Research Project on Renewable Energy Economics, Kyoto University

京都大学経済学研究科

再生可能エネルギー経済学講座

本講座(第2期)は、2024年3月31日をもって終了いたしました。

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No.391 地産地消型のシステムの課題

2023年9月7日
京都大学大学院経済学研究科 特任教授 内藤克彦

キ-ワ-ド:エネルギ-地産地消、地域電力、シュタットベルケ

1. はじめに

 再生可能エネルギ-(以下「再エネ」)の実用化により、世界のどこでも地産エネルギ-を利用できる可能性が広がった。我が国においても、各地の自治体等で地産地消型のシステムを目指した取り組みが行われ始めている。

 地域のエネルギ-供給を地域で管理するという点では、ドイツのシュタットベルケが有名であるが、本稿では、シュタットベルケとも比較しつつ、日本の取り組みの課題を明らかにする。

2.再エネ電力を地域循環するシステム

 ドイツにおいては、シュタットベルケという公共的性格を持つ都市公社が多数存在する。シュタットベルケは、エネルギー、交通、上下水道、廃棄物管理、通信、市民プールなどの社会的なインフラ運営や公共サービスを総合提供しているドイツの自治体によって所有されている公企業である(ラウパッハ・スミヤ(2017a))。シュタットベルケの運営する各種の事業の中で採算の柱となっているのはラウパッハ(2017b)によれば、図1に示すように電力ビジネスである。

図1 シュタットベルケの売上等(ラウパッハ教授(2017b))
図1 シュタットベルケの売上等(ラウパッハ教授(2017b))

 シュタットベルケでは、図1のマ-ケットシェアを見てわかるように、多くのユ-ティリティの分野でシュタットベルケが地域シェアの太宗を把握している。これは、自治体を挙げて地域のユ-ティリティ-サ-ビスをシュタットベルケに委任するという姿勢でシュタットベルケが設立されていることから当然であろう。シュタットベルケは、市民に対してユ-ティリティサ-ビスを提供することに主眼があり、必ずしも地産地消のために作られたものではない。

 しかし、再エネが普及するにつれ、シュタットベルケのようなものがあると、地産の再エネが、地域内循環することが可能となる。

 環境省(2018)が示すように我が国のほとんどの市町村ではエネルギ-の地産地消が可能なだけの再エネポテンシャルを持っている。このような状況から我が国においても俄かに、地産地消を目的とした地域電力作りが流行することになる。

 また、我が国においては、自然災害が多発する。このため、シュタットベルケのようなエネルギ-自立に加えて、自然災害により系統電力が停電した場合でも一定の地域内だけでも電力の自給ができるようにしたいということを考える自治体関係者も多い。

 このようなことを背景として、現在、我が国においても多数の地域電力が設立されている。一般社団法人ロ-カルグッドの資料によると既に70を超える自治体が関与する地域電力が設立されている。

3.ドイツと日本の電力システムの相違

 一見して、日本においてもドイツの再エネ連動型シュタットベルケ類似のものが作れそうに思われるが、わが国とドイツでは、送電システムが異なるので、同じようにはいかない。我が国以外の先進国においては、送電システム管理はDSO(配電管理者)とTSO・ISO・RTO(送電管理者)(以下「TSO等」)に分かれている。DSOは配電線の管理を行う組織で末端の需要家に電力を配電する組織であり、TSO等は送電線の管理を行う組織で電力の広域融通や需給管理、アンシラリ-サ-ビス等を行うとともに大口の需要家(大規模工場・事業場やDSO)に電力を供給する組織である。ドイツにおいては、TSOは旧大手電力4社の送電部門が分離独立して担っているが、DSOは図2に示すように883のDSOに分かれている。この中にはシュタットベルケがDSOを兼ねて地域の配電線を管理しているものが多い。電力小売とDSOを兼ねているシュタットベルケは、DSO内に再エネや調整電源として利用可能なコ-ジェネレ-ションや水力発電等がある場合には、DSO内電源による需給マッチング行い、電力の過不足分をTSOとのやり取りにより調整することになる。シュタットベルケがDSOを兼ねる場合には、TSOとの接点となる数か所の変電所において接続を遮断すれば、DSO内は独立のグリッドとなる。DSO内に需要に見合う十分な発電キャパシティと需給調整機能があれば、災害時にTSO系統が停電しても、DSO内で給電を続けることも可能であろう。

図2 ドイツのTSOとDSO(EWENets資料)
図2 ドイツのTSOとDSO(EWENets資料)

 我が国の送配電網は、送配電がグリッド会社により一体的に管理されているため、一部配電線を切り離してDSO的な管理をすることが基本的にはできなかったが、経済産業省が制度改正を行い、2022年4月から配電ライセンス制度が施行され、地域電力が経済産業大臣の許可を得ると配電線の一定範囲を切り離してDSO的な管理をすることが可能となった。残念ながら、現在のところ、地域電力で配電ライセンスを取得しようという動きはあまり見られない。地域電力が配電運営するのは、困難なのであろうか。5で述べるように戦前にはシュタットベルケ的な配電・小売運営を行っていた地域電力が多数存在していたのである。

4. 地域への電力小売供給

 地域への電力供給を行うという観点から地域電力を評価するとどうであろうか。図1に示したようにドイツのシュタットベルケでは、地域の電力需要の太宗をシュタットベルケが把握している。一方で、我が国の地域電力の供給先は、自営線で接続されている公民館等の小規模な公共需要だけのケ-スが多い。自治体の電力需要で最も大口のものは、上下水道施設の電力需要であるが、これらは入札となっており、大手の電力会社系の電力小売が安値入札を行い需要を確保しようとするため、零細な地域電力が需要として確保することは困難となり、公共大口需要も確保できていないのが現状であろう。一方で、ドイツのシュタットベルケのように低圧需要も含め積極的に取り込もうという営業意欲のある地域電力はわが国には見当たらない。

5. 戦前は本格的に経営されていた地域電力

 実は、我が国においても戦前は、自治体が経営する地域電力が多数あつた。現在のように大手電力会社数社が全国をカバ-するようになったのは、第二次大戦中の戦時統制令により、国主導で多数の地域電力が大手電力に強制的に統合されたためである。高崎経済大学西野教授によれば、1937年には全国の電気事業者は731あり、県営6、市営16、町営23、村営65、複数町村共同営11の他に地元民で結成した電気利用組合が244もあった。

 我が国の電化が進んでいく過程では、好採算の大都市部では直ぐに電化が進んでも採算の悪い地方では大手電力会社は電化に消極的で、電化から取り残された地域が多数あった。このような地域では住民の生活水準向上のために、自治体公営や自治体の取りまとめた電気利用組合のような形で、多数のシュタットベルケ的な電力会社が立ち上げられた。これらの電力会社の中には、仙台市のように市営電力の収益の4割が市の一般財源に組み入れられて市財政をささえていたものもある。戦後すぐの時期にこれらの自治体は福島県議会を中心にして公営電気復元運動を繰り広げるが、電力会社は結局一度傘下に収めた公営電力等の配電網を手放すことなく今日に至っている。

 同じく西野教授によると、例えば、長野県伊那地方三穂村では、村民大会を開催して合意形成を図り、「村営電気設立承諾書」に全村民が捺印している。村営電気設立事業費は、村民の負担力に応じた傾斜配分の指定寄付金を募り、水力発電、配電線を整備し、約400世帯すべてに給電を行っている。経営が軌道に乗ると、毎年、収益を村の一般会計に繰り入れ、一般会計歳入の一割程度を占めていた。

 このように、小規模な山村においても発電、DSO事業を戦前は行っていたわけである。「電化」という大義名分があったとはいえ、村民全体を対象に合意形成を行い、出資を募っている。現在の日本の地域電力より、こちらの方が遥かにドイツのシュタットベルケに近い存在ということができよう。

 実は、近年、わが国において戦前の電気利用組合のような事例が成立したところがある。宮崎県日之影町の大人止(おおひと)昴発電所である。ここでは、農業用水の水利権を持つ組合員全員の合意のもとに「大人発電農業協同組合」を設立し、全員の出資の下に約50kw水力発電所が設置されている。合意形成に3年強の年月を要しているが、地域全員の合意形成による戦前型の本格的な地域電力が、現在でも設立可能ということである。このプロジェクトは九州の地元のコンサルの支援により実現したものであるが、三大都市圏の大規模コンサルもこれを見習うべきであろう。

6. 米国の自治体アグリゲ-ション

 米国においては自治体が推奨する地域電力に地域の需要を自治体が取りまとめて斡旋するというCCAというプログラムを実施しているところがある。中山(2020)によれば、米国のイリノイ州では、CCAにより州の電力顧客の34%が地域電力に斡旋されている。

 このCCAのメカニズムに近い方法として京都市では、「EE電」という制度を導入している。一般市民が再エネ電力を購入したくとも現状では中々入手することは困難である。そこでグル-プ購入の形で再エネ需要を取りまとめたうえで、一定の割合の再エネを供給することを条件として公募をした電力小売事業者に取りまとめた需要を斡旋するものである。事務局は、再エネ電力35%以上の電力の供給者をオ-クションにより選定し、この供給者に集めた再エネ電力購入希望市民を斡旋するという制度である。米国等では、市民の需要を公共関与で取りまとめ、一定の要件を満たす地域電力にあっせんするというCCAのメカニズムを利用する自治体が多数存在するが、京都市のこの試みはCCA類似の試みと言えよう。

7. 地域における発電

 地域電力が発電事業を兼業する必要はないが、エネルギ-の地産地消や災害時の独立供給を目指すのであれば、発電施設が地域需要に見合うだけ地域に立地する必要がある。また、地産地消を目指すなら、FITで売電したり、相対契約で大都市に電力が送られてしまうようでは、地産地消にはならない。しかし、我が国においてこのような地域電力と地域発電との連携が見られるであろうか。ドイツの場合、図4に示すように陸上再エネは地元で建てたものが多い。

図4 ドイツの再エネの所有者(Renewable Energy Agency2020)
図4 ドイツの再エネの所有者(Renewable Energy Agency2020)

 我が国の地域電力の状況は、自営線で直結した僅かな公共需要に供給するために、小規模の発電施設を設置するか、大規模な発電施設を設置してもFITで他地域にエネルギ-を流出させてしまうといったことが多い。

 地域で電力の地産地消を行うには、地域の需要に見合った規模の発電施設の立地が必要であるが、FITや遠方の大企業との相対契約によらずに地域需要に見合った発電施設を立地させ、事業としてペイするようにするには、ドイツのシュタットベルケや戦前の地域電力のように地域を挙げて、地域電力に切り替えるか、米国のようにCCAにより自治体が率先して需要を取りまとめるなどしてまとまった安定需要を作り発電事業者に提供する努力が必要であろう。

8. 地産地消にするためには

 電力の発電と小売の観点から個々に見てきたが、地産地消とするには、両者を物理的、経済的に繋ぐことが必要となる。地域内で発電された電力を地域内に留めて販売するには、地域内で相当のシェアを持つ地域電力が必要となる。ある外資系の大手再エネ発電事業者は、地域貢献の一つとして再エネ電力の一部地域還元を行おうとしたが、我が国の電力小売は大手の広域的なものか、公民館需要等しかない零細な地域電力しかないので、地域に電力を還元できなくて困っているという話を聞いたことがある。地産地消をもし本当に実現しようという意欲があるのであれば、地域電力がシュタットベルケのように地域電力需要の相当部分を押さえることが重要である。

 この場合に、地域電力は地域内発電と地域内需要のバランシングをエネルギ-マネイジメントシステム(EMS)により行う必要がある。地域内発電が再エネで変動が大きい場合や地域内発電が域内需要ピ-クに対応しきれない場合には、ドイツのシュタットベルケのように需給双方の時間変動に伴う過不足分を系統電力と地域電力との売買により調整することにより、バ-チャルでの自給自足を行うことが可能となる。戦前の山村の地域電力でも、このようなバランシングは行われていたので、現在の市長村でも可能であろう。バ-チャルではなく物理的に電力の自給自足を行う場合には、需給バランシングのためのコ-ジェネレ-ション、水力、蓄電池といった調整力が地域内に必要となる。あるいは、常に地域内で余剰に発電し、地域需要超過分を電力市場に売却するといったドイツの農村などで行われているような手法も考えられる。

 災害時の独立運転を行う場合には、先に述べたように経済産業省の配電ライセンス制度により、地域の配電線を切り離してDSOのように独立管理できる体制を作る必要があろう。この場合も、地域内の電源が、水力やコ-ジェネレ-ションのような需要追随運転のできる電源でない場合には、何らかの「調整力」が必要となろう。

9.まとめ

 地域電力が再エネを中心に地産地消の形を取ろうとするなら、以下のようなことが必要となろう。
①地域合意形成やCCAのような手段を用いて低圧需要も含めた地域の需要の太宗を確保すべく需要開拓の努力をすべきで、これが経営の安定化にも寄与する。戦前の地域電力は地域全体の需要を賄い、当該地域の自治体の財源の一部となっていた。
②自給自足の形を取るためには、少なくとも地域需要に見合った発電施設が必要となり、地域内発電施設の電力を地域内に還元しつつ、地域内の需給管理と系統との電力過不足の調整ができるようなエネルギ-マネイジメントシステムを構築する必要がある。これも戦前の山村では実際に行われていた。また、発電施設の地域導入のための工夫も必要となろう。
 地域電力の配電区域の一部でも災害時に独立して運営できるようにする場合には、①②に加えて、以下のようなことが必要であろう。
③経済産業省の配電ライセンス制度等を活用して、災害時に系統から切り離して独立運用できる配電区域の配電管理者となる必要がある。
④独立運用する配電区域での需給管理ができるように水力等の必要な調整力を準備しておく。

参考文献

  1. 環境省(2018)『環境白書』
  2. ラウパッハ スミヤ ヨーク(2017a)「ドイツシュタットベルケの変化する ヨーロッパエネルギー市場への対応戦略」経済論叢(京都大学) 第190(4) 13‐38項
  3. ラウパッハ・スミヤヨーク(2017b)「ドイツ都市公社の成り立ち」環境省地域エネルギー会社による地域活性化研修会資料
  4. 西野寿章(2020)『日本地域電化史論』日本経済評論社
  5. Renewable Energy Agency(2020) 『 RENEWABLE ENERGY IN THE HANDS OF THE PEOPLE』
  6. 中山琢夫(2020)「イリノイ州における電力小売の自治体アグリゲーション」京都大学再生可能エネルギ-講座コラム