Research Project on Renewable Energy Economics, Kyoto University

京都大学経済学研究科

再生可能エネルギー経済学講座

本講座(第2期)は、2024年3月31日をもって終了いたしました。

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No.384 揚水発電所の現状と今後のあり方

2023年7月20日
京都大学大学院 総合生存学館 教授 長山浩章

キーワード 揚水発電 前日同時市場(3part)

 電力システム改革後、揚水発電は部分負荷運転(40%のロス、通常の揚水は30%のロス)、発電と揚水の同時実施1、北海道の揚水発電所における電圧調整を目的とした無水調相運転2など、調整力の提供を優先した運転を多くなされている状況にある。特に可変速揚水は起動回数が多く、修繕費用の負担増加が予想される。さらに現在の電源Ⅰ及び電源Ⅱが2023年度で終了すると、2024年度以降は一般送配電事業者が調整力を調達、運用する根拠は、需給調整市場の取引規程、契約書と、容量市場で落札した電源を対象とした余力活用契約に基づくこととなる3。需給調整市場は2021年度に一部商品から取引開始され、2024年度に全商品区分が出揃うため、2023年度断面では全商品が揃う前であり収益見通しが不透明であるなど、今後の揚水の持続・存続への大きな岐路にあると言える。

 再エネ比率が今後高まっていくと、他のTSOエリアからの余剰電力を吸収する余裕がなくなる可能性がある。また、連系線が整備されるまでは、エリア管轄内での需給調整がより求められ揚水、蓄電池等の電力貯蔵設備の果たす役割が一層大きくなる。本稿では揚水発電所の運用の現状と2024年度以降の我が国電力市場の中での揚水の位置付けについて考察した。

1.揚水発電所活用の現状

 我が国の揚水発電は、2020年末で純揚水21.9GW、混合揚水5.57GW合計で27.4GWの設備容量がある。建設後60年経過する発電所は、2030年に約2.5GW、2050年には約17.5GWにのぼり、採算性の問題もあり、廃止・休止の危険性が高まっている4。国は、揚水発電所を「再エネの導入拡大により、電力の安定供給を確保する調整力として重要性が向上するとともに、再エネの蓄電を通じた脱炭素型の調整力としても、維持・強化していくことが必要不可欠」5と認識し、「このためには、揚水発電の採算性の向上に取り組むことが重要であり、再エネ導入拡大に伴う値差を活用した経済的な揚水運用の拡大、下げ調整力や慣性力等の市場整備の検討、需給調整市場における参加機会の拡大、長期脱炭素電源オークション制度の整備、さらには、予算措置を通じた設備投資の促進や新規開発可能性を調査するFSなどを推進していく」6と各種施策が必要であることを認識している。揚水発電は基本的に起動費が不要で、数分程度で系統並列・発電でき、出力変化速度が速いため、調整力としてのポテンシャルが高い電源である(図1)。

図1 各発電機のΔkW 供出量のイメージ
図1 各発電機のΔkW 供出量のイメージ
出所:資源エネルギー庁(2023年4月25日)「『あるべき卸電力市場、需給調整市場及び需給運用の実現に向けた実務検討作業部会』取りまとめ」。

 図2は九州電力の例であるが、揚水発電は近年太陽光連系量の増加に伴い、揚水回数が年々増加している。内訳においては、昼間揚水が多くなっている。昼間の太陽光出力増に対しては、揚水動力の活用や火力発電所の抑制・停止に加え再エネ出力制御により対応している。また、夕方にかけての太陽光出力減に対しては、再エネ出力制御の解除、揚水動力の停止して発電運転への切り替えや火力発電所の起動・増出力で対応している(図3)。

図2 昼間・夜間帯の揚水回数の推移
図2 昼間・夜間帯の揚水回数の推移
出所:今後の水力活用拡大を議論する会議(2023年3月29日)資料8(九州電力)。

図3 需給と供給のバランス(2020年5月5日の実例 出力制御あり)
図3 需給と供給のバランス(2020年5月5日の実例 出力制御あり)
出所:今後の水力活用拡大を議論する会議(2023年3月29日)資料8(九州電力)。

 2023年度までは、調整力公募で年間を通してTSO(一般送配電事業者:以下TSO)が確保している揚水発電ユニット(電源I)と、BG(バランシング・グループ:以下BG)で活用した後に需給調整市場に入れる揚水発電ユニット(電源Ⅱに大別される。電源Ⅱの揚水発電ユニットは、GC(ゲートクローズ:以下GC)後の実需給ではTSOが活用することができ、系統周波数の調整電源として活用されている。

 2024年度以降は、調整力公募が終了し、TSOは基本的に需給調整市場で調整力を確保することとなる。揚水発電の活用は図4のように、ポンプアップは①限界費用が安価な時間帯に実施されることが基本である。ポンプアップされた水を利用して②BGは限界費用が高い時間帯に発電し(揚水発電はロスが約3割あり、そのロス分の託送費は揚水事業者が負担するため、揚水発電の費用はポンプアップ費用(蓄電に必要な動力に係る費用)+ポンプロス託送費であり、これよりも限界費用が高い時間帯であれば揚水発電することがBGにとって経済運用となる)蓄電機能でkWh価値を得る(BG内需給+JEPX)、③TSOは揚水発電の余力分を需給調整市場で取引し、約定したユニットを使って周波数調整を行う。ただし、需給ひっ迫時、再エネ余剰時、電源トラブル時のような調整力不足の際には、TSOは余力活用契約を締結している調整電源を使って周波数調整を行うことができる。

図4 揚水発電の活用イメージ
図4 揚水発電の活用イメージ
出所:旧一電事業者インタビューにより著者作成。

 マクロ的な数字でみると、2023年度の調整力の確保に関する計画における電源I電源Ⅱの種別ごとの確保量ならびに構成比において、電源Iでは揚水式が67%(図5)、電源Ⅱでは21.7%を占めている(図6)。

図5 電源Iの確保量(構成比、2023年8月における全国計)
図5 電源Iの確保量(構成比、2023年8月における全国計)
注:※1コークスガス/LNGやLNG /重原油等の混焼発電設備や代替電源等。
出所:OCCTO(2023年6月28日)「2023年度調整力の確保に関する計画の取りまとめについて (報告)」、第87回 調整力及び需給バランス評価等に関する委員会 資料4。

図6 電源Ⅱの出力変動幅(構成比、2023年8月における全国計)
図6 電源Ⅱの出力変動幅(構成比、2023年8月における全国計)
注:※1 コークスガス/LNGやLNG /重原油等の混焼発電設備や代替電源等
出所:OCCTO(2023年6月28日)「2023年度調整力の確保に関する計画の取りまとめについて (報告)」、第87回 調整力及び需給バランス評価等に関する委員会 資料4

 また2023年度の調整力の確保に関する計画における電源I’7の種別ごとの調達量ならびに構成比としては、揚水は171MWで全体の4.4%となっている(図7)。

図7 電源I’の構成(全国計)
図7 電源I’の構成(全国計)
注:※1 ここでの「需要制御」とは需要機器の出力を落とし、受電点における受電電力を減少させる需要抑制を示す。
※2「自家発」とは受電点における受電電力を自家発によって減少させる需要抑制を示す。
※3 都市ガス、黒液、バイオマスなど。
出所: OCCTO(2023年6月28日)「2023年度調整力の確保に関する計画の取りまとめについて (報告)」、第87回 調整力及び需給バランス評価等に関する委員会 資料4。

 他方、容量市場メインオークションにおいて、LNGとともに、毎年応札容量は漸増してきている。

図8 容量市場メインオークション約定結果:発電方式別の応札容量
図8 容量市場メインオークション約定結果:発電方式別の応札容量
出所:電力広域的運営推進機関(2020年9月14日)「容量市場メインオークション約定結果(対象実需給年度:2024年度)」; 電力広域的運営推進機関(2021年12月22日、2022年1月19日訂正)「容量市場メインオークション約定結果(対象実需給年度:2025年度)」; 電力広域的運営推進機関(2023年1月25日、2023年2月22日訂正)「容量市場メインオークション約定結果(対象実需給年度:2026年度)」。

2.可変速揚水発電の使用の現状

 可変速機は定速機に比して周波数調整幅が大きく、揚水(ポンプアップ)運転時でも周波数調整が可能であることから、図9のように、火力等の調整電源の減少に伴う調整力を確保するために導入され、再エネ大量導入における発電余剰時にも活用されている。定速機の揚水時の入力は揚程によって自動的に決まるため入力調整ができないが、可変速機は剰電力を蓄電する揚水時でも回転数を変化させることで入力調整(周波数調整)が可能であることが特徴である。

 図10は、TSOにより運用されたある発電所における、至近1年間の定速機と可変速機の揚水運転データの一例である。可変速機は揚水運転時でも周波数調整が可能であることから、揚水運転は可変速機に偏った運転がされているのが実態である。最近では、変動再エネの普及拡大に伴い、春等の需要端境期を中心とした再エネ余剰を吸収するため、減少した調整力を確保するために、同一の発電所において定速機で発電をしつつ同時に可変速機で揚水運転を行う運転「発電揚水同時運転」、30分程度の短時間運転、同日に5から6回の起動停止を繰り返す運転等の運用が実施されている。

 一方で、高機能である可変速機は定速機と比べると当然建設単価が高いため、固定費が高くなる。収入源は定速機と同一であり、可変速の価値を提供することのインセンティブがないのが実態である

図9 可変速揚水による周波数調整容量確保のイメージ
図9 可変速揚水による周波数調整容量確保のイメージ
出所:旧一電事業者インタビューにより著者作成。

図10 定速機に対する可変速機の揚水運転比率
図10 定速機に対する可変速機の揚水運転比率
キーワード 揚水発電 前日同時市場(3part)
出所:旧一電事業者インタビューにより著者作成。

3.揚水発電所運用の収益実態

 揚水発電所所有者である発電事業者の立場からは、揚水発電所の固定費負担が重く、容量市場・kWh市場からの収入だけでは必要な固定費をカバーできないケースも考えられる。加えて、現行の需給調整市場(ΔkW)は短期取引のみであり、年間の回収予見性が立てづらい点も課題となっている。長期脱炭素電源オークションは20年間の固定収入を得られることから、その間の支援策としては有効である。ただし、揚水発電所は20年目以降も超長期にわたって使用可能な設備であるため、この部分に対する支援が十分ではない。

 図11は定速(ブラックスタートあり、なし)、及び可変速揚水の純揚水発電所の収益構造をみたものである。全般的に2022年度に未回収分が大きく、さらに2024年度は需給調整市場の価格動向など予見できない点が大きくなっている。2024年度に未回収がないとされているブラックスタートありの定速揚水もBS(ブラックスタート)公募によるところが大きい。

 尚、可変速機の固定費は一般的に可変速機は建設単価が高く、定速機と比較して固定費が大きいため、定速機と比較すると未回収費用が残りやすく、需給調整市場でのブロックあたりの単価が高くなり約定しにくい構造になっている。可変速揚水は系統安定化に大きく寄与しているにも関わらず、固定費回収率が低くなる可能性がある。ただし、三次調整力①、②の募集量や単価などに左右されるが、需給調整市場でBG想定通り約定ができたならば可変速機でも全費用を回収できることもあり得る。このように可変速揚水は使用頻度が高く、TSOにとって周波数調整をし易いという利便性があるに関わらず、現状はBS機や定速機より未回収が残りやすい。こうした制度上の問題があることも課題である。

図11 純揚水発電所の収益構造のイメージ
図11 純揚水発電所の収益構造のイメージ
注1:BS=ブラックスタート。
注2:2022年度の各区分の電源I、I’約定ユニット数とそれ以外ユニット数の比率は同じと仮定(年度によって異なるため、一般化)。
注3:長期脱炭素電源オークション制度は対象としていない。
注4:他市場収入(kWh市場)、容量市場を差し引いた分がBS公募収入となる。
注5:可変速の固定費は定速機と比較して多い。容量市場は定速機も可変速機も変わらないため、同額の容量市場収入とした場合、定速機と比較すると固定費回収率は低くなる。結果として未回収固定費が多く残る可能性が高い。
出所:旧一電事業者インタビューにより著者作成。

4.揚水の本来の機能を最大限活用できていない問題

 2023年6月現在の揚水発電所の基本的な運用パターンは、比較的需要の多い平日に発電し、週末に向けて上池の水位を下げ(下げ代確保)、需要の少ない土日の間に太陽光の余剰電力で上池に水をためるためポンプアップを行うものである(図12)。

 しかしながら、BGが利益最大化のためにスポット市場等への提出を優先する場合は、図12の青字のように曜日に関わらず昼揚水し、夕方にかけ発電というパターンもある(図2、図3参照)。しかしながら、TSOは、週末に再エネ余剰傾向となることから、予め週末に向けて上池水位を徐々に下げる運用を行い、再エネ余剰吸収のための下げ代(調整力)確保を図る。このためBG主体運用としている場合は、発電する必要がなくても発電機を動かして上池を空けておく必要がある。

図12 上池水位の運用の考え方のイメージ
図12 上池水位の運用の考え方のイメージ
出所:電力・ガス取引等監視委員会(2021年10月22日)「2020年度冬季の需給ひっ迫を踏まえた調整力の調達・運用の改善等について」、第66回 制度設計専門会合 資料5。

 BG主体運用としている場合は、特に春・秋の軽負荷期は、翌日の日中ポンプアップ量を確保すべく上池の水位を下げるため、平日の夜間に必ずしも利益最大化ではない不本意な発電を行うことがあり得るが、これが問題として認識されている。

 TSO指令とは別にBGの発電計画調整により、太陽光で調達電力料金が安くなった朝6~8時の太陽光発電の立ち上がり時に汲み上げるなど、BG内の運用コスト効率化も行う場合もある。

5.余力活用契約

 現在BGは、電源IIを自社で活用できる電源として最経済バランスで発電計画を立てる一方、実需給段階ではTSOが電源I、電源IIを調整電源として活用しながら経済性を追求する。結果としてBGの計画と運転実績の差分については、TSO-BG間で精算する(図13)。

図13 BGの計画段階の出力順とTSOの指令時の運用
図13 BGの計画段階の出力順とTSOの指令時の運用
出所:旧一般電気事業者からの聞き取りを基に著者作成。

 2024年度以降の容量市場開設後は電源IIの契約(図13)は廃止され、余力活用契約に基づき運用される。2024年度から開始される余力活用契約は、GC前のBG計画に支障を与えないことを前提に、GC後の余力をTSOが活用できる仕組みとされている。この点、TSOが自由に電源の追加起動ができるようにするとBG計画へ影響を与える可能性が考えられているが、市場の売れ残り電源等、BGが供給力として活用する余地が小さい電源であればその影響も小さいと考えられる。BG側の受容性も踏まえて用途を限定した追加起動を行うことも一案であろう。

 余力活用契約自体は容量市場で落札した調整機能を有する電源のリクワイアメントであるが、落札した電源に限るものではない。現状ΔkW上げ調整力は1週間前に予約するため、需給調整市場で予め確保することとなる。例外的に、確保したΔkW上げ調整力で足りなくなる場合には余力活用電源を追加起動することも認められている。下げ調整力は事前に予約せずとも確保できるため(すでに動いているものの出力を下げるだけなので)、スポット市場約定後の余力を活用することが基本となっており、こちらも、例外として下げ調整力が不足する場合は優先給電ルールで出力制御をすることとなる。

 火力の出力抑制は、余力活用契約に基づき対価の支払い契約をしている場合は、下げ調整力に対する対価をTSOと精算している。精算にあたっては、余力活用電源の事業者が予め需給調整市場システムに登録した上げ調整・下げ調整のkWh価格を用い、実際にGC後の調整に使われたkWhについて、その対価は上げ調整の場合TSOより支払われ、下げ調整の場合TSOに支払うこととなっている。

 現在の調整力公募に供出される電源は、スポット市場等に出されることなく、TSOが調整力として活用している。2024年度以降、調整力公募がなくなり、その電源がスポット市場等に投入されるようになると、スポット市場に「厚み」が生まれ、価格のボラティリティが小さくなることが考えられる。一方、揚水発電事業者は、スポット価格が高いときに発電し、安いときにポンプすることで利益を得ていると考えると、価格のボラティリティが高いほうが、よりメリットを得る機会が生まれるため、価格のボラティリティが小さいと揚水発電の収益的にはマイナス方向に働く。

6.揚水はBGとTSOのどちらが持つか

 国の審議会(電力・ガス取引等監視委員会 制度設計専門会合)では、揚水の上池の水位管理、運用の権利をBGが持つのか、TSOが持つのかで議論がなされている8

 揚水発電所はこれまで揚水ポンプアップをする主体がTSOであったのか、あるいは調整力の提供者であるBGであったのかは各社ごとにばらばらであった9

 しかしながら、電力・ガス取引等監視委員会(2021年10月22日)「2020年度冬季の需給ひっ迫を踏まえた調整力の調達・運用の改善等について」、第66回 制度設計専門会合にて、2024年度以降はBGである発電事業者側が上池のコントロールをするルールで統一されるということが決まった10。その中で例外として、再エネの出力抑制回避や需給ひっ迫時の対応のためにTSOが必要と判断した場合に限り、一時的に上池のコントロールを認めるとしている。

 2024年度以降、調整力提供者であるBGがポンプアップを行うこととした場合にはメリット、デメリットがあり、(表1)、デメリット(リスク)は調整力提供者が経済合理性に基づく行動をとると考えれば、利益が最大となる時間帯で売電できるよう上池水位の運用を行うものと考えられ、状況によっては再エネ余剰吸収のための下げ代が不足する可能性がある。またBGが揚水運用主体となって調整力市場へ応札する場合、1ブロック3時間フルkWhを約束しなければならない。他方、TSOが揚水運用主体となる場合、実需給に引き付けて必要なタイミングで発動判断ができる。

 4章で記載したとおり、TSOは、週間運用の中でスポット価格の安価な週末にポンプアップし平日に発電することにより、週間でみて安い原資で汲み上げることにより調整力のコスト低減を図ることが可能である。一方、BGは、基本的には余力の全量をスポット市場へ投入しており、汲み上げた水は当日中に発電しきる運用となる可能性がある(1週間単位でみた経済運用が難しくなると想定される)。このため、TSOによる揚水運用のほうが、社会コストが低減できるとも考えられる。BGが池の運用権を持つべきという案は、TSOが池の運用権を持つと需給調整市場でΔkWを調達しなくてもよくなり、需給調整市場の制度の本来趣旨にあわないから、というものである。

 BGは、前日のFIT配分以降、気象予報の変更によるFITの出力変化は認識できず(図14)、BG計画と実需給に乖離が発生するおそれがある。やはり運用目線では最後にTSOが一括調整したほうが、需給変動に対して調整力を効率的に発動でき、効率的であるのではないか。

 諸外国でも、例えば米国PJMでは、揚水事業者がみずから運転計画を策定することに加え、揚水発電運用プログラム(Pumped hydro optimizer11)により、スポット市場と調整力市場の双方を考慮した最適運転計画策定を代行する選択肢も導入されており、さらには前日市場で確定した運転計画もPJMが当日(リアルタイム)市場で変更し機会費用を精算する仕組み(Two settlement12)も導入されている。

 いずれにしても、GC直前まで開かれている時間前市場の革新、卸市場を利用したタイムシフト価値の評価、電力・ガス取引等監視委員会(2021年10月22日)でのBGが上池の運用権をもつという議論は、揚水事業者の便益確保・社会コスト低減の観点で、再度、議論されなければならないのではないか?

図14 タイムスケジュール
図14 タイムスケジュール
出所:電力・ガス取引等監視委員会(2021年12月21日)「需給調整市場(三次調整力②)の運用状況について」、制度設計専門会合、第68回 資料4に加筆。

表1 ポンプアップ実施主体別の揚水発電の運用
表1 ポンプアップ実施主体別の揚水発電の運用
出所:電力・ガス取引等監視委員会(2021年10月22日)「2020年度冬季の需給ひっ迫を踏まえた調整力の調達・運用の改善等について」、第66回 制度設計専門会合 資料5および電力・ガス取引等監視委員会(2021年11月26日)「2020年度冬季の需給ひっ迫を踏まえた調整力の調達・運用の改善等について」、第67回 制度設計専門会合 資料7 により作成。

7.2024年以降、揚水発電でTSOが利用可能な範囲

 電力・ガス取引等監視委員会(2021年11月26日)ではTSOが(一時的に)揚水の上池の水位管理、運用の権利をもつということを前提に、2024年以降、揚水発電でTSOが利用可能な範囲が需給調整市場で調達したΔkWの範囲を遵守することを基本的な考え方とすべきとされた。TSOが動かせるのが、需給調整市場と余力活用契約であるが、余力活用契約における余力の範囲については、GC前の発電事業者等の計画策定に支障を与えないことが前提とされ、支障を与える事例はこれまで相当限定的なものとなっているということからきている。

「2024年度以降の揚水発電の運用のあり方

  • ポンプアップの運用等を電源Ⅱ契約で規定していることを踏まえると、 2024年度以降は容量市場で落札した電源を対象とした余力活用契約において、ポンプアップの運用等を規定するといったことが考えられる。
  • 需給調整市場が、必要な調整力は市場による競争を通じて透明性をもって確保することなどを背景に創設されたことを踏まえると、現在の一般送配電事業者主体のエリアのように、電源Ⅰ等の契約電力の範囲を超えて、自由に池全体の水位を運用できることが継続すると、需給調整市場でΔkWを調達しなくてもよいこととなり、これは需給調整市場の制度趣旨にそぐわないのではないか。
  • こうしたことから、2024年度以降、一般送配電事業者が利用可能な水位の範囲については、需給調整市場で調達したΔkWの範囲を遵守することを基本的な考え方とすべきではないか。

余力活用契約における余力の範囲については、GC前の発電事業者等の計画策定に支障を与えないことが前提とされているが、支障を与える事例は相当限定的なものとなっている。余力が多いとΔkWを調達しなくてもよいこととなることから、揚水運用において余力の範囲をどこまでとすべきか。」13

8.今後の議論

(1)再エネ導入拡大を見据えた揚水運用者の再整理

 BGによる揚水運用から一時的にTSOによる揚水運用に切り替えることができるが、需給状況や一時TSO運用に切り替わるタイミングが遅れた場合には、再エネ余剰時に揚水の下げ調整力が十分に活かされない懸念があるため、今後の再エネ抑制制御量等を踏まえ揚水運用者の見直しも含めた検討が必要ではないか。その際、需給調整市場の△kW調達に影響を与える場合は、市場参加者が事前に当該影響を把握できるよう透明性を確保する取組みが必要となるのではないか。

(2)規律を守りながら人材を育成する方法の模索

 発送電分離前は水力発電をもつBGとTSOで電気系技術者の人材交流が行われ、ローテーションを行い、系統の需給調整を経験し、水力発電所の運営を行う技術者が養成され、系統、発電双方を踏まえた上で最適な電源計画、系統計画を検討できていた。しかしながら、これができにくくなってきていることから、系統管理の視点を持った適切な発電所の管理を総合的に考えられる人材が少なくなっていることが問題である。発電事業者にはBG役割以上の需給調整の最終責任が無いことから、運転計画と系統調整力提供に関するバランスを考える人材が不足する懸念がある。

(3)今後の揚水新設

 厳格な環境アセスメントと投資回収の不確実性から新規立地拡大、新増設は現状困難とされている。既存の池の上に、上池をつくる、産業競争力会議14の報告書にもあるような土木工事をしやすい10MWくらいの小型可変速揚水にするなど、新しい揚水設備のありかたもあるのではないか?

(4)定速揚水の可変速化への支援

 定速機を可変速化するには、大きな励磁装置を地下に収容する土木工事が必要となるほか、発電電動機や励磁装置を大幅に改修する必要ある。その技術開発や資金援助も必要ではないか。

(5)下げ調整力や慣性力、無効電力供給などのアンシラリー機能の早期市場化と余力活用契約のフェーズアウト

 これまで、なぜ下げ調整力を今まで市場化できていないかは優先給電ルール(図15)により電源Ⅰ、Ⅱ、Ⅲの順に出力抑制がされ、火力は既に動いているものの出力を落とすだけなので、下げ調整力の必要がなく商品化ができていないということであった。現在の三次調整力1、2以外も下げ調整力の商品化が必要である。余力活用契約は需給調整市場の動きが見通せない現在はTSOにとっては当面必要であろうが、そのフェーズアウトが需給調整市場で下げを商品化させる前提となる。

図15 出力の抑制等を行う順番
図15 出力の抑制等を行う順番
出所:資源エネルギー庁(2023年6月21日)「再生可能エネルギーの出力制御の抑制に向けて」、再生可能エネルギー大量導入・次世代電力ネットワーク小委員会 第52回 資料3

9.終わりに− 新しい市場への期待

 1年に一回の公募であった「調整力公募」が2023年度になくなり、最大で週ごともしくは日ごとの入札である需給調整市場と、GC前にBG計画に支障を与えないデザインである余力活用契約だけが、TSOが動かせる電源となり、需給を安定的に合わせるには極めて不安定な状況にある。そこで、年間、四半期等の長期のレンジでTSOが確保できる予約電源の仕組みが必要ではないか?「予約電源」とはTSOの調整力に活用すべく予めTSOが調達する電源を指す。一般的には、「調整力公募」の電源の他、需給調整市場で調達する電源も含む。他方、余力活用電源」は、あらかじめ調整力として「調達」しているわけではない「非予約電源」である。

 前日同時市場になれば、BGとTSOの調整が不必要になり、BGが利益最大化を目指した時の行動リスクも解決されることになる。現在「『あるべき卸電力市場、需給調整市場及び需給運用の実現に向けた実務検討作業部会』取りまとめ」ですすめられている前日同時市場においては、「1週間先までの需給バランスを見て電源の起動停止判断を行う(SCUCを1週間の期間で回す)ことを前提とすれば、発電事業者が入札したThree-Part情報等を踏まえて、揚水や蓄電池もこのSCUCに合わせて、1週間での効率的な運用をする形も考えられるか。具体的には、週間のSCUCの中で、最適なポンプ(蓄電)と発電のタイミングを計算し、それらの量を決定し、それに基づき前日同時市場における約定処理をすることが考えられる。いずれとするかについては、発電事業者が任意に選択できることとすることが考えられる」15。前日同時市場(3part)の導入は早くても2028年度とされており、その早期検討が待たれる一方で、3partの効果が事前に確認できれば、市場改革の後押しになると考えられる。このため、同時市場開設に向けて、3Partの一部(実施しやすい揚水のみ)を先取りすることも考えられる。具体的には、TSOを仮想的に市場運営者に見たて、TSOによる実水位管理により、社会的なメリットを検証していく、ということも考えられるのではないか。

参考文献

  • 産業競争力懇談会 COCN(2023年2月9日)「産業競争力懇談会 2022年度プロジェクト最終報告: カーボンニュートラル実現に向けた水力発電システム」
  • 資源エネルギー庁(2022年12月6日)「電力ネットワークの次世代化」、再生可能エネルギー大量導入・次世代電力ネットワーク小委員会 第47回 資料1
  • 資源エネルギー庁(2023年4月25日)「『あるべき卸電力市場、需給調整市場及び需給運用の実現に向けた実務検討作業部会』取りまとめ」
  • 資源エネルギー庁(2023年6月21日)「再生可能エネルギーの出力制御の抑制に向けて」、再生可能エネルギー大量導入・次世代電力ネットワーク小委員会 第52回 資料3
  • 中部電力パワーグリッド(2023年4月)「送配電事業について」
  • 電力・ガス取引等監視委員会(2021年10月22日)「2020年度冬季の需給ひっ迫を踏まえた調整力の調達・運用の改善等について」、第66回 制度設計専門会合 資料5
  • 電力・ガス取引等監視委員会(2021年11月26日)「2020年度冬季の需給ひっ迫を踏まえた調整力の調達・運用の改善等について」、第67回 制度設計専門会合 資料7
  • 電力広域的運営推進機関(2019年4月25日)「余力活用の仕組みについて」、第11回 需給調整市場検討小委員会 資料2
  • 電力広域的運営推進機関(2021年7月)「容量市場におけるリクワイアメント・アセスメント・ペナルティの概要(対象実需給年度:2025年度)」、https://www.occto.or.jp/market-board/market/files/210730_requirement_setsumei.pdf
  • 電力広域的運営推進機関(2023年4月19日)「揚水発電の予備力計上方法の検討について」、調整力及び需給バランス評価等に関する委員会、第85回 資料4

1 太陽光が増加することで調整電源の火力が減少し、調整力を確保するために発電揚水同時運転をしている。この背景には太陽光の予測精度が難しく、これまでは火力を調整電源として系統に多く並列しておいたが、たくさんの火力を出力絞って非効率な運転をするのではなく、火力は台数減らして高効率運転し、可変速揚水で上げ下げの調整をするためこのような動きになる。
2 深夜の電圧上昇の際に調相運転をして電圧を調整など。
3 電力・ガス取引等監視委員会(2021年11月26日)「2020年度冬季の需給ひっ迫を踏まえた調整力の調達・運用の改善等について」、第67回 制度設計専門会合 資料7
4 産業競争力懇談会COCN(2023年2月9日)「カーボンニュートラル実現に向けた水力発電システム」、産業競争力懇談会 2022年度プロジェクト 最終報告、p.iを単位換算修正
5 資源エネルギー庁(2022年12月6日)「電力ネットワークの次世代化」、再生可能エネルギー大量導入・次世代電力ネットワーク小委員会 第47回 資料1
6 資源エネルギー庁(2022年12月6日)「電力ネットワークの次世代化」、再生可能エネルギー大量導入・次世代電力ネットワーク小委員会 第47回 資料1
7 各エリアの一般送配電事業者は、発電事業者等から調整力を公募により調達し、電源I(I-a、I-b、I’)、電源II、電源IIIが各エリアの一般送配電事業者により調達されることになった。この調整力公募は2023年度まで継続され、2024年の容量契約の発効と共に需給調整市場での調達・運用に移行する。
 各一般送配電事業者は、周波数調整機能の有無等により電源等の区分を設定し、調整力の必要量を算定した上で公募調達を実施する。中央給電指令所の指令を受け、その指令した出力に達するまでの速さにより「a」「b」「I′」に分けられている。I′は2020年度から、再エネ出力変動対応とレジリエンス強化のため上積みされた。
 電源Iは一般送配電事業者がアンシラリーサービス用としてあらかじめ確保する調整力電源でオンラインで制御可のもので、kW+kWhで精算される。電源Ⅰの募集量は「H3需要(上位最大電力3日平均(時間平均)の7%」とされているが(第38回制度設計専門会合(2019年(令和元年)5月31日)、その内訳については各TSO独自に設定を行っている。このうち電源I-a周波数調整機能を有する電源等、I-bは周波数調整機能を有しない電源等、I’は稀頻度な周波数調整機能の具備を必要としない主に猛暑、厳寒時に需給バランス調整機能を提供する電源等で3時間以内の応動を求められる。DR事業者の応札が多い。実効性のある供給力確保の措置が講じられるまでの暫定的措置として、電源のトラブルが発生していないにもかかわらず10年に1回程度の猛暑や厳寒の最大需要(以下、「厳気象H1需要」)において供給力不足 が発生し、国からの特別な要請に基づく節電に期待する(場合によっては計画停電に至る)といった状況に陥らないようにするための供給力を、原則として一般送配電事業者による調整力の調達を通じて確保する。なお、猛暑時や厳寒時の需要に対する供給力の不足は1年間の限られた時間に発生すると考えられ、また、天気予報や当日の需要動向によりある程度の予見が可能であると考えられることから、電源I ?は電源に限らずネガワット等の需要抑制の中でも発動時間が数時間であるものや回数制限があるものも含む手段を対象として、公募のうえ確保する。 (出所:2018年度夏季の猛暑H1需要発生時の電力需給見通しについての概要(案) 2018年3月22日 調整力及び需給バランス評価等に関する委員会事務局)
8 電力・ガス取引等監視委員会(2021年10月22日)「2020年度冬季の需給ひっ迫を踏まえた調整力の調達・運用の改善等について」、第66回 制度設計専門会合 資料5および、電力・ガス取引等監視委員会(2021年11月26日)「2020年度冬季の需給ひっ迫を踏まえた調整力の調達・運用の改善等について」、第67回 制度設計専門会合 資料7、
9 「現在、一般送配電事業者が調整力として活用する揚水発電について、上池への水のくみ上げ(ポンプアップ)は、一般送配電事業者が行うエリアと調整力提供者が行うエリアが存在する。」
 電力・ガス取引等監視委員会(2021年10月22日)「2020年度冬季の需給ひっ迫を踏まえた調整力の調達・運用の改善等について」、第66回 制度設計専門会合 資料5
10 電力・ガス取引等監視委員会(2021年10月22日)「2020年度冬季の需給ひっ迫を踏まえた調整力の調達・運用の改善等について」、第66回 制度設計専門会合 資料5
11 Optimizing Hydroelectric Pumped Storage in PJM’s Day-Ahead Energy Market
https://www.ferc.gov/sites/default/files/2020-06/T2-3_Giacomoni_et_al.pdf

12 https://www.pjm.com/-/media/training/nerc-certifications/markets-exam-materials/mkt-optimization-wkshp/two-settlement.ashx
13 電力・ガス取引等監視委員会(2021年11月26日)「2020年度冬季の需給ひっ迫を踏まえた調整力の調達・運用の改善等について」、第67回 制度設計専門会合 資料7
14 産業競争力懇談会 COCN(2023年2月9日)「産業競争力懇談会 2022年度プロジェクト最終報告: カーボンニュートラル実現に向けた水力発電システム」
15 資源エネルギー庁(2023年4月25日)「『あるべき卸電力市場、需給調整市場及び需給運用の実現に向けた実務検討作業部会』取りまとめ」