Research Project on Renewable Energy Economics, Kyoto University

京都大学経済学研究科

再生可能エネルギー経済学講座

本講座(第2期)は、2024年3月31日をもって終了いたしました。

TOP > コラム一覧 > No.352 コーポレートPPAの経済性と追加性 ~電気料金高騰と気候変動の有効な対策~

No.352 コーポレートPPAの経済性と追加性
~電気料金高騰と気候変動の有効な対策~

2022年12月27日
自然エネルギー財団 シニアマネージャー 石田雅也

キーワード:RE100、環境価値、電気料金、太陽光発電

1.脱炭素に効果的な再エネ電力の調達方法

 いまや世界中の企業が気候変動の抑制に向けて、脱炭素(二酸化炭素の排出削減)に取り組むことを求められている。企業にとっては単なる社会貢献ではなく、事業を維持・拡大するうえで不可欠になってきた。先行する企業は自社のみならず、取引先を含むサプライチェーン全体でも脱炭素を目指す。代表例がAppleである。

 Appleは2030年までにサプライチェーンの脱炭素を実現するために、世界各国のサプライヤーに対して、Apple向けの製品・部品・素材を再生可能エネルギー(再エネ)100%で生産することを要請している。すでにソニーをはじめ200社以上のサプライヤーがAppleの依頼に応じた。同様の取り組みはIT(情報技術)やエレクトロニクスにとどまらず、さまざまな産業に拡大している。再エネを使って二酸化炭素を排出しないで事業を運営することは、経営上の最重要課題になった。

 企業が排出する二酸化炭素の大半はエネルギーの使用に伴うものである。特に電力の占める割合が大きい。いかに再エネの電力を効率的に調達できるかで、今後の企業の競争力が左右される。

 再エネの電力を調達する方法は大きく分けて4通りある。

(1)自家発電設備を導入、発電した電力を自家消費
(2)小売電気事業者が販売する再エネ100%の電力を購入
(3)再エネの電力が有する環境価値(二酸化炭素を排出しないなどの価値)を証書で購入
(4)新たに建設した再エネの発電設備から電力を長期契約で購入(コーポレートPPA)

 このうち企業みずからが再エネの発電設備の拡大に貢献できる方法は、(1)の自家発電と(4)のコーポレートPPA(電力購入契約)である。既存の発電設備の電力や証書を購入する(2)や(3)と比べると、再エネの発電設備を新たに追加することによって、二酸化炭素を排出する火力発電を代替する効果がある。

 このような効果を「追加性」と呼び、気候変動の抑制に有効なことから、再エネの電力を調達する方法として望ましい要件とされている。世界各国の有力企業が再エネ100%を目指す国際プロジェクト「RE100」でも、追加性のある再エネの電力を調達する方法として、自家発電とコーポレートPPAを推奨している。

2.コーポレートPPAは燃料費の影響を受けない

 ここ数年でコーポレートPPAを採用する企業が世界各国で急速に増えている。日本でも2021年から、導入する企業が相次いでいる。太陽光発電のコストが低下する一方、火力発電を主体にした電力の価格が上昇して、太陽光発電によるコーポレートPPAが経済的にも見合うようになってきたからだ。

 コーポレートPPAは契約形態によって、3種類に分かれる。

(1)オンサイトPPA
(2)フィジカルPPA
(3)バーチャルPPA

 いま日本で最も活発なのが(1)のオンサイトPPAである。オンサイトPPAは自家発電と同様に、企業の敷地内に発電設備を導入して、発電した電力を自家消費する。ただし発電設備の建設・運転・保守は発電事業者に任せて、企業は発電した電力を環境価値と合わせて購入するだけである。建設費も発電事業者が負担する。自家発電と比べると初期投資が不要で、運転や保守の手間もかからない。

図1.オンサイトPPAの契約形態
図1.オンサイトPPAの契約形態

出典:自然エネルギー財団「コーポレートPPA:日本の最新動向」(2022年8月)

 発電事業者にもメリットがある。日本の再エネ拡大を推進してきたFIT(固定価格買取制度)の買取単価が低下し続け、さらに2022年度から新制度のFIP(フィードインプレミアム)へ移行が始まった。このような状況のなか、FITやFIPに依存することなく、用地を確保する必要がないオンサイトPPAは、短期間に発電設備を建設できて、安定した収益を見込める。

 オンサイトPPAの典型的な例は、企業が保有する工場や店舗などの屋根に、太陽光発電設備を導入するケースである。日本国内の太陽光発電のコストは、事業者の利益を加えて、電力1kWh(キロワット時)あたり9~11円が2022年の平均的な水準と推定できる。企業がオンサイトPPAで事業者に支払う単価は、このくらいの範囲に収まる。契約期間は通常15~20年だが、単価を高めに設定して契約期間を短くすることも可能だ。

 一方で通常の電気料金は2022年に入ってから、化石燃料の価格が高騰した影響で、大幅に上昇した。企業が使用する産業用の電気料金は2022年8月の全国平均で約23.5円/kWh(再エネ賦課金を含む)に達して、さらに上昇を続けている。オンサイトPPAの単価と比べて2倍以上の価格になった。今後も化石燃料の価格は変動するが、短期間のうちに以前の水準に戻ることは想定しにくい。オンサイトPPAは二酸化炭素の削減効果に加えて、経済性の点でも十分な効果が得られる。

 ただしオンサイトPPAは用地が屋根の上などに限られるため、大規模な発電設備を建設することはむずかしい。企業がオンサイトPPAで購入する電力だけでは、需要を満たせないケースが多い。

3.遠隔地の発電設備と契約するオフサイトPPA

 オンサイトPPAと違って、再エネの発電設備が電力を消費する場所から遠隔地にある場合には、オフサイトPPAを適用できる。オフサイトPPAは契約形態によって、フィジカルPPAとバーチャルPPAの2種類がある。フィジカルPPAはオンサイトPPAと同様に、新設の発電設備から電力と環境価値を長期契約で購入する。一方のバーチャルPPAは環境価値だけを長期契約で購入する方法である。

 現在のところ日本では太陽光発電設備を対象にフィジカルPPAを結ぶケースが多い。フィジカルPPAは発電事業者、小売電気事業者、需要家(電力を購入する企業や自治体など)の3者間の契約になる。日本では電気事業法の規定により、送配電網を経由して需要家に電力を販売できるのは小売電気事業者に限られる。この点がオンサイトPPAとの違いだ。契約対象の発電設備で生み出した電力と環境価値は、小売電気事業者を通じて需要家に供給する。契約期間は15~20年が一般的である。

 フィジカルPPAでは発電コストをもとに設定する固定価格のほかに、送配電網の使用料(託送料)、小売電気事業者の手数料、さらに再エネ賦課金を上乗せする。このためオンサイトPPAと比べると単価は大幅に高くなる。ただし通常の電気料金に含まれている燃料費はかからない。契約期間中は固定の単価で電力と環境価値を購入できる。燃料費の変動にわずらわされることなく、長期に電力の調達コストを抑制できるメリットがある。

図2.フィジカルPPAの契約形態
図2.フィジカルPPAの契約形態

出典:自然エネルギー財団「コーポレートPPA:日本の最新動向」(2022年8月)

 太陽光発電のコスト低下に伴ってフィジカルPPAの単価も下がってきた。企業や自治体が契約する高圧や特別高圧の場合には、2022年の平均的な水準で1kWhあたり20円前後である。産業用の電気料金(2022年8月の時点で約23.5円/kWh)よりも低い水準になった。しかも二酸化炭素を排出しない再エネの電力を増やして、脱炭素に貢献できる。

4.環境価値だけを購入するバーチャルPPA

 2022年の後半になって、環境価値だけを取引するバーチャルPPAの事例も増えてきた。バーチャルPPAでは、新たに建設した再エネの発電設備の電力を発電事業者が卸市場で売却して収入を得る。そのうえで再エネの電力が生み出す環境価値を需要家に供給する。需要家は従来の電力の契約を継続したまま、バーチャルPPAで購入した環境価値を組み合わせることで、再エネの電力を消費したとみなすことができる。

 電力の契約を変更しないで済む点がバーチャルPPAのメリットである。たとえばビルにテナントとして入居している場合には、ビルのオーナーが電力を契約しているため、テナントが契約を変更することはむずかしい。そのような場合でも、バーチャルPPAを結べば環境価値を購入して、再エネの電力として利用できる。コーポレートPPAの先進国である米国では、再エネの電力を調達する手段としてバーチャルPPAが主流になっている。

 バーチャルPPAでは小売電気事業者を介在させないで、発電事業者と需要家が直接契約を結ぶ方法が一般的だ。電力の取引を伴わないためである。ただしバーチャルPPAでもオンサイトPPAやフィジカルPPAと同様に、発電コストをもとに電力と環境価値を合わせた固定の単価を設定して契約する方法が主流になっている。

 発電事業者が卸市場で電力を売却すると、収入は市場価格によって変動する。このままでは投資を確実に回収できる保証がない。このためバーチャルPPAで設定した固定価格と市場価格の差額を計算して、発電事業者と需要家で決済することによって、発電事業者が常に固定価格に相当する収入を得られるようにする。このような差額決済を組み込む点がバーチャルPPAの特徴だ。

図3.バーチャルPPAの契約形態
図3.バーチャルPPAの契約形態

出典:自然エネルギー財団「コーポレートPPA:日本の最新動向」(2022年8月)

 差額決済によって、発電事業者は安定した収入を得られる一方、需要家は負担するコストの変動リスクを負う。その代わりに、需要家は電力の契約にとらわれることなく、再エネの電力を必要とする事業拠点がどこにあっても、環境価値を組み合わせて再エネの電力として使用できる。

5.コーポレートPPAの課題

 オンサイト、フィジカル、バーチャルを含めて、コーポレートPPAの経済性と脱炭素のメリットが高まってきた。とはいえ解決すべき課題は数多く残っている。オンサイトPPAだけでは企業の電力需要を満たすことはむずかしく、オフサイトのフィジカルPPAやバーチャルPPAを拡大する必要がある。適切な用地を確保して、再エネの発電設備を新たに建設することが前提になる。

 日本の再エネ発電の割合は2021年度に約20%で、政府は2030年度までに36~38%へ大幅に引き上げる目標を掲げている。この目標を達成できる状況になれば、新しい再エネの発電設備が拡大して、数多くの企業がフィジカルPPAやバーチャルPPAを結ぶことができる。政府が目標達成に向けて、土地利用の規制緩和や送配電網の増強など、大胆な政策を展開することが不可欠だ。

 それと並行して、太陽光以外の再エネの発電コストを低下させる施策が求められる。現在のところ日本国内のコーポレートPPAは、発電コストが低い太陽光に限られている。電力の需給バランスの点でも、太陽光以外の風力などの発電コストを低下させて、コーポレートPPAの対象を広げる必要がある。今後は洋上風力の導入拡大が期待できる。発電コストの低下に伴って、洋上風力を対象にしたコーポレートPPAも増えていく。コーポレートPPAの拡大により、企業の競争力強化とともに、日本全体の脱炭素が大きく前進する。