Research Project on Renewable Energy Economics, Kyoto University

京都大学経済学研究科

再生可能エネルギー経済学講座

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No.365 バイオ燃料の可能性について
(食料安全保障との関係等)

2023年4月13日
京都大学大学院経済学研究科 客員研究員 末松広行

キーワード:バイオエタノール、バイオディーゼル、SAF(Sustainable Aviation Fuel)、食料安全保障

 農山漁村における再生可能エネルギーの生産については、農山漁村を場として活用する太陽光発電(ソーラーシェアリングを含む)、風力発電(山間部、洋上等)に加えて、農山漁村で生産されるものを活用する木質バイオマス発電、メタン発酵(発電、ガス利用)、バイオ燃料などがある。

 本稿においては、バイオ燃料についてその可能性などについて論じることとする。

バイオ燃料の種類と製造方法

 バイオ燃料とは、「バイオマス」を原料として作られる自動車用等の液体燃料のことである。主としてバイオエタノール(ガソリン代替)、バイオディーゼル(軽油代替)の2種類がある。用途は自動車燃料が中心であるが、最近は、従来の航空燃料に比べて温室効果ガスの排出量の大幅な削減が期待できるとともに、既存のインフラをそのまま活用できる持続可能な航空機燃料(SAF(Sustainable Aviation Fuel))としての活用も注目されるようになってきている。

 バイオエタノールの製造方法は、基本的には酒と同じであり、一般的にはさとうきびなどの糖質やトウモロコシ、米などのデンプン質作物を原料にして、これらを糖化・発酵させも、濃度99.5%以上の無水エタノールにまで蒸留して作られる。

 バイオディーゼルの製造方法は、日本では廃食用油を原料として粘性や引火点を低くするためにエステル化することによってつくられる。

世界におけるバイオ燃料の状況

 自動車用燃料については、ヨーロッパにおいてバイオディーゼル燃料を地球温暖化対策の切り札にしようという動きがあったが、排ガス規制逃れが発覚したことなどからあまり話題にならなくなっている。

 一方、バイオエタノールについては、当初、ブラジル、現在はブラジル以上の生産をする米国が中心となって生産・利用されている。



(農林水産省のホームページより転載)

 ブラジルは、1975年に「国家アルコール計画」を発表している。それまで大量に輸入していた石油の高騰で経済に大きな打撃があったことから国産の燃料としてのサトウキビから生産するバイオエタノールを推進したのである。ブラジルで走る車に給油されるガソリンには必ず20%以上のバイオエタノールが混合されている。さらに、バイオエタノールのみで走る車も増えている。

 一方のアメリカではトウモロコシを利用している。現在は、トウモロコシ生産量の1/3近くの1億3336万トンがバイオエタノールの原料となっており、世界最大のバイオエタノール生産国となっている。

 ちなみに、日本はアメリカのトウモロコシを飼料として輸入しているが、年間で約1500万トンであるので、その8倍以上のトウモロコシがバイオエタノールの原料として利用されていることとなる。

日本におけるバイオ燃料の状況

 日本においてもバイオ燃料を生産する取り組みが進められた。

 バイオエタノールについては、2007年に北海道上川郡清水町において余剰テンサイ、規格外小麦などを原料とする年産1.5万キロリットルの工場、北海道苫小牧市において非食用米を原料とする年産1.5万キロリットルの工場、新潟県新潟市において非食用米を原料とする0.1万キロリットルの工場がつくられた。

 これらの工場においては、日本においてもバイオエタノールの生産ができることを実証することができたが、生産を継続することができずに事業は終了している。

 その原因については、次のようなことが挙げられる。

①原料となるべき規格外小麦、テンサイの余剰があまり発生しなくなったこと
②非食用米についても、低価格での供給がうまくできなかったこと
③海外と異なり、ETBEでの供給しか許されなかったことからコストが嵩んだこと
④税金の扱いがうまく調整できなかったこと(本来、植物由来の燃料は無税)
⑤FITのような優遇策がとられなかったこと

 ETBE(エチル・ターシャリー・ブチル・エーテル)について付言すれば、アメリカでもブラジルでもバイオエタノールはそのままガソリンに混ぜられている。

 ところが日本においては、バイオエタノールと石油系ガスであるイソブテンを合成したETBEにしてからガソリンに混合することとなった。理由は、ETBEは、エタノールと異なり水分や蒸気圧の管理が必要なく、ガソリンになじみやすい性質を持っているからであり、石油業界(石油連盟加盟各社)では、ETBEを配合したガソリンを利用することとしているからである。

 北海道で生産されたバイオエタノールは、鶴見までタンカーで運ばれ、ETBEに加工されて全国に流通することとなった。

 バイオディーゼルについては、廃食用油の回収を市民活動などで進めていく中で導入が進みだしたが、こちらについても混合についての規制が強化され、国内での利用が進まず、国内で飼料などとして活用されるもの以外のものが海外に輸出されるようになっている。ちなみに、海外に輸出された日本の廃食用油はSAFなどの原料となっている。

バイオ燃料と食料安全保障

 バイオ燃料については、食料安全保障との関係についても言及しておきたい。

 バイオ燃料が食料安全保障に影響するからといって、食用の作物からのバイオ燃料の製造を否定する意見も多い。バイオ燃料の原料としては、同じバイオマス資源でも食べられないものから作るべきだということである。

 確かに、サトウキビから絞った糖分、すぐに糖化できるトウモロコシなどのでんぷん以外の稲わら、木くずなどのセルロース系からバイオエタノールを作る技術が進展しつつあり、そのような作り方を推進することは重要である。

 しかしながら、食べられる農産物からのバイオエタノールを否定する必要はない。バイオ燃料の原料にもなり食料にもなる作物は、いざというときにバイオ燃料ではなく食料に回すことができるからだ。

 人間が食べられずに飢えているのに、クルマがバイオ燃料を消費するようなときには、その作物をバイオ燃料に向けるのではなく食用に回すというルールを明確化すべきではないだろうか。

 国内においても、過剰に生産されたものの利用方法としてバイオ燃料は検討されるべきであり、これもいざというときには食料に転用することで食料安全保障の強化につなげるべきである。

バイオ燃料の今後のありかた

 地球温暖化対応が必須になっていくなかで、化石燃料の利用を続けていくことは難しい問題が増えてきている。

 電気自動車が注目されているが、航空機など電気の利用が難しいものもあるし、自動車においてもすべて電気自動車にしていけるかという問題がある。今後とも、液体燃料の需要は続くと考えら、バイオ燃料の重要性は増していくと考えられる。

 日本においては、大量のサトウキビやトウモロコシを生産してバイオ燃料を生産するという方法を大々的に推進することは国内の農地面積などからみても難しいが、一定量の生産は可能であるし、木くずをはじめとしたセルロース系バイオマスからの生産についてはまだまだポテンシャルはあると考えられる。
 さらに、米国から輸入するバイオエタノールをトウモロコシのかたちで輸入して、国内でバイオエタノールの製造をすることも検討すべきではないだろうか。家畜に有用なたんぱく質飼料がバイオエタノールと同時に生産され、利用できるほか、食料安全保障の面からも有効である。

おわりに

 地球温暖化防止対策がいろいろと検討される中で、液体燃料の代替問題は大きな課題である。自動車については電気自動車、冷暖房・調理についてはオール電化というような電気ですべてを代替していくということだけではなく、液体燃料の特性を生かし続けることも重要であると考える。

 穀物がすでにこれだけエネルギー利用されているという現実も踏まえ、我が国においても、液体燃料のカーボンニュートラル化について真剣に検討していく必要があると考える。