Research Project on Renewable Energy Economics, Kyoto University

京都大学経済学研究科

再生可能エネルギー経済学講座

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No.379 新電力と卸電力取引

2023年6月22日
京都大学大学院経済学研究科 特任講師 馬 騰

キーワード:新電力、アンケート調査、卸電力取引

 2022年10月に、新電力の経営についての実態を把握することを目的として、卸電力取引、再エネ導入、地域関連系線利用、排出権取引、社会的責任、地域課題解決サービス事業など課題について、日本国内全ての新電力を対象とし、標題「新電力企業の経営の現状に関する調査」を実施した1。アンケート調査の結果を「新電力の経営現状報告書」としてまとめたので以下、その内容を簡潔に報告する。

1.新電力によるJEPX利用の実態―アンケート調査結果のまとめ

 アンケート調査に基づき、以下のことが分かった。全体のうち、約57%(81社) の新電力が卸電力取引を行なっている(表1)。そのうち、最も新電力に利用されている市場はスポット市場と時間前市場(77社)である(表2)。JEPX 2020 年 8 月において、新電力による販売電力量に対する JEPX 買い約定量の比率は90.2%となり(経済産業省, 2021a)、新電力の電力調達が大きくJEPX市場に依存している。

表1 JEPXの利用現状
利用現状 利用社数(社)
利用している 81
利用していない 63
合計 144
表2 新電力が利用している卸取引(重複あり)
市場 利用社数(社)
スポット市場・時間前市場 77
先渡市場 6
分散・グリーン売電市場 1
非化石価値市場 42
間接送電権市場 12
ベースロード市場 24

 また、JEPXを利用して電力調達を行う理由について、「JEPXによる電力調達が便利」という回答が最も多かった。「その他」の理由を挙げた新電力は具体的に、「需給調整ため、自社及び相対電源で不足する分を調達する必要があること」、「JEPX以外の調達手段がない」、「非化石証書口座移転のため、非化石価値取引を行う必要があること」、「自社保存電源のみで需要をカバーできない時間帯があるため」、「リスクヘッジのためベースロード市場を利用」、「CO2排出係数が低い」、「発電余剰がある」、「電源が非調整電源のため」、「自社発電所がなく、他の仕入れ先ではJEPX以上に費用対効果の悪化となると想定されるため」といった理由を挙げた(表3)。

表3 JEPXを利用して電力調達を行う理由(重複あり)
理由 回答社数(社)
電力調達が便利 46
電力調達コストが低い 5
会社の固定・運営費用が削減できる 5
その他 32

 JEPXの利用経験がないと回答した63新電力のうち、なぜ卸電力市場を利用しなかったのか理由を尋ねたところ、「JEPXを知らない」を回答した新電力は1社しかなかった。また、「JEPXによる電力調達が不便」、「JEPXによる電力調達コストが高い」、「JEPXによる電力調達によって、会社の固定・運営費用が増加する」などの理由が挙げられた。ちなみに、「その他」を回答した39社は具体的に、「BGから調達している」、「相対電源にて調達」、「事業休止中」、「不安定な調達コスト」、「JEPXによる調達の知見がない」、「自社の太陽光発電の範囲で電力を供給することでリスクヘッジしている」など理由を挙げている(表4)。

表4 JEPXを利用しなかった理由(重複あり)
理由 回答社数(社)
JEPXを知らない 1
電力調達が不便 6
電力調達コストが高い 13
会社の固定・運営費用が増加する 12
その他 39

 卸市場今後の利用について、JEPXの利用経験がないと回答した新電力のうち、今後JEPXを利用して電力取引を行う意欲があると回答した新電力は、たった13社しかなかった(表5)。

表5 利用経験がない新電力が今後の利用意欲
利用意欲 利用社数(社)
意欲あり 13
意欲なし 50
合計 63

 利用意欲を持つ企業の中では、スポット市場・時間前取引、分散型・グリーン売電取引、非化石価値取引、ベースロード取引などが注目され、企業社数はそれぞれ7社、1社、9社、7社に上る一方、先渡取引、間接送電権取引に対する利用意欲がある新電力は皆無だった(表6)。

表6 JEPXの今後の利用(重複あり)
市場 利用社数(社)
スポット市場・時間前市場 7
先渡市場 0
分散・グリーン売電市場 1
非化石価値市場 9
間接送電権市場 0
ベースロード市場 7

2.卸電力取引と新電力の電力調達

 2016年の電力小売全面自由化後、JEPXにおける取引量は年々増加してきた。日本の電力総需要に占める市場取引量のシェアは2016年4月の約2.1%から2021年度4月の約41.0%まで大きく上昇した(資源エネルギー庁, 2022a)。その一方、市場取引量の増加は、主に大手電力の「グロスビディング」によるものとなる。市場の流動性向上、価格変動の抑制や社内取引が透明化などを図るために、2017年4月から、大手電力の社内取引分の一部を市場に放出する「グロスビディング」が導入された。「グロスビディング」の実施により、市場取引量が大幅に増加した。また、大手電力会社の売り入札量のうち買戻しを行わなかった部分については、新電力の電力調達機会の拡大に貢献した可能性が高いと期待される。2020年度においては、JEPX市場での売り入札の約4割が大手電力会社以外によるものとなっている(経済産業省, 2022a)。しかし、高需要期においては、市場支配力の持つ電力会社がグロスビディングを行う時、限界費用に基づく入札を行わず、買い約定を確実にするための高値買いや、売り約定を確実にするための安値売りを行っている(経済産業省、2021b)。その結果、新電力の電力調達機会を確保できないリスクが高まる。

 日本では、発電所を持たないために、固定費負担がなく卸電力市場で調達する電力を中心に事業を行う新電力が多く存在する。それらの新電力は固定費負担が低い一方、JEPXから安価な電気を買って、一般家庭や他の電気消費者に電気を供給できる。しかしながら、卸電力価格はエリアや時間帯、さらに、ガスや石炭価格によって、度々高騰する特性があるため、新電力はそれらのリスクを抱えながら経営しなければならない(表4)。特に、2020−2021年度の卸電力価格高騰によって、電力調達コストは過去に例を見ないほどの高値となり、それが1カ月以上にわたって続けていた。このような市場リスクは新電力の経営に深刻な影響を与え、2021年度から新規契約を当面停止すると発表するなど、事業の停止や撤退を決断する企業も現れ始めた(資源エネルギー庁, 2022b)。また、我々がアンケート調査を行う際にも、事業を停止したため、アンケートに回答できない新電力が数多くあった。

 市場高騰リスクを回避するには、新電力は電力の需給管理能力を高める必要がある。しかし調査結果(表1)によれば、半数近くの新電力が直接にJEPX市場で電力取引を行っていないことがわかった。それは、日本の新電力の7割以上が、「需給管理」や「電源調達」などの業務を自ら行わずに、バランシンググループ(BG)親2に委託しているからである(村谷, 2021)。この場合、BG親の需給管理能力と調達能力がBG子の経営に大きく影響する。したがって、新規新電力は自らの経営的自立を図るためにも早めに需給管理能力を高め、自ら電源調達できるように取り組むことが重要だと考えられる。

 この点について、JEPX以外の電力調達手段(独自の調達ルート)の開拓が特に重要だと思われる。これまで主に卸電力市場や大手電力会社を頼って電力調達してきた新電力にとって、市場高騰リスクを回避するために自社電源の拡大が課題となっている。具体的に言えば、再エネ発電設備への投資などによる自らの小売需要に応じた供給能力の確保が必要とされる(経済産業省, 2021c)。

 公正な市場環境の整備も重要である。新電力は小規模なものが多く、卸電力価格の高騰に対応する能力が低いため、卸電力価格高騰を回避し、電力の安定供給を確保することが非常に重要となる。そのため、1)公正取引委員会など市場監視機関は卸電力市場のカルテルに対する監視を強化することが考えられる。旧一電のカルテルが存在することが判明した現在3、大手電力の小売部門と新電力の公平競争を守るため、罰則強化や制度改正が期待される。また、2)LNG、石炭など火力電源の燃料の安定調達を確保、調達コストを軽減することも重要である。ウクライナ戦争など国際情勢の変化やOPECプラスなど化石燃料輸出国の減産などによる燃料価格高騰が予想されるなか、政府は燃料輸入・調達ルートを多様化するべきだと考えられる。

3.新電力と多様な卸電力市場

 JEPXに基づき、ぞれぞれの価値に対応するため、スポット市場・時間前市場、ベースロード市場、先渡市場、分散・グリーン売電市場、間接送電権市場、非化石価値取引市場などが創設されたが、スポット市場を除いて、他の市場はあまり利用されていないと見られる4

 新電力に比較的利用されているのは、卸電力取引の種類で見ると(表2)、スポット市場・時間前市場以外、非化石価値市場とベースロード市場である。特に、新電力による非化石価値市場(42社)の利用状況も注目される。非化石価値市場が彼らに利用される原因は2点、考えられる。一つ目は、供給電力に環境価値を持たせることである。小売電気事業者が非化石証書により、需要家に対して付加価値を主張することが可能となる。二つ目の原因は、環境意識の高い企業がCO2排出量の少ない電力を購入することで、企業価値やイメージを高めることができる点にある5。また、ベースロード市場(24社)への参入も見られる。夏場や燃料コスト上昇などを見越してスポット価格高騰リスクを回避する目的から、新電力が事前にベースロード先物を買い増したと考えられる(電気新聞, 2023)。

 また、先渡取引、間接送電権取引、分散型・グリーン売電取引に対して、新電力の利用意欲は低いと見られる(表2、表6)。先渡市場は新電力の長期的に必要な供給力を確保するというニーズを対応することが可能なので、バランス停止電源6や燃料制約の解消の解決策になりうると考えられるが、売買入札価格乖離、価格固定ニーズが生じにくい、売買入札のマッチングが難しい、受け渡しが不確実、手数料が高いなどの難点が指摘されている(新電力ネット, n.d.)。

 間接送電権取引により、エリアごとの市場価格値差の変動リスクを回避できるのはメリットである。特に、東北・北海道、中部・東京が間接送電権取引に対する需要が高いと見られる(経済産業省, 2019)。連系線容量の増強、先渡市場の活性化などにより、新電力の間接送電権取引の利用意欲の増加が期待される。

 分散型・グリーン売電市場は2012年に開設されたJEPXの会員以外の発電事業者が再エネ電気を販売できる市場であるが、2016年以降取引実績がないと見られる。電力自由化以後、再エネ電力の取引が多様化になり、分散型・グリーン売電市場を通じて再エネ電力を販売する必要性が低くなっていることが原因だと考えられる。

4.まとめ

 JEPXは日本で唯一、電力を取引できる市場であるため、新電力の電力調達には非常に重要である。しかしながら、近年電力需給の逼迫で起きた電力価格高騰のため、その調達資金支出が嵩んで新電力のキャッシュアウトが深刻化している。激しい競争環境と電力調達コストの上昇などの要因が、新電力の経営に深刻な影響を与えている。したがって市場監視を完備され、取引利便性の高い、そして新電力が利用しやすい取引環境を提供することは、競争と安定を両立させる卸電力市場を構築する上で、必須の長期的課題だと考えられる。

 また、新電力が市場高騰リスクを回避しにくいのは、今まで卸電力市場や電力大手からの仕入れに頼っていることは原因だと見られる。自社電源を確保し、JEPXによる電力調達以外の独自電力調達ルートを増やすことも、これから新電力が直面しなければならない課題だと見られている。

 最後に、各種な市場ニーズを対応するため、多様な市場がJEPXで創設されたが、新電力のニーズに応じて、商品形態、清算方法などについて、各市場の在り方を再検討することも課題だと考えられる。

参考文献

経済産業省(2021a)「(参考資料 13)電力市場における競争状況」https://www.emsc. meti.go.jp/info/activity/report_05/20210122_15.pdf(2023年5月31日閲覧)
経済産業省(2022a)「電力・ガス取引監視等委員会における取組について」https://www8.cao.go.jp/kisei-kaikaku/kisei/conference/energy/20220131/220131energy08.pdf (2023年5月31日閲覧)
経済産業省(2021b)「JERAからの提案について」:第65回制度設計専門会合https://www.emsc.meti.go.jp/activity/emsc_system/pdf/065_08_02.pdf
(2023年6月8日閲覧)
経済産業省(2021c)「今後の電力システムの新たな課題について 中間取りまとめ」https://www.meti.go.jp/shingikai/enecho/denryoku_gas/denryoku_gas/pdf/043_05_02.pdf(2023年5月31日閲覧)
資源エネルギー庁(2022a)「電力・ガス小売全面自由化の進捗状況について」https:// www.meti.go.jp/shingikai/enecho/denryoku_gas/denryoku_gas/pdf/044_03_01.pdf(2023年5月31日閲覧)
資源エネルギー庁(2022b)「小売電気事業の在り方などについて:ホーム、審議会・研究会、総合資源エネルギー調査会、電力・ガス事業分科会、電力・ガス基本政策小委員会、第56回 総合資源エネルギー調査会」 電力・ガス事業分科会 電力・ガス基本政策小委員会、2022年11月8日。
村谷 敬(2021)「新電力の明暗分かつ電源調達、中小新電力存亡のカギを握る存在とは:電力市場高騰で見えた新電力経営の神髄」https://project.nikkeibp.co.jp/energy/atcl/19/ feature/00007/00049/ (2023年5月31日閲覧)
公正取引委員会(2023)「旧一般電気事業者らに対する排除措置命令及び課徴金納付命令等について」 https://www.jftc.go.jp/houdou/pressrelease/2023/mar/230330_daisan.html (2023年5月31日閲覧)
新電力ネット(n.d.)「電力先渡市場」https://pps-net.org/glossary/73345 (2023年5月31日閲覧)
電気新聞(2023)「効果的なリスクヘッジ:事前に価格固めて『保険』」


1 本調査は京都大学経済学研究科再生可能エネルギー経済学講座の諸富徹、馬騰、杜依濛が実施した。2022年10月に、調査対象の737新電力に対して調査票「新電力企業の経営の現状に関する調査」を郵送し、2022年10月28日までに149新電力から回答を得た。そのうち、有効回答数は144社であり、回答率は19.53%であった。
2 バランシンググループ(BG)とは、複数の小売電気事業者が一つのグループを形成し、地域の大手電力会社と託送供給契約を結ぶ制度である。BGを代表して需給管理や電源調達を、グループに参加する新電力のために実行する企業を「BG代表者」または「BG親」という。
3 2023年3月30日に、公正取引委員会は中国電力、中部電力、九州電力の3社へ、JEPXの価格操作など電力カルテルに関して独占禁止法違反に対して、2023年30日に排除措置命令及び課徴金納付命令を出した(公正取引委員会、2023)。
4 スポット市場が約97.16%の市場シェアを示している(新電力ネット、n.d.)。
5 非化石証書はCDPの報告書の使用が認められ、RE100へ100%再エネ化の進捗報告にも条件付き(属性情報追加)で使えることも可能である。CDPは「カーボン・ディスクロージャー・プロジェクト」が元になった国際NGOであり、気候変動などの環境問題に取り組んでいる。RE100は事業運営のエネルギーを再生可能エネルギー100%にすることを目標とする国際イニシアチブである。RE100に加盟した企業は、100%再エネ化の進捗状況を毎年報告する。
6 バランス停止電源とは運転する予定だったにもかかわらず、実需給が間近になった時点で予想外の需要不足などから停止を余儀なくされた火力発電設備である。