Research Project on Renewable Energy Economics, Kyoto University

京都大学経済学研究科

再生可能エネルギー経済学講座

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No.328 英国の洋上風力入札

2022年7月28日
京都大学大学院経済学研究科 特任教授 内藤克彦

キ-ワ-ド:洋上風力発電、入札、英国

1.概要

 我が国においても、先般、洋上風力の初めての入札が行われ、その後、様々な議論を巻き起こしているが、洋上風力発電の海上使用権の入札について既に多くの実績を積んでいる英国において、どのような入札が行われているのか解説する。関連して、日本の洋上風力入札との相違や英国において洋上風力を巡り、どのような動きがあるのかについて論じる。

2.英国における洋上風力の入札

(1)リ-スラウンドの実施

 英国周辺海域は風力資源に恵まれており(図1)、英国政府は2030年までに洋上風力40GW、浮体式洋上風力についても1GWの導入目標を掲げている。こうした目標を実現するために、英国は2001年以来、既に何回かのリ-スラウンドを実施しており、2022年の現在もScotwindのリ-スラウンドの手続きを行っているところである。

図1 英国周辺の風況(出典:京都大学荒川特任教授資料)
図1 英国周辺の風況(出典:京都大学荒川特任教授資料)

 当初の2001年のラウンド1のリ-スラウンドでは、募集規模は合計1.5GWであったが、2010年に実施された着床式洋上風力で最大規模になるラウンド3では、合計33GWのプロジェクトが募集された。ラウンド4で募集規模が8GWと小さくなっているのは、ラウンド4が水深60m以上の海域を対象とする初めての浮体式風力を念頭に置いたラウンドであったからであると考えられる。現在行われているScotwindのリ-スラウンドは、深浅両海域を含む広大な海域で公募が行われ、浮体式の海域で合計15GW、着床式の海域で合計10GW、総計25GWのプロジェクトを募集するもので、74プロジェクトが応募し、浮体10、着床6、混合1の計17プロジェクト、合計24.8GWのプロジェクトが落札し、手続きを進めている。

表1 英国のリ-スラウンド(出典:フロテ-ションエナジ-資料)
表1 英国のリ-スラウンド(出典:フロテ-ションエナジ-資料)

 英国のリ-スラウンドは、クラウンエステイトという組織が実施しているが、クラウンエステイトという組織は、現代人には分かりにくいので、その年次報告の記述をそのまま転記すると、以下のような性格の組織とされている。

 「クラウンエステートが管理する資産は、政府の所有物ではなく、国王の私有地の一部でもありません。この資産は、王冠の権利として付随する国王に相続される所有物の一部です。言い換えれば、王冠が所有する土地です。

 1760年の王領地の最初の和解以来、国王は国会の管理に資産を引き渡して、王領地の管理に何の役割も果たしていません。ただし、クラウンエステートは王権に代わって管理しており、国王は、優れた憲法上の管理と、クラウンエステートが事業を遂行する上で維持している基準に関して重要な利害関係者です。実際、1961年のクラウンエステート法の規定に従い、年次報告書は、女王陛下に宛てられていることが目次ページに記述されてます。」

 英国の領海および経済水域は王権に付随する土地で、クラウンエステイトの管理する土地ということになるようである。クラウンエステイトは、海上だけではなく、ロンドン市街の土地などイングランド、ウェ-ルズ等の広大な土地を管理していて、クラウンエステ-トの管理する土地は、売買されず、民間活動等のために使用権を与える形で、リ-スされている。洋上風力発電に使用される海域もクラウンエステイトから海域使用権がリ-スされることになる。これが、「リ-スラウンド」という言葉の意味するところである。

(2)リ-スラウンドの手続き

 洋上風力のリ-スラウンドの手続の概要をラウンド4に沿って説明する。

①公募海域の決定

 公募海域は、リ-スラウンドの狙いに応じて選定されるが、ラウンド4では、浮体式風力発電を念頭に公募が行われたので、水深60m以上の募集海域の輪郭を決定したうえで、国防省の訓練海域等の観点のチェック、景観の観点から海岸から13km以内は除外、海上交通年間1,000隻以上の航路を除外、鳥類等への累積的な環境への影響の検討、既存事業との重複等を考慮して、図2のように募集海域に修正を加えて4エリアの募集海域を決定している。クラウンエステイトの見込みでは、プロジェクト数では最大18プロジェクト収容可能で少なくとも合計7GW程度の風力発電は、収容できると見積もられている。

図2 公募海域の決定(出典:クラウンエステ-ト、インフォメ-ション・メモランダム)
図2 公募海域の決定(出典:クラウンエステ-ト、インフォメ-ション・メモランダム)

②公募の方法

 この公募海域に対して、プロジェクトの募集を行うわけであるが、プロジェクトの募集要件は以下の通りとなっている。
・募集するプロジェクト規模要件
 1プロジェクトの大きさが400MW以上(ドッガ-バンクエリアは600MW以上)、1.5GW以下
・プロジェクトのエネルギ-密度要件
 3MW/km2 以上
・その他の要件
 一つのエリア内に収まり、最大縦横比は1:5、既存プロジェクトから7.5Km以上離隔、航路調整等

 エネルギ-密度要件があるのは、僅かな風力発電施設で広大な海上使用権を確保することを防止するためであろう。洋上風力発電としての海上使用権を獲得することが、即ち風力資源の取得権を獲得することであることを考えた措置である。

 ここに見られるように広い海域に対してプロジェクトの規模は400~1.5GWと柔軟に想定できるようになっており、プロジェクトの地理的な配置も裁量の余地が大きい。

③入札の方法

 入札は、年間海域使用料、ポンド/MW/年の額を各プロジェクト毎に入札する。風力発電としての海域使用料なので、海域の賃貸代金は、発電MWあたりの年額となっている。なお、後述するように応募する段階で使用する海域の範囲や風力発電の方法等について資料を提出し、事前の審査を受けることになっている。

 入札は毎日行われ、その日の入札で最も高い年間海域使用料を払うプロジェクト、1プロジェクトが落札する。つまり、毎日、1プロジェクトづつ決定していくことになる。このため、落札価格は日により大きく異なる。最高値の入札企業は、直ちに、年間海域使用料のデポジットを納めることにより落札が決定する。直ちに納められなかった場合には、次点企業が落札企業となる。

 入札は、一つのエリアで合計3.5GW、全体で合計7GWを超える(ただし8.5GW以下とする)まで毎日繰り返され、目標GWに達した段階で終了する。

図3 入札の方法(出典:クラウンエステ-ト、インフォメ-ション・メモランダム)
図3 入札の方法(出典:クラウンエステ-ト、インフォメ-ション・メモランダム)

④応募の手続

 応募すると入札を含めて5段階の手続きを応募者は踏まなければならない。まず最初に、書類選考があり、入札参加希望者の資金力、技術力、コンプライアンス等が書類により審査される。書類選考を通ると、次に、プロジェクト審査があり、応募プロジェクトの技術的、経済的な審査が行われる。プロジェクト審査に合格すると、入札へ招待されることになる。落札決定者はハビタット規制適合審査等に合格すると、クラウンエステ-トとリ-ス契約を結ぶことになる。

図4 入札までの手続き(出典:クラウンエステ-ト、インフォメ-ション・メモランダム)
図4 入札までの手続き(出典:クラウンエステ-ト、インフォメ-ション・メモランダム)

 入札では、1プロジェクトづつ決まっていくので、先行した落札プロジェクトとの関係で次回の入札プロジェクトに微妙な変更を加える必要が生ずることがありうる。このようなニ-ズに対応できるように、応募段階で最大4つのプロジェクト変化形プランを登録することができる。

図5 プロジェクトの変化形(出典:クラウンエステ-ト、インフォメ-ション・メモランダム)
図5 プロジェクトの変化形(出典:クラウンエステ-ト、インフォメ-ション・メモランダム)

⑤ラウンド4の結果

 ラウンド4の結果は、以下の通りとなっている。リ-スラウンドは、約8GWに達したところで終了し、6プロジェクトが採択されている。海域エリア3については、落札者が出ていないが、一方で海域エリア4では3プロジェクト3.48GWが落札している。ほぼ、エリア上限まで、落札されている。エリア3は次回以降のリ-スラウンドで再び公募されることになるのであろう。

表2 リ-スラウンド4の結果(出典:クラウンエステ-ト)
表2 リ-スラウンド4の結果(出典:クラウンエステ-ト)

3.英国の入札方法の特徴

 英国の洋上風力の入札方法の特徴は、①海上使用権の入札である。②多数のプロジェクトが採択され得る。③多様なプロジェクトが受け入れ可能であるということが言える。Scotwindのリ-スラウンドでは、一度に17プロジェクトが落札されており、落札者も多様である。

 英国の入札は、土地管理組織であるクラウンエステ-トが実施していることを見てもわかる通り、海域使用権の資源価値に対する入札という性格の入札である。その海域の持つ風力資源価値に対してどのくらいまでの投資ができるかという観点からの入札なので、当然、「競り上がり型」の入札で最も高値を入れたものが落札するという風力資源価値が評価される自然な形となっている。

 我が国で行われているFIT価格による入札は、価格の安さを競う「競り下がり型」の入札で、発電コストをいかに下げるかというプロセスの中で、言わばコストとしての資源価値を安く設定するほど有利となる入札である。このような入札で海域使用権という本来「競り上がり」型」の価値が併せて入手できるという構造自体に、自己矛盾が内蔵されているのではないかと思われる。英国のように、資源価値の「競り上がり型」入札と電力販売価格という「競り下がり型」の世界を切り分けて、別にする方が合理的であろう。海上使用権の入札を分けて行い、ここから入る収入は特別会計として、洋上変電所や洋上変電所へのアクセス送電線の整備、組立港湾等の整備への補助やいわゆるセントラル方式の実施費用の財源に充当するのが良いと思われる。

 また、我が国の洋上風力の公募は、1海域1プロジェクトが前提となるような柔軟性の小さい募集である。英国の公募は、公募海域も複数プロジェクトの多様な組み合わせが可能となる程度に広く、また、電力の販売価格と切り離されていることもあり、多様なプロジェクトが参加可能である。リ-スラウンドの結果を見ると、毎日一プロジェクトづつ決まるので、落札価格は日によって大きく変動しており、必ずしも高い価格に張り付いているわけでもない。

 この辺は、今後の我が国の海域の公募に際して参考とすることができそうである。

4.風力資源を巡る状況の変化

 ラウンド4やScotwindのリ-スラウンドの結果を見ると、落札企業は、従来の電力会社由来の風力発電会社の他にBPやシェルといった欧州系のエネルギ-メジャ-系のグル-プ、風力ベンチャ-的企業グル-プといった顔ぶれとなっている。特に、エネルギ-メジャ-系の大規模プロジェクトが目立つ。ラウンド4では、BPが1.5GWを2プロジェクト、Scotwindでは、BP、シェルそれぞれ3GWのプロジェクトを落札している。

 エネルギ-メジャ-にとっての洋上風力発電とは、どのようなものであろうか。オイル・ガスの世界は有限資源なので新規資源の開発リスクが常に付きまとうが、開発に成功すれば儲けも大きい世界である。これに対して、洋上風力は開発リスク少なく一度開発すれば資源は無限であるが、エネルメギ-密度が低く薄利をかき集めるような世界である。

表3 オイルガス投資と洋上風力投資
表3 オイルガス投資と洋上風力投資

 しかし、浮体式洋上風力に見られるように3GWクラスのウィンドファ-ムを設置するとなると投資規模も大きくなり、リタ-ンも大きくなる。しかも、安定した収入源として資源が尽きることもない。北海の油田・ガス田の先が見えつつある今日では、資源メジャ-から見ても洋上風力は有力な資源ということになろう。資源メジャ-が資源を確保する場合、一か所の資源のライフサイクルの収支は、可採埋蔵量を金銭換算した総額を予想ライフサイクル総収入とすると、採掘・出荷設備等への投資総額がライフサイクル総コストで、その差がライフサイクル総利益ということになる。

 洋上風力の場合はどうであろうか。風力資源は、化石資源のように尽きることがないので、資源の権益を確保するためには、相当の無理をしても良いということになりそうである。この辺が、発電所の耐用期間だけで収支を考える電力業界との差とも言えそうである。英国のリ-スラウンドでは、資源価値に対して、年間リ-ス料というこちらも無限に義務が続く体系で、資源価値を評価させているので、言わば価値評価のディメンジョンが一致しているとみることもできよう。

5.おわりに

 本稿では洋上風力入札について述べているが、2050年ネットゼロに世界中が取り組みだすというグロ-バルな潮流の一端示すものであろう。

 このような世界の流れの中で、今まで化石燃料中心のビジネス体系を築いてきたエネルギ-資源メジャ-の戦略にも化石離れの変化が生じてきているように見受けられる。世界的に見れば、これからの電力供給の主力を担うのは洋上風力発電である可能性が高いので、エネルギ-資源メジャ-も戦略的に風力資源権益の確保に乗り出し始めているのではないかと思われる。一方で、日本の国内では、まだ1レベル下の国内電力業界的なレベルでの戦術的議論が中心であるように見受けられる。グロ-バルな潮流が急速に変化する中で、我が国のエネルギ-戦略が遅れを取ることがないようにしたいものである。