Research Project on Renewable Energy Economics, Kyoto University

京都大学経済学研究科

再生可能エネルギー経済学講座

本講座(第2期)は、2024年3月31日をもって終了いたしました。

TOP > コラム一覧 > No.394 太陽光発電の主力化と2030年導入目標達成に向けた課題について

No.394 太陽光発電の主力化と2030年導入目標達成に向けた課題について

2023年9月29日
一般社団法人太陽光発電協会 事務局長 増川武昭

 第6次エネルギー基本計画における2030年度の太陽光発電(以下、PV)の導入目標は交流(AC)ベースの容量としては103.5GW~117.6GW、発電量としては電源構成比(全電源の供給量に占める割合)で14%~16%とされている。2020年度末の国内PVの累計導入量は約60GWであり、国の目標を達成するには、毎年6GW程度の導入を継続する必要がある。しかしながら、2021年度の導入量は4.6GWに低下し、FIT/FIPの新規認定量も1.5GW程度に落ち込んでいる。この下降傾向にある国内のPV市場を再び成長軌道に戻し、2030年度の国の野心的目標を達成するためには一体何をどうすればよいのか。太陽光発電産業全体を俯瞰しつつ課題克服の糸口を探ってみた。

1.世界で急拡大する太陽光発電

 世界における太陽光発電の市場は拡大を続けており、国際エネルギー機関(IEA)によれば2022年の年間導入量は直流(DC)ベースで240GW(前年比37%増)、累計では1,185GWに達した

 2022年の導入量を国別でみると、中国が106GWで他を圧倒し、2位が米国で18.6GW、続いてインド18.1GW、ブラジル9.9GW、スペイン8.1GW、ドイツは6位で7.5GW、日本は6.5GW(DCベース)で2020年の3位から7位に順位を落とした。

 2022年は、ロシアによるウクライナ侵攻の影響で、石油・天然ガスの供給途絶リスクが顕在化し化石燃料価格が高騰したが、特に影響の大きかった欧州では、化石燃料から再エネ、なかでも太陽光発電へのシフトが加速した。世界中の全ての電源の中で、突出して成長を続ける太陽光発電の導入拡大は、今後も続く見通しである。IEA(国際エネルギー機関)によれば、2027年のPVの累計導入量は約2.4TWに拡大し、設備容量では石炭火力を抜いて最大となる見通しを公表している。この傾向が続けば、Solar Power Europe のhigh Scenarioで想定された通り、2030年の世界の新規導入量は、1.5TW(テラ・ワット)を超え、累計導入量としては8TW規模となる可能性すらある。

図1 世界における太陽光発電の導入見通し(出所:Solar Power Europe)
図1 世界における太陽光発電の導入見通し(出所:Solar Power Europe)

 なお、2022年における世界のPV導入量240GWに対して、太陽電池パネルの生産量はその約1.5倍の350GW、生産能力としては700GW規模に拡大している。今後、世界の新規PV導入量が急拡大しても、太陽電池パネルの生産量が不足するといった供給制約の懸念はなさそうである。

 また、米国におけるインフレ抑制法成立後、米国内での太陽電池パネルの生産工場の新設・増強計画が次々に発表され、現時点では、既設を含めた合計で、なんと100GW近くに達している。近い将来、これらの米国内の工場も世界の生産能力に加わってくることになる。

2.日本における導入状況

 日本における太陽光発電は、拡大を続ける世界とは大きく異なる状況に置かれている。資源エネルギー庁の推計によれば、2021年度及び2022年度の導入量は、交流(AC)ベースでそれぞれ4.6GW、5.1GWとされ、2014年度の9.4GWからは半分近くに減少している。なお、2019年度以降の新規FIT /FIP認定量は年平均で2GW程度に低迷しているにもかかわらず、新規導入量が5GW程度で維持できているのは、2018年度以前にFIT認定された未稼働案件が運転開始してきたからである。今後、この未稼働案件は大きく減少し数年後には無くなるため、FITでもFIPでもない非FIT/非FIP案件が大きく増えない限り、新規のFIT/FIP認定量である年間2GW程度に導入量が減って行く可能性すら否定できない。

 このままでは、国の2030年度の目標である103.5GW~117.6GWどころか、100GWにも達しないのではと懸念される。なお、太陽光発電協会(JPEA)は、2030年の導入目標を従来100GWとしていたが、国のカーボンニュートラル宣言を受けて、125GWに上方修正している。

図2 日本における太陽光発電の導入量とFIT認定量(出所:資源エネルギー庁)
図2 日本における太陽光発電の導入量とFIT認定量(出所:資源エネルギー庁)

3.国内PV市場が低迷している主な要因と成長軌道に戻すための方策

 世界的には爆発的な拡大を続けているにもかかわらず、国内のPV市場が低迷しているのは何故なのか。その要因としては、FIT買取価格の急速な低下にコスト低減が追随できていない実態、系統制約の顕在化、地域との共生問題を背景とした規制強化を含め多くの課題が存在することによる。

3.1.FIT買取価格の急速な低下にコスト低減が追随できていない

 2022年度の太陽光の新規FIT/FIP認定量は1.5GWであるが、そのうち約1GWは10kW未満の住宅用と推定され、事業用は0.5GW程度に減少している。2018年度には4.5GW程度であった事業用太陽光の新規認定量が10分の1まで落ち込んだ要因としては、規制強化や適地の減少等もあるが、何といってもFIT買取価格の急速な低下に、多くの新規開発案件のコスト低減が追随できていないことが最大の要因だと思われる。

 2012年にFIT制度が導入されて以来、太陽光発電のFIT買取価格(入札の上限価格等を含め)は、コスト低減が進んでいるトップランナー(上位15%等)を基準に年々下げられてきた。また、FIT買取価格には、法人税等の税引前の内部収益率(IRR)が設定されている。この税前IRRについては、陸上風力等では6%~7%と一定の利潤が配慮されているが、太陽光については導入が進んだという理由で、事業用では4%、住宅用については3.2%と低く設定されている。

図3 事業用太陽光発電のFIT買取価格の推移(出所:資源エネルギー庁)
図3 事業用太陽光発電のFIT買取価格の推移(出所:資源エネルギー庁)

 さて、FIT買取価格の急速な低下にコスト低減が追随できていないことが事業用太陽光の新規認定量の減少の最大の要因だとすれば、今後どうすればよいのか。先ずは、毎年下げてきたFIT買取価格を数年間(例えば2026年度まで等)は据え置くこと。次に、屋根設置の太陽光については普及促進の観点から、2023年10月から12円/kWhに値上げされることなったが、こういった措置と同様に、地域との共生といった観点で自治体から推薦を得ているといった模範的な発電事業に関しては、買取価格を高めに設定することを検討すべきではないか。

 なお、新規開発案件の組成に関しては、事業者の開発意欲や資金調達の容易さの観点からも、FIT買取価格(或いは売電単価)の高低に大きく依存し、特に買取価格が下がっている太陽光発電に関しては、1~2円/kWh程度の値上げであっても導入量が大きく増加する可能性が高い。

 例えば、2023年度の新規認定のFIT買取価格は、50kW以上250kW未満の地上設置型の場合9.5円/kWhまで低下している。一方、太陽光発電協会の調査(2023年7月公開の「需要家主導による太陽光発電導入促進に関する調査報告」)によれば、地上設置(高圧)太陽光の発電コストは2023年時点の平均で11.0円/kWhである。すなわち、2023年時点の地上設置太陽光の平均的な発電コストと、新規認定のFIT買取単価の差は1.5円/kWhとなっており、仮に、2023年度のFIT買取価格が1.5円/kWh高めに設定されていれば、コスト低減が特に進んだトップランー案件のみならず、従来は諦めていた平均的なコストで開発可能な案件も対象となってくる。この前提が正しければ、太陽光発電のポテンシャルからして、現状では年間0.5GW程度しか期待できない事業太陽光の新規のFIT/FIP認定量が、数倍(2GW程度?)に拡大する可能性は十分あると思われる。

3.2.FIT/FIPによらない非FIT/非FIP案件の普及拡大

 2022年度における非FIT/非FIP案件の新規導入量は、資源エネルギー庁による推定では、0.5GW程度とされている。今後、非FIT/非FIP案件の新規導入量は拡大していく見込みであるが、幾つかの課題を克服していく必要がある。

(1)期待が高まる自家消費型

 太陽光発電協会が7月26日に公開した「需要家主導による太陽光発電導入促進に関する調査」に基づけば、2023年時点の太陽光発電の平均的な発電コストは約11円/kWhであり、2020年の調査時より2円/kWh程下がっている。一方、2023年1月時点の高圧需要家向け小売価格の平均的な従量料金は約25円/kWh(燃料調整費、再エネ賦課金込み)であった。すなわち、託送料金等のかからない自家消費型太陽光発電を、自社の屋根等に設置可能な需要家にとっては、電力会社から購入する電気料金よりも圧倒的に安い再エネ電気を調達できることになる。CO2を排出しない再エネ電気を欲している需要家のニーズと相まって、自家消費型のオンサイト太陽光発電は、今後数年で大きく(年間1~3GW程度まで?)拡大することが期待されている。課題は、自家消費しきれず余剰となる電気の活用、設備導入に不可欠な人材・担い手の育成、第三者所有モデルの一般化、不動産価値への参入の標準化等である。

(2)中長期的に拡大が期待されるオフサイトPPA

 自家消費型だけでは自社の電力需要を満たせない需要家にとって、CO2排出ゼロの再エネ電気を長期間安定した価格で買い取ることが出来る、いわゆるオフサイトPPAは魅力的である。オフサイトPPAが、今後普及拡大していくには幾つかの課題があるが、ポテンシャルとしては大きく、中長期的には年間導入量が3~5GW程度に拡大する可能性はあると期待している。

(3)オフサイトPPAの普及拡大に向けた課題

 オフサイトPPAの場合、自家消費型とは異なり、託送料金やインバランスコスト等が発生するため、スポット市場価格、或いは小売料金に対する競争力の観点で、発電コストのさらなる削減(JPEAの目標は2030年度に7円/kWh)が不可欠である。また、需要家にとっては、長期間固定価格で買取る場合、燃料価格、或いはスポット市場価格が下落するとリスクとなるため、FIP等を活用してリスク低減を図ることが重要となる。なお、「需要家主導による太陽光発電導入促進に関する調査」の結論で示した通り、将来、再エネ電気の環境価値が3~4円/kWh以上あれば、燃料価格が下落しても競争力が確保できる可能性が高い。すなわち、オフサイトPPAの普及拡大は、カーボンプライスに関するわが国の政策に依るところが大きいと言える。

おわりに

 カーボンプライスに関するわが国の政策に加え、急増する再エネの出力抑制への対応を含む系統制約の克服、住宅用太陽光の普及拡大をどう進めるかといった、解決すべき重要な課題が残っている。もし許されるのであらば、本コラムの続きにて解決の糸口を提示できれば幸いである。