Research Project on Renewable Energy Economics, Kyoto University

京都大学経済学研究科

再生可能エネルギー経済学講座

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No.332 三次調整力②が一般送配電事業者の経営に影響
− FIT交付金算定時の割り切りが課題 −

2022年8月25 日
京都大学大学院 総合生存学館 教授 長山浩章
カーボンニュートラル推進協議会 理事

 本稿は一般社団法人カーボンニュートラル推進協議会に8月17日にUPされた論考(https://carbon-neutral.or.jp/topics/column/570.html)に加筆を行ったものである。

当論考は力作にて、本コラムでは冒頭と末尾を掲載し、
全体は末尾のPDFにて紹介する(編集)

キーワード: 三次調整力2、一般送配電事業者

 本稿では、三次調整力②はFITからFIPへ移行する段階で徐々に役目を終える需給調整市場の一商品ではあるが、短期的に大きな財務的影響を一般送配電事業者(以下、TSO)に与えているため、これまでの制度上の問題点を指摘し、よりよい改善の方向を見出すことを目的としている。特にこれまで審議会等での議論の中心は、社により、結果的に調達単価が異なってしまったこと、各エリアでのバランシンググループ(以下BG)による入札価格の足並みがそろっていなかったことに議論の中心が置かれていたように思われるが、今回はFIT交付金算定時の割り切った前提条件に特に注目した。

1.一般送配電事業者各社の2021年度収支

 一般送配電事業者の経常損益は、三次調整力②の差額負担等の影響等もあり大幅に悪化し、北海道電力ネットワーク、中部電力パワーグリッドの2021年度収支は赤字決算となった(表1)。((C)参照、(D)と要比較)。特に三次調整力②に関して一般送配電事業者9社で1,206億円の費用(B)に対し、165億円のFIT交付金が支払われたが、結果的に1,041億円の大きな差損となっており、現時点で2021年度FIT交付金と三次調整力②の実際にかかった費用の差額精算の具体的な目処が国より示されていないことが問題である。

 三次調整力②の実際にかかった費用に対するFIT交付金支給1のこの規模でのミスマッチは一般送配電事業に対する単年収支に大きな影響を与えるばかりか、重要な投資の圧縮にもつながり、国民生活に甚大な影響を及ぼすことになり持続的ではない。この大きな差額発生の要因の1つは、三次調整力②の計算において割り切った前提のもとにFIT交付金2の算定がなされたためである(詳細は後述)。この議題は2022年7月11日及び8月17日に行われた再生可能エネルギー大量導入・次世代電力ネットワーク小委員会(以下、再エネ大量導入小委)でも取り上げられた。

 三次調整力②の費用は、ゲートクローズ(以下、GC)時点の計画値同時同量を達成するための調整力確保費用であり、本来FIT事業者が負担すべき費用であることからFIT交付金で賄うことになっている。しかしながら中部電力パワーグリッドで表1の(E)にあるように、交付比率は5%、関西電力送配電では、7%となっている。他方、託送料金はGC以降(実需給の60分前)の調整に係る費用が対象であるため、受益と負担の適正性から、託送料金で三次調整力②費用の一般送配電事業者の立て替え分を補填するべき性格のものではない。

 本稿では、三次調整力②はFITからFIPへ移行する段階で徐々に役目を終える市場ではあるが、短期的に大きな財務的影響を一般送配電事業者(以下、TSO)に与えているため、これまでの制度上の問題点を指摘し、よりよい改善の方向を見出すことを目的としている。特にこれまで審議会等での議論の中心は、社により、結果的に調達単価が異なってしまったこと、各エリアでのバランシンググループ(以下BG)による入札価格の足並みがそろっていなかったことに議論の中心が置かれていたように思われるが、今回はFIT交付金算定時の割り切った前提条件に特に注目した。

表 1 TSO各社の2021年度収支
表 1 TSO各社の2021年度収支
注1:2021年度各社決算における、送配電事業のセグメント情報を記載
注2:減価償却方法を定率法から定額法へ変更したことによる影響有
注3:他社公開情報と合わせた概算値
注4:FIT交付金は、中部電力パワーグリッドと関西電力送配電のみFIT設備発電量に基づく実績。その他の社は年度当初のFIT交付金想定額。
出所:資源エネルギー庁(2022年7月13日)「電力ネットワークの次世代化」、再生可能エネルギー大量導入・次世代電力ネットワーク小委員会、第43回 資料2、および、三次調整力②の収支への影響は「2021年度 全国の三次調整力②調達実績(TDGC(送配電網協議会)HPの2021年度実績取り纏めの値等公開情報より試算)」より作成。

以下、「2.全体のまとめ」まで省略。
論考全体は、末尾のPDFにて参照頂きたい(編集)

2.全体のまとめと具体的対処方法の方向性

 三次調整力②につき、エリア間の共同調達等、必要量低減の取組は引き続き行うとしても、2021年度に引き続き、2022年度もFIT交付金の前提条件とこれほどの差があるのであれば、おそらくTSOの自助努力の範疇を超えており、再エネ予測誤差をTSOに代替運用してもらう観点で、現行の制度は、持続的な制度とは言えない。

 三次調整力②の調達価格・量の実績は、今後も前年度に決めた値から大幅に乖離する可能性があるため、事後調整の仕組みは不可欠である。TSOの経営影響の軽減、ならびに毎年の調整幅を縮小する観点から、以上の現状分析を受けて具体的な対処方針の方向としては、電力量料金の燃料費調整制度のような事後調整の仕組みにより、前年度算定したFIT交付金とコスト実績との差額を、事後的に次年度のFIT交付金で補填する仕組みの構築がある。

 想定単価は前年度の実績をもとに算出されるため(図18)、燃料費の高騰・下落によっては単年度収支が赤字・黒字となるものの複数年度で収支が一致するとの考えもあるが、燃料高騰が長期間続くと事業者の負担も大きいことも考えると電力量料金の燃料費調整制度のような事後調整の仕組みとして明確化し、都度補正を行うこと、が重要と考える。

図18 燃料費の動きの実績単価への影響(イメージ図)
図18 燃料費の動きの実績単価への影響(イメージ図)

 さらに2021年度以降、全国の需給はタイトになっており、kW、kWhの追加公募が実施されている。またその実施については、TSOが行っており、安定供給に重要な役割を果たしている。このことからTSOの赤字経営が継続すると安定供給を脅かすことに繋がるため、適時適切な制度措置を講ずる必要がある。


1 買い取り義務は、いわゆるFIT法で規定されており2017年に送配電買取(FIT特例③)まで規定された(再生可能エネルギー電気の利用の促進に関する特別措置法)(資源エネルギー庁(2017年1月25日)p.26)。
同法の16条では、送配電事業者はその契約を拒むことができないとされている(平成二十三年法律第百八号 再生可能エネルギー電気の利用の促進に関する特別措置法、https://elaws.e-gov.go.jp/document?lawid=423AC0000000108)。
2018年12月26日の再エネ大量導入小委員会にて、ΔkW確保のための費用はFIT交付金で賄われることが決まった(資源エネルギー庁(2018年12月26日)p.86)。

2 TSOが交付されるのはFIT交付金であり、この交付金やFIT買取価格等を踏まえて、需要家から徴収するのが再生可能エネルギー発電促進賦課金(以下、再エネ促進賦課金)


pdfコラム(全文)(3.79MB)