Research Project on Renewable Energy Economics, Kyoto University

京都大学経済学研究科

再生可能エネルギー経済学講座

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No.355 都市部にはCfDが似合う①
豪州首都が再エネ100%実現

2023年1月26日
京都大学大学院 経済学研究科 特任教授 山家公雄

キーワード:大都市100%再エネ、オーストラリア、CfD

 東京都をはじめとして、大都市では再エネ資源は少ない。カ-ボンニュ-トラルの実現に向けて再エネを調達しなければならない。東京都が新設住宅等への太陽光発電設置を義務付けたが、大きな一歩ではあるものの都外からの調達抜きには100%化は不可能である。豪州では、首都キャンベラとその圏内である首都特別地域(ACT)は、既に100%再エネ調達を低コストで実現している。今回はこれを取り上げる。

 豪州の首都はキャンベラであり、シドニーやメルボルンではない。首都を決めるときに両市による綱引きとなり、中間に位置するキャンベラに収まった経緯がある。首都圏はACT(Australian Capital Territory)として準州を形成する。メルボルンはヴィクトリア州、シドニーはニューサウスウエスト州(NSW)にあり、ACTはNSWのなかに位置する。

100%再エネを実現する豪州首都

 豪州は、昨年5月に自由党から労働党への政権交代があった。アルバニージー政権は脱炭素に積極的であり、「2030年再エネ比率82%」にコミットしている。豪州では州の権限が強く、連邦政府と連携しつつも、各州は独自に施策を展開している。ACTは、2020年までに再エネ100%を宣言し、実現している。ACTは再エネ電源と相対契約を締結し、20年間の固定価格にて調達している。その際、再エネ事業のコストを保証する価格(FIT価格)を設定している。いわゆるCfD(Contract for Difference)である。再エネの投資意欲を維持しつつ市場価格がFIT価格を上回る場合は超過収益をリファンドすることになる。この方策が奏功している。

 資源大国豪州でも、昨今の資源価格暴騰に伴い電力価格急騰した。2022年6月にガス価格が約40ドル/GJ(直近の最小値約5ドル)に上昇し、電力価格も約350ドル/MWh(同約35ドル)まで上がった(図参照)。これは大きな社会問題となり、連邦政府は国内のガス・石炭価格に上限を設けることが出来る制度を導入している(12月より実施)。

図 豪州の電力・ガス市場価格の推移(2018/7~2022/9)
図 豪州の電力・ガス市場価格の推移(2018/7~2022/9)
(出所)AEMO(Australia Energy Market Operator)

成功したCfD入札 利益を住民に還元

 一方、ACTは相対契約により、FIT価格を超える分の収入を得、これを圏内需要者に還元できた。4~6期で58百万ドル、7~9期で32百万ドルである。表は、2022年7~9期における再エネ事業ごとの発電量、金額を示したものである。左より事業名、CfD価格(基準価格 $/MWh)、発電電力量(MWh)、差額($)、FIT価格と市場価格の差($/MWh)となっている。発電電力量と価格差を乗じたものが差額となる。右2列の黒字は事業者への補填、赤字は事業からの還元であり、合計は32百万ドルの還元超となっている。対象となる再エネ事業は11であり、うち4事業は太陽光(上の4行)、7事業は風力である。太陽光は地域内に設置された小規模設備であるが、風力は全て他州で稼働している。

表 ACTの100%再エネCfD契約の成果
表 ACTの100%再エネCfD契約の成果
(出所)ACT(Australian Capital Territory

連邦政府の施策にも採用

 このように、ACTは他地区の料金高騰を尻目に、低価格を享受できているのである。ACTは需要増に応じて再エネ入札を増やす予定であり、またガスゼロ郊外地区も整備中である。ACTが位置するNSW州は、自由党政権ではあるが、類似の制度による入札制度を導入している。再エネ事業のコストを保証する下限価格と超過利潤の還元を受ける上限価格を設定する。再エネの投資意欲を維持しつつ極端な価格上昇を抑える効果が期待されている。連邦政府は、昨年12月に、NSW州と同様の施策導入を決定している。

求められる都市と地方の連携

 今回は、再エネ資源に乏しい大都市で100%再エネを実現する方策について、豪州首都圏(ACT)における取り組みを紹介した。日本は、再エネの賦存量が偏在しており、再エネ資源は乏しいが需要の大きい都市部は、需要は小さいが豊富に再エネ資源のある地方より調達する必要がある。都市と地方の連携なしには脱炭素達成は不可能である。再エネは主力電源となり、国全体として発電量を確保する必要があるが、急激なFIT価格低下、準備不足の感が否めないFIP制度、資源地域での受け入れ問題等の課題が顕在化しており、黄信号(赤信号?)が灯っている状況にある。この閉塞感を打破するためにも、東京都等の大都市は豪州ACTの制度を参考に再エネ100%実現を目指すことを、強く期待したい。

以上