている。「規模拡大」「迅速性」重視はその通りであるが、現実や見直し案ではそうなってはいない。

迅速性は規模拡大ためにも不可欠

 見直しの一方の焦点である「迅速性」は、安全保障やエネ基目標達の視点から、2030年5.7GWを最低限実現するためにも、海外メーカーの関心を繋ぎ止める上でも不可欠な見直し要素である。第1ラウンドでは三菱商事グループ(三菱G)の運開時期は先行組より2~4年遅れた。

 このことは、国費を投入して整備される港湾の有効利用の支障(港湾が整備されても数年間利用しない)になるだけでなく、港湾利用の遅延により第2ラウンド以降の洋上風力のスケジュールが遅れることになる。また、GE・東芝ナセル工場の稼働時期も後倒しとなる。東芝の工場が完成しても風車の製造に入れず数年待つことになる。

価格偏重が是正されない影響

 延期された「八峰・能代」を含めての募集規模1.2~1.3GWはあまりに小さい。筆者はこの要因として第1ラウンドの影響があると認識している。第1ラウンドでは、価格評価で決まり定性(事業実現性)評価は事実上無視された。定性評価も地元から見て不可解であった。地元は、地元関連項目が40点にすぎないという不満がもともとあり、地元に馴染みのない事業者が選定される評価結果に不信感がつのった。銚子と秋田の地域協力金の格差も動揺を誘った。丁寧な地元理解がより必要という流れとなり、スケジュール遅延を招いている。地元理解を促進する意味でも、見直しは不可欠だったといえる。価格評価は、政府は見直しする必要はないと公言しているが、FIP制度導入により価格偏重はより進む可能性が高い。

要因2:実績を無視し、黎明期に価格評価を偏重する姿勢

無視された世界トップの実績

 風車メーカーが日本市場に距離を置くようになった大きな要因が別途ある。第1ラウンドにてオーステッド(デンマーク)とRWE(ドイツ)という洋上風力開発に係る巨人が落選したことだ(図参照)。第1ラウンドでは、30点が配された「実績」で、両者と比較して実績の少ない三菱Gと差がつかなかった。これが、両巨人のプライドを傷つけ、審査の透明性に不信感を募らせることになる。海外から日本の入札がどうみえるかは容易に想像がつく。その後、両者の日本法人の代表はいつのまにか代わった(見直し議論以前)。第2ラウンドでも、政府案では実績の評価点は10点と逆に小さくなった。両者は最大の風車購入者である。

図 洋上風力発電事業者シエア順位(欧州・累計・2020年末)
図 洋上風力発電事業者シエア順位(欧州・累計・2020年末)
(出所)Wind-Europe:Offshore Wind in Eurpe key trend and statistics2020(2021/2)に加筆(赤線:第1ラウンド参加事業者)

価格評価偏重に起因するスケジュール遅延

 政府は、第1ラウンドは低価格が実現でき成功だったと断定する。それを受けて複数の委員が見直し不要や価格評価重視を声高に主張する。さらにそれを受けてラウンド2見直し案は迅速性の骨抜き、FIP入札の市場価格化が色濃く出てきている。「黎明期」と「FIP制度」は基本的に矛盾するのだが、2次案にて最高評価点価格は「市場価格を十分下回る水準」との解説が加わり、市場価格を念頭に置いた入札が現実化し、事業の不透明性が増している。欧州では、行き過ぎた入札圧力や資材価格の高騰で、価格志向からサプライチェーン重視に変わってきている(「No.316 欧州の脱炭素・脱ロシア対策「リパワ―EU」)。「市場価格を十分に下回る」水準は欧州でも例を見ない低価格システムと言える。

払拭されない二重価格疑念

 第1ラウンドの落札価格では、三菱Gの応札FIT価格と販売価格に乖離があるとの疑念が払しょくされていない(「No.323 洋上風力入札基準見直し② 価格総括なしの見直しで増す不透明感」)。その応札価格水準は、いまでは欧州にも匹敵すると考えられる。黎明期でサプライチェーン未整備であるが、価格が低すぎて儲からないとみられる市場は後回しになる。総取りとなった機種を提供するGEと発注者の三菱Gとの契約はどうなっているのであろうか。

最後に メーカー納得には第1ラウンドの総括と真の見直しが不可欠

 海外風車メーカーが、日本進出をためらっているとしたら、「選定事業者の1GW制約」は直接の要因ではなく、ましてや「直後の基準見直し」では全くない。真逆である。第1ラウンドにおける価格評価、定性評価に係る情報開示は遅く少なく、そして総括されていない。審査基準に係る不信感が第2ラウンドでも払拭されていない。そして募集規模は第1ラウンドよりも小さくなりそうだ。このままでは、日経でなくとも(見解は異なるが)、風車メーカーのためらいを払拭できない懸念がある。見直しの建付けとした「洋上風力はウクライナ侵攻を機とするエネルギ-安全保障対策の切り札」を実行してほしい。募集規模拡大、迅速そして実現を担保する実績等の「定性評価の充実」である。

 繰り返すが、海外メーカーの日本進出への躊躇は、選定事業者1GW制約が主因ではなく、より本質的な入札や政策の考え方にある。これを見誤ると、対応を間違い、国内サプライチェーンの整備は難しくなる。幸いにも、べスタス・三菱重工は国内進出を断念していないようである。官民協議会の原点に立ち返って、それこそ公平で透明性のある魅力ある市場を手順を踏んで進めるべきであろう。メーカーからは、日本市場は規模は小さく、納期は遅く、サプライチェーンの割に価格は驚くほど低い魅力に欠ける市場とみられている。こうした見方、不信感を早急に払拭しなければならない。