Research Project on Renewable Energy Economics, Kyoto University

京都大学経済学研究科

再生可能エネルギー経済学講座

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No.354 地域新電力、大打撃から生き残りへ
~電力市場価格高騰の影響、アンケート

2023年1月19日
京都大学 大学院経済学研究所 特任教授 竹内敬二

【キーワード】地域新電力、アンケート、価格高騰、FIT、朝日新聞

 地域でのエネルギー開発、利用をめざして作られた「地域新電力」が苦しんでいる。中途半端な自由化などが原因となった電力市場における異常な価格高騰などで経営が悪化し、事業の停止、撤退に追い込まれたところも多い。誕生直後でまだ体力がつく前に未成熟な電力卸売り市場に投げ込まれ、嵐に見舞われた形だ。地域新電力はどんな状況にあるのか、復活できるのか。昨年、朝日新聞などが実施した大規模なアンケートの報告書「自治体・地域新電力の可能性と市場価格高騰/2022調査報告書」から考える。
(末尾にこの問題に詳しいエネルギー戦略研究所・山家公雄所長の論考あり)

卸売り価格高騰で経営危機に

 「新電力」は2016年の電力の小売り全面自由化で参入したほぼ小売り専門の会社。そのうち地域の自治体が出資するなどの方法で関わってるものを「地域新電力」と呼んでいる。エネルギーの地産地消進めようとして立ち上げられた会社が多い。しかし、21年の秋ごろ始まった電力市場(JEPX)での価格高騰で多くの会社が経営危機に陥っている。

 この状況について「パワーシフト・キャンペーン運営委員会(事務局は国際環境NGOのFoE Japan)と朝日新聞社」が、昨年8~10月にアンケート調査を行った。調査対象は自治体が出資あるいは何らかの形で関与している地域新電力89社で回答は72社(回答率81%)だった。アンケートの詳しい報告書「自治体・地域新電力の可能性と市場価格高騰/2022調査報告書」は下記。
https://power-shift.org/wp-content/uploads/2022/12/jichitaichiiki_report2022.pdf



アンケート結果の抜粋を【1】~【9】に示す。

【1】自治体と地域新電力会社とのかかわり

 「自治体の出資あり」が最も一般的で回答72社中52社(72%)。出資以外のかかわりでは「協定の締結」(38%)、「取り締まり役など役員として参加」16社(28%)などだった。出資割合は、「50%以上を出資」が37.9%だった。(図1、自治体の出資割合)



【2】電源構成、電源をどこから調達

 電源構成を開示しているのは34社。やはり太陽光が多く、複数回答で「FITからの太陽光」が19社、「非FITの太陽光」からが12社。後は水力、廃棄物発電、バイオマスと続くが、風力は3社だけだった。これは風力発電所自体の少なさが理由と思われる。

【3】市場の電力価格高騰の経営への影響は

 電源構成のうちFIT電源の割合は25.9%、卸売り市場からの調達分は29.2%で、価格高騰の影響を大きく受ける構造であることが分かる。

 「市場の高騰が(アンケート直前の)6~7月の水準で今後も続いた場合の経営への影響」の質問には、25%が「甚大な影響があり、今後の経営継続に影響を与えうる」と答えた。61%が「影響があるが、経営は継続の方向」と答え、11%が「影響はそれほど大きくない」。(図2、経営への影響)



 この答えからは、実際に大きな経営打撃を受けている姿と、それでも何とか経営、会社の存続は守っていくという決意が感じられる。経営不安は終わっていない。

【4】高騰に対して経営面でどんな対策を

 複数回答だが、81%が「新規受付・営業を停止した」と答えた。ほかには「保険制度の利用」29%、「入札の参加取りやめ」28 %。自治体・株主への支援要請(13%)、「顧客を他社にあっせん」などもあり、極めて厳しい状況だったことが浮き彫りになっている。(図3、電力価格高騰への対策)



【5】電源調達で苦労する点

 70%以上が「非FIT再エネからの調達」を強化している。具体的には、自社の再エネ電源を開発、公共施設や地域の一般家庭の卒FIT電力の購入地域の再エネの買取りなど。

 「FIT再エネの調達を減らす」も10%ある。FITの高価格が大きな障害になっていることが分かる。

【6】電力をどこに供給しているか

 約8割の地域新電力が、自治体の中の小中学校、庁舎などの公共施設に電力を供給している。できるだけ地域に貢献する姿勢がはっきりしている。

【7】地域新電力設立の理由

 複数回答。「エネルギー地産地消を進める」92%、「脱炭素実現、気候変動対策」81%、「地域の再エネを増やす」78%、「雇用を増やす」50%。地域への積極貢献をめざしている。しかし、最近の経営難で円滑な支援活動ができないことが多く、悩みとなっている。
(図4、地域の行政サービスのために実施・検討したいこと)



【8】国への要望事項

 3点に集中している。「卸電力市場の運営の改善」「FIT電気の引き渡し価格が市場価格連動になっていることの見直し」「大手電力と新電力との公平な競争環境」。国へ求める改善は明確だ。

【9】アンケート主催者のまとめ「調査から見えること」

  • 9割が「価格高騰は経営に影響がある」と答えた。
  • 対応として約8割が新規受付停止や営業停止をしている。
  • 高いFIT電気の活用が困難となり、FITを避ける傾向がある。
  • 市場価格高騰への早急な対策を求める声が多い。
  • 今後は域内の再エネを増やし、調達することがカギになる。
  • 地域新電力は、防災、子育て支援、高齢者の外出支援など地域の課題解決、地域経済の活性化などに熱心に取り組んでいる。
  • 市場価格高騰と化石燃料高騰を逆手に取り、地域での気候変動対策を進めるチャンスにできないか。
  • 市場価格の高騰が続く事態の早急な改善が必要。

◇アンケート結果への筆者(竹内敬二)の感想
~8割が営業縮小という異常

 電力価格高騰はやはり経営に極めて大きな打撃を与えている。高騰への対応策として「新規受付・営業の停止」の実施が81%というのは異常な数字といえる。「自治体・株主への支援要請」は本当に窮余の策だろう。会社の維持を最優先してとにかく乗り切ろうとする苦労がみえる。

 アンケートでは国への要望の第一が「卸電力市場の運営の改善」となっている。電力市場の安定化だけでなく、「大手電力会社との公平な競争環境の実現」や、「大手電力の発電状況の開示」なども求めている。国の責任が大きい。

 こうした状況の中でも苦境を逆手に取って、強い経営体質に変わろうとする姿勢が見える。また多くの地域新電力は、電気を域内に配るだけでなく、防災や子供支援、コミュニティバス支援、地域経済の活性化など、目の前の小さな問題にも積極的にかかわろうとしている。地域新電力が地域発展の重要な担い手であることは間違いない。地域を支え、地域に支えられて前進するためにも、まずは苦境を乗り越えることだろう。

 アンケートでは「自由記述欄」が興味深い。本当に困っていること、前向きの意識がよくわかる。報告書に詳しい。

「新電力の経営問題。原因の分析と今後の対策」
~アンケートへのコメント

山家公雄(エネルギー戦略研究所所長、京都大学特任教授)

背景に中途半端な市場化・自由化

 燃料価格の異常な高騰は、市場価格だけでなく旧一電の相対契約の原価にも影響を与え、小売り料金引き上げなしには経営が圧迫される。料金や市場価格に上限が存在する中では、スポット市場での燃料追加調達に二の足を踏み、発電設備の稼働率が下がり、需給はひっ迫する。この構図が基本としてある。ここまでは、旧一電も新電力も同様である。

 一方、8割を占める旧一電(相対)市場は、長期契約で確保した燃料が提供され、2割の卸市場はスポット市場の燃料が提供されるので(2021年度後半より顕著になる)、燃料価格高騰局面では市場調達が不利になる。卸取引市場が機能している場合は、旧一電(相対)市場も市場価格に収斂する(従って小売り事業はサービス競争になる)のであるが、日本はそうなっていない。

 また、余剰の燃料を国内市場ではなく海外市場に高値で販売する行動も見られ、これは国内需給ひっ迫や市場価格高騰を助長する。市場原理に基づく行動とも言えるのだが、大規模公益事業者の社会責任放棄、市場支配力を維持しながら(都合に合わせた)市場原理活用は不適切ではないかとの指摘もある。

 販売価格を自ら決められない状況は自由化とは相反する。また、市場支配力の行使、発電設備の情報開示不足等の指定は多いが、現状の市場未整備な状況下では証明は難しい。公正取引委員会が大口事業者向けの小売り行為においてカルテル行為摘発を行い、今後も旧一電の行為について広範囲に調査を行うと表明している。専門の規制機関である電力ガス等監視委員会の反省・奮起とともに、競争環境が整備されることを強く期待したい。

地域新電力の対応策

 アンケートにもあるが、価格引き上げに制約がある中では、契約打ち切り等もやむを得ない。旧一電も、戻り需要を主に契約を拒否・留保し、送配電事業者の最終保障供給に流れたことは記憶に新しい。旧一電が料金改定を申請し、市場価格連動商品を増やしていく中で、新電力も価格引き上げを行い易い環境が整ってきてはいる。また、インフレによる景気停滞や省エネ浸透の影響で、燃料価格が下がり、電力市場価格が落ち着いてきており、一息つける状況とも言える。予断を許さない状況ではあるが、なんとか持ちこたえて次の展開に繋ぐことを期待する。

 長期対策にもつながる戦略であるが、新規や既存の非FIT再エネ電源との連携が基本であろう。これはコストが下がってきており時間や場所に融通が利く太陽光が主となるが、陸上風力や廃棄物発電を含むバイオマス、小水力の能力増やリプレース等も視野に入る。FIPの利用も視野に入れたPPA取引が期待される。長期的に発電事業と小売り事業のリスクをシェアすることにもなる。

 課題は場所の確保と地元理解であるが、ここは、地域新電力は優位にあり、自治体や利用者との連携を強めて着実に事業を積み上げていくことである。洋上風力等の大規模設備については、地域資本のみでの開発は難しいが、確実に地域で消費する仕組み構築が重要になる。いずれにしても自治体の関与が強いゾーニングは有効であり、改定温対法の再エネ促進区域や再エネ海域再利用法の促進区域を上手く利用することは一法であろう。地域新電力は「地域消費」の受け皿になる。なお、温対法の促進区域は文字通りポジティブゾーニングであるが、ネガティブに曲解・運用される懸念があり留意を要する。

市場機能の整備について:米国ISO制度の示唆

 最後に、旧一電相対市場の電力価格が市場価格に収斂する可能性を考察する。どうして欧米では市場価格に収斂しているのか、米国ISO/RTO制度を基に解説する。ISO制度では、市場取引きではメリットオーダーにて電源が選択され、送電線を優先的に利用できる。また、混雑コストを含む価格が変電所単位で、5分単位で決定される(ノーダル制度)。一方、相対取引は事業者間での契約に加えて、送配電事業者との間で送電線予約契約を結ぶ。混雑する場合でも送電線を確実に利用できるようにするためには、混雑費用を支払うことを確約する必要があり(ファーム契約締結)、このプロセスの中で市場価格に収斂していく。また、電源を登録する際に詳細情報を開示する義務があり、イレギュラーな数字はISOが潮流シミュレーションを行う際に排除する仕組みとなっている。

 このようなシステムの下で、市場価格は指標性を確立している訳である。日本でも、新しい市場制度の構築に向けた委員会を立ち上げたところであるが、市場価格の指標性確立が肝であり、実現されることを強く期待する。