Research Project on Renewable Energy Economics, Kyoto University

京都大学経済学研究科

再生可能エネルギー経済学講座

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No.358 都市部にはCfDが似合う③
2045年脱炭素に目途

2023年2月24日
京都大学大学院 経済学研究科 特任教授 山家公雄

キーワード:都市部100%再エネ、CfD、ガス0%、オーストラリア

 前回まで、豪州の首都特別区(ACT)が2020年までに再エネ100%を実現したこと、その手段として導入したCfD(Contract for Difference)が奏功し、料金低下にも寄与したことを解説した。最終となる今回は、ACTが目指す2045年脱炭素について解説する。電力から熱と運輸に焦点が移るが、当面特に注力するのはガス0%への移行だ。再エネ入札100%継続が肝であり、本格的にバッテリーが設置される。

1.ACTの脱炭素戦略 電力からガス(熱)へ

 ACT政府は、2010年に「気候変動・温室効果ガス削減法」を施行し、2018年の改訂で、現行の2020年40%削減、2045年カ-ボンニュ-トラルにコミットした。中間目標として2025年までに50~60%、2030年に65~75%、2040年に90~95%としている(図1最下行)。

気候変動戦略2025の策定

 その後、公約である2020年再エネ100%について、1年前倒しの2019年10月に実現した。11カ所の落札電源の最後にNeoenのHornsdale3風力発電が運開した。直前の2019年9月に、ACT政府は「気候変動戦略」を改定し、特に2019年から2025年にかけての具体的な戦略を示した。再エネ100%実現が秒読みとなり、2025年度までの目標達成手段を講じる必要が出てきたのだ。2020年12月には、2020年は45%削減できることが判明し、勢いが増した。前倒しの再エネ100%効果が予想以上に大きかったとしている。

図1.ACTの排出量見通し(自然体)と削減目標(最低限)
図1.ACTの排出量見通し(自然体)と削減目標(最低限)
(出所)ACT-Government “Climate Change Strategy 2019-2025 ”(2019/9)

 図1は、ACTの排出量見通しと削減目標を示したものである。色付きの帯グラフは分野ごとの排出量を自然体で積み上げたものであり、折れ線は(最低限の)目標である。電力の排出割合は、2015年に5割強を占めていたが2020年にはゼロになる。2020年時点では運輸が約6割、熱が2割強を占めることになり、この2領域に焦点が移る。運輸の脱炭素は連邦政府の政策との関連性が強く、まずは熱の脱炭素に注力する。

ガス0%に焦点

 熱の脱炭素は、民生用需要が主のACTでは、天然ガス削減と同義であり、電化がソリューションとなる。ガスに水素・バイオガスを混入する選択肢もあるのだが「時間とコストを要する。電化は技術が進んでおりコストも低い。」と判断している。「再エネ100%が実現したことから、天然ガスは環境にいい過渡期の低炭素エネルギ-ではなくなった、単に排出する化石燃料である」(政府関係者)とガスに厳しいコメントが出ている。再エネ100%効果で2020年45%削減が実現できたことも、電化推進の自信となっている。具体的にはヒートポンプ給湯器・暖房、LED照明、バッテリー等の家電設置への助成を行う、新街区にはルールを改正してガス導管を通さない等の対策をとる。ガス無し住宅の目標であるが2025年に6万戸、2030年に9万戸、2045年に全戸としている。

 運輸に関しては、運輸の脱炭素はZEV(BEV、FCV)導入と略々同義になるが、公共交通機関利用の奨励および自家用車運転の抑制、歩行・自転車を利用するActive-Travelの奨励とインフラ整備、充電・水素ステーションの整備を進める。前述の様にZEV化は連邦政府の政策の動向を見ながら進めることとなる。

再エネ100%継続と蓄電池導入が生命線

 最大の脱炭素手段は、引き続き再エネ100%を維持することであり、CfD入札による再エネ電源確保が生命線となる。ACTは人口増加・経済成長が予想され、電化に伴う天然ガスからの代替、EV推進のために再エネ電力確保は不可欠となる。また、風力・太陽光の増加に伴い需給調整や系統安定化対策が不可欠となり、バッテリーが欠かせなくなる。再エネと並び域内バッテリー設置の重点を置く。

 2025年~30年を睨み、ACTは2次におよぶ対策を発表している。(ACT労働党が再選された)2019年9月に、「次の10年用」として風力200MWあるいは太陽光250MW、付帯条件としてバッテリー20MW/40MWhの入札実施を公表した。9月にACT労働党が再選されている。200MW、太陽光のみで250MW、組み合わせの場合はその間となる。契約期間は10年で、バッテリーはACT内設置が条件となる。2020年9月に入札結果が発表されたが風力200MW、付帯の蓄電池60MWが落札された。この結果、落札電源は稼働中の64MWから84MWへと拡大する。

フランスとスペインの現地法人が活躍

 落札者はNeoenとGPGである。フランスの再エネ事業者NeoenはGoyder-South風力1(100MW)とバッテリー50MW/100MWhにて応募した。風力はSA州に立地する。バッテリーは、その後100/200に規模拡大しCapital-Big-Battery(CBB)と称されるようになる。契約期間は14年で、2023年前半の稼働を予定している。落札価格は$44.97/MWhで、インフレ率を調整すると実質35ドルとなり、これは前年(2019年)のNSWスポット価格の1/2に相当する非常に低い水準である。また、Global Power Generation(GPG)が、Berrybank風力2(100MW)とバッテリー10/20を落札した。立地はVictoria州で、契約期間は10年である。GPGは、スペインの大手エネルギ-事業者Naturgyの現地法人である。2022年11月に107MWで運開済みである。

 さらに、2022年7月にBig Canberra Battery (BCB)計画が発表される。大規模、中規模、小規模のコミュニティ型、分散型の蓄電池を3段階で整備する計画である。総容量(duration)は2~4年を予定している。

2.再エネCfD入札の意義

再エネ停滞期に気を吐いたCfD入札

 ここで、これまでの入札について振り返ってみる。表1は稼働中の電源で、図1は「次の10年用」電源(Goyder-South1、Berrybank2)を含めた位置図である。太陽光はACT内に位置する小規模の早期開発案件であり、FIT価格は相対的に高い。風力は、全て他州立地であり、規模は100MW前後で、場所等の状況によりFIT価格に差が出る。「勝ち組」はフランスの再エネデベロッパーNeoenであり、サウスオーストラリア州(SA)で開発したHornsdale1、2、3 は全て落札した。また、入札の回を追うごとにFIT価格($/MWh)は下がっている(92→77→73)。Neoenは、前述の様に、「次の10年用」入札でも、大規模蓄電池(CBB)付きで、驚異的な低価格(45、実質35)で落札している。

表1.ACT 2020年100%再エネ落札電源一覧(CfD)
表1.ACT 2020年100%再エネ落札電源一覧(CfD)
(出所)JACOBS“Review of Next Generation Renewables Auction and the Electricity Feed-in”(2017/5)

図2.ACT 2020年100%再エネ落札電源位置図
図2.ACT 2020年100%再エネ落札電源位置図
(出所)ACT-Government  直近の落札2電源(緑枠)は加筆

大規模プロジェクトの呼び水となるCfD入札

 前回も解説したが、連邦政府の前保守連立政権は、再エネ推進策について2015年にRPS目標値を44TWhから33TWhへと引き下げた。再エネ投資が停滞する中で、ACT政府の2020年再エネ100%目標とCfD戦略は、全国に風力・蓄電池投資を喚起した。特に、再エネ・蓄電池を組み合わせる画期的な事業を次々と展開しているNeoenは、ACTと組んで弾みをつけた形である。

 SA州のHornsdale事業では、同名の風力1、2、3が全て落札した。同所に立地した当時世界最大の蓄電設備となるHornsdale-Reserve-Battery(100/129)は、2017年11月に運開し、再エネ比率が高いSA州の系統安定化に貢献し、その後の豪州グリッドストレージ事業の基盤となった。Neoenは、2021年12月にヴィクトリア(VIC)州に300/600の豪州最大のVictoria-Big-Battery(VBB)を運開させ、連系線効率運用を目的に1部容量(250/125)について夏季期間利用契約をグリッドオペレーターと契約する。

 そして再エネ100%をサポートするCBBを首都キャンベラに、2023年度上期に設置する。CBBは、補助なしであるが、アンシラリーサービスだけでなくエネルギ-裁定取引等で回収可能と見込んでいる。ACTの主たる小売り事業者であるActewAGL と70/140について7年間の利用契約を締結する。

 CBBは、「次の10年用」のGoyder-South風力1とセットであるが、このGoyder-South事業は、Eneonが旗艦プロジェクトに位置付ける大事業である。風力1200MW、太陽光600MW、バッテリー900/1800を3ステージに分けて整備するもので、豪州屈指のエネルギ-ハブとなる。Goyder-South風力1は出力300MWであるが、うち100MWをACT向けに供給する。この大構想で販売確定第1号となったのがACT入札である。

再エネ100%維持に蓄電池導入は不可欠

 ACTは、2045年脱炭素を目指して、2020年に再エネ100%・排出45%削減実現した。次のステップとして2025年60~70%削減を目指して熱、運輸の脱炭素を推進するが、再エネに加えて蓄電池の導入に注力する。前述の様に「次の10年」再エネ入札で風力200MW、蓄電池110MW/220MWhを確保したところである。

 さらに、Big Canberra Battery (BCB)事業として250MWの蓄電池整備を打ち出す。ACT圏内に、コミュニティバッテリーとして大規模、中規模、小規模を3ステージにて整備する。既に2021年6月時点で42の関心表明が寄せられている。

 再エネ100%実現に関しては、発電と消費の時間がずれるので100%と言えないのでは、との疑問も出されていたが、7カ月単位でみると総量は略々一致し、約8割の直接使用が確認されている。発電事業者は同時同量運用を行っている(Hornsdale-Reserve-Batteryが活躍)。またfeed-inの役割を担う配電事業者Evoenergyが需給調整を実施していると考えられる。いずれにしても、脱炭素が進展するにつれて再エネが増えていくことになり需給調整、系統安定のための対策が不可欠となる。Neoenは補助なしで100/200のCBBを設置する。250MWのBCB計画も実行に移される。

最後に 東京都への提言

 3回にわたりACT(豪州首都特別区域)の再エネCfD入札を解説してきた。前保守連立政権が脱炭素に躊躇している中で、ACTは再エネ100%を実現した。このモデルは、地域主体の再エネ導入策として注目を集め、多くの州や地区のお手本となり、昨年12月には労働党の連邦政府も、同様の制度を、地域の仕組みを補完するとして、採用した。

 ACTのCfD取引は、FITが持つ投資の予見性、FIPおよびコーポレートPPAの相対取引可能性に加えて、追加性(新設確保)、価格安定等の効果がある。さらに再エネ適地指定(ゾーニング)と入札の組み合わせがもつ計画性・機動性・投資確実性が加わる。個々の再エネや変動を調整する蓄電事業と直結し、再エネゾーニングやインフラ整備と合わせて場所やスケジュールを確定できる。こうした点からも、CfDは現実的で有効な対策と考えられる。

 日本は、試行錯誤を経てある程度の制度が存在する。ACTモデルの日本への応用は十分可能であると考えられる。都市部が突破口を開くことを期待したい。需要が大きい都市部の再エネ大量導入なしにはカ-ボンニュ-トラル実現はありえない。