Research Project on Renewable Energy Economics, Kyoto University

京都大学経済学研究科

再生可能エネルギー経済学講座

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No.374 排他的経済水域(EEZ)での洋上風力開発における諸課題
-洋上風力のEEZ展開①-

2023年6月1日
エネルギー戦略研究所株式会社 取締役 横田 浩

キーワード:洋上風力、排他的経済水域、EEZ

1.はじめに

 領海内での洋上風力の開発がある程度進むと、その次には排他的経済水域における開発が行われると言われている。そこでは領海内における開発とは異なる課題が想定されるものの、その多くは今後の検討に委ねられているのが実態である。今回は、その課題を探ることにする。

2.海域の区分等

(1)国連海洋法条約における海域の区分

 海域は、海洋法に関する国際連合条約(United Nations Convention on the Law of the Sea(以下、「UNCLOS」という。))において、領海、接続水域、排他的経済水域、大陸棚、公海、深海底等に区分されている(図参照)。

図1.我が国の排他的経済水域      図2.水域のイメージ
図1.我が国の排他的経済水域      図2.水域のイメージ
(出展:海上保安庁HP)

 特に、排他的経済水域(Exclusive Economic Zone(以下、 「EEZ」という。))は、UNCLOSに基づいて新たに設定され、制度化された水域である。なお、UNCLOSは2020年7月現在、我が国を含む167ケ国とEUが締結している。因みに、アメリカを含む一部の国は非締結国であるが、大部分の規定が慣習国際法化しているため、非締結国も事実上この条約に従っている。

(2)EEZ

 沿岸国の主権が及ぶ領海は、各国がUNCLOSの規定に基づく基線から12海里(約22km)を超えない範囲でその範囲を定める権利を有している。また、EEZは領海の外で基線から200海里(約370km)までの水域であり、沿岸国は次の権利を有している。

a)海底の上部水域並びに海底及びその下の天然資源(生物・非生物を問わない。)の探査、開発、保存及び管理のための主権的権利並びに排他的経済水域における経済的な目的で行われる探査及び開発のためのその他の活動(海水、海流及び風力からのエネルギー生産等)に関する主権的権利

b)人工島、施設及び構築物の設置及び利用、海洋の科学的調査、海洋環境の保護及び保全に関する管轄権

 なお、接続水域は、領海に接続する基線から24海里(約44km)までの水域であり、EEZに含まれる。

(3)主権的権利

 UNCLOSの交渉過程における大きな問題の一つとして、EEZにおける沿岸国の管轄権と他国の権利がぶつかった際に、どちらを優先するかということがあった。様々な議論の末、沿岸国の権利を優先することになり、これを主権的権利(sovereign right)と定義した。

3.EEZに関する主な国内法制

(1)海洋基本法

 海洋政策の制度的枠組みを規定する法律であり、海洋に関する施策を集中的かつ総合的に推進するため、内閣総理大臣を本部長とする総合海洋政策本部を設置し、5年ごとに海洋基本計画を策定することになっている。

(2)排他的経済水域及び大陸棚に関する法律

 この法律は、我が国のEEZと大陸棚を定義するとともに、「人工島、施設及び構築物については、国内にあるものとみなして、我が国の法令を適用する。」と規定している。

(3)海洋構築物等に係る安全水域の設定等に関する法律

 この法律は、大陸棚を含むEEZに設置された海洋構造物とその近辺を航行する船舶の安全を確保するため、UNCLOSに基づき船舶の侵入を規制する安全水域を設定する根拠となっており、その安全水域は最大で500mとされている。

(4)排他的経済水域における漁業等に関する主権的権利の行使に関する法律

 この法律は、我が国のEEZにおいて外国人による漁業を規制することを主眼とし、我が国のEEZにおける外国人による漁業には漁業法を適用せず、当法律が適用される。

4.内閣府での検討

 内閣府では、2022年6月に、EEZでの洋上風力の実施に関し、UNCLOSとの整合性を中心に国際法上の諸課題に関する有識者の検討会を設け、2023年1月31日に「取りまとめ」を公表した。以下は、事務局から検討を求められた6つの論点とその検討結果の要約である。

論点1:EEZにおいて、洋上風力発電施設は、UNCLOSにおける「施設・及び構造物」に位置づけられるのか。
結 論:特定の場所に固定され、主たる活動目的が経済目的である洋上風力発電施設は、国際法上、UNCLOSにおける「施設・及び構造物」に位置づけることが適当である。

論点2:我が国が行使できる風からのエネルギー生産に関する主権的権利・管轄権の具体的内容は何か。
結 論:国内法上必要な手続きを規定すれば、沿岸国はEEZにおいて認められた主権的権利・管轄権行使の一環として、建設、利用時のメンテナンス、解体の各段階にわたって、洋上風力発電事業に係る探査及び開発のための活動や占用等の許可、監督処分、報告の聴取、立入検査などを行うことができると考えられる。

論点3:我が国のEEZにおいて、洋上風力発電施設の周辺に安全水域を設定することができるのか。また、安全水域の設定が可能な場合にはどの程度の範囲を設定し、どのように周知するべきか。
結 論:我が国EEZにおいて洋上風力発電施設の周辺に安全水域を設定する必要がある場合、「安全水域法」に基づき、洋上風力発電施設の外縁から500mを超えない範囲で安全水域を設定することができる。また、UNCLOS上求められる適当な通報として、当該安全水域の位置及び範囲を告示するとともに、水路通報を含む水路図誌への記載等による周知を行うことが必要と考えられる。

論点4:沿岸国としてEEZにおいて洋上風力発電を実施する場合、他国の権利及び義務との関係で、いかなる考慮が必要となるか。例えば、当該水域における他国の航行の自由や海底電線等敷設の自由との関係についてはどうか。
結 論:EEZの沿岸国が、UNCLOSに基づき権利・自由を行使する際、他国の権利及び義務に対して妥当な考慮を払うことは、一般的・総則的な義務である。

 「航行の自由」との関係では、洋上風力発電施設の位置について海図への記載等を行うことに加え、安全水域の位置及び範囲等について公示等行うことをもって、妥当な考慮を果たしたといえると考えられる。

 「海底電線、海底パイプライン敷設の自由」との関係では、これに加え、少なくとも敷設に際し、ケーブル同士の摩耗を防ぐ観点から、一定程度の距離を取るなどといった対応をとることが、妥当な考慮と考えられる。

論点5:洋上風力発電をEEZで実施する場合には、海洋環境への影響の評価をいかにして行えばUNCLOS上の義務を果たせると考えるか。
結 論:EEZにおいて洋上風力発電を実施する場合の環境影響評価については、国際社会での議論や他国の国家実行等を踏まえながら、洋上風力に係る環境影響評価制度のあり方の検討を踏まえた所要の国内的措置を講じた上で、「排他的経済水域及び大陸棚に関する法律」に基づき、国内法令を適用して対応する必要があると考えられる。

論点6:人工島、施設及び構築物の建設について、関係国に対して個別に事前通報を行う国際法上の義務はないのか。
結 論:EEZにおける洋上風力発電に関し、他国の国家実行等も踏まえながら、事前通報の要否やその範囲を政府において適切に判断する必要がある。

5.残された課題

(1)他の権益との調整

 EEZにおいて洋上風力発電を開発する際には、他の権益との調整が必要となる。代表的なものとしては漁業が挙げられるが、これについては次回以降に別の識者から解説されることとなっている。

 もう一つは鉱業権との調整である。2011年にUNCLOSを念頭に置いた鉱業法の一部改正が行われたが、そのポイントは、特に重要な鉱物についてポテンシャルの高い海域を特定区域とし、先願主義ではなく事業者の能力や探査方法を勘案して許可できる制度としたことである。洋上風力との関係で言えば、特定区域でなければほぼ問題はないが、特定区域である場合には、安全水域との調整が必要になるであろうが、それほど大きな問題になることはないと思われる。

(2)占用の許可等

 まず上記「論点2」の結論に、「国内法上必要な手続きを規定する」とあるが、特に占用等の許可が何に基づくのかについては、必ずしも専門家の見解の一致をみていないようである。海洋再生エネルギー発電設備の整備に係る海域の利用の促進に関する法律(以下、「海域利用法」という。)は領海内で適用されるため、国の財産権に基づいて占用の許可を行っている。一方EEZにおいては、国は主権を持たず主権的権利を持つと整理されており、財産権に基づく占用の許可は難しいというのが通説のようである。従って、自然公物である海域の自由な使用を制限し、例えばエネルギーの生産に限定するという権限は主権的権利に基づくものであるといった説明で国内法の整備がなされるかも知れない。

 一方、海域利用法には占用料の規定があるが、国が財産権を持たないEEZにおいて占用料を徴収できるのかどうか、仮に徴収するとした場合の根拠は何かが問われることになる。さらに、領海内の発電施設には固定資産税が課されるが、EEZにおいては非課税になるのか、課税する場合にその税はどこの自治体の収入になるのか、未解決の課題は多い。

(3)安全水域

 次に「論点3」の安全水域については、UNCLOS上は500mを超えない範囲で安全水域を設定できるが、ウインドファームにおける風車の間隔はこれより大きいので、ウインドファーム域内に虫食い的な安全水域ができることになる。しかし、大型船舶が安全水域の間を縫って航行すると言うのは考えにくく、全体を包括した水域の設定も考える必要があろう。しかし、安全水域そのものがUNCLOSに根拠を持つだけに、条約の改定も視野に入れた議論が必要かも知れない。

(4)環境アセス

 最後に、「論点5」の環境アセスに関しては、アセスの内容と手続きの制度設計の2点が問題となる。まず内容であるが、EEZにおける洋上風力は、人間の居住区域から遠く離れた場所における開発であり、居住区域に近い場所を対象としたアセスとは自ずと異なるはずである。特に沿岸から見た景観については、風車は最低でも沿岸から22km離れており、仮に高さを300mとすると垂直見込角は約46.5″となり、人間の視力で対象を識別できると言われる見込角である1~2°より小さく、ほぼ問題になることは無いと考えられよう。

 因みに、UNCLOSにおいては「重大かつ有害な変化をもたらすおそれがあると信ずるに足りる」場合にアセスを行う必要があるが、ここでは海洋の汚染防止という観点が重視されている。従って、洋上風力発電においては破壊、劣化等によって部材、塗料、油脂等が海洋に流出するリスクを評価すれば済むのではないだろうか。

 次に手続きの制度設計であるが、仮に現行アセス法の手順を踏襲するとしても、EEZを管轄する自治体がないため、都道府県知事の取り扱いをどうするかがポイントになると思われる。

6.終わりに

 EEZにおいて洋上風力を開発する上では、新たな法整備を含めた施策が必要となる。その際、内閣府での検討結果でも言及されているように、特にUNCLOSとの関係では、本分野において先行するEU及び英国での施策を調査し、これを踏まえた対応が重要となろう。