Research Project on Renewable Energy Economics, Kyoto University

京都大学経済学研究科

再生可能エネルギー経済学講座

本講座(第2期)は、2024年3月31日をもって終了いたしました。

TOP > コラム一覧 > No.390 FIP制度を活用した地産地消による更なる再エネ開発推進〜再エネ電源からの電力供給による電気料金の抑制〜

No.390 FIP制度を活用した地産地消による更なる再エネ開発推進
〜再エネ電源からの電力供給による電気料金の抑制〜

2023年8月31日
株式会社再生可能エネルギ-推進機構(REPO) 代表取締役 三宅成也

Keyword:FIP制度、FIP移行、電気料金抑制、地域新電力、アグリゲーター

1.地域を豊かにしてこなかった再エネ電源

 我が国では2011年8月に成立した「再エネ特措法」により所謂FIT制度ができ、再生可能エネルギーは特別な措置を講ずることで推進されてきた。その特措法第一条総則の目的において「地域の活性化その他国民経済の発展に寄与することを目的とする。」と記されている。ところが、近年地域住民や自治体の反対により再エネ電源開発が滞る事例が多く見られる。このような反対意見は、これまで一部で自然環境の毀損や景観を乱す開発が行われてきたことも原因と思われるが、適切に作られた再エネ電源であったとしても、運転期間において地域への貢献が不十分であれば、これまで開発を受け入れてきた地域住民であっても、風を受けて優雅に回転する風車や、広大な土地に広がる太陽光発電も単に目障りな存在になりかねず、再エネ電源誘致への評価が高まらなかったことも要因ではないだろうか。特に雇用効果の低い太陽光発電では地域への貢献は固定資産税程度であり、地域住民にとって再エネ電源がその地域を豊かにしてきたとは残念ながら言い難い。それゆえ、脱炭素の推進を掲げる国の意向とは裏腹に、新たな開発計画が立ち上がった際に地域住民にとって必ずしも歓迎する理由が見い出しにくいことが昨今の開発への反対運動の要因の一つにあるのではないだろうか。

2.FIT制度下における地産地消モデルの課題

 FIT制度下においても地域新電力等を通じて地域の再エネ電源による地産地消の取り組みが多く行われてきた。しかしながら、2021年1月に発生した市場高騰や、その後ロシアウクライナ侵攻に伴って発生した資源価格高騰による市場高騰によって多くの地域新電力が事業撤退に追い込まれている1。そもそも、FIT制度下で再エネ電源による地域貢献モデルである地産地消スキームがうまく機能しなかったのは、その制度の仕組みにあった。地産地消を行うために、地域新電力が再エネ電源からの調達を行う場合、送配電事業者を通して卸供給を受ける「特定卸供給」と呼ばれる方法による。この時、小売事業者が受ける卸供給価格はFIT買取単価ではなく回避可能費用(≒エリアスポット価格)になる仕組みになっている。このため、市場高騰が発生した場合、FIT電源からの調達比率を高めるほど小売事業者の仕入れ高騰リスクが上昇する構図になってしまい、特に地産地消を目指す地域新電力は大きな打撃を受ける結果となってしまった。つまり、FIT制度下においては、本来再エネ電源が持つ発電コストの安定性のメリットを地域に還元することができず、資源価格高騰によって電力価格が上昇した時期においても、地域住民は近くにある電源を眺めながらもその電気を購入することによる恩恵を得ることができないため「風が吹けば地域が儲かる」といった望ましい構図が成立していなかったことになる。

3.既存電源のFIP移行による地産地消で地域に貢献

 2022年4月に特別措置法が改正され、FIP制度が開始されることになった。この制度は再エネ電源の市場売電を前提とした場合に、一定の基準価格より市場価格が下落した場合にプレミアムとして補填するものである。これは再エネの市場統合を目指したものであるが、制度上売り先は相対取引も許容されており小売事業者に直接卸売電することも可能となったことは実は非常に大きな意義がある。つまり、小売と発電事業者の相対契約によればその買取価格は固定できることになり、市場高騰の発生によるリスク回避が可能となる。

 政府はFIP制度の活用は新規開発のみならず、すでにあるFIT電源を買い取り期間中にFIPに移行する制度も用意した。これによれば、すでにFIT制度で地域に開発された多くの風力、太陽光、などの電源をFIP移行することにより、小売事業者はこれらを直接調達することで地産地消することが可能となる。

 なお、FIP移行における基準価格はFIT買取価格がそのまま適用されるため、相対取引における価格リスク低減のためには買取価格の低いものが有効となる。例えば、陸上風力は22円以下であり、現在14円まで低下している。また、太陽光についても20円以下の買取価格の電源が多数存在する。このような電源をFIP移行し、小売事業者が固定価格と同等で発電事業者から固定価格買取するとともに、発電事業者が受け取るFIPのプレミアムを小売事業者にパススルーする形にすれば、実質的に固定価格を上限とした市場連動の仕入れが可能となる。この仕入れコスト前提に地域新電力が地域の電力料金を設計することで、地域の電気料金の抑制効果が期待できる。

 ただし、FIP制度においては発電契約者となる小売事業者等が発電インバランスの責務を負うことになり、発電予測など含めた発電BG運用ノウハウが求められるため、地域新電力にとっては導入のハードルが高い。このため、地域再エネ電源をまとめてバランシングを担うアグリゲーターの関与も有効となる。

4.FIP移行を進めるためにはFIP制度の改善も必要

 政府も再生可能エネルギーの市場統合を図るため既存のFIT案件のFIPへの移行を積極的に推進しており、制度面では上記のインバランス負担を軽減するために経過措置としてバランシングコストを約1円/kWh程度プレミアムに上乗せする措置をとっている2。しかしながら2023年6月時点でFIPへの移行はわずか74件(うち太陽光が45件、風力が9件)にすぎない3

 制度が開始して1年以上経過しているものの、FITからFIPへの移行が進みにくい理由として、主に①FIPプレミアムの設計が発電事業者にとってリスクが大きく、FIP移行が不利益変更になってしまう恐れがあること、および②オンライン制御への対応がFIP移行の要件となっていること4、が挙げられる。

 ①についてはプレミアム算定方法として前年度市場価格と当年度市場価格の両方を参照する方式をとっている。これは市場価格の高い時期に発電継続を誘導させる目的で導入されたものの、制度検討当時に想定していなかった2021年1月などに発生した極端な市場高騰の次年度においては、プレミアムが前年高騰同月のみに偏ることになり、風況・日照や故障リスク等を踏まえるとプレミアムが未回収となる恐れが顕在化してしまっている。そもそも太陽光、風力電源は定期メンテナンスで発電所を停止する期間は故障を除きほとんどないため、これらの電源については少なくとも当年度参照にしても問題ない。

 また、②についてはオンライン制御化にコストがかかること。また特に型式の古い風力電源では送配電事業者の求めるプロトコルによるオンライン制御化が技術的に難しく、FIP移行が許可されないと言った問題が顕在化している。出力抑制を低減するためにオンライン制御は有効であるという考えが前提であるが、そもそもFIP制度においては市場価格がゼロになった時間の発電価値はなく、わざわざコストをかけてオンライン制御するよりも、発電事業者の市場行動を促すことが有効かつ本来のFIP制度の目的でもあること、及びマイナススポット価格の検討もされる中で、オンライン制御の義務化をFIT電源と同列に求めるべきでない。

 2021年2月に示された再エネ特措法の改正の取りまとめにおいても、「FIP 制度施行後においても、予見可能性に配慮しつつ適切な見直しを実施し、必要に応じてファインチューニングを行っていく。」と記されており5、制度運用開始から1年を経た今、FIP制度の普及を後押しするためにも、上記課題に対応する制度の修正が必要な状況ではないだろうか。

5.地域にメリットのある再エネ電源を増やすことが再エネ推進に

 本稿では、既存のFIT電源のFIP移行により地域の電気料金抑制が可能であり、これが地域の再エネ開発促進に役立つ可能性があることを述べた。これまでも、再エネに限らず、火力、原子力など既存の電源開発においてその立地地域との共生や経済的貢献が必須要件であり、そのために非常に多くの労力と資源が投入されて今の電源が存在している。それに比べると再エネ電源開発はまだ歴史が浅く、その地域への裨益あり方についてまだ確立されたものはないと考えてもよい。再生可能エネルギーは火力や原子力と異なり、その地域にある再生資源を利用するものであり、本来その地域で最大限利用され、その利益を地域で享受した上でさらに消費地への供給がなされるべきである。再生可能エネルギーの発電コストは技術革新によって従来よりも下がっており、化石燃料に依存しない発電方法であることは電力の脱炭素化の観点のみならず、これを主力電源化することは日本の経済安全保障の観点からも非常に重要かつ意義のあるものである。このため、筆者は地域を主体とした再生可能エネルギー推進のためにも、アグリゲーターとしてFIP制度やPPAなどといった新たな仕組みを積極的に活用した地域貢献モデルの構築に努めている。


1 帝国データバンク調べによると2023年6月時点で新電力706社のうち累計195社が「契約停止、撤退、倒産、廃業」となった。(2023/6/29 「新電力会社」事業撤退動向調査(2023年6月)
https://www.tdb.co.jp/report/watching/press/p230613.html
2 バランシングコストとして2022年度は1.0円/kWhとして毎年低減していく経過措置をとっている。(再生可能エネルギー大量導入・次世代ネットワーク小委員会(第23回)等)
https://www.meti.go.jp/shingikai/enecho/denryoku_gas/saisei_kano/023.html
3 2023年7月21日 電気新聞記事「FIT対象の再エネ電源、FIPへの移行が徐々に増加」
https://www.denkishimbun.com/archives/299445
4 事業計画策定ガイドライン(風力発電) P27解説
https://www.enecho.meti.go.jp/category/saving_and_new/saiene/kaitori/dl/fit_2017/legal/guideline_wind.pdf
5 2021年2月26日 再エネ特措法改正にかかる詳細設計とりまとめ
https://www.meti.go.jp/shingikai/enecho/denryoku_gas/saisei_kano/20210226_report.html