Research Project on Renewable Energy Economics, Kyoto University

京都大学経済学研究科

再生可能エネルギー経済学講座

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No.345 「リング間伐技術」と「3Dドライストックシステム」
~ESG投資に有効な新しい森林システム管理技術~

2022年11月10日
株式会社マウンテンビュー 代表取締役 定山剛士

キーワード:新しい林業システム、リング間伐、巻き枯らし間伐、ストッパー付きチェーンソー、3Dドライストック

 森林の有する複数の公益的機能は、地球温暖化防止のみならず、生物多様性の確保・水源涵養・災害防止機能・快適環境保全・木材マテリアル生産等、国民に広く恩恵を与えるものであり、適切な森林の整備等を進めていくことは、我が国の国土や国民の生命を守ることにつながる。一方で、所有者や境界が分からない森林の増加・情報不足・技術不足に因るネガティブイメージ等により、担い手が不足している。これらが大きな課題となっている。

 本稿では、安全性と継続的雇用を重視した初心者でも比較的簡単に参加活動できる「リング間伐」や「デジタル技術」等を含めた新しい林業システムをご紹介する。

リング間伐技術

リング間伐とは何か

 リング間伐とは、特殊加工(キックバック防止機能、過剰切削防止機能を備えたリングストッパー装着)されたチェーンソーバーで、立木の形成層辺材導管部位を切削し、水分養分の流れをブロックし、立木の含水率を低下・、立ち枯れ・軽量化する施業法である(画像1)。当技術により、乾燥工程の軽減、低コスト化を左右する搬出作業工程削減、安全性を確保した人材短期育成を実現が可能となる。これらは、木質マテリアルを効率よく使用する際の必須事項である。

画像1.リング間伐技術の概要
画像1.リング間伐技術の概要
立木の形成層部分のみを切削

ツキノワグマの「熊剥ぎ」に発想

 この技術を発想したのは、緑の雇用一期生である筆者が、国有林の整備作業中に熊剥ぎという現場に遭遇した事が発端である。現場ではツキノワグマにより数十本に渡り木の表皮がはがされており、そこが縄張りの境界線とすぐに認識できた。その中の胸高直径50センチにわたる木を伐倒した時、木の軽さ・作業の容易さに驚いた。この時、木の軽量化は効率化とコストダウンにつながると直観した。

 この体験からなんとかこの一連の作業がもっと簡単にできないかと考えた。表皮を削り取るには手間と時間がかかりすぎるが、チェーンソーで行えば時間は短縮できる。ただチェーンソーで切込みを入れるにも、ある程度の経験がないと正確性を欠く。

徳島県の「巻き枯らし間伐」実証を参考

 そのような時、「徳島県立農林水産総合技術支援センター森林林業研究所」の「巻き枯らし間伐用チェーンソーの開発」というサイトにたどり着いた。さっそく連絡を取り、実証内容等お聞きししたところ、実証実験はすでに終了し、現場は皆伐されており確認する事が出来ないとの回答をいただいた。

 巻き枯らし間伐という技術を用い、自宅近くの木に切り込みを入れると見事に枯が始まった。これは使えると直感した筆者は、さらに誰でももっと安全に使えるように改良すれば、林業に従事する人達が増大すると考えた。

安全なチェーンソーを開発中

 さらに、チェーンソーで一番危険な現象であるキックバック現象(切断作業中に、刃がコントロール不能の状態で作業者に向かって跳ね返ってくる現象)の解消が出来ればと考え、キックバックの原因となる先端部分に、扇状の防止カバーを付けることで解消することに成功した。その後、人工林のみならず雑木にも施業を行ったところ、効果は極めて良好であった。

 現在、追加実証と合わせて、株式会社やまびこの電動チェーンソーBCS510Wを土台に末廣精工株式会社にチェーンソーバーの特殊加工をお願いしている。筆者が代表を務める株式会社マウンテンビューがストッパー(商品名:リングソード)を制作している。この形で、2023年発売に向け準備を進めているところである。

リング間伐の多様な効果

 この施業は、全て電動チェーンソー(リングソード)でおこなわれ、化石燃料削減に貢献する。電動化によりガソリン1L当り2360グラム(750g×12/14×44/12=2360g)のCO2が削減される。また、間伐施業1ha 当り約5tのCO2が削減できる。

 施業された立木は、約六か月後には葉部分の乾燥枯れによる変色が確認され、その後徐々に立木の乾燥化・軽量化が進み、その後の工程が削減・低減される(画像2)。従来型伐採施業とは異なり、対象木周囲切削作業のみによる時間短縮、伐倒による激突危険リスク軽減を実現する施業技術である。

図2.リング間伐施業は立木の半分を占める水分を蒸散・蒸発させ軽量化を実現させた技術
図2.リング間伐施業は立木の半分を占める水分を蒸散・蒸発させ軽量化を実現させた技術
施業後の立木跡にリング状(画像2)施業痕が見られることからリング間伐と命名された。

 リングストッパーチェーンソーを活用したリング間伐は、旧来間伐施業に比べて技術者の養成期間を大幅に短縮する、安全性を高めることに加え、間伐施業量を大幅に促進する。森林内に初期乾燥が進行した木質マテリアルを、無駄に移動をすることなく大量に生成させ、活用することが可能となるからである。

3Dデジタルドライストックシステム

ドライストックシステムとその効果

 ドライストックシステムとは、3Dデジタル管理手法を用いて経済効果とマッチングさせるシステム(施業技術)である。

 このデータシステムのポイント(画像3)は、デジタル上で優良成長木と劣勢木の将来木施業を判断できることである。この利用により、安易な皆伐を回避して択伐施業が促進される。残存木の成長を促しながら資源の管理を継続する、すなわち十分な森林活用が可能となるである。

画像3.3Dデジタルストックシステムの事例
画像3.3Dデジタルストックシステムの事例
※巻き枯らし間伐イメージ

 前述の様に、リング間伐で施業対象木を立木のまま処理することにより、自然攪乱や施業木の河川流出の防御、山肌等の保護、旧来の乾燥工程である乾燥場所への移動・管理・運搬人件費等の大幅なコストダウン、軽量化による安全性の向上等が可能となる。リング間伐は、ドライストックシステムによる樹種・体積等の固定データ・施業履歴とあわせてデータ化され、木質マテリアル用途別データとのマッチングにより利活用される。

森林測量の革新技術:ドローン空撮のクラウド情報化

 3Dデジタル技術を知るきっかけとなったのは、2019年東京ビッグサイトで行われたエコプロダクツ展示会(通称エコプロ)にて、株式会社 woodinfoの中村社長と出会い、山林で3D撮影できる3DWalker©を体験させていただいたことに始まる。

 3DWalker©とは、山林をドローン空撮し、林内の3D点群をクラウドデータ化し活用する技術である。このシステムは、平地なら1haの測量を10分~20分でこなせる優れものである。今後の森林測量の毎木調査はこのシステムに置き変わるであろう。この技術も新規就業者の短期養成が可能である。

 リング間伐とドライストックシステムが、これからの森林施業のスタンダードとなり、一人でも多くの林業関係者が安全に作業できる未来を目指し、普及に努めたい。

最後に

 上記説明の通り、新しい林業システムは、択伐施業で山林の複数の生態系機能を保全しながら、軽量化した木をすべて活用することで、森林マテリアルの安定供給を促進することである。これにより、森林施業や再更新のコストダウンが図られる。また、残存する木は成長を続け、温暖化ガスの吸収を継続しながら山林所有者の資産価値をも向上させることができ、森林環境譲与税の活用目的(間伐の推進・人財育成・脱炭素化に資する等)の要因をすべて満たし、財政面の支援も受けやすくなる。地域にとっては継続的雇用の創出、林業関係人口の増加、地域への移住促進、産業構築による税収増、森林整備の推進等の地域振興に、幅広く貢献すると確信している。