Research Project on Renewable Energy Economics, Kyoto University

京都大学経済学研究科

再生可能エネルギー経済学講座

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No.389 Q&A電力不祥事と自由化との関係

2023年8月24日
京都大学大学院経済学研究科 特任教授 山家公雄

キーワード:電力自由化・市場化、電力価格高騰、電力不正取引、所有権分離、再エネ賦課金

 やや旧聞に属するが、2021年秋以降に電力価格が高騰し、昨年来大手電力会社の不祥事が相次いだが、電力自由化の功罪を絡めた議論も生じている。筆者は、メディア等からインタビューを受ける機会は少なくない。今回は、典型的な質問に対する回答を紹介する。

Q1:日本の電力自由化の現状についての見解は?

A1:極めて不十分です。

大手電力会社(旧一電)の市場支配力を残したままでの自由化・市場化は、(市場支配力に係る)厳格な規制および監視とセットであるべきですが、それが機能していませんでした。また、価格で調整するという市場機能があまり働きませんでした。

Q2:「電力の安定供給」、「電気料金の抑制」、「企業の事業機会の拡大」を目指し、自由化が始まったのですが、こうした目標は達成されていると思いますか?

A2:達成されていません。全く不十分です。

なお、自由化の目的としては独占時代に極めて強かった「安定供給」を少し緩和して「電気料金の抑制」「事業機会の拡大、消費者の選択肢拡大」を目指したと理解しています。

Q3:需給ひっ迫や電気料金の高騰など、電力を巡る課題が浮上していますが、なぜ、このような事態になっているとお考えですか? また、今後、どうすればこうした問題を解消できると思いますか?

A3:(電力価格高騰)燃料や電力の需給により価格変動が生じます。

上がる時もあれば下がるときもあります。ポストコロナ(パンデミック後)の需給ひっ迫にウクライナ侵攻による資源高騰が重なり、世界的に価格は高騰しました。
燃料費ゼロで世界的に最も安いとされる再エネが普及すると、電力価格は下がり安定します(資源価格変動の影響を受けません)。このところ、資源価格が低下し電力市場価格は落ち着いてきています。ウクライナ侵攻により化石燃料から再エネへの切り替えが急拡大していることも一因と考えられます。

A3:(需給ひっ迫)需給ひっ迫はポストコロナ、ウクライナ侵攻によるサプライチェーンへの影響が大きいのですが、これはいずれ収束します。

予断は出来ませんが現状小康を保っています。日本は火力の割合が大きくかつ化石資源の殆どを輸入に頼っていますので不安定です。政府は発電設備自体が不足気味としています。
電力価格が上がると、需要抑制が生じ設備投資の意欲が高まります。日本は、価格機能が働きにくい状況であることに加えて、再エネがまだ少ない状況です。
再エネが増えると柔軟性(中小ガス火力、揚水、バッテリー等が提供します)に対する需要が増えます。しかしその認識が不足しており、また柔軟性を評価する市場が整備されていません。

Q4:大手電力会社による不正が相次いでいますが、なぜこうした事態が起きていると思いますか?

A4:私も驚いています。

発電設備そして顧客の8割を有していることから、市場支配力を行為しやすい状況にはありますが、自由化されているなかでは、わきまえていると思っていました。また、自由化の意味を理解していないか少なくとも甘く見ていた、地域独占のときの意識が残っていた、安定供給の担い手という思い込みがあった等が考えられます。
残念ながら、市場支配力を監視する役割であるエネ庁や電取委(電力・ガス取引監視等委員会)は十分に機能しませんでした。大手電力は情報力やノウハウに勝り論破できないからです。大手は政治力があり、またエネルギ-政策の担い手と見做され、エネ庁・電取委は監視が甘くなります。ここは根本的に改める必要があります。
いずれにしても、驚くほどコンプライアンス意識に欠けていました。自由化先進国では、市場を歪める行為には厳格に対応をしますが、その認識に欠けていたと言えます。大手電力は基本的に国際競争に晒されていないといえるのでしょう。

Q5:新電力の相次ぐ撤退、再生可能エネルギーの出力制御なども起こっていますが、日本の電力システムは、うまく機能していると思いますか?

A5:上手くいっているとは言えません。

最大の要因は、市場が機能していないことです。大手の相対取引が8割を占めますが、これは自己完結しており、市場価格と同じ論理とは言えません。大手で自己取引した結果の余りが卸市場に提供されるますので、卸市場の取引は薄く、恣意性が反映されやすくなります。公取報告では「(大手電力は)意図的に市場への供給を絞ることもあった」と指摘されています。新電力の怒りは理解できます。
再エネの出力抑制は、連系線等インフラの未整備、揚水等柔軟性を活かすシステム(市場整備)の未整備、メリットオーダーと一線を画す「優先給電ルール」の存在、そして太陽光が突出して多い(風力が少ない)等が挙げられます。

Q6:大手電力側にとっては、小売りの自由化により長期投資が難しくなった、長期的な視点での“安定供給”の確保が難しくなったという意見もありますが、このような意見については、どのように思いますか?

A6:世界的に見ると、大規模火力から風力・太陽光を主とする再エネと柔軟性の組み合わせへと急速にシフトしています。

これにより量的に充足し、安定も保たれています(保とうとしています)。再エネの変動は平滑化効果(広域展開により凸凹がならされる)と柔軟性整備でカバーすることになりますが、柔軟性は連系線、揚水、バッテリー、デマンドレスポンス、バイオマス発電等が提供します。サウスオーストラリア州は先行事例として注目されます。風力・太陽光の割合をみると、昨年平均で70%、12月は85%を記録しましたが、系統は安定していました。日本も「安定供給力は大規模火力で」という認識を早急に改めるべきです。

Q7:“所有権分離”に関する見解は?

A7:今回のカルテル、情報漏洩、市場を歪める行為は、信じられないような悪質な行為です。

文字通り大手は信用を失い、ある意味で「市場支配力を持つ普通の会社」になりました。不祥事は繰り返し生じており、今後改まる保証はありません。所有権分離、発販分離、送電統合等の目に見える構造改革が必要だと考えています。

Q8:最後に、やや追加的ですが、再エネはFIT賦課金を通じて巨額の国民負担を強いているという意見があります。これについてどう思いますか。

A8:FIT制度は便益の大きい新技術の設備投資を支援する仕組みで、当初の回収を保証することで民間投資を誘引しスケールメリットでコスト低下を促します。

燃料ゼロで資本費のみの再エネには適します。当初こそ20年間高い価格が固定されますが、20年経過後は市場価格に移行します。また、その後に適用されるFIT価格は次第に下がることになります。日本でも、太陽光はその経緯を辿っており、現状10円程度です。従って、少なくとも制度開始後20年経過時点から劇的に賦課金は下がります。
FIT電力は、送電会社が全量買い取り、そのまま卸スポット市場に販売されます。スポット価格がFIT価格よりも低ければ差額は賦課金として消費者に転嫁されます。スポット価格がFIT価格よりも高ければ差額は消費者に還元され電気料金は下がります。個々のFIT価格は様々ですので案件により差異はありますが、直近の太陽光10円ですと大幅なコスト低下につながります。2022年度は市場価格が高値で推移したことから、2023年度のFIT賦課金は前年度の3.45円/kWhから1.40円/kWhに減額しました。
火力発電の燃料費は「燃料費調整制度」により消費者に転嫁されます。発電量も大きく、燃料価格が高騰すると電気料金は半年程度のラグをへて転嫁されます。最近の電力価格高騰の主因はこれで、FIT賦課金の比ではありません。前述の様に、FIT制度は燃料高騰を打ち消す方向に作動します。FIT賦課金だけを電気料金高騰の原因と説明しているとすると、一方的な議論で不公平です。


 今回は、電力需給ひっ迫、価格高騰、大手電力会社の不祥事を背景に寄せられたメディア等からの典型的な質問事項およびその回答を紹介した。Q&A形式で、簡潔な説明に止めているが、状況が変化する機会に見直してみたい。