Research Project on Renewable Energy Economics, Kyoto University

京都大学経済学研究科

再生可能エネルギー経済学講座

本講座(第2期)は、2024年3月31日をもって終了いたしました。

TOP > コラム一覧 > No.353 ドイツのエネルギー危機渦中の議論(3)どう再エネ増進を実現するか?

No.353 ドイツのエネルギー危機渦中の議論(3)
どう再エネ増進を実現するか?

2023年1月12日
ドイツ在住エネルギー関連調査・通訳 西村健佑

キーワード:ドイツ、エネルギー危機対策、再エネ

 ドイツはいかに目下のエネルギー危機に向き合っているのかについて、過去2回書いてきた。1回目1はドイツのエネルギー政策は政治問題に起因して混乱しているものの、持てるものを使い尽くすという観点から何を考えているかを説明した。特に市場と価格メカニズムを用いるという点を強調した。2回目2は価格高騰対策として導入された「ガス価格ブレーキ」の仕組みについて説明した。肝は、価格と負担の分離にあり、消費抑制と負担家緩和の両立を目指す仕組みの概要を説明した。今回は、中長期的な視点に立った再エネ推進策を主に解説する。既に省エネ効果やロシアガス依存の低下が顕著に現れていることも紹介する。

エネルギー危機の影響

 昨年のドイツのエネルギー政策は危機的な状況の中で相互に補完性のない短期と中期の対策を使い分けることに苦心した1年だった。短期的には他のEU加盟国から批判にさらされている大型支援政策、LNG基地建設、原発の4ヶ月間の稼働延長、ガス大手の国有化などがあった。他方で、中期ではやはり省エネ、再エネを推進することが重要である。そう考えると、バラマキ政策によるエネルギー非効率な企業の延命、過剰なガス受け入れ能力につながるLNG基地建設と、将来の脱炭素達成を両立させるのは今後の課題となる。

 ドイツ連邦ネットワーク規制庁によると、2022年のドイツのガス輸入量は前年から203TWh減って1449TWhだった。原産国ではノルウェーが33%で最も比率が高く、2位がロシアの22%だった。また輸出は前年から248TWh減って501TWhとなった3。また2023年1月1日現在は石油、石炭、ガスのすべてで名目上ロシアからの輸入はない4。結果的にドイツが消費できるガスの量は前年より46TWh増えて948TWhとなったが、これは貯蔵されている分を含むのでドイツの消費利用ではない点に注意が必要である。

 エネルギー価格上昇は小売価格に転嫁され、来年の電気・ガス代はかつてないほど高額になるだろう。電気もガスも卸価格を統制しないドイツではあるが5、再エネなどの低コスト電源からは「超過利潤」が徴収され、負担緩和にあてられる。それでも直接間接に価格上限策をとった国と比較すれば、価格差はますます鮮明となり、政権運営にも影響必至と思われる。

 価格高騰はエネルギー消費にもはっきりとした影響を与えており、1次エネルギー消費は前年比4・7%減でドイツ統一後最低水準となり6、ガス消費は前年比14%7、電力消費(系統負荷)は4.0%減で4842億kWhとなった。またネット発電量は前年比0.4%増の5068億kWhであり、純輸出は前年比51%増で262億kWhとなった8

 そうした中で再エネは昨年よりも発電量が増え、電力消費に占める比率は8.5%増えて48.3%まで上昇した。天然ガスの発電量はネットの発電量では14TWh減だったものの9、再給電指令などを含むグロスの発電量では1.7%増加した10。最終的には石炭と褐炭の増加が響いて電力セクターの排出量は前年比で増加、気候目標も未達の見込みとなった。

中期対策としての再エネ投資促進

 ドイツはすでに深刻化する気候災害への対策を怠ることは許されない状況となっており、パリ協定の遵守とエネルギー危機克服は両立しなければならない課題である。Christian Aidが発表した2022年の気候災害トップ1011によると、ヨーロッパが2022年に被った気候災害被害は2月のサイクロンと夏の渇水の2つだけで250億ユーロ近い。ドイツは2021年にも総額800億ユーロの洪水被害12を受けている。すでに2.0℃と世界平均よりも早い気温上昇を経験している欧州やドイツ13にとって気候災害はすでに起こっている問題であり、停滞している再エネ成長を早期に活性化させる必要がある。

 もし脱炭素化を「現実的」な速度で実行しようとすれば、気候変動対策、気候変動適応14、災害補償それぞれに毎年巨額の資金が必要になるリスクがあり、ドイツの経済力ではそれに耐えられないだろう。

 そのため、ドイツ政府は22年7月には再エネ法を中心に7つのエネルギー関連法を改定した15。政府いわく過去20年で最大の改正となる今回の改正のうち、再エネ法と洋上風力法にかかる支援策が12月21日にEUにおいて承認され16、23年1月1日に発効された。

 この改正で承認された再エネ支援額は総額280億ユーロに上る。この支援は2030年の電力に占める再エネ比率80%達成に資する目的で使われる。

 この改正を通じて市場プレミアム入札の募集容量の上乗せと、インフレを加味して買い取り価格または支援額の水準を最大で25%引き上げる。

 イノベーション入札(異なる再エネの組み合わせや蓄電池・水素生産設備などを併設することで調整力を有する設備)、太陽光、バイオガスにも効果的な入札の仕組みを導入する17

 本改正では、木質バイオマスを含む従来のバイオマス発電設備とバイオガス設備の入札枠を2023年から分割し、バイオガスの枠を600MWに引き上げる。逆にバイオマス発電設備の入札容量は段階的に600MWから300MWに減らす。バイオガス設備はピークロード電源に限定され、1年間の10分の1(876時間)の発電量のみ支援が受けられる他、将来的な水素対応も求められる。欧州では中長期的に原子力というベースロード電源に回帰する動きもある中、ドイツのエネルギー転換は再エネを中心とするエネルギーシステムの理論通り、風力、太陽光、バイオマス、水力などの再エネとそれを支える再エネ以外(ただし将来は再エネ由来)のピークロード電源という電力ミックスを目指すことが見て取れる。

 太陽光については、小型設備を念頭に系統運営者が太陽光設備の系統接続希望者に対して情報提供と接続申請を簡素化するポータルサイトを2025年までに整備することが求められ、系統運営者に対しては回答期限も定められる。太陽光はデジタル化によって許可の簡素化を図る以外に買い取り価格の引き上げと税金の引き下げによる採算性の向上を図る。小型設備については、系統接続容量が発電設備の70%までと定められていたが、この規制も撤廃され、系統へ流れる電力量を増やす。その他、これまでは太陽光パネルがすでに取り付けられている屋根に増設する場合は、部分買い取り(自家消費優先)への移行が原則だったが、これも1つの屋根の上で全量と部分買い取りの併設が可能になる。

 陸上風力については立地地域の自治体による投資が従来より幅広く認められるようになり、地元の経済メリットがより強調される。また市民風車プロジェクトについては計画と許認可にかかるコストに対して20万ユーロまたは70%までの補助金を受け取ることができるようになる。

 またこれまでは稼働開始が遅れると支援額が逓減する仕組みが設けられていたが、こちらもサプライチェーンのボトルネックを鑑みて2024年まで停止される。

 これらの新しい規制は2026年末まで有効となる。ちなみに国内の再エネ業界の試算ではドイツの2030年再エネ目標達成に必要な投資額は4000億ユーロと見積もられている18

 また再エネ法では直接規定されていないが、地熱発電も重要な電源として今後は推進される予定になっている。

 最後に少し省エネに触れておく。今年は住宅新築許可件数が減ったものの、新築の暖房システムではヒートポンプが初めて50%を超えた。

 また、建物の省エネについては、連邦高効率建物支援(BEG)を改正し、来年以降は年間130~140億ユーロが支援(うち120~130億ユーロが既存建物の改修)に費やされる19。これは2021年の80億ユーロからの大幅増額となる。エネルギー高騰により投資回収見込みが立ちやすくなったため、支援率はこれまでよりも低い総投資額の5~10%とされるが、個別の手法ごとにより高い支援率(例えばヒートポンプでは最大40%)が設定される。この支援プログラムの予算を使い切れるなら建築部門の省エネ改修で毎年600から1200億ユーロという巨大な投資が行われ、省エネ推進と落ち込みの激しい建築業界の活性化につながるだろう。


1 http://www.econ.kyoto-u.ac.jp/renewable_energy/stage2/contents/column0338.html
2 http://www.econ.kyoto-u.ac.jp/renewable_energy/stage2/contents/column0344.html
3 https://www.bundesnetzagentur.de/SharedDocs/Pressemitteilungen/DE/2023/20230106_RueckblickGasversorgung.html
4 この点は、瀬取りなどの方法で輸入されている可能性があり、議論の余地がある。
5 ただしEUが定める価格上限策には参加する。
6 https://www.bdew.de/service/publikationen/jahresbericht-energieversorgung-2022/
7 https://www.bundesnetzagentur.de/SharedDocs/Pressemitteilungen/DE/2023/20230106_RueckblickGasversorgung.html
8 https://www.bundesnetzagentur.de/SharedDocs/Pressemitteilungen/DE/2023/20230104_smard.html
9 https://static.agora-energiewende.de/fileadmin/Projekte/2022/2022-10_DE_JAW2022/A-EW_283_JAW2022_WEB.pdf
10 https://www.bundesnetzagentur.de/SharedDocs/Pressemitteilungen/DE/2023/20230104_smard.html
11 https://mediacentre.christianaid.org.uk/new-report-top-10-climate-disasters-cost-the-world-billions-in-2022/
12 https://www.tagesschau.de/wissen/klima/klimakrise-kosten-deutschland-studie-umweltministerium-101.html
13 https://www.youtube.com/watch?v=gdVyTnQ32hc
14 連邦政府は地方政府の気候適応支援に今後9億ユーロを確保する予定だが、全く足りていないという声もある。(https://www.bundesregierung.de/breg-de/suche/klimaanpassung-in-staedten-2063246
15 詳細は(https://www.renewable-ei.org/activities/column/REupdate/20220802.php)などが詳しいので参照されたい。
16 https://ec.europa.eu/commission/presscorner/detail/de/ip_22_7794
17 https://www.bundesregierung.de/breg-de/themen/klimaschutz/novelle-eeg-gesetz-2023-2023972
18 https://www.bundestag.de/resource/blob/925142/b2959f2a9b51fe87d5c790cdc9341070/Stellungnahme_BEE_e-V--data.pdf
19 https://www.bmwk.de/Redaktion/DE/P
ressemitteilungen/2022/07/20220726-bundeswirtschaftsministerium-legt-reform-der-gebaeudefoerderung-vor.html