Research Project on Renewable Energy Economics, Kyoto University

京都大学経済学研究科

再生可能エネルギー経済学講座

本講座(第2期)は、2024年3月31日をもって終了いたしました。

TOP > コラム一覧 > No.381 発電部門による差別的相対契約は価格高騰を増幅させる

No.381 発電部門による差別的相対契約は価格高騰を増幅させる

2026年6月29日
公益財団法人アジア成長研究所 理事長 八田達夫

キーワード:変動数量契約,旧一般電気事業者,電力価格,内外無差別

大手電力の発電部門による内外差別

 2021年の12月から2022年1月にかけて、および、2022年3月には、寒波の到来をきっかけとして電力需給が逼迫し、電力価格が上昇した。

 2023年6月に八田達夫 (2023b)は、大手電力会社の発電部門が結ぶ相対契約における内外差別を禁じることが、このような逼迫時の電力価格の上昇幅を抑制するために有効であることを明らかにした。本稿は、この論文を紹介する。

 第1に、発電部門が社内小売部門に対してのみ結んでいる「制限的変動数量契約」(UR契約と記す)が、逼迫時に市場価格を過度に高騰させることを示す。

 第2に、大手電力の発電部門が結ぶ相対契約に対して、内外無差別化を義務付けると、UR契約が消滅することを示す。ここで「内外無差別」とは、発電部門が社内小売部門と結ぶ相対契約において、社外小売事業者に対しても同じ条件を示して、原則的に入札を実行して契約条件を決めることをいう。

 まとめると、電気事業法で内外無差別を義務付けると、逼迫時における市場価格の過度な高騰を防ぐことができる。それによって、公平な競争と、効率的な資源配分を復活させることができる。

「制限的変動数量契約」(「UR契約」)

 大手電力の発電部門が新電力との間で結んでいる相対契約の多くは、「確定数量契約」である。この契約では、取引数量と価格が決められ、市場価格が契約価格を超える場合には、契約量のうち、余った部分を市場に再販売できる。そのため、市場価格が高いときには、新電力は、市場への再販売量を増やすために節約する。

 それに対して、現在、大手電力の発電部門が小売部門と結んでいる社内相対契約の多くは、「制限的変動数量契約(UR契約)」である。この契約は、まず「変動数量契約」である。すなわち、小売側が希望する需要量を上限量の区間内で自由に決定でき、発電側はそれを供給する義務を負う。

 さらに、UR契約には再販売禁止条項という制限が付けられている。すなわち、この契約で購入した電力の一部を取引所に再販売することは許されない。(これは、発電部門の利益を確保するためである。仮に、小売部門が自部門の需要量を超えて、上限量まで追加購入して転売することができれば、市場価格が契約価格より高い場合には、小売部門は利益を増やすことができるが、発電部門はその分の利益を失う。このため発電部門は、UR契約における買い手に対して、この転売を禁止している。)

 日本の大手電力会社は、通常は、UR契約の取引上限値を、小売部門の需要量を上回る高い水準を設定している1。したがって、UR契約を結んでいる大手電力の小売部門は、UR契約から、自部門の需要量のすべてを購入する。しかし自部門の需要量を超えては購入することは許されていない。このため小売部門が最終的に直面する価格(最後の一単位の購入に支払う金額)は、市場価格ではなく、契約価格である。

市場価格高騰の原因としてのUR契約

 大手電力の小売部門がUR契約を結んでおり、逼迫時にも安い社内契約価格で買い続けることができる場合は、小売部門が確定数量契約を結んでいる場合と比べてより高い均衡市場価格が実現する。すなわち、UR契約は、逼迫時の市場価格高騰を増幅させる。

 その理由は次のとおりである。寒波などによる全般的な需要増大時には、小売部門は需要量を増やす。したがって、社内UR契約を結んでいる発電部門は社内小売部門への販売量を増やさなければならないから、発電部門は、その分、取引市場への売り入札量を減らす。

 それに対して、小売部門が社内で確定数量契約を結んでいる場合には、発電部門の小売部門への販売量は、一定のままであるから、取引市場への売り入札は減らさない。その代わりに、小売部門による取引所からの購入量が増加する。

 ところで、

当該大手電力全体による取引所への投入量
= 発電部門の総発電量 - 小売部門の需要量

である。ここで、小売部門は、仮に確定数量契約を結んでいれば、市場価格に直面するから、価格高騰時には、節約するであろう。しかしUR契約を結んでいれば、固定された契約価格に直面し続けるから、節約をする動機が起きず、需要量を増やし続ける。つまり、上式の右辺第2項は、UR契約の下では、確定数量契約の下でより大きい。一方、発電部門は最終的には市場価格に対応して総発電量を決めるから、右辺第1項の発電期間の総発電量は社内契約のタイプによって影響を受けない。このために当該大手電力全体による取引所への投入量はUR契約の下では、確定数量契約の下と比べて減少し、価格上昇が増幅されるのである。

内外無差別化による市場価格の過度な高騰の防止

 ところで、発電部門がUR契約を結ぶためには、発電部門は、自部門の利益確保のために、小売側に対して、契約に基づいて購入した電力の取引所への再販売禁止などの契約条件を、遵守させる必要がある。その際、発電部門が負担する遵守の監視費用は、社内小売部門に対してはほとんどかからないが、新電力に対しては高額になる。新電力に取引所との売買情報を自主的に出させても検証不可能である以上、発電部門と新電力の双方が合意する監視会社に依頼するといった策を講じざるを得ないからである。このため、発電部門は、新電力とはUR契約を結んでこなかった。

 一方、契約における内外無差別が義務付けられた場合には、新電力に対する監視コストに見合った禁止的に高い料金が、大手電力の小売部門にも課されることになる。この結果、新電力と同様に、小売部門もUR契約を結べなくなる。このため、UR契約が生んでいる不必要な市場価格上昇は起き得ない。

社内需要量がUR契約の上限量を超える場合

 これまでは、寒波などによる需給逼迫が起きても、小売部門の需要量がUR契約の上限量未満である場合を考えた。しかし極端な寒波が続くと、需要量が上限を超えることがある。UR契約を結ぶ小売部門も、その時点では市場価格に直面し、新電力と同様に節約することになる。この場合、市場価格は、小売部門が仮に確定数量契約を結んでいた場合と同一の水準となる。

 ただし、そこに至るまで寒波が続いており、市場価格は高騰したにもかかわらず、安いUR契約に直面し続ける小売部門が節約せずに消費を続けてきた場合には、発電部門が使用可能な燃料が不足した状態になっている。そのため、発電部門から取引所に供出される電力量が減少し、市場価格は高騰する。つまり小売部門が最初から確定数量契約を結んでいた場合に比べて、UR契約を結んでいた場合には、発電可能量が減少しているために、需要量が最終的に上限量を超える局面においても、市場価格がはるかに高騰しているのである。

 2021年の12月から2022年1月にかけて、および、2022年3月には、寒波の到来をきっかけとして電力需給が逼迫し、電力価格が上昇した。このように逼迫が生じたとき、大手電力の社内契約の方式が、大手電力による取引所への電力の売り入札量の減少を加速し、元々の需給逼迫による市場価格高騰をさらに増幅させたと考えられる。

結論

 現在の日本では、社内相対契約を結んでいる大手電力の小売部門は、決められた契約価格で必要なだけ購入し、発電部門は、そのあと残った量を取引所に投入する。したがって大手電力の小売部門は、市場価格が高騰したときも安定した価格で大量の電力を仕入れることができる。一方、発電部門は新電力とはこの契約を結んでいないから、新電力の多くは取引所から仕入れざるを得ないため、高騰した市場価格に直面せざるを得ない。したがって、この契約は、逼迫時に大手電力による取引所への電力の売り入札量の減少を強め、元々の需給逼迫による市場価格高騰をさらに増幅させている。

 大手電力の社内においてのみUR契約が結ばれている状況では、新電力は不必要に高い市場価格に直面しなければならない。結果的に、このように差別的なUR契約は、電力消費者の利益を大きく損ねてきた。

 電事法は、その目的において事業者間の適正な競争を掲げているが、そのための具体的な義務付けを明文化しておらず、したがって罰則も定めていない。その結果、大手電力の発電部門に対して、相対契約の内外無差別化を義務付けてこなかった。このために、社内でのみ結ばれるUR契約がこれまで存続できた。

 電事法を改正して、発電部門が結ぶ相対契約に対して内外無差別を義務づけることは、喫緊の課題である。

文献

八田達夫 (2023a) 「内外無差別化の必要性」, アジア成長研究所 Working Paper Series, Vol. 2022-09. (https://www.agi.or.jp/publications/workingpaper/2022/WP2022-09.html)
八田達夫 (2023b)「発電部門による相対契約における内外差別は価格高騰を増幅させる」, 京都大学大学院経済学研究科 再生可能エネルギー経済学講座 ディスカッションペーパー. 2023年6月。[これは八田 (2022) の短縮版である。]
(https://www.econ.kyoto-u.ac.jp/renewable_energy/stage2/contents/dp047.html)
公正取引委員会 (2023) 「旧一般電気事業者らに対する排除措置命令及び課徴金納付命令等について」, 2023年3月30日, (https://www.jftc.go.jp/houdou/pressrelease/2023/mar/230330_daisan.html)


1 電力・ガス取引監視等委員会の調査結果による。その解釈については、八田 (2023) の注12を参照のこと。